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2005年12月13日 公明新聞【主張】

行政チェックの機会広がる

最高裁、法改正の趣旨生かす判断


門前払いが多すぎる

 7日に最高裁判所が下した、東京の小田急線高架化事業をめぐる行政訴訟での原告の資格(原告適格)を大幅に広げた判断は、今年(2005年)4月に施行された改正行政事件訴訟法の改正趣旨を的確に反映したものとして評価できる。この判決を契機に、多くの行政訴訟が具体的な中身の審議を行うことで、司法による行政チェックがより充実することを期待したい。

 これまで行政訴訟は、まず裁判の入り口である“訴える側の資格”があるかないか(原告適格)で厳しく限定される傾向があった。そのため、訴えられた行政機関のあり方や業務について実質的な審議に入ることがないまま却下される事例が多かった。いわゆる「門前払い」である。

 原告の訴えが正しいのか不当なのかの判断もしないで、「訴える資格がない」と退けるのでは、行政をきちんとチェックしようという国民の意欲そのものが萎えてしまう。行政訴訟に勝つか負けるかもさることながら、実は国民の意欲自体がしぼんでしまうことの方が、長期的には影響が大きい。「法治」の根幹にかかわるからだ。

 昨年、一審に限っていえば、原告の主張が認められたのは約14%。それに比べ却下(いわゆる「門前払い」)が約15%、敗訴が約46%に上る。戦前の行政裁判所でさえ、国民の勝訴率が23%だったことを考えれば、「訴えるだけムダ」とまで酷評されてきたのも、理由のないことではない。

 あまりにも行政優位の仕組みではないか、という批判に応え、行政事件訴訟法が42年ぶりに大改正されたのは、昨年6月だった。そのポイントの一つが原告適格の拡大だ。具体的には、行政機関が行う許可や禁止といった処分について「法律上の利益」があるかないかを問うものだが、改正では、「規定の文言のみによることなく」関係法令の目的や趣旨も考慮し被害の態様や程度をも勘案すべき、との規定を新たに加えた。

 今回の最高裁判決は、まさにこの趣旨に沿って、許認可の根拠になった都市計画法だけに限らず、事業認可に当たって東京都が適用した環境アセスメント条例を参照。東京都環境影響評価(環境アセスメント)条例に定める「関係地域」の住民全員に「被害を受ける恐れがある」として原告適格を認めた。この判決が新たな判例となることによって、行政事件訴訟法改正の“中核”部分が実質的に動き出したといってよい。

 しかし、今回の判決だけで行政訴訟がやりやすくなるわけではない。昨年の法改正に当たっては衆参両院とも、行政訴訟をさらに機能させるための改革を継続するよう求める付帯決議を行い、付則では施行5年後の再検討を明記している。今後の課題となっているものには、団体訴訟制度や行政立法(政令や省令)の違法性を争う訴訟、陪審制または参審制、さらには敗訴しても原告が行政側の弁護士費用を負担する必要がない片面的敗訴者負担――などの導入の是非などがある。いずれも、訴訟しやすくするための制度だ。

国民の目線で正す

 訴訟の乱用は好ましくないが、提訴件数自体がドイツの250分の1、アメリカの18分の1というのは異様だ。行政も誤りを犯すことがある。これは当然のことだ。ならば、それを、国民の目線で正す手段である行政訴訟が十分に機能する体制をつくらなければならない。



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