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2005年12月 9日 京都新聞【社説】

原告適格判決

行政訴訟の門を広げた


 国や自治体を相手に起こす行政訴訟の「狭き門」がやっと広がった。

 東京都世田谷区の小田急線高架化事業をめぐり沿線住民らが都市計画法に基づく国の事業認可取り消しを求めた行政訴訟で、最高裁は訴えることができる資格(原告適格)を地権者以外の住民にも認める判決を出したのだ。

 原告適格の範囲が広がれば、直接の当事者以外は門前払いにしがちだった裁判所の判断が大きく変わる。今後は被害を受ける住民らが審理の土俵に上がり、実質的な判断を争うことができるようになるはずだ。

 行政訴訟の実効性を高める第一歩として歓迎したい。裁判所はこれを機に行政チェックを強化し、国民の権利を保障することで三権分立の実を挙げてほしい。

 行政訴訟をめぐっては、一連の司法制度改革のなかで住民や司法による行政チェックの不十分さが問題になった。これを受け、原告適格範囲を広げる規定を盛り込んだ改正行政事件訴訟法がことし4月に施行された。約40年ぶりの改正だ。

 最高裁判決は、この改正法を取り込んだものだ。原告適格の判断基準には「行政処分の根拠となる法令規定の文言だけでなく、関係法令の趣旨、目的から被害の性質や程度を酌むべきだ」との規定をあてた。

 そのうえで関係法令に公害対策基本法と東京都の環境影響評価条例を挙げ「騒音、振動で健康や生活環境に著しい被害を直接受ける恐れのある者は原告適格がある」と判断。具体的には都条例で「著しい影響を及ぼす恐れがある」とされた「関係地域」内の住民に資格を認めた。

 この訴訟では一審が一部住民に原告適格を認めたのに対し、二審は門前払いだった。しかし高架化で被害や影響を受けるのは、地権者よりも沿線住民だ。それら住民の保護が改正法の趣旨でもあり、訴える資格を認めたのは至極当然といえる。

 最高裁は上告を受け、原告適格の判断だけを切り離し、大法廷での判決を急いだ。そこには改正法をめぐって下級審で従来通りの狭い解釈が行われるのを防ぐ意図がうかがえよう。行政を監視、チェックする意志の表れとみることもできる。

 もっとも、原告適格を広げただけで行政チェック機能が強まるわけではない。住民らを土俵にあげたにすぎず、最も重要なのは行政と住民のどちらに理があるかの判断だ。

 公共事業などの訴訟では、権限や情報、資金などで行政が圧倒的に有利な立場にある。しかも情報公開や説明責任を十分に果たしていないケースも多い。裁判所にはそうした行政の優位性や習性を踏まえたうえでの公正な判断が求められよう。

 高架化事業認可の適否をめぐっては小法廷で審理が続くが、行政訴訟の改革につながる第2弾となるかどうか。国民と行政の関係を正すためにも、司法の役割は実に重い。

2005年12月9日


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