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2005年12月 8日 毎日新聞 7面

小田急線高架化訴訟:上告審 判決要旨


 1 取り消し訴訟の原告適格を規定した行政訴訟法9条1項の「法律上の利益を有する者」とは、当該処分で自己の権利もしくは法律上保護された権利を侵害され、または必然的に侵害される恐れのある者をいう。そして、処分の相手方以外の者について法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、処分の根拠法令の規定の文言だけでなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべきである。

 この当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、目的を共通とする関係法令の趣旨及び目的も参酌すべきであり、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、根拠法令に違反して処分された場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びに、害される様態及び程度をも勘案すべきものである。

 2 公害対策基本法及び東京都環境影響評価条例(98年改正前)の規定の趣旨及び目的をも参酌すれば、都市計画事業の認可に関する都市計画法の規定は、事業に伴う騒音、振動等により事業地周辺地域の住民に健康や生活環境の被害が発生することを防止することなども、その趣旨及び目的とすると解される。

 そして同法は、騒音、振動等によって健康や生活環境にかかわる著しい被害を直接的に受ける恐れのある個々の住民に対し、そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。従って、事業地の周辺住民のうち、当該事業の実施で著しい被害を直接的に受ける恐れのある者は、法律上の利益を有する者として、原告適格を有すると言わなければならない。最高裁99年判例は、以上と抵触する限度において、これを変更すべきである。

 3 上告人らのうち、本件鉄道事業につき都環境影響評価条例に基づいて定められた「関係地域」内の居住者は、同事業の実施により騒音、振動等による健康や生活環境にかかわる著しい被害を直接的に受ける者に当たると認められるから、原告適格を有すると解するのが相当である。これに対し「関係地域」外に居住する上告人らは、原告適格を有すると解することはできない。

 4 本件各付属街路事業は鉄道事業と密接に関連するが、別個の独立した都市計画事業であることが明らかで、各付属街路事業の認可取り消しを求める原告適格の有無は、個々の事業ごとに検討すべきである。そして、各付属街路事業については、事業の実施により上告人らが健康や生活環境にかかわる著しい被害を直接的に受ける恐れがあるとは言えないから、上告人らは、事業地内の不動産につき権利を有する者以外は、原告適格を有しない。

 ◇藤田宙靖裁判官の補足意見

 上告人らの「法的利益」がどのようなものかについては、処分の根拠規定が第三者をも保護しようとする意図を含む場合に「法律上の利益」が認められるという判例のみをもって、理論的に十分な説明がなされているとは言い難い。行政庁の違法な事業認可により、当該施設の利用に起因する一定の損害を受けるリスクから第三者を保護する法的な義務、すなわち「リスクからの保護義務」に違反し、法律上周辺住民に与えられている「リスクから保護される利益」が侵害されると認められ、周辺住民に原告適格が認められる。

毎日新聞 2005年12月8日 東京朝刊


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