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「虹と緑」2002年2月号掲載

緑のコリドー(回廊)

代替案が導いた小田急高架違法判決



小田急高架と街づくりを見直す会    事務局次長
木 下 泰 之(同訴訟原告 世田谷区議会議員)


原告勝利の判決

 10月3日に下された小田急高架事業に対する東京地裁判決は、既に工事が半ば進んでいるにもかかわらず、事業認可を取り消した。いわゆる「事情判決」とはせず、まさに歴史的な原告住民勝訴の判決となった。
 行政事件訴訟法31条1項は、「特別の事情による請求の棄却」を既定していて、「取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言することができる。」としており、これを適用した判決がいわゆる「事情判決」だ。

小田急高架を取消判断した理由とは

 判決は「事情判決」とせず、取消判断をした理由を次の言葉で示した。
 「本件各認可が取り消されても、その手続自体又はそれに必要な公金の支出に関与した公務員が何らかの意味で責任を追求されるなどの可能性はないでもないが、これにより、既になされた工事について原状回復の義務等の法的効果が発生するものではなく、その他本件各認可の取消しにより公の利益に著しい障害を生ずるものとは認められないから、本判決において、本件各認可が違法である旨の判断をするに当たり、行政事件訴訟法31条1項により別紙原告目録1記載の原告らの請求を棄却すべき場合であるとは認められない。」
 早とちりのマスコミは「原状回復の義務等の法的効果が発生するものではなく」というくだりを、工事の中止を求めていないと報道したが、判決は工事を続行してよいなどとは書かれていない。公務員の責任追及の可能性まで示唆していることからしても、事業認可取消が宣言された以上、判決は事業の抜本的転換を求めたと解するのが正確な読み方だ。
 これを理解するには、若干の予備知識が必要になる。
 今回の判決より1年程前、2000年11月に藤山雅行裁判長は原告側優位を見越して、和解勧告を行っていた。裁判長が本件事業認可の対象となった東京都の都市計画事業において、高架・地下の比較を事前の事業調査で公平に行わなかった点や、本来事業認可の対象とすべき複々線部分の高架工事を事業認可の対象から除外している点など、決定的とも言える違法事由について、異例の文書釈明を求めたにもかかわらず、被告建設省はまともに答えることが出来なかった。原告側が10月に、工事半ばで既に構築された高架構造物を緑の生態コリドーとして利用することを盛り込んだ地下化の代替案を提示すると、裁判長はこれを評価。高架工事転換の道筋と受け止め、建設省に事業当事者の東京都との協議を促した上で和解勧告を行ったのであった。

「三方一両損」の解決策としての提案

 「小田急を全線地下化し、跡地を「神宮の杜と多摩川を結ぶ緑道」に」と題した原告側地下化代替案は力石定一法政大学名誉教授を座長とする「小田急市民専門家会議」によるものである。  代替案は、複々線事業が成城・新宿間の完成を見なければ効果を上げることができないにもかかわらず、現行高架工事が未だ成城・梅丘間に留まっていることに着目し、@成城・新宿間を一体的な2線2層シールド地下化方式で一挙に進める。A工事が半ば進んでいる既存の高架工事については成城・梅丘間まで2線を当面仮線として高架で走らせることを認める。B地下工事終了後には、それまで仮線として使用した高架構造物を使い、在来線跡地と合わせた2層の生態コリドーをつくり都市における生態系回復のための事業とする。これを「三方一両損」の解決策として提案している。
 原告側として原状復帰を譲歩し、「環境の世紀」に見合った解決策を探ろうとの提案である。仮線設置は踏切解消を実現し、成城・新宿間の一体的工事は段階的工事よりも事業進捗が格段に早くなる。都は梅丘・代々木上原間の地下化計画を2001年4月に公表したが、このままでは完成は早くて2013年度となる。代々木上原・新宿間は目処さえ立っていない。
 代替案の存在を頭に入れておけば、「原状回復の義務等の法的効果が発生するものではなく」といった裁判長の真意が、よく解るだろう。違法な事業の取消判決は「取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる」どころか、新たな解決の出発点になり得るのである。既成事実の積み重ねが全てという官僚専横は終わりにしたい。

違法性を断罪した判決に国は控訴

 判決は、次のように断言する。
 「小田急線の騒音が違法状態を発生させているのではないかとの疑念への配慮を欠いたまま都市計画を定めることは、単なる利便性の向上という観点を違法状態の解消という観点よりも上位に置くという結果を招きかねない点において法的には到底看過し得ないものであるし、事業費について慎重な検討を欠いたことは、その点が地下式ではなく高架式を採用する最後の決め手となっていたことからすると、確たる根拠に基づかないでより優れた方式を採用しなかった可能性が高いと考えられる点において、かなり重大な瑕疵といわざるを得ず、これらのいずれか一方のみをみても、優に本件各認可を違法と評価するに足りるものというべきである。」
 小田急線の在来線騒音の違法を政府が責任裁定で認めている以上、違法騒音を継続させるような高架事業は違法である。現行事業計画では軒先50センチに高架構造物がそびえ立ち、ここを4線の鉄道が走ることが予定されている。しかも、複々線部分は、建設大臣の認可を取っていないのである。このようなことが許されて良いわけはない。  残念なことに、判決にもかかわらず、国は控訴し、実際には不当にも現在も工事が進められている。そこで原告側は現在、公金差止めの監査請求の準備を始めた。事業認可取消判決が出された以上、予算化の適法性の根拠は失われているはずである。

終わりに

 代替案としての「緑のコリドー」の実現はエコロジカルニューデールとして、公共事業を根本的に変える契機となると信じ、名判決の防衛戦と監査請求での追撃戦を闘いたい。

 運動への協力等の問い合わせ先は「小田急高架と街づくりを見直す会」事務局まで
〒156ー0051東京都世田谷区宮坂1−44−34−207
電話・FAX 03−3439−9868 Email fk1125@aqu.bekkoame.ne.jp
なお、詳しい情報はホームページで読めます。http://www.bekkoame.ne.jp/~fk1125


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