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2005年12月 9日 熊本日日【社説】

小田急線訴訟

原告の「門戸」を広げた判決


 行政訴訟を起こす資格について、地権者以外の周辺住民にも原告適格を認めるとする最高裁大法廷の注目すべき判決が七日に出た。

 小田急線の高架化事業をめぐり、これに反対する東京都世田谷区の沿線住民が都市計画法に基づく国の事業認可取り消しを求めた訴訟での新判断である。

 これまでは地権者など法律上の利害関係者以外には原告適格を認めず、門前払いされるケースが多かった。それだけに最高裁が事業の影響が及ぶ「関係住民」にも訴えの資格を広げたことは、行政訴訟の大きな転換点となるものだ。門前払いは減り、裁判所による行政チェックへの期待も高まると思われる。

 小田急線の沿線住民は住宅の外壁までせまる高架化事業の約六・四キロ区間について騒音や日照被害を理由に提訴。一九九四年に当時の建設相が下した事業認可と、認可の前提となった東京都の都市計画決定の違法性などを主張したが、二審の東京高裁判決で全員が原告不適格とされたため上告していた。

 大法廷では原告適格についてのみ審理し、「騒音、振動で健康や生活環境に著しい被害を直接受ける恐れのある者は原告適格がある」と認めた。判決は約四十年ぶりに改正された行政事件訴訟法(四月施行)に基づき、行政処分の根拠となる法の規定にとらわれず関係法令の趣旨や目的からも被害の性質に配慮して柔軟な判断をするとの改正条項を引用。公害対策基本法と東京都環境影響評価条例に配慮した上での新たな解釈だ。提訴権の門戸を広げた判決を評価したい。

 今回、判例変更の対象となったのは一九九九年十一月の第一小法廷判決だ。東京の環状6号線道路拡幅事業に反対する周辺住民の訴えに対し、「事業地内の不動産に権利を持つ者しか求められない」と原告適格を厳格に判断した。

 それまで、原子炉設置許可の無効確認を求める行政訴訟で、九二年のもんじゅ訴訟判決が施設から最大五十八キロ離れた住民にまで原告適格を認めるなど、門戸を広げる判例も一部に見られただけに、小田急線訴訟の原告弁護団は「九九年の最高裁判決が多くの行政訴訟で原告側の障害になっている」と批判してきた。

 それだけに最高裁が今回、改正法の施行から時を待たずに判例変更に踏み切った意味は大きい。斎藤驍弁護団長は「地方で進むダムや干拓事業に絡んだ行政訴訟にも影響を与える」と強調した。

 もっとも小田急線訴訟は、弁護団が「本丸」とする事業認可の適法性の審理はこれから始まる。国交省や東京都も「今回は改正行訴法の趣旨を踏まえた判決」と冷静に受け止めている。

 提訴から十一年半。住民側は地下方式への変更を主張してきたが、高架工事は三年前に完了し、〇四年十一月には複々線による電車の運行も始まった。現実には裁判が長引く中で原告住民が問題視する事業が完成し、訴えの利益そのものが消えてしまう可能性も大きい。

 原告の門戸拡大は司法改革の一つだが門前払いを狙う戦術が通りにくくなるだけでも前進だ。司法も行政の事業を公正にチェックするという本来の機能が問われる。行訴法を住民に「使えない法律」で終わらせてはならない。


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