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2005年12月 8日 朝日新聞 1面トップ記事

小田急高架訴訟

沿線住民も訴えの資格

最高裁判決 地権者限定外す


 東京・小田急線高架化についての国の事業認可をめぐり、違法性の有無の判断に先立って、裁判で違法性を問える資格(原告適格)を審理していた最高裁大法廷(裁判長・町田顕長官)は7日、上告した沿線住民40人のうち、都の環境影響評価(アセスメント)の対象地域内に住む37人に原告適格を認める判決を言い渡した。「事業地内の地権者」に限ってきた過去の最高裁判例を変更。40人全員の原告適格を否定した二審判決を全面的に見直した。=38面に関連記事

 事業認可が違法かどうかの本論については今後、第一小法廷で審理される。

 都市計画法に基づく道路や鉄道などの設置認可に対し、違法性を問える住民の範囲が広がった。原告適格を考える場合には様々な要素を柔軟に解釈して広く認めていく姿勢を示したもので、今後の行政訴訟に与える影響は大きい。

 大法廷は、今回のようなケースでは、都市計画法のほかに、公害対策基本法や都のアセス条例の趣旨や目的も含めて考慮に入れるべきだとの初判断を示した。そのうえで「騒音や振動などによる健康または生活環境に著しい被害を直接的に受けるおそれがある人は、原告適格がある」との結論を導いた。

 具体的な原告適格の範囲については、アセスの対象地域に住んでいるかどうかで線を引くという新しい手法をとった。対象地域外に住む3人については原告適格を認めず上告を棄却した。

 原告適格を判断する際には、許認可などの根拠になった法律の文言だけではなく、関連法令の趣旨や目的など様々な要素を考慮せよ――という新しい規定が盛り込まれた改正行政事件訴訟法が4月に施行された後、初の最高裁判決だった。大法廷は原告適格の範囲を「法律上の利益がある人に限る」という基本的な考えを維持しつつ、改正法にそって様々な要素を柔軟に解釈し、原告適格を広く認める立場を示した。

 また、町田裁判官と藤田宙靖裁判官は補足意見で「法律上の利益」よりも広い、「(事業によって生じる)リスクから保護される利益」という概念を新たに提唱。この利益が侵害される場合には原告適格を認めるべきで、「特定の法律だけを根拠に判断する必然性はない」と述べ、より柔軟に原告適格を認める考えを明らかにした。

 問題になっているのは、小田急小田原線喜多見付近―梅ケ丘付近の間の連続立体交差事業。


行政チェックの機会拡大

《解説》門前払いされ、なかなか本論までたどり着けない――。日本の行政訴訟で目立つこんな傾向に、歯止めをかける判決となった。都市計画をめぐっては、騒音などで影響を受ける周辺住民にも訴訟でチェックする資格があると正面から認めた。

 これまで日本の裁判所は、立法や行政のチェックに消極的な面があった。だが社会が全体として事前規制型から事後チェック型に移行するにつれて、司法の役割は格段に高まっている。「逃げの姿勢では、国民の期待には応えられない」という状況になりつつある。

 43年ぶりに行政事件訴訟法が全面改正、施行されたのも、こうした背景からだ。司法を国民の期待に応えるものにするため、裁判所が原告適格を広く認めることを可能にするような「解釈規定」が盛り込まれた。

 訴えることのできる人の範囲を広げるということは、行政に対するチェックの機会を増やすということだ。「チェック機能を高めよ」とのメッセージを大法廷が受け止め、初めて具体的なケースに生かした。

 都市計画をめぐり住民側が訴訟を起こすケースは全国で相次ぎ、生活環境への関心の高まりなどからみて、こうした訴えはさらに増えると予想される。同種訴訟の当事者からも、門前払いせず中身で判断する立場を打ち出した判決の意儀を強調する声が上がっている。

 それは同時に、行政にとっては、許認可などの際、さまざまな周辺住民の利益に配慮しなければならないことが明らかになったと言える。

 原告適格という入り日で示した「逃げない司法」の姿勢を本論でどう貫くのか、注目される。(佐々木学)


《キーワード》原告適格

裁判で訴えを起こせる資格。国や地方自治体の権限行使を不服として行政訴訟を起こす資格について、行政事件訴訟法は「処分または裁決の取り消しを求める法律上の利益がある者」としている。4月に施行された改正法はこの「法律上の利益」について解釈規定を新設。「処分や裁決の根拠となる法令に加え、関連する法令の趣旨や目的、利益の内容や性質を考慮する」「実際に受ける害の内容や性質、様態、程度も勘案する」と定めた。判断がさまざまだった過去の最高裁判決のうち、「法律上の利益」を広く判断した例にそろえる趣旨とされる。



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