ラジオテレメトリーについて 3 ケーススタディー  ラジオテレメトリー追跡調査において、三角測量を位置推定の基本している場合、反射や回 折によってできる偽の推定位置、ゴーストをどのように検証し排除するかは非常に大きな問題 です。実際にはそれに気づいていないケースもあるようで、ちょっとした不注意により非現実 的なデータを蓄積していることもありえます。これはラジオテレメトリー技法による調査に習 熟したつもりでもどこかで紛れ込んでくる可能性があることに注意しなければなりません。標 識動物の位置が現実的に合わないなど推定位置の不適合性の例を模式図を使って紹介します。  方探は、アンテナ(自作5素子)とワイドバンドレシーバーという最も基本的な組み合わせ で行われますが、これらの器材だけで反射波や電波の方向性のずれを見積もったり、修正した りすることは不可能に近いものと思われます。ひとえに調査フィールドにおける電波の挙動や 癖を体得的な経験則に基づいて、あるいは勘だけが位置推定のよりどころになってしまうこと も否定できません。多くの場合は自信を持って位置を決定できることではあるのですが、時と してずれの原因が良くわからない、注意してきたにもかかわらず、やはり大きなずれがあった などということは、熟練したつもりでも常に経験するものです。  また、経験則による”修正”には、根本的な思い違いや思い込みに支配されたことによるエ ラーを発生させる原因となっていることもあります。これは、単純な測定誤差等とはまた別の かなり深刻な問題を引き起こしているのではないかと考えています。これまで技術的、物理的 な不可避エラーについて述べてきましたが、今度は自分自身が積み上げてきた経験、自分自身 もエラーの原因そのものになりうることまで認識の幅を広げる必要があるということを、テレ メトリー調査に従事しようとものは否定すべきではありません。  それではわれわれ調査者は何をよりどころに、”正確な位置情報”を得ることができるので しょうか。完璧な回答は私にはできませんが、ここではこれまでに位置推定の不適合性のため 棄却したデータ、疑問を持ちながらそのままデータにしてしまって後から間違っていたことの 確証を得たデータ、いまだに原因のわからないエラーなど等、実際の現場で経験した事象から パターン的な部分のみを取り出して紹介します。元になった現象の具体的な時期、調査地域、 位置関係や地形などの条件は簡略化し模式的に表現しています。 推定位置の不適合性にはいくつかのパターンがあるように見えますが、再現できなかったり未 検討な例もいまだ多量にあります。なんとなく消化できたところから順次紹介したいと思いま すが、これっきりになるかもしれません。  また、ラジオテレメトリー調査の経験者で、経験した問題や疑問を紹介したり自慢したい方 (?)のご意見は歓迎します。場合によってはこのページに掲載させていただくこともあるか もしれません。  1 本当にそこにいたのか?  比較的勾配の小さい支流や沢があり、両岸の岸壁や山腹は急峻で岩肌が露出している奥行き の深い谷。谷の出口に広い河川や道路等に開けた空間があるような条件で観察された例。 現象  各地に設定した定点を巡回しながら方探した際、しばらく行方不明だった標識個体の信号が 受信できたので、複数の観測点から三角測量で交点を求めた。交点は、間口の広い谷の出 口付近、谷の中央部、川の中にあると推定された。信号の極大点は判別し難かったが弱い信号 ではなかった。方向性に少々不安定な点があったが、交点の収束性も良かったので発信源と断 定し、そのときは次の標識個体の探索に行った。  後日、同じ谷で先の標識個体の信号を受信できたので位置精度を高めるために、谷を遡上し ながら方探したところ、標識個体の位置が順次谷の上流へ移動するように変化した(すなわち こちらと平行に移動)。入感状態は強弱の変化が激しく移動している発信源の入感状態に似て いたため、追跡による標識個体の回避行動と想像した。  途中、深い谷特有の電波の乱反射が強くなり方向性の確定が困難となった。が、谷の行き止 まり付近で、突然方向性の逆転が起こった。このときは結局正確な位置情報を得られなかった。 さらに数日間、この標識個体は数回連続して同じようなパターンを示したが、推定位置周辺で 痕跡が発見されないこと、目撃可能な位置関係でも本体の確認ができないこと、明らかに歩行 困難といえる断崖絶壁などに推定位置がプロットされはじめ、ようやく推定位置の妥当性に疑 問が生じた。 何が起きていたか  奥行きの深い谷の両岸壁は電波を反射するダクトのような作用をするため、発信源の実際の 位置と推定位置が大きく異なることがある。特に谷の出口付近で複数の観察点から方向を測定 すると、谷の中心(川の中)近くに交点ができる傾向がある。多くの場合、実際の位置よりも はるかに観察者側に偏った位置になる。 ゴースト1 谷の奥から信号が伝播してきている場合1  谷内部に入るに従い、最大入感の方向性は特定しずらい平坦化、全方位化や多極大化するこ とがある。また、観測位置によって入感強度が極端に変化する。谷が屈曲して発信源の位置が 直接見えない場合が多く、電波の反射経路が長いので、谷の入り口からは発信源が向かってど ちらの谷の尾根もしくは山腹にあるか詳細な判断は不可能。  特に切り立った岸壁や角の鋭い岩質の尾根は強力な反射体となり、複数の方向線の交点が反 射体に集中するなど、あたかも発信源そのものであるがごとく観察されることがある。そのた めこのような環境で観測点を移動しながら方探すると、推定位置は両谷の山腹や川の中心部な どに不規則に移動するように見える。このように、ゴーストがある範囲を順次移動するような 見かけの動きを対象動物の移動経路と誤認しないよう注意する必要がある。 ゴースト2 谷の奥から信号が伝播してきている場合2 結局  この場合は、首輪発信機が脱落していたことに気づかず(当然移動する可能性が非常に少な いといえる)、反射によるゴーストの見かけの動きを標識個体の固有の行動(もしくは追跡に よる回避行動などの異常行動などと)と勘違いしていた。  2 回折波の怪?  正直言って、現状では再現実験は成功していないので。回折波のせいかどうか確証はないが 可能性は考慮する必要がある例。特定の位置関係以外では信号が受信できないことが特徴。理 由はともかく山岳地形ではしばしば観察される。 現象  深い谷を挟んだ高台を走る道路上からの観測で、ある特定の位置(図のB位置)からのみ標 識個体からの強い入感があった。入感状態が良かったので、観測点A位置とC位置を加え位置推 定を試みた。しかし、B位置以外の地点では入感がないか、非常に不安定な信号しか受信でき なかった。発信源の位置をB位置正面の切り立った山の中腹付近と予想していたが、予想地点 までの間に障害物などがないにもかかわらず他の観測点から信号の情報が得られなかった。信 号が得られた方向にある山自体が大きな反射体になった可能性を考慮し、B地点背後の果樹園 などを精査したが信号は得られずその日の午前中数時間は位置の確証は得られなかった。 何が起きていたか  B地点で信号を受信した時点では、標識個体は山の反対側、標高もかなり低いところにあった 可能性が高い。山容が先鋒状であったため電波の一部が山の両側を回折しながら、B地点に到達 したと推定できる。このときあまり大きな位相差が現れなかったので入感強度に大きな減衰がな かった、むしろ増幅効果の可能性もあった。十分な視差を得るためにA地点C地点に観測点を設け たが、B地点から離れるにしたがって急激な入感強度の低下が見られたことがその可能性の一端 を示しているのではないかと推測した。 ゴースト3 回折波が原因かもしれない例  追跡対象が、活発に移動している場合は一時的にしか観察できない。発信源と、隠蔽物およ び回折の原因となる構造の位置関係が崩れると、電波の入感強度や到来方向が不安定になる、 すぐに受信できなくなるなどの現象が観察される。再現性が悪いので正確な解釈が難しい。 結局  その日の午後、谷を越えて山の反対側に観測地点D、E、Fを設定したところ収束性の良い推定位 置が得られた。追跡開始から長時間経過していたため日周的移動の影響のほうが大きくなってし まった。午前中と午後の位置関係とについては当然不明。  周囲から消去法的に位置を確定してゆく方式のため、おおむねこのあたりと見積もった位置か らあえて遠い観測ポイントを選んだため、途中に起こった余計な物理現象に惑わされ(むしろ別 な興味が沸いたため)、山の裏側に回るべしという発想の転換まで時間がかかった。  3 信号強度が発信源の方向を反映していなかった例 1  電波の到来方向を測定するにあたって、大体は信号強度の大きい方角を測定する場合がほとん どであり、一つの基本となっている。地形的に障害物が多く発信源がほとんどの方向に隠蔽され ているような条件では、隙間から漏れ出してくる方向性を保存していない反射波による混乱が起 こる。 現象  ある標識個体の推定位置が、ある山の山腹で長期間(1ヶ月ほど)変化しないため、死亡した か発信機の脱落の可能性が示唆された。このときは同じ個体を複数の調査班が追跡していた。道 路側からは複数の観測地点で非常に安定した強力かつ収束性の良い信号が受信できていた。その ため、当初の推定位置は共通の認識を持っていた。しかし、観測位置をかえて精査すると当初の 推定位置とはまったく異なっていたため、”生存”もしくは”脱落はしていない”可能性も示唆 されたがさらに1−2ヶ月間移動が確認されなかった。  信号の受信状態が非常に良好(観測位置B、C)だっため、受信方向の幅が若干広いこと、部分 的に微弱な複数の極大点が表れていた(観測位置A)ことは周囲の地形の影響であると無視してい た。移動がないことから観測位置をD、E、F、Gに移し回収を前提とした精査を開始したが、これ らの地点では位置を正確に推定することができなかった。また、当初の推定地点の地形は、傾斜 が50度を越える岩盤が露出した山腹であることが解かり、強力な反射波によるゴーストを数ヶ 月間誤認していた可能性が出てきた。観測位置を大きく変えたところ(観測位置H、I、J)電波 の収束点は当初の推定地点から1500mほど北東に位置する山の深い谷にあった。 ゴースト4 信号強度が発信源の方向を反映していなかった例 1 何が起きていたか  このことから、真の発信源は入り組んだ深い谷にあったため当初の観測位置A、B、Cからは遮蔽 物が多かったため直接信号を受信できなかったことが真の位置を確定することを難しくしていた。 一方、ゴースト位置は部分的に垂直に近い岩盤が露出した地形がおおく、真の発信源からは見通し で電波が到達できる位置関係にあった。このため岩盤が強力な反射波を発生させる反射体となった 物と考えられた。観測位置Aでのみ2山型の電波強度パターンが観測されていたが、一方の弱いほ うの方向は後で判明した真の発信源の位置を反映した山越え回折波であったものと考えられた。し かし、相対的に反射波の強度が大きく複数の観測点からの収束性の良さが評価されゴーストを生む ことになった。この場合は偶然にも方向性が近かったが、回折してきた電波が常に真の方向性を良 く保存しているとは限らない。 結局  この例の場合、すぐに山岳部の尾根に観測地点を設定すればこのような長期間の思い違いをし ないで済んだはずであった。これらの山には登山道があるとはいえ受信に適した位置までは2― 3時間かかることがわかっていたため、つい安直に標高の低い道路側からの観測のみで位置を判 断し続けたことに問題があった。もし、これが脱落発信機でなければ、反射波によるゴーストの 位置をこの個体の位置情報として扱い、最後までまったく気づかないまま誤った解析結果をもた らす原因となったかもしれない。  4 信号強度が発信源の方向を反映していなかった例 2  まったく予備知識のない地域での調査では、方探誤差の原因となる地理的条件や人口構造物が どこの分布するか把握することが必要。追跡個体の生息環境にこれらの事物が接近していたため に起きたエラーについて。対象はニホンジカ。 現象  山地に面積の大きい湿地や耕作地など平面的な地形が隣接した環境において追跡個体の信号が 受信された。信号強度は非常に強く、複数の観測地点からも方探角度の偏差の小さい収束性の良 い結果得られた。収束点は見通しの良い平地であったため目視による確認の可能性も高いと判断 した。  目視確認を前提に接近したところ先の方探で収束した地点は、広いビニールハウスによる耕作 地の中心付近であった事がわかった。そこには(冬だったため)、ビニールハウス用の鉄パイプ が多数設置されて居るだけで追跡個体の足跡の痕跡はおろか実体も確認できないところであった。  この位置での入感方向は耕作地の北西に位置する山地方向に大きく変化した。視差を得るため に複数の観測点から測定したが収束性が悪く正確な位置情報は得られなかった。 何が起きていたか  強力な反射波の影響であったことは明白であるが、発信源はどこであったのであろうか。結論 は北西側の山地野頂上付近の山林であったものと推定された。耕作地との標高差は200m以上 ある頂上付近が平坦で山腹が急峻な山容の地域であった。  このように発信源と受信者側との間に高度に大きな差がある場合、ある程度距離があっても途 中に障害物がないため強力な信号が伝播してくることがある。ただし、受信者の位置によっては 山自体がブラインドとなって、電波の大部分は自分の頭上を飛び越して行くことになる(図のB、 C地点)。そのためこれらの観測地点では、地上構造物からの反射波の到来方向と、A地点での観 測方向と見かけ上の交点を作り別なところにゴーストを生み出す結果となると考えられる。 ゴースト5 信号強度が発信源の方向を反映していなかった例 2 結局  この場合は、ゴーストだということがすぐわかったので、大きく観測点の位置をかえて再調査 した。より現実的な位置はおおむね検討がついたが、急峻な谷が多く、また接近できるアクセス が悪かったのでまた別な誤差を含んだ推定結果とならざるを得なかった。  また、このケースではゴースト位置に近づくにつれて、電波の到来方向が様々な方向に変化し ていた。近くの山林を良く観察すると、金属編みこみネットなどでできた防鹿柵があちこちに分 布していた。反射体となる要因がいたるところに隠れている現場であった事が改めて確認できた。  番外 一つの思考実験 地図ビューアーソフト カシミールを使った反射要因検証シミュレーション  書いていてなんですが、ここから先は眉唾かも。解釈や結果にはまったく責任を持ちません (これまでもそうでしたけどね)。  地図ビューワーソフト、カシミール(作者:杉本智彦)は多彩な機能を持ったソフトです。 これにはある地図上の任意の点からどこまで見通せるかシミュレーションする機能です。使用す る標高データは数値地図50mメッシュ標高地図(日本地図センター)ほか、やまおたくなどか ら提供されている地図です。日本地図センターの図版では1:25000地図の範囲を緯度、経 度方向に200等分した区画の中心標高データが記録されています。  可視マップではこれらのデータを元に見える範囲を計算しますが、地理上のある点から途中の 山などに障害されずに光が届くために見える範囲を”可視”とするならば、そこに光源をおけば ”可視”範囲はその光源からの光に照らされていると考えることができます。拡大解釈的にこれ を電波に置き換えても同じことと考えても大きな間違いではないことでしょう。  これによって、光源(標識動物などの発信源)からどのように光や電波が届いているか、どこ で障害を受けるのかが可視化できそうです。このことから、受信された電波が、反射波であった のか見通しで直接観測者まで届いたのか、を知る目安になるのではないかと考えました。  ただしこれでは、山越えしてくる回折波や2次反射波など到来電波の50%以上を占める部分 の挙動を直接表示することはできません。現実にはこの可視マップで障害物が確認されたからと いって電波を受信できなくなることはありません。実際には、2次、3次と複数の反射点を介し てきていると考えることもできるからです。このように可視マップでわかるのは発信源から最初 に照らされる部分だけであること、シチュエーションはかなり単純な場合だというところに注意 が必要です。  また、電磁波は距離の2乗に反比例して減衰しますし、反射体の電波吸収率や誘電率で変化す るであろう反射電波の強度も表現できません。これらは地図を見るという本来の機能とは関係な くこのソフトの設計思想には含まれていないことです。ようは結果は保証できない単なる流用と いうことになり、似て非なるもの挙動をシミュレーションしているだけという批判も当然出てく るものと考えられます。  これらの点に留意した上で、発信源からの電波が周りにどのように到達しているか。観測者側 から直接見とおせる範囲はどこまでか。という2点について目安をつけてみるという程度の検討 を試みました。  カシミールの可視マップ生成手順については、その解説書やソフトそのものを参照してくださ い。 発信源から電波が直接到達する範囲  発信源からの電波によって照らされているところを示します。この範囲に観測点があれば発信 源からの電波が直接届く範囲であることが解かります。また、このような方向性を保存した到来 電波のほかに、近隣に大きな反射源となるような構造や地形がないかどうか判断できるかもしれ ません。 発信源から電波が直接到達する範囲  この図は、発信源(赤丸)が細く深い谷の山腹にある場合、直接波がどこを照らしているか (どこに届いているか。不定形にハッチされた部分)示しています。この位置は実際に追跡して 最終的に、ヤブを走る音から間接的に判断したツキノワグマ標識個体の位置を示しています。方 探パターンは詳細に検討すると適合しない部分もありますが、道路を挟んだ西側の山腹にも小さ な極大点があったこと(上が北)、谷の沢を挟んだ対岸の山腹に強いシグナルが広範囲に観察さ れたことなど、あたらずとも遠くはない観測結果を得ていたものです。  また、発信源と観測位置が直接の見通し関係にない場合は、観測地点から見える範囲に、光源 から直接照らされている地形あるかどうかを判断することにより、反射体となる地形の判断の一 助になります。この場合、観測点から光源が見えるならば、観測点から光を送れば光源にも直接 届くはずであるという前提を正とします。この前提で観測地点から可視マップをつくり、光源か らの可視マップと重ね合わせると、重複した地点(強い反射が起きていると考えられる)を介し た電波経路の一端を推定できるかもしれません。 観測地点から見える範囲(青:観測点、赤:発信源、ハッチ部:可視範囲)  発信源の位置は先の図と同様ですが、5つの観測点を移動しながら観測した場合を示していま す。実際に現場で観測した信号の到来方向の変化に近いものがあらわせました。いずれの場合も 相当に接近するまでは、発信源の真の方向を反映した方向は示していませんでした。 発信源からの電波がどこで反射して観測地点までとどくか  この図は5つのフレームで構成されるアニメーションですが360kbほどあります。  発信源の位置関係をそのままに、あえて離れた3個所の観測点から電波の到来方向を観測した 場合、それぞれの観測点と発信源からの可視マップの重複範囲を切り出すと、ずっと手前の尾根 から山腹にかけて重複範囲(すなわち強い反射地域)が分布していることが示されます。これが いわゆるゴーストと定義できるのではないかと考えています。 観測地点と発信源からの可視マップの重複範囲(青:観測点、発信源:赤、可視範囲ハッチ部)  一方これらの観測地点の可視マップの重複範囲が発信源の位置と重複した場合は、それぞれの 観測地点から直接見える=電波が障害を受けず到達している可能性が考えられ、推定位置精度は だいぶ現実的なものになるものと考えられます。  結局  以上のように紹介した例では、因果関係をかなり断定的に表現していますが、いまだ謎の部分 が多く、想像する以上に様々な要因が絡んできているものと考えられます。中には相当に的外れ な解釈も含まれているかもしれません。現象は良く似ていても原因は異なっていることもあるの で注意が必要です。  また、個人的な経験で言えば、位置を10点ほど観測すると少なくとも1−2点は整合性のな い結果を出すことがあります。多くの熟練したテレメトリー従事者や、研究者はそれぞれ固有の 方法論に基づいてこれらの事態を避けるように経験を積んできているものですが、自分自身の経 験がむしろ思い込みになってエラーの原因となっている可能性まで配慮しなければならないなど と書いてしまったので、ラジオテレメトリーという方法論とそれによって得られたデータの信頼 性を損なうような印象が強くなってしまいました。  とにかく三角測量を用いた位置推定には良くわからない現象が介在しており、迷うならまだし も表面的なゴーストだったかもしれない結果を信じきって非現実データを積み重ねている可能性 もあるということです。ラジオテレメトリーを利用した調査では、電波の物理的性質に関係した 利点と欠点を良く理解し、注意深く運用することが必要だということです。  余談   3次元地理データを利用して電波の伝播状況をシミュレーションするプログラムの例として、 EDX SIGNAL PROがあります。たとえばこの製品では周波数で30MHz60GHzまでの挙動をシミュレー トできるようです。しかしおもに、携帯電話などのサービスエリアでの電波強度分布などをシミ ュレートするなど、プロの無線通信事業で利用されることを前提としています。価格約18000US$、 前のバージョン(SIGNAL 8.3)でも8000US$するようで、ラジオテレメトリー研究者や一般市民が 気軽に使えるものでもありません。また、ラジオテレメトリーにおける位置推定精度の検証のよ うな使い方が、設計思想的に合致したものかどうかは保証できません。私もカタログデータを読 んだだけで現物を知っているわけではありませんし。  EDX Wireless  また、根拠のはっきりしない無責任な想像をすると、3次元グラフィックソフトで光の挙動を 扱えるソフトを用いれば、発信源からの電波によって照らし出される地形の様子がシミュレート できるかもしれません。もし、普及版グラフィックソフトの中身をいじれるのならば周波数毎の 回折係数や反射を分析して、光や電波強度の空間分布状態を計算し表示するプラグインやモジュ ールができないものかと考えたりします。とは言うものの、現実の電波の回折現象などの物理的 挙動を正確に説明できるとは限りませんし、それから逆算して位置推定に利用できるかどうかま では解かりません。  ラジオテレメトリーによる追跡技法につきものの誤差の原因をシミュレーションして、現実の 追跡の目安や参考にするなど技法上の問題を検討するには面白いかもしれませんが、これによっ て新知見がもたらされるわけではない(逆に思い違いや推定結果の非現実性に気づかされるかも しれない)ので動物生態学の方面から検討される可能性は低いかもしれません。
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