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ステートメント

小田急線連続立体交差事業の施行期間再延長認可差止訴訟提起の趣旨

2005年3月4日
小田急高架都市計画事業認可取消訴訟請求等弁護団
(略称:小田急市民弁護団)
弁護団長 弁護士 斎藤 驍 ほか代理人弁護士236名


1、小田急小田原線の梅ヶ丘駅付近と喜多見駅付近との間約6.4キロメートルの区間について、一部を除き高架式で複々線化する事業、いわゆる線増連続立体交差化事業が、平成6年5月に当時の建設大臣から都市計画事業として認可され、今日まで約11年間にわたって施行されている。この事業は、当初はその施行期間を平成12年3月31日までの約6年間として認可されていたが、平成12年3月、その期間内の事業完了が不可能であるということで、施行期間を平成17年3月31日まで延長する事業計画の変更が認可された。

 これに対し、周辺住民123名が、当初の事業認可が違法であることを主張してその取消を求める行政訴訟を東京地方裁判所に提起していたところ(東京地裁平成6年(行ウ)第208号、同第288号事件)、同事件につき、東京地裁民事第3部(藤山雅行裁判長)は、平成13年(2001年)l0月3日、付属街路事業の事業地内の土地又は建物に権利を有する原告9名につき原告適格を認めた上で、本件事業認可のすべてを取り消す旨の判決を言い渡した。

 同判決は、本件鉄道事業認可自体について、事業地の表示が事業を行う土地の範囲を正確に表示せず都市計画とも一致していないにもかかわらず、これを看過したこと、及び事業施行期間についての判断にも不合理な点があることの2点において、都市計画法第61条に適合しないと指摘した。

 同事件の被告関東地方整備局長及び参加人東京都は、いずれも同判決に対し控訴を提起し、東京高等裁判所において審理(平成13年(行コ)第234号事件)されてきたが、平成15年12月18日、同裁判所は原判決を取り消し、一審で勝訴した原告らの言青求を棄却する旨の判決を下した。一審原告らは、最高裁判所に上告受理申立を行い、同事件は現在最高裁判所第1小法廷に係属し(平成16年(行ヒ)第114号)、審理されている。


2 ところが、小田急電鉄は、昨年l0月、本件区間につき、「2004年11月21日に複々線化が完成」し、「同日初電より上下2線ずつ4線を使用した複々線による電車の運転を開始」し、さらに「2004年12月11日にダイヤ改正を実施し、複々線化された施設を最大限に活用する」と発表した。

 しかし、本件線増連続立体交差化事業は、建運協定とそれを補充する前記昭和51年通達及び調査要綱によって高架鉄道と「一体として」設計・施工されるベきとされているΓ関連側道」が未完成であって、平成17年3月31日までに事業を完了させることは不可能な状況にある。小田急電鉄はそのことを十分承知の上で、というよりも、それ故にこそ高架複々線の走行を強行し、あたかも「事業」が完成したかのように見せかけようとしたのである。

 そこで、本件事業の事業地及びその近傍に存在する不動産につき権利を有する者ら16名は、平成16年11月4日付で東京地方裁判所に、関東運輸局長を被告として、上記鉄道施設工事完成検査合格処分等、本件鉄道を高架複々線走行させるためのすべての行政処分の差止め及び取消を求める行政訴訟を提起し、東京地方裁判所民事第2部で審理中である。


3 そうした中で、本年2月4日、本件事業施行者である東京都が、高架複々線の完成によつて本件事業が完了したかのような小田急電鉄等による大宣伝が真っ赤な嘘であつたことを自認するがごとく、本件事業施行期間を平成20年3月31日まで再延長する旨の事業計画変更認可を申請し、被告はこれを受けて、不法にも、近日中に当該事業計画の変更を認可しようとしていることが露見したのである。

 しかしながら、本件事業につき上記のように事業施行期間を再延仲することは、当初の事業認可自体が、もともと事業施行期間の設定に合理性が無く、「事業施行期間が適切であること」を認可の要件と規定している法61条1号に違反していたこと、及び本件事業計画変更認可自体も、同条に定めるΓ事業の内容が都市計画に適合し、かつ事業施行期間が適切であること」という要件を欠こと、また、過去5年間における本件事業の進捗状況に照らせば、今後さらに3年間施行期間を延長しても、その期間内に本件事業が完了するという保証も全く無いことなどから、違法なものであり、被告がこれを認可することは到底許されない。


4 そもそも、本件事業認可について当初設定された6年という事業施行期間がそれ自体不当に短か過ぎるものであったが、それは、決して結果的に短か過ぎたのでもなければ、予想の範囲を超えた事態であったのでもない。

 それは、本件事業区間に隣接する狛江地区(小田急線喜多見駅〜和泉多摩川駅間約2. 4キロメートル)における本件鉄道の本件同様の高架式による連続立体交差化事業の施行期間が7年間であったにもかかわらず、その2. 7倍もの延長距離を有する本件事業区間の連続立体交差化事業の施行期間を、逆に短い6年間と設定したことに顕著に現れている。本件事業の施行者である東京都及び訴外小田急は、最初から当初の施行期間内に本件事業が完了する見込みを全く持っておらず、実際に当該期間内に本件事業を完了することなど、客観的にも不可能だったのである。

 それにもかかわらず、東京都と訴外小田急が、事業認可申請において事業施行期間をこのような非現実的な短い期間としたは、ひとえに、高架化のため工事期間が、6年程度におさまるとの幻想を地元住民にふりまき、高架式による事業の施行に対する地元住民の支持を集め、高架反対・地下化要求運動を沈静化させ、あくまでも高架複々線による本件事業を強行することにその目的があったのは明らかである。今回の施行期間再延長申請によって、本件が通算14年もかかる事業であったことが明瞭になつた。もしも最初から14年間かかる事業であると説明されていたならば、地元住民らの当該事業に対する抵抗はもっと強固なものとなっていたはずである。

 本件事業(事業区間約6. 4キロメートル)の施行期間が6年となるという説明は、明らかに意図的に住民を欺くものだったのである。かかる虚偽の事業施行期間の設定は、もはや犯罪的というほかはなく、当時の建設大臣は、そのような当該事業認可申請の違法性を看過し、あるいはこれを知悉しつつ認可したのであって、その違法性は重大かつ明白であって、本件事業認可自体が、その施行期間の定めに限っても、行政庁としての裁量の範囲を逸脱するものであり、裁量権の濫用であったことは、一見して明らかである。
 本件事業認可は、明らかに「事業施行期間が適切」でなかったのであり、都市計画法61条に明白かつ著しく違反していたということができる。かかる事業の施行期間の再延長を認めることは、その違法性につきさらに重大かつ明白な違法を重ねるものであって、断じて許容しえない。

 よって、原告らは、国土交通省関東地方整備局長に対し、本件事業施行期間を再延長する事業計画変更認可の差止めを求めて本件提訴に及んだ次第である。


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