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2005年12月 8日 産経新聞 2面 【主張】

■【主張】小田急高架訴訟 重たい「原告適格」の判断


 国などを相手に住民が行政訴訟をする場合、周辺住民らの訴訟を起こす資格(原告適格)の範囲はどこまで認められるのか。今後の行政訴訟に大きな影響を及ぼす注目すべき判断が、最高裁大法廷判決で示された。

 東京都世田谷区の小田急線高架化事業をめぐり、周辺住民四十人が、都市計画法に基づく国の事業認可取り消しを求めた訴訟で、最高裁大法廷は原告適格の範囲を、これまでより広げるという初判断を示した。今年四月に施行された改正行政事件訴訟法で、原告適格の範囲を拡大する趣旨の規定などが新設された。最高裁判決もこの法改正を受けて、住民の権利救済に重きを置いた判決を下したといえよう。

 最高裁は小田急訴訟の原告適格について、都の環境影響評価条例に基づき、「環境アセスメント区域内に住む者は、騒音や振動で健康や生活環境に著しい被害を受けるおそれがあり、原告適格を有する」と認定した。

 この訴訟は、小田急線喜多見−梅ケ丘駅間(約六・四キロ)の沿線の住民が、複々線化に伴う高架化事業で騒音被害を受けているとして地下化を主張し、東京地裁に提訴したのがきっかけだった。

 一審と二審の下級審の判断は、真っ向から対立した。一審判決は、一部の関連事業用地の地権者九人の原告適格を認めて、高架化事業そのものを違法とする、行政側にとっては厳しい判決を下した。ところが、二審・東京高裁は原告適格の範囲を、高架化そのものの事業用地の地権者と厳格に規定し、訴えていた全員の原告適格を否定、住民の訴えを退けた。

 今回の判決は原告適格の範囲に限定した「論点回付」で、住民そのものの請求は、今後、最高裁第一小法廷で審理される。

 原告適格の範囲が拡大されたことで、住民への説明が不十分なまま工事を強行すれば、行政訴訟の続発のおそれがある。

 さらに場合によると、住民エゴがまかり通る結果にもなりかねない。行政の停滞などを招くことによって住民が不利益を被っては本末転倒だ。鉄道や道路建設などでは、付近住民への説明責任がより重要となるが、社会全体の公益も考えなくてはなるまい。


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