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中国新聞(共同通信配信)2005年12月7日インターネット

小田急線訴訟の判決要旨 最高裁大法廷


 東京都世田谷区の小田急線高架化事業の認可取り消し訴訟で、最高裁大法廷が7日、原告適格について言い渡した判決の要旨は次の通り。

 【行政事件訴訟法の規定】

 行政事件訴訟法が原告適格について規定する「法律上の利益を有する者」とは、自己の権利や法律上保護された利益を侵害され、または必然的に侵害される恐れがある者をいう。処分を定めた行政法規が、個々人の個別的利益も保護する趣旨を含むと解釈できる場合には、処分により利益を侵害され、または侵害される恐れがある者は原告適格を有する。 (改正法の新規定によれば)利益の有無を判断するには、処分の根拠となる法令の趣旨、目的、考慮されるべき利益の内容、性質を考慮し、関係法令の趣旨、目的も参考にすべきだ。利益の内容、性質は、処分が法令に違反してされた場合に害される利益の内容や性質と、害される態様、程度も勘案すべきだ。

 【鉄道事業の原告適格】

 公害対策基本法や東京都環境影響評価条例の規定の趣旨や目的も参考にすれば、都市計画事業の認可に関する都市計画法の規定は、事業に伴う騒音や振動などで、事業地の周辺住民に健康や生活環境の被害が発生することを防止することも趣旨や目的としている。

 健康や生活環境に著しい被害を直接的に受ける恐れのある個々の住民に対して、そのような被害を受けないという利益を個別的利益として保護すべき趣旨を含むと解釈するのが相当だ。

 事業地の周辺住民のうち、事業でこのような被害を受ける恐れのある者は、原告適格がある。

 本件の事業では東京都環境影響評価条例により「対象事業の実施地域と周辺地域で、事業の実施が環境に著しい影響を及ぼす恐れがある地域」として関係地域が定められている。

 関係地域に住む住民は、事業の実施により騒音や振動などで健康や生活環境に著しい被害を直接的に受ける恐れがあり、法律上の利益を有する者として認可の取り消しを求める原告適格がある。関係地域外に住む者はそのような恐れがあるとはいえず、原告適格を有しない。

 【側道事業の原告適格】

 鉄道事業と密接な関連があるが、独立した都市計画事業であるのは明らかだ。側道は、環境に配慮して日照への影響を軽減することを主目的として設置され、道路の規模などに照らせば、事業用地の地権者以外は、健康や生活環境に著しい被害を直接的に受ける恐れがあるとはいえず、原告適格を有しない。

 【藤田宙靖裁判官の補足意見】

 行政庁は憲法上保障された生命、健康などの享受の利益に対する重大な侵害のリスクから周辺住民を保護すべき義務を負わされていると考えられる。保護義務を負わないとする法律上明確な根拠がない限り、少なくとも事業認可された都市計画施設が将来利用された結果、重大な損害を被るというリスクにさらされている周辺住民からの訴えは、原告適格が認められてしかるべきだ。

 【町田顕裁判官の補足意見】

 都市計画事業認可の取り消し訴訟で、原告適格をどの範囲の住民に認めるかについては、根拠法規や関連法規が定める手続きなどで、どの範囲の住民について「リスクからの保護義務」を負うと解釈できるかが指針となりうる。本判決が関係地域の内外という基準で判断しているのはこの理に基づくものだ。

 【今井功裁判官の補足意見】

 鉄道事業と側道事業の認可は別個の行政処分。原告適格についても事業ごとに判断すべきだ。反対意見が言うように、一体のものとして扱えば、両事業のいずれかに欠陥があれば全体が違法になるなど見過ごせない問題点がある。

 【横尾和子、滝井繁男、泉徳治、島田仁郎裁判官の反対意見】

 側道事業は鉄道事業を環境保全の面で支える性質がある。両事業の認可は、形式はともあれ、実体的には一体の行政処分だ。関係地域に住む住民は、側道事業についても取り消しを求める原告適格がある。


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