もぐれ小田急線

    NO.25 1999年7月6日

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第25号 も  く  じ 

成城・梅丘間の費用比較、地下は高架の3分の1
山森不動産鑑定士証言に建設省反論できず

 去る6月25日に開廷された小田急線の高架事業認可取り消し訴訟で、不動産鑑定士の山森大七郎氏が証言に立ち、成城から梅丘までの現事業区間6.4キロメートルの事業費について、東京都の提示した数字を使っても地下化は高架化の3分の1となることを証言しました。被告建設省の代理人は反対尋問さえできず、山森証言を追認した形となりました。
 既に山森氏は1995年11月に東京地裁民亊二部(行政部)で争われていた東京鉄道立体整備株式会社(第三セクター)への出資取り消し訴訟の原告証人として同趣旨の証言をおこなっており、同訴訟の地裁判決(1997年2月)では、山森証言を踏まえた上で、小田急線の地下方式が高架方式よりも「優位性が認められる」と判示しています。梅丘以東が地下化されることが確実になった今、成城から梅丘までの現在の高架工事を止めて以東とあわせて地下方式でやり直しても安上がりであることが、建設大臣が被告の認可取り消し訴訟の法廷で証言されたことは画期的なことです。

高架が無駄な土地利用であることは歴然
地下化への転換こそ最善・最短の打開策

山森証言は民間では常識

 東京地裁民亊二部が判決で支持を与え、民亊三部の今回の法廷でも被告建設省側が一切反論できなかった地下化の方が高架化の三分の一の費用という「山森理論」は民間のデベロッパーにとっては常識的な考え方です。高架にした際に生まれる価値である「高架下の土地価値」および地下化にした際に生まれる価値である「在来線跡地の土地価値」をそれぞれの事業の投下資本のプラス便益として計上して比較考量するという手法は、立体換地の際のオーソドックスなものに他なりません。このような考え方をとらなければ、資本投下による費用効果の正しい比較はできません。
山森氏の比較では話を分かりやすくするために、環境問題等の社会的便益のプラスマイナスは捨象し、いわば企業の論理で、しかも東京都が示した工事費や用地買収価格の数字で費用比較をしています。だからこそ、建設省といえども反論が全くできないものです。

お役所計算でもほぼ同額の事業費

 ところで、東京都を初め行政の事業の費用比較はどうでしょう。いつも工事費と用地買収費を単純に足した投下資本のみの費用比較に終始してきました。それでも、東京都の高架計画の先鞭を付けた世田谷区の調査では1.8倍、東京都の事業計画案の説明会では1.6倍、そして五十嵐大臣の指示による1993年の住民と東京都とのデータの付き合わせ作業での確認では全線を二線二層地下シールド方式で行った場合には1.1倍、つまり高架と地下がほぼ同額の資本投下でできるところまでその差は縮まっていったのです。その当時の東京都の抗弁は下北沢地区は未定だから地下計画の場合は梅丘で平面に上がらざるを得ず、また駅部はシールド工法がとれないから前線シールド工法は無理で開削工法を多用せざるをえず1.6倍なのだというものでした。そして、情報公開訴訟で基礎調査データが住民の手に渡るやいなや、住民との協議継続の約束を反故にして、建設省への事業申請を強行したのでした。

喜多見・梅ヶ丘間構造別事業費比較表・(都の提示データ分析による)
構造形式と工法 工事費 用地買収費 利用可能となる
土地の価格
事業費
高架方式 950億円 1450億円 ▲ 362億円 2038億円
地下方式 2300億円   446億円 ▲2013億円 733億円

高架の不合理性はもはや言逃れはできない

 しかし、昨年の12月8日の東京都都市計画局長の梅丘以東の地下化方針発言は、もはや成城・梅丘間の高架計画が何の正当性も持ち得ないことがハッキリしてしまいました。駅部のシールド工法はすでに大阪で実施済みですし、梅丘以東が地下ならば成城が既に地下なのだから全線地下化方式に初めから優位性があり、「お役所計算」でもほぼ同額、民間手法で正当に計算すれば地下化は高架化の三分の一の費用で完成できることは隠しおおせない事実なのです。

環境に優しく、安く、早い地下方式の転換を!

 昨年は小田急線の在来線騒音が違法であることが政府に認定され、その面から沿線住民に違法騒音を押し付けることになる高架複々線が違法であることがハッキリし、今回の法廷では地下化方式の経済的な絶対的優位性を唱えた山森証言に建設省の代理人は反論さえできませんでした。最近明らかになった外郭環状線の地下化への転換といい、新宿までの地下化方針の公表といい、全般的な地下化シールド方式採用のラッシュのなかで小田急の成城・梅丘間の高架の不合理さ理不尽さは際立っています。下北沢の地下化と合わせた現工事区間の高架計画の地下化方式への見直しをこそ、石原新都知事は決断するべきなのです。

新宿までの地下化確実 青山副知事が公表

 梅丘以東、東北沢までの小田急線については地下化で行う方針を昨年12月8日に東京都の都市計画局長が公表していましたが、東北沢以東新宿までの計画については公式には東京都は口をつぐんだままでした。ところが去る5月6日付けで出版された「都圏計画地図」(かんき出版刊)で梅丘以東新宿までが地下化の方向で既に検討されていることが準公式的に明らかになっていたことが私たちの調査でこのほど判明しました。この本は―「拠点開発」はどこで進み「鉄道」「道路」はどこを走るのか―を副題としたものですが、この本を石原新都知事が異例の抜擢をしたことで注目されている副知事の青山氏(この本での肩書きは前職の東京都理事)と建設局長も勤めた佐藤一夫東京都技監が監修しています。
 新宿までの地下化が記述されているのは連続立体交差事業の解説が始まる冒頭の176ページの下段。「小田急小田原線(梅が丘〜新宿)地下の方向」とあります。

外郭環状線も地下化 今や地下が当たり前

 6月4日の朝日新聞によれば、東京都は「東京外かく環状道路」の大泉・用賀の16kmの区間で、当初の高架案から沿道環境に配慮した地下、半地下案に都市計画を変更しました。全国で初めて沿線住民や自治体からの意見を計画に反映させるPI(パブリック・インボルブメント)方式を導入します。
 この区間は武蔵野市, 杉並区, 世田谷区の住宅地を貫くため66年に都市計画決定しましたが,反対が相次ぎ, 美濃部都政下の70年に当時の建設大臣が計画の凍結を宣言していました。都と建設省は住民への説明パンフや地上部の公園などの整備案を示しながら意見を求め、計画変更案をまとめるとのことです。
 このように道路でも新たな鉄道の線増でも地下化が常識となってきています。


小田急高架にとどまらない
新設道路・高層再開発による環境破壊へ

小田急地下化実現・騒音等複合汚染阻止弁護団団長
斉 藤   驍

小田急の高架事業は税金を使った都市開発

 この前の本紙24号で小田急高架複々線事業の本質が、建設省と運輸省が結託した踏切解消と道路新設を目的とした大規模な国の補助事業であることを指摘し(小田急は在来線の事業費の7%、全体の約3.5%しか負担しなくてよい)、それを機軸とした不動産開発(都市大再開発)をもくろんでいることを指摘した。今回の高架事業区間6.4km(駅幅を除くとわずか4.9km)に17本の道路の拡幅, 8本の道路の新設は一気にこの地域の高層化開発を可能とする(経堂駅周辺の32階建ビル計画も公表)。このわずかな区間に高架事業費・道路事業費の5000億円強に加え, 再開発事業約5000億円で1兆円以上がつぎ込まれる。
 高架で人びとが立ち退き, 延べ100kmを越える道路事業でまた人びとが立ち退く。さらに高架や拡幅道路、さらには高層マンションやビルに挟まれ全く環境の変わってしまう残った人びと。そして変わるのは環境だけだろうか。
 このように小田急の高架事業の地域住民に与える損害は高架周辺のみならず今後も広範に生ずる立ち退きに象徴されるよう従前の生活環境の全面的崩壊であるといえる。私たち世田谷の住民が、今まで享受してきた財産的、精神的、肉体的価値のすべてを失うことにまで及び、さらに・町が町でなくなるという環境の激変は、金で代償するどころか現状回復がほとんど不可能で、子々孫々まで悔いが残る・問題であると提起した。

沿線部分だけでない凄まじい複合汚染が

 小田急は本件在来線のうち、喜多見、梅が丘間については平成13年度までにこれを廃止し、高架複々線事業(成城学園駅のみ地下)を完成させるため、工事を強行し、既成事実によりみずからの極度の違法を隠蔽しようと躍起になっている。その結果は、鉄道の騒音、振動はもとより、道路の新設に伴う凄まじい大気汚染と騒音、振動、「都市再開発」による緑、日照、風の喪失という三重の複合汚染が生じ、閑静といわれた住宅地はことごとく破壊されるという、未曾有の事態となり、3年も経たないうちに廃止される在来線のために、小田急が有効な被害対策を講ずることは、小田急が利潤原理で動くコングロマリットになっていることを考えればする筈もなく、事実していない。
 この回復しがたい被害を回避するために今現実に考えられ、かつ技術的にも経済的にも充分可能なことは、・地下シールド方式の連続立体交差に切り換える・ことであり、しかも、現況の工事の強行は、人々にいわゆる環境の複合汚染として次のような回避しがたい損害を与えるからである。
 そしてこれらの被害・損害は、高架に直面している沿線住民だけでなく、道路や再開発で先に述べたように莫大な人々が直面する問題となる。

環境と健康を蝕むこの事業の継続

1.大気汚染
 車の排気ガスが慢性気管支炎等から肺気腫に至る呼吸器疾患の原因となることは公衆衛生の常識であるだけでなく、いわゆる国道43号線最高裁判決等ですでに確認されており、直近の川崎判決(横浜地裁川崎支部平成10年8月)でも再確認されており、もはや確立した判例といってよい。
 しかも自動車の排気ガスのなかには3,4-ベンツピレン等のガス状、微粒子状の発ガン物質や大気中で容易にNO2と反応し強変異原物質であるニトロピレンを生成するような物質も多く含まれていることは医学界の常識である。
 さらに浮遊粒子状物質(SPM)には上記の有機化学物質のみならず、炭粉、鉄粉、クロム等の発ガン性等の有害性が知られている重金属類が存在する。一部は右有機化学物質と複合して有害な作用も及ぼす。
 都市では自動車が走行する道路周辺がこれら汚染の中心となっている。私たちの居住する世田谷区は、まさにこのようになっており、大気汚染の二大源といわれるNO2とSPMは、住宅地においてもほとんど環境基準を超えている。環状七号線等大きな道路に面する部分はひときわ甚だしい。
 1981年、日本人の死因でガンがトップになった。しかもガンの統計のなかで専門家の間では10年以上前から注目すべき現象「肺ガンの激増」が指摘され、1992年2月朝日新聞が「急速に増えているのが肺ガン……後2、3年で胃ガンを追い抜く」と報じた。肺ガンの原因にまずあげられるのが、喫煙と大気汚染である。
 喫煙率は男性は30年前の80%から50〜60%へ激減し、女性は多少は増えてはいるものの約30%にとどまっている。従って、大気汚染による肺ガンのリスクは著増しているといわざるを得ない。
 現在でも私たち沿線住民は道路による大気汚染と「開かずの踏切」による自動車の列によって被害をうけているが、本件事業により幅54mのものを含む道路25本が新設拡幅されればその被害は単なる一時的な呼吸器疾患にとどまらない甚大なものがあり、しかも小田急等は無法にこれを強行しようとしている。

2.騒音・振動
 騒音は睡眠妨害、イライラなどの不快感等を生活妨害となる。程度によっては耳が聴こえなくなることも勿論であるが、自律神経などに重大な影響を与え、通常のノイローゼから現在の病の典型の1つといわれる精神疾患に至る。
 いわゆる国道43号最高裁判決が認めているように、LAeq60デシベルから明らかな生活妨害が始まるが、音のエネルギーが10倍となる70デシベルを超えると病的状況が始まり、それが100倍となる90デシベルでははっきり病気に移行すると考えてよい。
 世田谷区の環状七号線など、主な道路の沿道の測定結果はほとんど70デシベルを超えている。
 鉄道は現在でも、線路に近接するところで生活しているものは、公害等調整委員会で認定したものだけで沿線住民では、LAeq60デシベル以上のものが大半である。
 このような状況のなかで高架鉄道による騒音の増大、道路の新設拡幅による騒音の増大を総合して考えれば沿線住民の被害が耐えがたいことは容易に理解出来る。
振動についても同様である。

3. 日照・風害・景観等
 日照、風害、景観等の被害、破壊がこの高架複々線事業が基本的に高層開発事業であることから充分予想されることであるが、これまた殆ど予測されていない。

4.緑とゆとりの居住環境の全面的喪失
 何度も述べるが、この高架事業の被害は、一般の公害複合汚染にとどまらず、すでに多くの証拠により証明されている30階以上といわれる高層駅ビルに象徴される高層再開発であるから、いわば狭いながらも庭のある家が高層ビルと道路にとり囲まれるような街と生活の破壊である。
緑とゆとりのある住宅空間など望むべくもない状況となる。要するに別の人間にならないかぎり生活することが出来ないに等しい。
 これは、金銭に替えることも、他の手段で代償することも出来ない被害といわなければならない。
 再開発がなされば、前の街はなくなることは言うまでもない。しかし、それは最小限その街がなくしてもよいものであり、作られる「新しい」ものがそれをしのぐものでなければならないであろう。

5.健康影響
 以上のとおり被害は、生活妨害にとどまらない。騒音による精神疾患等、大気汚染による呼吸器疾患、肺癌等重大な健康影響が生ずる。裁判では、元公衆衛生院院長の長田証人が以上のことを具体的に証言したうえで、「本件のような巨大プロジェクトで沿線住民なり周辺住民に健康上の影響が生ずるとお考えですか」という質問に、「はい。考えます」と極めて明確に証言している。これは重大なことである。
 健康影響、即ち人が病気になるような事業は公共事業はもちろん、いかなる名目でも許されない。

まだ10数%の進展 カモフラージュの高架利用

 小田急、東京都等が公式に表明では、本年3月の段階で総事業費の36.7%が消化された。この36.7%には事業費の総体、すなわち用地買収費を含んでいる。
 東京都等が公表した事業費の総額は従前述べた通り1900億円で、その内訳は工事費950億円、用地費950億円で、用地費が事業費の2分の1を占める。
 私たちの計算では高架の工事の進捗率はいまだ10数%にすぎない。だからこそ小田急等は昨年秋経堂に在来線の上り部分だけに高架の架設駅を作って500・足らずの区間を高架で走らせたり、4月には祖師ケ谷大蔵駅にこれまた仮設の高架駅を作り今度は在来線の下り部分を走らせるという「演出」をして、工事の著しい遅れをカモフラージュしている。
 しかし、高架作業が進行すれば、地下に切り換えるとき無駄が増える。現在のレベルで、投下された工事費は約100億〜120億円で、その取壊費用はどんなに高く見積もっても建築費の2分の1すなわち50億〜60億円である。従って、地下への転換費用は、地下化で生じる経済的利益(1300億円以上)に比べればものの数字ではないのである。・今が地下化への決断の時とも言える。


小田急地下化の市民選挙をたたかって

 当会の木下泰之事務局次長が、4月に行われた世田谷区議選で再選を果たしました。1995年に社会党公認で当選しましたが、96年には離党。今回の選挙では政党や労組の支援は一切なく、全くの無所属で、寄稿いただいた高品 斉氏を後援会長に市民型選挙をたたかい、3147票を得て46位(定数55)で当選しました。

市民選挙のモデルたらん!   ………  高品 斉


 木下君に後援会長を頼まれたときに思ったのは、市民選挙のモデルを目指すことだった。
 政党には、一切たよらない。もちろん宗教や組合や企業にも頼らない。商店連合会のあほなボスザルどもにも頭を下げず、町会やPTA等の規制の組織にもゴマをすらないようにしよう。
 一人ひとりの市民によびかけよう!
 一人ひとりの市民の心の中に!
 私は前から、ずっーとそう思っていたし、そう思ったきた。
 そして今もそう思っている。
 そしてこれからもずっーとそれは正しいことと私は確信して正々堂々と主張する。疑義が起これば議論を徹底する。
 そんな市民が集まって木下君を応援する。
 これが原点である。
 事務所の大家に家賃交渉をしたとき、「そんなに値切るなら自民党に貸す」と言われ、まいったこともあった。リサイクルバザーをやってみて、いかに引出物とか記念品とかが各家庭で余っているかが良く理解できた。なんという無駄が多いことか!
 事務局長下平君は、歯科医でバックギャモンの世界チャンピオンだが、一市民としたことがミソなのだった。
 選挙を規制する法や規則はくだらないのが多い。
 民主社会の原理原則からピントが外れている規制が多すぎる。例えば、なぜ選挙期間中ポスターは公的に決められた場所だけにしか貼れないのか?
 要は民主主義の実践教室であるべき選挙の機能を明らかに阻害している。
 世田谷区全部に組織起動力を持つ団体が断然有利になるようになっていて一人ひとりの市民社会を育てる風潮は皆無である。
 東京の世田谷区でさえほんものの民主市民社会の活性化が遅れている主因は、この辺にあるのではないか?
 不満や愚痴を言えばキリがない。
 だから4年後をパースペクティブに考えよう!
 オオバか?区政はメルトダウンして壊滅しているだろう。
 三軒茶屋のキャロット超高層ビルは赤字がニンジンよりも赤くなるだろう。
 小田急の複々線高架工事も完成開通はほど遠く絶対に出来ないだろう。
 世田谷区の市民は目覚めざるを得なくなるだろう。
 木下君の活躍に期待は大きいのだ。

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小田急高架と街づくりを見直す会 会長 中本信幸
〒156−0051世田谷区宮坂1−44−34−207 TEL/FAX 3439−9868
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不在の場合は 事務局 木下泰之まで TEL 3468−8613 Email fk1125@aqu.bekkoame.ne.jp