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2005年12月 8日 産経新聞 3面

小田急訴訟 周辺住民に提訴資格

最高裁初判断「騒音など被害」


 東京都世田谷区の小田急線高架化工事をめぐり、周辺住民四十人が国の事業認可取り消しを求めた訴訟で、最高裁大法廷(裁判長・町田顕長官)は七日、地権者以外にも健康や生活環境に著しい損害を受ける周辺住民は訴えを起こす資格(原告適格)があるとする初の判断を示した。事業用地内の地権者以外に原告適格を認めなかった従来の姿勢を転換する判断。今後の行政訴訟のありように影響を与えることになる。
 大法廷は、東京都の環境影響評価条例に基づく環境アセスメント区域内(線路から最大で約八百メートル内の帯状地区)に居住する住民三十七人の原告適格を認め、区域外の三人に関しては上告を棄却した。

 町田裁判長は、四月施行の改正行政事件訴訟法を踏まえ、事業認可には都環境影響評価条例などで定められた手続きを取ることが前提になっていると指摘。「認可の根拠となった都市計画法には、騒音などの被害を受けないという利益を保護する趣旨が含まれている」と判断した。

 その上で、「事業地の周辺に居住する住民のうち、事業によって健康被害などを直接的に受ける恐れのある人は、認可取り消しを求める法律上の利益がある」として原告適格を認めた。審理に参加した十四裁判官全員の意見が一致した。

 判決が言い渡されたのは、大法廷に「論点回付」された原告適格に関する部分だけで、事業認可の是非は最高裁第一小法廷(泉徳治裁判長)で後日改めて判断される。

 原告らには高架化事業地の地権者は含まれておらず、二審・東京高裁は、全員の原告適格を認めず訴えを退けた。一審・東京地裁は、高架化事業に関連する側道事業の地権者四人だけに原告適格を認め、事業認可取り消しを言い渡した。

 原告らは、小田急線の梅ケ丘駅−喜多見駅付近(六・四キロ、いずれも世田谷区内)の高架複々線化事業の騒音などを理由に平成六年に提訴。事業は終了しており、踏切が無くなったことで渋滞解消が実現した。総事業費は約千七百億円。

     ◇

【用語解説】原告適格

 訴訟を起こし、判決を受けることのできる資格。行政事件訴訟法は、行政処分などの取り消し訴訟について「法律上の利益がある者に限る」としている。裁判所は範囲を狭く解釈し、多くの訴訟で原告を門前払いしてきたが、生活環境など事実上の利益侵害がある場合、第三者にも原告適格を認めるべきだとする学説が有力だった。4月施行の改正行訴法では、処分の根拠となる法の規定にとらわれない柔軟な判断をするとの項目が新設された。


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