まさか後退しないだろうな小田急高架訴訟

日刊ゲンダイ 2003年(平成15年)10月29日(28日発行)
ジャーナリスト 斎藤貴男




東京・新宿から小田原方面へ延びる小田急線の高架化をめぐる裁判の控訴審が、来る30日に結審する。公共事業の在り方を議論するのに格好の材料なので要注目だ。

もともとは世田谷区内の梅ケ丘―喜多見間の約6・4`を複々線化・立体交差化するための都市計画事業に、騒音などの被害を受ける沿線住民約120人が国の認可の取り消しを求めた行政訴訟。一昨年10月の東京地裁判決を不服とした国土交通省などが東京高裁に控訴していた。

「今回も勝訴を確信しています。結論は明白だ」住民側弁護団を代表する斎藤驍弁護士は語る。

なるほど普通に考えれば、一審支持の判決は動きそうもない。

「利便性の向上という観点を(騒音公害を無視した)違法状態の解消より上位に置くことは看過できない」旨、地裁判決は述べている。地下鉄化なら騒音もなく、事業費を安くできたのではないかとの指摘も大きかった。

「控訴審ではさらに、事業の違法性を裏付ける新たな証言が飛び出しました。事業認可の根拠とされてきた1964年の
都市計画決定には正式な計画書や計画図が存在せず、残された付議書などを見ても小田急高架化の論拠には結びつかないとの専門家の陳述があったのです」(司法担当記者)

公共事業に対する世間の見方そのものが、この間にずいぶんと変わりもした。行政がふんぞりかえって強行する旧来手法はますます嫌悪されるようになり、彼らの説明責任と市民の公平な社会参画こそ重要だとする発想が強まった。

一審判決の直後に社説で「公共事業をあるペき姿に向かわせようとする司法から行政への注文とも理解できる」と書いたのは「毎日新聞」だったが、とすれば高裁の判断が楽しみになってくる。

折しも日本道路公団の総裁藤井治芳総裁の解任処分をめぐる騒動がくすぶっている。石原伸晃・国土交通相は首切りを強行したが、藤井氏は今後、処分取り消しの訴訟などで対抗していくのだろう。いかにもずるがしこそうな官僚と世襲のボンボン丸出しの大臣とのケンカは見た目に面白いが、肝心要の道路問題が忘れられてはならない。公共事業の在り方を見直す好機である。(隔週火曜掲載)