ホームページへ▲

2005年12月 8日 読売新聞 37面 判決要旨

小田急高架化訴訟の最高再判決要旨


 最高裁大法廷が7日、言い渡した小田急高架化訴訟の判決要旨は次の通り(裁判官15人のうち1人は審理に加わらず)。

 【多数意見要旨】

 1、改正行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取り消しを求めるうえで「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、または必然的に侵害される恐れのある者をいう。

 そして、処分の相手方以外の者について法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべきである。当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害される利益の内容及び性質、態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項)。

 2、公害対策基本法及び東京都環境影響評価条例の規定の趣旨及び目的をも参酌すれば、都市計画事業の認可に関する都市計画法の規定は、事業に伴う騒音、振動等によって事業地の周辺地域に居住する住民に健康または生活環境の被害が発生することを防止することも、その趣旨及び目的としていると解される。

 都市計画法は、騒音、振動等によって健康または生活環境にかかる著しい被害を直接的に受ける恐れのある個々の住民に対して、そのような被害を受けないことを、個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解するのが相当である。都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業により、健康または生活環境にかかる著しい被害を直接的に受ける恐れのある者は、当該事業の認可の取り消しを求める法律上の利益を宿する者として、取消訴訟における原告適格を持つといわなければならない。最高裁平成11年11月25日判決(環状6号線事業認可取消訴訟)は、以上と抵触する限度で、これを変更すべきである。

 3、上告人らのうち本件鉄道事業につき東京都環境影響評価条例に基づいて定められた「関係地域」内に居住している者(37人)は、同地域が対象事業を実施しようとする地域及び周辺地域でその実施が環境に著しい影響を及ぼす恐れがある地域として定められるものであることを考慮すれば、同事業が実施されることにより騒音、振動等による健康または生活環境にかかる被害を直接的に受ける恐れのある者に当たると認められるから、同事業の認可の取り消しを求める原告適格を持つと解するのが相当である。

 4、本件付属側道事業は、本件鉄道事業と密接な関連を有するが、これとは別個の独立した都市計画事業であることは明らかであるから、上告人らの本件側道事業の認可の取り消しを求める原告適格の有無は、個々の事業の認可ごとに検討すべきである。そして側道事業については、上告人らが健康または生活環境にかかる著しい被害を直接的に受ける恐れがあるとはいえないから、上告人らは側道事業の事業地内の不動産につき権利を有する者(4人)以外、側 道事業の認可 の取り消しを求める原告適格を持たない。


 【多数意見の4に対する横尾和子、滝井繁男、泉徳治、島田仁郎各裁判官の反対意見】

 本件付属側道事業は、本件鉄道事業に伴い沿線の住居に日照被害が生じることに対応し、環境空間を設けることを主たる目的とするもので、本件鉄道事業を環境保全の面で支える性質を有し、鉄道事業認可と側道事業認可とは、実体的には一体の行政処分である。

 都市計画法は、都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民に対し健康または生活環境にかかる著しい被害を与えないことを都市計画事業認可の適法要件の一つとしているところ、建設大臣(当時)は、本件鉄道事業を環境保全の面で支える本件付属側道事業の認可を本件鉄道事業認可に結合させ、双方の認可処分を通じて適法要件に適合することを図っていることが明らかである。側道事業は、事業費の面でも連続立体交差事業の約20%を占めており、鉄道事業により健康または生活環境に著しい被害を受ける恐れのある上告人(計37人)らは、側道事業認可の取り消しを求める利益も有するというべきである。


  ホームページへ▲