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2005年12月 8日 朝日新聞 38面 第2社会面

高架化訴訟・原告適格拡大

「住民参加」声届いた
街づくり、あり方に一石


 「小田急高架と街づくりを見直す会」の会長、中本信幸さん(73)は7日、原告団の先頭にたって最高裁に入った。高架化問題と向き合って半世紀。判決後、「民の声が勝利を導いた。住民による街づくりを全国に広げたい」と語った。
1面参照

 小田急線とのかかわりは大学生の時、50年代にさかのぼる。続発する踏切事故を防ごうと、無人踏切の解消を求める運動に加わった。皮肉にも、その「成果」として、高架化計画が浮上した。

 線路から500bほど離れた世田谷区経堂に、子どものころから暮らす。「静かな住宅街を走る鉄道を、なぜ高架にするのか」。そんな思いで、60年代から「地下化」を求める活動に加わった。高架化問題には、「単なる反対ではだめ。しっかりした代替案を示そう」との考えで臨んだ。

 大学教授らに「市民専門家会議」を組織してもらい、00年には鉄道を地下化して地上を緑地にする「縁のコリドー(回廊)構想」を打ち出した。費用面でも高架式と変わらないことを証明。国や都に提案した。

 一審はこの代替案を重視。「高架式と地下式のどちらが優れているのか十分に検討されていない」として、事業認可は違法との結論を導いた。
 だが二審では門前払いされた。「住民の都市計画への参加を否定するのか」と一時は脱力感に襲われもした。

 それから一転、訴訟への門戸を広く開放したこの日の大法廷判決を傍聴席の最前列で聴き、「司法が『都市計画は住民のためのものだ』とのメッセージを発した」と顔を紅潮させた。(佐々木学)


全国への波及、原告期待

 小田急高架化をめぐる最高裁大法廷判決の後、斎藤驍弁護団長は「我々の勝利だ。行政に根本的な反省を突きつけた」と集まった住民ら100人余りの前で語った。「これまでの裁判は(住民が)公共事業をただしていくのを妨げてきた。政府は判決を受け入れ、行動をただす義務がある」と言った。

 事業認可の取り消しを求めて訴訟になるケースは全国で相次いでいる。大阪市では阪神西大阪線延伸事業をめぐり、「周辺の生活環境を悪化させる」などとして、沿線住民ら約100人が国土交通常を相手に施工の認可取り消しを求めて争っている。この訴訟で原告団長を務める山口昌言さん(81)は、今回の大法廷判決について「行政訴訟で住民が勝つことはほとんどなかった。我々にとっても追い風になる」と語った。

 小田急訴訟の斎藤弁護団長もこうした訴訟への波及を期待。「今回、裁判所が、行政をコントロールするという国民的な立場を打ち出した」と述べ、「大型事業で環境破壊が進んでいる。判決は現在進行形の訴訟だけでなく、新しく生まれる訴訟への影響も大きい」とした。  (杉山正)


改正法の趣旨を受け止めた判決


 中川丈久・神戸大学法学研究科教授(行政法)の話
 先例を変更した大法廷判決だが、従来の考え方でも、ここまでは原告適格を拡大して当然という、きわめて穏当な判決だ。

 これまで最高裁は原告となれる範囲について、許認可の相手方など、行政処分の法的効果が直接及ぶ人をベースに考えてきた。そのうえで、都市計画事業以外の訴訟では、生命身体を侵害するおそれがある場合など、処分が侵害してはならない法的利益をもつ第三者 に認めたこともある。

 今回、最高裁は都市計画についても、後者にあたる住民に原告適格を認めたわけで、判定手法としては従来通りだ。むしろ、具体的な範囲を決めるのに環境影響評価を用いたことに、オリジナリティーがある。
 改正行訴法の解釈規定のひとつのメッセージは、従来最高裁が開発した原告適格の判定方法を十全に利用せよ、ということだ。その意味では、改正法の趣旨をよく受け止めた判決である。

 改正法には、原告適格という入り口をさらにもう一歩、広げる努力もせよ、というメッセージもこめられている。それは今後の課題として残されたということになる。


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