ホームページへ▲

2005年12月 8日 日経新聞 42面 社会面

最高裁

沿線住民に原告適格


 東京都世田谷区の小田急線高架化事業に反対する沿線住民四十人が、都の都市計画事業を国が認可したのは違法として処分取り消しを求めた訴訟の上告審で、提訴の資格の論点を巡る判決が七日、最高裁大法廷であった。町田顕裁判長(最高裁長官)は「騒音や振動で、健康や生活環境に著しい被害を直接受けるおそれがある者は原告適格がある」として門戸を広げる新判断を示した。

小田急高架化訴訟で新判断
地権者以外に門戸

 大法廷は、公害対策基本法や都条例に基づく環境アセスメントの対象地域内に住む三十七人の原告適格を認定。これらの原告については第一小法廷(泉徳治裁判長)がさらに審理し、都市計画決定や認可処分の是非の最終的な判決を下す。環境アセス地域外に住む三人の上告は棄却され、敗訴が確定した。

 1999年の最高裁判例は、原告適格を「事業地の地権者」に限定。今回の原告に高架化事業地の地権者はおらず、二審は住民全員の原告適格を認めなかった。

 判決理由で大法廷は「都市計画法には、健康や生活環境の被害を受けないという住民の個別的利益を保護する趣旨も含まれる」と指摘。地権者でなくても原告適格はあるとし、判例を変更した。

 関与した十四裁判官の全員一致の意見。高架化に付属する街路事業については、多数意見は「地権者四人以外は原告適格はない」としたが、四裁判官は「三十七人に原告適格がある」との反対意見を述べた。

 問題となったのは小田急線喜多見―梅ヶ丘駅間六・四`の高架・複々線化事業。住民らは九四年、「騒音が少ない地下式にしなかったのは違法」などとして提訴。一審・東京地裁は二〇〇一年、街路事業の地権者の原告適格を認め事業認可を取り消したが、二審・東京高裁は〇三年、全員の原告適格を否定し、認可も適法として請求を退けた。

 この区間の複々線化工事は昨年十一月に完成。訴訟の対象区間よりも都心側の区間では、一転して地下方式による複々線化工事が始まっている。

 原告側弁護団の話
 最高裁判例を変更し、事業地の周辺住民に原告適格を認めたことは高く評価できる。今後の環境訴訟や他の行政訴訟にも大きな転換を迫る判決だ。

 門松武・関東地方整備局長の話
 改正行政事件訴訟法の趣旨を踏まえた判決と認識している。引き続き審理が行われるので、事業認可の適法性を主張していきたい。


今後の行政訴訟に影響大

 小田急線高架化訴訟の七日の最高裁大法廷判決は、国や白治体を相手に行政訴訟を起こせる原告の範囲を従来よりも広げた。公共事業などの是非を巡る訴訟で原告適格が認められるケースが増えると予想され、影響は大きい。ただ、行政処分を違法と認める基準が変更されたわけではなく、司法のチェックが機能するか不確かな面も残る。  行政訴訟は、行政処分や裁決で権利を侵害された場合に、国や地方自治体などに処分取り消しなどを求める訴訟。従来の行政事件訴訟法は、原告適格を「法律上の利益を有する者」に限っており、処分の直接の対象でない住民らが提訴しても「訴えの利益がない」と門前払いされた。

 このため一連の司法制度改革のなかで「限定的すぎる」との声があがり、今年四月施行の改正法で、法律上の利益の有無を判断する際には、法令の明文規定だけでなく、法の趣旨や目的、侵害される利益なども考慮するとの規定が加わった。

 この日の大法廷判決はこの経緯を踏まえ、「処分の根拠法令と目的を共通にする関係法令の趣旨や目的も勘案すべきだ」と指摘。「健康や生活環境に著しい被害が発生するおそれのある地域への施策」を定めた公害対策基本法を挙げ、「都市計画決定・変更の際は同法の趣旨や目的を踏まえるべきだ」と判示し、原告適格を見直した。

 改正法の付則は、原告適格の拡大は施行前にさかのぼって運用すると定めている。大法廷判決を踏まえれば、開発行為の許認可などを巡る住民の提訴が認められるケースは増えそうだ。


  ホームページへ▲