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2005年10月27日 朝日新聞

原告適格拡大へ

小田急高架訴訟 最高裁で口頭弁論


 国が小田急線の高架化工事を都市計画法に基づいて事業認可したことを巡り、東京都世田谷区の沿線住民ら40人が認可の取り消しを求めた行政訴訟の上告審で、住民、国側双方の意見を聴く口頭弁論が26日、最高裁大法廷(裁判長・町田顕長官)で開かれた。審理の経過や訴えを起こせる資格(原告適格)に関する法改正の経緯などから、原告適格を否定した二審判決や、その根拠となった最高裁判例が見直され、原告適格を広げる判断が示される公算が大きくなっている。(佐々木学)

行政事件訴訟法 改正趣旨踏まえ

 大法廷が原告適格を広く認めれば、同じような公共工事の都市計画決定を巡って、事業地の地権者だけでなく、事業地周辺の人たちも騒音や健康被害などを理由に訴訟を起こせる道を開くことになり、影響は大きい。現在の最高裁判例では事業地内の不動産に権利を持つ人しか訴えられないことになっている。大法廷は、どのような住民に原告適格があるかという線引きの仕方に限って審理している。
住民側代理人の弁護士7人は大法廷で、騒音や眺望の被害は事業地の周辺にも及ぶ▽原告適格を広げる趣旨で行政事件訴訟法が改正されたので、過去の判例も変更されなければならない▽司法は積極的に行政の誤りを正すべきだ――などと述べ、40人全員に原告適格を認めるよう求めた。
一方、国側は「法改正を考えても、都市計画法が事業地以外の住民の個別の利益を保護しているとは解釈できず、原告適格は認められない。判例を変える必要はない」との書面を提出。大法廷では「付け加えることはない」とだけ述べた。
 今年4月に施行された改正行政事件訴訟法は、原告適格があるかどうかを線引きする際の指針として解釈規定を新設。処分が違法だった場合にどんな被害があるかなどを考えるよう裁判所に求める形となった。改正法は改正前のケースについても適用される。
 大法廷判決は、改正法をどう適用するかについてのリーディングケースとなり、極めて注目される。


<写真、略>
弁護団とともに最高裁に入る原告の住民ら=26日午後、東京都千代田区で、時津剛撮影

<図表、略 キャプション;小田急訴訟の原告の分布と原告適格の概念図>

<事業区間の概略地図、略>

原告側「自分が住んでいたら」考えて

 「ちゃんと聞いて欲しい」。最高裁大法廷の傍聴席の最前列に座った女性(75)は弁論のさなか、そんな思いで14人の裁判官を見つめていた。
 半世紀前に結婚して夫の実家の小田急線・梅ケ丘駅近くに越した。二十数年前に夫が他界した後は、70坪の土地に5階の賃貸マンションを建て、生計を立ててきた。
 94年、小田急の高架化と複々線化の事業が認可され、マンションの一部が事業用地となることが決まった。「立ち退いてほしい」。国や小田急、区の関係者が連日のように訪れるようになった。
天の両親が昭和初期から守ってきた土地。「簡単に手放せない」と断り続けた。周りの地権者は好条件を示されたのか,次々と立ち退いた。やがて沿線には、自分の家だけがポツンと残った。
 「だんだん」自分が悪いことをしているような気になった」
 00年秋、家を明け渡す決心をした。臣宅とマンションが一体となったL字形の建物のうち、線路側の部分の6声分(約40坪)を取り壊し、明け渡した。いまは残り3・0坪の土地に、切り取られた細長いマンシづン(8戸分)が残る。自身は、300bほど西に離れた線路沿いの「代替地」に越して、愛犬2匹と暮らしている。
事業用地にかかった土地を手放したことで、一、二審判決の理屈では「原告適格なし」となってしまった。
 大法廷で弁論した弁護士の一人は、裁判官に沿線の写真を示し、「原告の多くは線路の真横に住んでいます。『ここに自分が住んでいたら』と考えて欲しい」と訴えた。
 「何かが伝わった気がする。」女性は、そう感じた。

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小田急高架化訴訟  小田急線喜多見−梅ケ丘駅付近の約6・4`を複々線にして高架化する事業を、国が94年に認可。沿線住民が騒音などを理由に取り消し訴訟を起こした。一審・東京地裁は騒音対策で整備する側道事業の地権者に、高架化・側道事業全体についての原告適格を認めた。そのうえで、「騒音や地下化への検討が不十分」などとして、認可を違法とした。二審・東京高裁は、高架化事業については、側道事業の地権者は原告適格がないと判断。認可自体も適法と判断し、住民側が逆転敗訴した。一、二番とも、地権者以外の周辺住民には一切原告適格を認めなかった。


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