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小田急問題に関するQ&A

 回答者 小田急高架と街づくりを見直す会  木下泰之 事務局次長(1999年8月作成)


Q1. 小田急地下化の問題は、第三者から見ると、ちょっとわかにくい。
「小田急電鉄を高架複々線化」すると、騒音被害や日照被害が大きくなり、立ち退き問題も生ずるので「沿線住民が反対している」という話なら、それほど難しい問題ではないのですけれども、それだけの問題ではないらしい。
 その辺りを説明していただきたいのですが。


A1. もともと古くは、高架化に伴う騒音被害、日照被害、立ち退きの問題、さらには商店街の存亡問題から始まったのですが、当初から単なる反対運動ということでなく、この運動は地下化という代替案を提示して、その優位性、現実性を主張してきたわけです。
 理論的にも、経済的にも、高架より地下の方が優れていることは明らかになっていますし、他の鉄道沿線はほとんど地下に決まっていくなかで、小田急だけが高架化を強行しようとしている。
 それは何故なのか、その理由を調べているうちに、次のようなことがだんだん、わかってきました。

1.この問題は、「世田谷の地域再開発」問題と密接にからんでいること
2.それにはゼネコンや不動産業者の利権が結びついていて、行政も癒着していること
3.彼らの計画は、悪化している世田谷の住環境をさらにひどいものにするものだということ
4.計画を強行するために、民主主義を踏みにじるような無茶苦茶なルール違反をやっていること
 これは、相当根が深い問題だな、ということがわかってきたのですね。

Q2.沿線住民の騒音被害や日照被害問題だけではないということですか。

A2.もちろん、その問題も大きいですが、世田谷区の街・環境・生活などに影響する多くの問題にもかかわっています。
 さらに、「住民を無視してゼネコンや不動産業者の利益に合わせて都市計画を決める」行政の問題、
そして「行政が決めた公共事業は、どんなに間違っていても見直さない」日本のおかしなシステムが問題なのです。

Q3.それでは具体的に説明してください。
「世田谷の地域再開発」とからんでいるというのは、どういうことですか。

A3. 現在、世田谷区では喜多見から梅丘駅付近間の6.4キロメートル間の工事が進められていますが、それに伴ってたった6.4キロメートルの間に8本もの都市計画道路を新設し、17本もの既設道路の拡幅も予定されています。この中には幅54メートルの外かく環状道路の計画も含まれています。
 さらに、経堂駅周辺は車庫跡地の利用もからみ、駅前を中心に超高層ビル計画を伴う大規模再開発が計画されているのです。
これは単なる鉄道事業の問題ではありません。

Q4. 行政やゼネコンとはどういう関係があるのですか。

A4. むしろ、「政府・建設省主導の再開発計画が発端だった」といった方が正確ですね。
 もともと小田急線は私鉄ですが、日本の私鉄の大規模改良事業は、地方自治体が事業主体になったり、政府の大幅な援助が注ぎ込まれたり、都市計画事業として国の認可を必要とするなど、事実上の公共事業なのです。(資料集「東京都・小田急高架事業の不可解」参照)
 1980年代にバブルの火をつけた当時の中曽根政権は、「アーバンルネッサンス」と称して東京の高度利用計画を推進しようとしました。一方で臨海部再開発を進めるとともに、他方で都心から放射線状に伸びる鉄道の高架複々線化とあわせた道路網の一挙的整備と土地の高度利用、拠点駅を中心とした超高層ビル大規模再開発をもくろんだのです。
 そのために、国債償還(つまり国の借金返済)に当てるはずだったNTT株売却資金を土木事業費に回してしまいました。鉄道高架事業については、東京鉄道立体整備株式会社という第三セクターを設立し、NTT株売却資金の一部(NTT−A資金)を導入して、対応しようとしたのです。(資料集「正体を現した“NTT資金”のうさん臭い使い道」参照)
 鉄道の改良事業には、コングロマリットとしての小田急資本の利害と、それに関連するゼネコンや大手不動産開発事業者の利害が、「建設省や運輸省の先導・調整」を介在させてついてまわっています。
 その意味で、小田急高架事業自体がバブル経済の引き金のひとつであったわけで、それが現在まで続いているのです。

Q5. 世田谷区の住環境の現状は、どのような状態なのですか。

A5. 幹線道路整備が60年代に進み、環七や環八の上には環七雲、環八雲が出来るほどの大気汚染被害を受けています。幹線道路沿いの測定局では騒音・大気汚染ともに環境基準を上回る深刻な自動車公害にさらされているのです。
 開発が遅れたために東京23区中、緑比率では3位を保っており、比較的緑があるほうですが、1970年代には30%あった緑比率も、現在では20%を切ろうとしています。

Q6. 大規模再開発が進むと、その環境はどうなるのでしょう。

A6. 世田谷の緑を支えてきたのは庭の緑や農地を中心とした民有地の緑です。マンション開発やミニ開発ですでに20%までに緑比率が落ち込んできていますが、大規模再開発はこれに拍車をかけることになります。
 超高層を含むマンション群や12・3坪足らずのミニ開発の戸建て・車庫に占領され、緑は消失。商店街は消え、車利用の大規模店舗が立ち並び、車の排ガスと騒音の街と化す。これでいいのでしょうか。

Q7. 民主主義を踏みにじる無茶苦茶なルール違反って、どんなことがあったのですか。

A7. まずは役人たちの情報の秘匿と情報の操作です。連続立体事業には東京都に基礎調査が義務付けられていますが、都も国も世田谷区もこれを隠して、「地下は高架よりも高くつく」というウソの宣伝をおこなってきました。(資料集「小田急高架事業・ウソを重ねた役人たちの“挫折”」参照)
 次に違法な細切れアセスを行って、騒音被害を低く見積もったうえ、大気汚染の予測調査も実施していません。(資料集「小田急環境影響評価書案に対する意見書」参照)
 また、住民説明会にゼネコン社員らを大量動員して住民の声を封殺しようとしたこともありました。
 細川政権の頃、当時の五十嵐建設相の指示で、東京都と住民側との高架・地下の比較検証作業が緒についたのです。ところが、住民側が情報公開訴訟で勝利し、地下化の費用面での優位性が立証されそうになると、細川政権崩壊の機に乗じて、東京都は一方的に検証作業を打ち切り、事業認可申請を提出、国は羽田政権下で事業認可を強行しました。
 他にも、複々線事業の施工主体は鉄道建設公団であって、小田急はほとんど金を出していないにもかかわらず、あたかも小田急が主体で金がかかっているかのように偽装して運賃を値上げしたり(資料集「小田急複々線化事業にみる公的資金の使われ方」参照)、本来、連続立体事業の主体となれないはずの第三セクターである東京鉄道立体整備株式会社が事業にかんでいたり、無茶苦茶です。

Q8. 高架工事はどんどん進んでいるようですし、もう手遅れではないのですか。

A8. 一度進んだ工事はあとに戻れないということはありません。成田空港の地下駅とか古くは新橋の地下鉄とか、工事途中で中止した事業もあります。
 小田急線の成城・梅丘間では高架工事でできた構築物が残っているまま、その下に地下シールドトンネルを掘ることができます。梅丘から新宿までの地下化方針が明らかになったわけですから、あわせて地下方式に切り替えて工事を行えば、成城学園前駅から新宿まで難なく工事がすすみます。高架と地下を比較した場合の現工事区間の総費用は、地下は3分の1ですみます。(もぐれ小田急線第25号「成城・梅丘間の費用比較、地下は高架の3分の1」参照) またさらに、梅丘以東の工事も地下でつなげることで、大分安上がりになります。
 もし、高架に固執すれば、立ち退き問題や騒音等の公害補償問題も含めて事業は難航し、いつまでたっても完成を見ないということになるでしょう。
今からでも地下化に転換することが最良の道です。

Q9. 世田谷区に住んでない人には無関係な問題のようにも思えますが。

A9. 小田急問題は、「長良川河口堰問題」や「諫早湾干拓問題」などと同様、公共事業のあり方をめぐる公の議論です。
 公的資金を浪費して「開発誘導としての高架」をごり押しし、周辺の高度利用と道路計画を推し進めてゼネコンや不動産業者を儲けさせるのか、
地下化に変更して大規模再開発の誘惑を逃れ、都市周辺部の住宅地域を大事に育てていくのか、
の選択が問われています。
 また、小田急線の問題は、時の建設大臣が「地下化という立派な代替案があるのだから、基礎情報を公開して住民とともに比較検証をしなさい」と東京都に指示をあたえた事案です。
 東京地方裁判所も、判決文のなかで「地下化の優位性」を認めています。
「公共事業の見直し」が与野党問わず、日本の課題である以上、この問題ぐらい解決をつけなければ、日本の未来はないといわなければなりません。


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