ホームページへ▲

2005年12月 8日 毎日新聞 29面

小田急線高架化訴訟:周辺住民・原告適格認定
開いた「原告」の扉  勝訴へ、決意新た


 ◇「勝訴へ」、決意新たに

 司法がようやく扉を開いた。小田急高架化訴訟で、地権者ではない周辺住民の原告適格を認めた7日の最高裁大法廷判決。「門前払いはひど過ぎる」と訴えてきた原告住民らは「最後の勝訴を目指し、もう一つステップを踏んでいきたい」と、続行される審理への決意を新たにした。

 上告した原告は40人。高架から10メートル以内に住む人も少なくない。線路が複々線化されたため「電車の速度が上がって騒音がひどくなった」と訴える人もいる。

 「せめて原告適格を認めて、訴えを聞いてほしい」。線路までの距離が最も近い原告の山田キヌ子さん(75)は、そんな思いでこの日を迎えた。高架用地にまたがる形で自宅兼賃貸用マンションを所有していたが「収用する」と迫られ、1審の審理中にやむなく用地内の部分を取り壊し、その土地も手放した。転居先は線路南側の高架沿い。ドアを開けると目の前に高架がある。しかし、1、2審の結論は「原告適格なし」だった。

 「行政を監視する裁判所になってきたと喜んでいます」。傍聴席で、身を乗り出すように判決に聴き入った山田さんは、笑顔を見せた。【木戸哲、武本光政】

 ◇弁護団の話

 行政訴訟の歴史の中でかつてない快挙。単に原告適格の拡大という量的なものにとどまらず、すべての訴訟の質の転換を意味する。

 ◇門松武・国土交通省関東地方整備局長の話
 原告適格の拡大は、改正行訴法の趣旨を踏まえた判決と認識している。小法廷の審理で事業認可の適法性を主張したい。

==============
 ■解説
 ◇法令柔軟に解釈

 小田急高架化訴訟の原告適格を巡る最高裁大法廷判決は、関連する法令の趣旨や市民の生活環境を重視し、地権者だけでなく、鉄道沿線の住民に幅広い原告適格を認めた。「法律をしゃくし定規に解釈して訴えを門前払いすべきではない」という下級審へのメッセージといえる。

 行政処分の取り消しなどを求める裁判の原告適格は「処分の根拠となった法令の趣旨や目的で判断する」とされてきた。だが、個々の法令には、原告適格の有無が明記されていないため「裁判所の解釈次第で安易に原告適格が否定される」との批判があった。

 判断基準が明確とはいえない中で、過去には原子力発電所や空港の周辺住民に幅広い原告適格を認めた判例もあった。想定される被害の大きさを重視し、関連する法令の趣旨をくみ取り、根拠となる法令を柔軟に解釈した結果だ。

 改正行政事件訴訟法の規定は、こうした判例を明文化したものだ。「判例の寄せ集め」との批判もあったが、立法化により、関連法令を考慮しなかった99年の判例が見直される結果につながったといえる。

 一方で、大法廷は根拠法令の解釈を通じて原告適格を判断するという立場を改めて示し「被害の有無を判断材料にすべきだ」との学説とは一定の距離を置いた。とはいえ、原発や空港のような特殊施設ではなく、鉄道という身近な事業で幅広い原告適格を認めた意義は大きい。公共的な事業を進める国や自治体、企業には、環境への一層の配慮が求められる。【木戸哲】

毎日新聞 2005年12月8日 東京朝刊


  ホームページへ▲