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斉藤驍さん=司法に新判断を迫った小田急線訴訟弁護団長

◇公共事業を住民の手に取り戻す−−斉藤驍(さいとう・ぎょう)さん

 広範囲の沿線住民に行政訴訟を行う資格(原告適格)を認めた7日の最高裁大法廷判決。住民側弁護団長として、今年施行された改正行政事件訴訟法の記念すべき最初の判決を勝ち取った。

 「現代の公害は大型プロジェクトが生み出す。鉄道と道路25本、そして都市再開発という、住民の生活に大きな影響を与える大規模公共事業が、地域住民不在で行われるのはおかしい」−−こう考えて、一連の小田急線高架化訴訟に取り組んで15年。長い裁判を通して見えてきたのは「公共事業に象徴される“官権政治”の構造だ」という。

 地域住民が異議を唱えようにも、裁判で門前払いされるケースが多かった。これまでの行政訴訟では「公益」と「私益」とを切り離し、環境被害は私益であって公益ではないと考えられてきた。しかし「個人的な環境被害に立ち向かうことが、公益を守ることにつながる」と信じる。今回の判決でその条件が整った。

 1審で勝訴、高裁で逆転敗訴した国の事業認可の適否を巡る審理はこれからだ。国土交通相に面会を求めて公共事業の見直しを迫るつもりでいる。「その次の段階で住民参加の公共事業を実現していきたい」

 60年安保世代。東大全学連の活動家だった。そのため就職をあきらめ、弁護士の道を選んだ。属したのは当時、組織の中から体制を食い破ろうという「構造改革派」。かつての闘士が裁判というルートを通して、内側から一つ壁を突き破った。<文・西和久/写真・小座野容斉>

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 ■人物略歴

東京都出身。東大経済学部卒。弁護士として鹿島コンビナート公害、六価クロム事件、NOx(窒素酸化物)環境基準などの住民訴訟を手がけてきた。66歳。

(毎日新聞 2005128日 東京朝刊)*注このページは毎日新聞の記事をワードで再構成したものです。