ホームページへ▲


淡路剛久 意見書 2004年10月9日
平成16年(行ツ)第105号 小田急連続立体交差事業認可取消請求上告事件
平成16年(行ヒ)第114号 同上告受理申立事件


意 見 書

最高裁判所 御中


平成16年10月9日
立教大学大学院法務研究科       
研究科委員長・教授 淡路剛久




 本意見書は、小田急線連続立体交差化事業認可取消請求事件につき、騒音公害により人格権侵害を引き起こす高度の蓋然性があるにもかかわらず、これを十分に考慮しなかった都市計画決定は、違法であり、そのような都市計画に従った都市計画事業の認可もまた、違法であるといわざるを得ない。



 まず、明らかにされるべきことは、一般に、都市計画決定において、環境への影響は実定法上考慮すべき要素か、本件に即して具体的にいえば、騒音その他の公害によって受忍の限度を超えた人格権侵害を引き起こさないようにすること、その他環境保護の考慮は、都市計画決定の適法要件と解されるべきか、という問題である。

 この点につき、本件・高架式連続立体交差化事業を定めた都市計画決定がなされた平成5年当時の法状況を踏まえるならば、次のようにいえよう。  (1) 第1に、人格権の法的保護は、憲法25条・13条、民法の物権的請求権との比較における解釈上、当然に導き出される結論であり、確立した判例・学説である。人格権のうち生命・身体の保護を目的とする身体的人格権は、最大限の保護が要求され、それが侵害される高度の蓋然性のある都市計画は違法と評価されるべきである。精神的人格権については、受忍限度判断がなされるが、受忍限度を超えて精神的人格権を侵害する高度の蓋然性があれば、その都市計画は違法と評価されるべきである。以上の人格権保護の必要性は、憲法規範から当然に導かれる結論であって、都市計画法に明文の根拠規定があるかないかにかかわらない。

 原判決は、都市計画が身体的人格権および受忍の限度を超えた精神的人格権を侵害するようなものであってはならず、それらが侵害される高度の蓋然性がある都市計画は違法である、という当然の法理を看過している。

 (2) 第2に、憲法は、環境権の保護を明文で規定していないが、憲法学説の主流は、憲法25条・13条から解釈上これを導き出している。他方、都市計画法は、法の目的として、都市の「健全な発展と秩序ある整備」をはかり、もって公共の福祉の増進に寄与することを規定し(1条)、都市計画の基本理念として「健康で文化的な都市生活」を確保することなどをあげている(2条)(これらは現行法でも変わっていない)。また、都市計画法は、都市計画基準として、当該都市について公害防止計画が定められているときには、当該公害防止計画に適合しなければならず(13条1項後段)、都市施設は「良好な都市環境を保持するように定めること」(13条1項五号)としている(現行法では、号が変わった)。これらの実定法規の解釈上、さらに憲法規範から導かれる環境権の保護を読み込めばよりいっそう強く、人格権侵害の原因となる公害を防止することは最低限の要求であって、環境破壊を防ぎ、良好な都市環境を保全することが実定法上の要求である、といえる。

 この点につき、原判決は、「法13条1項五号にいう『良好な都市環境』とは、大気汚染、騒音等といった公害が問題となるような環境のみを指す概念ではなく、広く交通環境、生活環境等をも含む概念であると解されるところ、本件の連続立体交差事業の完成により多数の踏切が除去され、交通渋滞の緩和や踏切事故の解消が図られることにより、都市環境として重要な交通環境や日常的な移動利便性に係る生活環境が改善されるのであり、……」として、利便性をも指摘している(原判決文89頁)。利便性も考慮されるべきは当然であるが、問題となるのは、利便性との比較において考慮されるべき人格権侵害の有無・程度、環境破壊の種類・程度であり、そのために環境影響評価とその考慮が強く求められるのである。

 (3) 第3に、本件都市計画の対象は小田急線の一定区間における線増計画と側道設置を一体として進める連続立体交差化事業であり、そこに適用されるべき法規範としては、前掲第1、第2のほか、具体的な基準として、法規範としての性質を有する本件建運協定(都市計画事業者と鉄・軌道事業者との費用負担等に関する当時の建設省と運輸省との協定および細目)および本件要綱(建設省が、連続立体交差化事業を行おうとする都道府県および指定市に対し国庫補助調査を行う場合の指導基準)が存在した。本件要綱は、(抜粋であるが)総合アセスメント調査を行うこと、鉄道と側道の計画は一体として取り扱われるべきこと、設計にあたっては、環境対策等に十分配慮を払うこと、比較案を数案作成し、比較案の検討にあたっては、経済性、施工の難易度、関連事業との整合性、事業効果、環境への影響等について比較し、総合的に評価して順位をつけること、などを定めていたから、本件都市計画は、これらの基準に従うことがその適法要件であった。

 原判決は、この点につき、本件建運協定、本件要綱の法規範性を否定しているが、園部意見書にあるとおり、本件建運協定、本件要綱は本件都市計画決定おいて従われるべき基準であり、その意味で法規範性があった、と考えるべきである。もっとも、仮に、法規範性を認めない立場に立ったとしても、本件都市計画の対象となる都市施設(鉄道とその側道)が身体的あるいは精神的人格権侵害の蓋然性が高い以上、その影響が当然に考慮されなければならず、また、両者関連した一体となった都市施設である以上、環境影響もまた一体的に考慮されるべきであった。

 (4) 第4に、環境への影響の考慮の仕方、手続きとしては、本件都市計画決定の主体は東京都であり、東京都には、本件都市計画決定当時、東京都環境影響評価条例(東京都アセスメント条例)が存在し、本件連続立体交差化事業(鉄道事業、道路事業)は同条例の対象事業であったから、環境影響についての具体的な考慮の仕方、手続きとしては、東京都環境影響評価条例によることとなる。現に、本件については、東京都環境影響評価条例に基づき環境影響評価が行われた。

 この点について、原判決は、「法上、東京都環境影響評価条例に基づく環境影響評価手続を経ること……が都市計画決定の手続要件とはされていない。したがって、同手続に東京都環境影響評価条例違反等があったとしても、そのことが、環境影響評価の結果を前提とした平成5年決定の実体的な適法性を判断する上で考慮要素の一つとなり得るとしても、それ以上に、直ちに都市計画決定が違法であることを基礎付けるものとはいえず、主張自体失当」としているが、仮に、アセスメントの対象となる都市施設が生命・身体への侵害を引き起こす高度の蓋然性がある場合であったとしたら、そうは言えなかったであろう。ことがらは当該都市施設の環境影響によるのであって、それは結局環境影響評価をしてみないと分からないから、原判決のように判断することは大きな誤りである。



 それでは、本件都市計画は、騒音その他の公害によって受忍の限度を超えた人格権侵害を引き起こさないように考慮し、その他、良好な都市環境の保持のために考慮されるべき環境要素を考慮して、決定されたであろうか。

 (1) 本件については、東京都環境影響評価条例に基づき環境影響評価が行われたところ、評価の対象としては、鉄道騒音、鉄道振動、地盤沈下および地形・地質、日照妨害、電波障害、景観、史跡・文化財が、取り上げられた。本件都市計画の対象となる都市施設が連続立体交差となる鉄道と道路の複合都市施設であることを考えれば、鉄道と交差する新設道路等については大気汚染が、鉄道については騒音が最も重要な評価対象となり、そのほか、振動が問題となる。さらに、鉄道施設が高架式であることから、騒音、振動のほか、日照妨害、電波障害、景観の破壊などが、考慮されるべき環境要素であった、と考えられる。以上からすると、評価の対象としては、大気汚染が取り上げられなかったことは大きな問題であるが、本稿では高架鉄道の環境影響に絞って論ずることとする。

 (2) 本件の環境影響の評価についてはどうか。本件でとくに問題となるのは鉄道騒音である。

 一審判決の認定によれば、事業者の環境影響評価書案においては、地上1.2メートルおよび3.5メートルの高さでの現況値と予測を行ったにすぎず、後に、評価書案に対する東京都環境影響審議会の意見に従って、ただ1か所について、地上高1.2メートル、3.5メートルのほか、5メートル、10メートル、15メートル、20メートル、25メートル、30メートルの騒音予測を付加したにすぎなかった。このような調査、予測の仕方では、一審判決が次のように指摘するとおり、高架式により影響を受ける騒音被害の実態を正確に把握することはできない。「むしろ、高架化による影響が懸念されるのは、これによって音源に近付き、しかも側壁によって音源から隔てられることも期待できない高さ、すなわち、高架橋の高さ(約5メートルから約8.5メートル)に側壁の高さを加えた地上6.5メートルを超える高さである。…昭和62年の建築基準法21条の改正以降、軒高9メートルを超える建物が増加していることは公知の事実であるから、この高さへの影響には無視し難いものがある。そして、本件環境影響調査においても、この点への影響は不十分ながら予測されているのであって、その値は、在来線によるより低い高さへの騒音を大きく上回る激烈なものとなることが予想され、その範囲は必ずしも明確でないものの、より低い高さでの現況値や予測値の距離に伴う減衰の状況と対比すると、相当広範囲にわたって80デシベルをかなり上回る騒音にさらされるおそれが濃厚であったと考えられる」。この80デシベルという数値は、後にみるとおり、受忍の限度をはるかに超えて私法上違法と評価される高度の蓋然性のある数値と考えられる。

 これに対して、原判決は、「本件の環境影響評価書上、鉄道敷地境界から1メートル(高架橋端から1メートル)の地点において、建物4階以上12階までに相当する高さで88ホンを超える騒音が生じ、建物6階に相当する地上高さ15メートルでは、93ホンの騒音が生ずることが予測されている」と認定しながら、この予測値が、鉄道敷地境界から1メートルという鉄道にきわめて近接した地点での予測値であってその騒音レベルは距離減衰すること、高架橋より高い地点での騒音については走行車両によって遮られ、予測値よりも低くなること、構造物の重量化、バラスマットの敷設、60キログラム毎メートルレールの使用、吸音効果のある防音壁の設置等の対策等によって、騒音の低減に努めることとしていたこと、にあわせ加えて、鉄道騒音に関する唯一の公的基準であった新幹線騒音基準でも、地上1.2メートルとされており、地上6.5メートルを超える高さにおける騒音を規制する基準はまったく存在しなかったこと、在来線の鉄道騒音に対してはその迷惑感・うるささの訴えが、新幹線に比べて高く、10デシベル以上の差があることを示す調査結果も複数報告されていること、を考慮して、本件高架式の採用について、周辺地域の環境に与える影響の点で別段問題がないと判断したことに著しい判断の過誤があったとまではいえず、裁量権の範囲を逸脱したものとはいえない、と判示した。

 しかし、以上のような原判決の判断には、本件都市計画が、きわめて高い騒音を発生させる鉄道施設を目的とし、騒音に関する従来の裁判例等によれば、受忍の限度を超えた人格権侵害を引き起こす高度の蓋然性がある計画であるにもかかわらず、受忍限度判断を行っていないという判決の結論に影響を及ぼす重大な理由不備がある。たとえば、原判決は、騒音の距離減衰の効果や鉄道設備等の個別改善の効果等を個別に指摘しながら、それらを総合してどの地点のどの程度の高さでどの程度の騒音レベルとなるかの認定(推論)をしておらず、その結果、そのような騒音レベルが、他の要素をも考慮して受忍限度を超えた人格権侵害となるかどうかの判断をもしていない。本件において、このような受忍限度判断は、本件都市計画が違法性を帯びるかどうかに係わる判断であるから、結論を導くには不可欠の判断だと考えられる。



 本件都市計画の対象施設たる高架鉄道は、受忍の限度を超えた人格権侵害の被害を引き起こす可能性がきわめて高く、従前の騒音被害の改善が図られないだけでなく、むしろ騒音を増加させる高度の蓋然性のある鉄道施設である。したがって、これを施行する都市計画事業は、違法であるといわざるを得ない。

 (1) 先に述べたとおり、本件計画のように、騒音、振動などの公害を発生させる施設を内容とした都市計画の場合には、その施設は、騒音、振動などにつき公法上の規制基準を遵守するとともに、私法上も違法性を有しないこと、すなわち、受忍限度を超えた公害により人格権侵害を生じさせないような施設であることが、都市計画決定の適法要件となる。

 本件についていえば、都市高速鉄道に適用される公法上の騒音規制基準は存在しないが、公法上の規制基準は全国一律に適用される最低限の基準と考えられ、公法上の基準に違反しない場合にも、また、公法上の基準が存在しない場合にも、個別ケースに適用される私法上の違法性基準は存在する。これが違法性判断としての受忍限度判断であり、受忍限度を超えた騒音公害を発生させれば、違法となる。

 この点に関して、最高裁は、航空機騒音の違法性が争われた大阪国際空港公害事件において、次のような判断基準を示した(最大判昭和56年12月16日民集35巻10号1369頁)。すなわち、「本件空港の供用のような公共事業が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるかどうかを判断するにあたっては、上告人の主張するように、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察してこれを決すべきものである」。同様の判断は、道路公害(騒音が中心)が争われた国道43号線訴訟の最高裁判決においても、示されている(最判平成7年7月7日民集49巻7号1870頁)。本件鉄道事業との関係でこれをみれば、最高裁が、違法性判断の要素として、どのような被害防止措置をとったかを重視していることに注意すべきであろう。

 それでは、具体的な鉄道騒音事件では、どのような違法性判断がなされているだろうか。新幹線騒音事件では、東海道新幹線訴訟があるが、名古屋高裁は、結論として、騒音73ホンを超える場合に受忍限度を超え、違法と判断した(名古屋高裁昭和60年4月12日判時1150号30頁)。在来鉄道線については、本件の一審判決が出るまで裁判例が現れていなかったが、本件に関わる小田急騒音被害等責任裁定事件について、公害等調整委員会による責任裁定が出されいる(平成10年7月24日)。この裁定は、裁判例にほぼ匹敵する準司法機関(ADR)の判断という意味でも、また、本件係争地域の騒音が、現在のままでもすでに違法であることを示した点でも重要である。そこで、同委員会の違法性の判断を少し詳しく紹介しておきたい。

 (2) 小田急騒音被害等責任裁定事件において、公害等調整委員会は、まず、小田急線の運行状況が、1日に上下あわせて800本近い列車が朝5時頃から深夜1時頃までの約20時間にわたり休むことなく運行され、騒音・振動を発生させていること、そして、それが沿線の相当範囲の地域に到達することは、自明の理だとした。次に、騒音・振動の評価方式につき、騒音は、個々の列車が発生させる騒音レベルそのものではなく、エネルギー平均化して評価する方式である等価騒音レベル(LAeq)の24時間の値LAeq24hを基本的に用い(LAeqは、変動する騒音について国際的に広く用いられており、騒音の大きさと相関関係が高いほか、聴取妨害、会話妨害などの騒音感との相関関係もLAmaxより高いとされる)、あわせて、新幹線鉄道騒音に係る環境基準に用いられ、睡眠妨害の指標として有用なLAmaxをも組み合わせて判断するものとした。

 次いで、同委員会は、違法性(受忍限度)の判断を行った。まず、考慮すべき要素として、@侵害行為の態様とその程度、A被侵害利益の性質とその内容、B侵害行為の公共性の内容と程度、C侵害行為の開始とその後の継続の状況、Dその間にとられた被害防止に関する措置の有無、E公法上の基準等、をあげた。これらは、前記最高裁があげた考慮要素にほぼ従ったものといえよう。次いで、同委員会は、考慮すべき事項の考察をし、すでに判断済みの@、A、Cのほか、公共性については、騒音等を増加させた小田急線の輸送力増強がそのまま申請人(被害者)らの利便の増大につながるとはいえないが、そのことの故に公共性の程度が低下することはないとし、また、被害防止措置については、対策は講じられられたが、申請人らの居住地等においてどの程度の効果があったか判然としないものや騒音・振動の増大を抑制するにすぎないものもあった、とした。公法上の基準については、在来鉄道の騒音・振動に関しては存在しないが、新設については、環境庁(当時)が平成7年に指針を出しており、それによると、LAeqの昼(7時から22時まで)の値は60デシベル以下、夜(22時から翌日7時まで)は55デシベル以下とし、大規模改良については、改良前の状況より改善するものとするが、新線と比較すると5デシベル程度大きくならざるを得ないと考えられていたことが、資料から認められる、とした。

 そうして、最後に、本件の受忍限度を判断し、LAeq24h70デシベル以上、あるいはこの基準に該当しないが、LAmax85デシベル以上の騒音に暴露された申請人は、受忍限度を超えた被害を受けたことを認めた。

 以上、本件に係る責任裁定は、LAeq24hの値が、前記・在来新線建設に係る指針や国道43号線訴訟における道路騒音の違法基準と比較して、緩くなかったかという疑問が残るものの、小田急鉄道の騒音が、本件係争都市計画区間においてすでに受忍限度を超えた違法なものであることを認めた点で、重要である。

 (3) このような違法状態につき、本件一審判決は、本件都市計画決定当時の小田急線の騒音が違法状態を発生させているのではないかとの疑念への配慮を欠いたまま都市計画を定めたことを、違法状態の解消という観点よりも単なる利便性の向上という観点を上位に置いた点で法的に到底看過し得ないとして、これを厳しく批判し、本件都市計画事業認可を取り消す重要な理由の一つとした。

 これに対して、原判決は、当時、「本件事業区間において、列車走行に伴う騒音被害が発生し、その程度が受忍限度を超えた違法にわたるものであり、そのような違法状態にあることを参加人<東京都>において認識し、又は認識すべきであったのであれば、9号線都市計画がまさに小田急線の走行、列車騒音の発生に関連する事業であることからすると、都市施設である鉄道の構造等を考慮する上で、そのような違法を解消することを検討すべきであって、そのような視点を欠いたまま、都市計画を定めることは、参加人に与えられた裁量権の範囲を逸脱するものと評価することができなくはない(なお、参加人が、単に騒音被害があることを認識するにとどまり、その騒音被害の程度が受忍限度を超えるものであることまでをも認識しておらず、また、認識できなかったような場合には、騒音問題の解消という視点を欠いていたことが、直ちに、考慮要素に著しい欠落があり、参加人に与えられた裁量権の範囲を逸脱したものとまでは評価できない)」としながら、平成4年5月に小田急沿線の多数の住民が公害等調整委員会に責任裁定の申請をしたこと、日本騒音制御工学会が東京都から依託を受けた鉄道沿線周辺住民意識調査に関連して、昭和58年8月に経堂地区の沿線住民(線路から100メートル以内に居住する住民65名)に対して実施された調査では、後の責任裁定で受忍限度とされた70デシベルを超える高い騒音レベルが示されたこと、東京都が平成元年3月頃小田急線の騒音調査を実施したところ、上下軌道中心からの水平距離が12.5メートルの地点で80デシベルを超え、6.5メートルの地点では88デシベルを超える測定点があったことについて、受忍限度を超える違法な騒音被害が発生していたことを認識し、または認識すべきであったとはいえない、と判示している。

 しかし、昭和58年の調査、平成元年の調査、公害等調整委員会への責任裁定申請という経過をみれば、騒音被害が受忍限度を超えた違法な状態にあること、少なくともその疑いが濃厚であることは当然認識できたし、認識すべきであったと考えられる。そうだとすれば、東京都としては、本件環境アセスメントにおいて騒音レベルを調査し、現状の騒音がすでに受忍の限度を超えた違法なレベルに達し、したがって、高架式に基づく本件都市計画が違法な騒音レベルに達することは容易に認識できたと考えられる。



 高架式で騒音の低減をはかるためには、両側道の設置が必要

 (1) 以上からすると、本件連続立体交差化事業が高架式の現計画のままで進められるとすれば、本件係争地域の住民は、より大きな騒音被害に暴露され、人格権侵害を被る可能性がきわめて高い。高架式は、地下式のように現騒音被害を解決ないし減少させるような方式ではないからである。この点は、どのような被害防止措置をとったかを違法性=受忍限度判断の重要な要素と考える前掲最高裁の判断方式からみると、本件都市計画およびそれを前提とする都市計画業の違法性を判断する上で、重要な要素といわなければならない。

 (2) 高架式であっても、騒音被害を減少させる方法がないわけではない。たとえば、高架鉄道の付属街路としての側道を南側、北側両側にとる方法が考えられる。しかし、本件事業計画では、騒音対策のために南側に側道を設置する計画は考えられていないだけでなく、騒音対策のために南・北両側道の設置を検討した上で、その道路幅を決めるといった手続もとられていない。前述した不十分な環境影響評価を含めて、騒音被害を防止するための措置が著しく怠られた、という評価が可能であろう。

 (3) もっとも、以上のように、側道を高架式鉄道の両側にとることとなれば、事業費は著しく増大することとなり、高架式が事業費の面で有利だとする考え方は、それだけで成り立たなくなる可能性が高い。

以 上


  ページの先頭へ▲  ホームページへ▲