もぐれ小田急線

第22号 1998年6月25日

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第22号 も く じ

小田急騒音で 226名
申請人の3/4が和解案を拒否
政府を責任裁定に追い込む

 小田急沿線の騒音被害については、沿線住民が 1992年5月に政府の公害等調整委員会に裁定申請をしていましたが、本年4月21日に同委員会は委員長の職権調停和解案なるものを示しました。内容は申請人305名のうち、日平均騒音レベル68デシベル以上の47戸77人に対し、小田急電鉄が防音工事費として30万円から100万円を支払い、またその他の申請者には環境対策費として2000万円を用意し、総額5000万円の金をばらまくというものです。小田急電鉄はこの調停和解案を受け入れることを表明しましたが、騒音の被害に苦しむ沿線住民305名の申請人のうち、ほぼ4分の3に当たる226名がこの調停和解案を拒否いたしました。
このニュースは5月22日の夜にNHKが2度にわたり放映し、また読売・朝日が報道しましたので、ご存知とは思いますが、沿線住民の勇気ある拒否でした。
 大事なことは、沿線被害者の大多数が調停和解案を拒否した結果、政府の公害等調整委員会は裁判所でいえば判決に当たる「裁定」を近々下さなければならないところに追い込まれたということです。

新幹線基準を超えるすさまじい騒音被害
高架複々線は更に深刻

公害等調整委員会は、1996年10月に自ら委託した調査機関から小田急沿線の騒音の測定結果の報告を受けると、住民から求められた裁定を回避し、なんとか調停和解によって小田急と住民とが「解決」するように工作を始めました。これは、小田急沿線の騒音被害が新幹線の騒音基準を大幅に超す極めて深刻なものであることがわかったからです。
測定した191戸中141戸、つまり4分の3近くが、住居地域での新幹線騒音基準LAmax70デシベルを超え、しかも47戸はLAmaxで80デシベル以上、日平均騒音レベルで68デシベルを超えているというすさまじい結果だったのです。
1995年7月には、神戸の国道43号線騒音問題で最高裁は日平均騒音レベル60デシベル以上の被害者に救済命令を出し、政府はこの判例を尊重して、在来新線の騒音基準について、日平均騒音レベルを夜間は55デシベル以下、昼間で60デシベル以下と定めました。
こうした経緯からすれば、公害等調整委員会が裁定(裁判所でいえば判決)を出せば、一定の騒音被害者には救済を与えなければならなくなります。つまり、救済を裁定で決めるということになれば、全国の鉄道沿線騒音被害救済問題のいわば「判例」となり、全国に類が及ぶのです。また、小田急高架事業での環境アセスメントでは、将来の通過列車台数を大幅にごまかした(*注)アセスでさえ高架にした際には環境が悪化する個所も出ることを認めており、目に見えた改善や、ましてや新幹線基準をクリヤーすることは不可能と結論づけているため、あまりにもすさまじい騒音被害測定結果に基づいて裁定を出せば、小田急線高架事業自体が誤りであることを認めることになるからです。

* 梅丘・喜多見間が開通しても一日の通過台数770本が800本にしか増えないとしています。 ところが、代々木上原まであけば1100本、新宿まですべて複々線になれば、その通過台数は1300本になります。

裁判官が和解工作
被害者宅を訪問し、最高裁まで行くとデマ

公害等調整委員会への申請手続きが住民のみの専門家抜きの代理人で進められていたという経緯もあって、同委員会は小田急の弁護士の代理人等と結託し、一部の素人の住民側代理人をロウラクしながら、「調停和解工作」を始めました。
公害等調整委員会の川嵜委員長は元東京高裁の長官ですし、実務を担当する審議官の中心にいるのは裁判所から出向してきた裁判官です。職責からいっても、本来は住民の求めに応じて速やかに裁定を下さなければならない事案であるにもかかわらず、この出向組の裁判官が沿線住民宅を頻繁に訪れて、「裁定を出せば、小田急が裁判を起こして最高裁まで争われることになり、問題は解決しない」などとデマ*までとばして調停和解工作に当たっていたことが判明しています。裁判所から出向している井口審査官は騒音被害者宅を訪問して調停和解工作にあたったことを自ら認めています。

* 公害等調整委員会は、中央労働委員会などと違って裁定結果に被申請人が裁判を起こせない仕組みになっています。

裁判官が被害者宅を回って調停和解工作をするというのは極めて異常なことであり、裁判官の職分に反する行為ですが、責任裁定の代理人が素人であったのをよいことに、裁判官までも動員して調停和解工作が行われたこと自体、この小田急線騒音問題の与える影響がいかに大きいものであるかを物語っています。

素人代理人をロウラク
2名が和解に応じ、1名の同居親族は和解

昨年の2月、測定結果が出ているにもかかわらず、裁定審理が遅々として進まず、また和解攻勢のすさまじさに不安をもった申請人住民の中で不安に思う人が出てきて、一連の小田急訴訟を担当している弁護士に代理人を依頼する人たちが出てくるようになってからも、法や制度に詳しいとはいえない素人の責任裁定代理人をロウラクしての調停和解工作が進められました。
本人が申請人でもある代理人の中には、申請人の圧倒的多数が調停拒否であるにもかかわらず、今回の調停和解に応じた人もいれば、本人は調停を拒否したにもかかわらず、世帯を別にする親族は和解と使い分け、両にらみとした人もいます。
「小田急線の高架と街づくりを見直す会」の木下事務局次長はこの間、該当する沿線住民宅を回ってみました。すると、責任裁定制度そのものを正確に理解していないお宅が余りにも多いことがわかりました。そこで十分に説明をした結果、実に90名もの方々が調停和解案拒否の文書を木下に託し、これは5月21日に調停委員会に届けられました。
読売新聞は、5月22日朝刊の見込み記事では半数が調停和解に応ずる見込みと書きましたが、ふたを開けてみると4分の3が拒否した事実を受けて、夕刊で訂正記事をのせ、翌日23日朝刊では「金銭の問題ではない、小田急騒音 調停案に226人拒否」と改めて報道し直したのでした。

責任裁定がでれば 鉄道騒音問題は全国化

 さて、今後はどうなるのでしょうか。調停案で補償額が示されながら拒否した34戸58人については、裁定でどのように救済するかが焦点です。少なくとも職権調停和解案と同等の被害補償を行うのが筋ですが、これまでの公害等調整委員会の姿勢を見ると、裁定では減額してくる可能性もあります。もし、職権調停案と著しくかけ離れて、深刻な騒音被害を受けている被害者に裁定で補償命令を出さないとしたら、これは大問題になり、住民が裁判に訴えた場合、勝ち目はありません。政府は、少なくとも職権調停和解案で救済したレベルの深刻な被害者には補償命令を出さざるを得ない状況にあるといえます。
 このような状況に追い込んだことが、今回の調停和解拒否の最大の成果です。責任裁定の結論がどのようなものになるにせよ、政府はこれを機に全国の在来線鉄道の騒音対策の実施を迫られ、住宅密集地域での高架複々線事業や高架新線の抜本的な見直しを迫られることになるからです。

最高裁判例に満たない救済基準は、「騒音基準」緩和策動が背景

ところで、今回の調停和解案のもうひとつの大きな問題点は、補償救済措置の対象とする被害基準を、1995年に神戸の国道43号線周辺住民の訴訟で最高裁判所が示した受任限度60デシベルを超えて68デシベル以上の騒音被害者としたことです。我慢する限度を60デシベルとするという最高裁の判決にも問題はありますが、今回の調停和解案が最高裁判決を大きく後退させているのは、行政官僚の法治への挑戦だといわなければなりません。
実は、調停案が受諾・日受諾の回答期限日だった5月22日と機を一にして、政府の中央公害審議会騒音振動部会は見識ある専門委員の再三の反対意見にもかかわらず、道路周辺の騒音基準案を答申しました。現在は国道43号線での最高裁判例が行政規範となってきたにもかかわらず、これを70デシベルに緩和。しかもこの基準案は、屋内で70デシベルであればよいとしているのです。
つまり、公害等調整委員会はこの中央公害審議会の部会答申をにらみながら、最高裁判例を下回る基準で調停和解案を作成したということがありありと見て取れるのです。

いまこそ在来線沿線の騒音被害を告発しよう

1995年の最高裁判決の判例を後退させるか否かは、今後の騒音被害に限らず、都市再開発問題を考える上でも、重要な問題です。もし、屋内で70デシベルでよいということになってしまえば、沿線住民宅や道路沿道住民宅に防音装置をほどこせば、騒音対策はしなくてもよい、ということになってしまうからです。つまり、沿線沿道の住民は、窓を開けない生活を強いられるという、重大な人権問題です。当然のことながら、都市の大規模再開発に大きく手をかし、都市を非人間化する反文明的な行為ともいえます。
このような新環境基準を絶対に許すことはできません。小田急問題が政府レベルで極めて重要視されていることからすれば、この小田急沿線で被害住民が頑張ることができるか否かは、新基準の動向にも大いに影響を与えることになります。
政府も騒音被害を認めざるをえなくなった今こそ、沿線の騒音被害住民は共に立ち上がろうではありませんか。

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小田急高架と街づくりを見直す会 会長 中本信幸
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