第7回  MIZUKIさんのレビュー その4 

 さて、MIZUKIさんのレビューも、今回が最後です。ラストを飾るのは、未発表&アウト・テイク集の「スウィート16」です。僕のHPではこのアルバムもレビューしていないので、セカンドに続いての初登場ということになります。

このセカンドですが、アメリカ盤と日本盤とでは、ジャケットも収録曲も違います。まあ、日本盤のほうにはシークレット・トラックが1曲多く収録されているということなのですけどね。ちなみに、日本盤も今は製造中止になっておりますので、店頭で見かけたら即ゲットしておいてくださいね。

では、レビューといきましょう。

<アルバムについて>

 この世に絶対なくてはならないほど素晴らしいメロディばかりが書ける男。その天才カイル・ヴィンセントの未発表&レア・トラックス集だ。と聞けば、なんとなく残り物的な意味合いを感じるかもしれない。しかしことカイルに関しては、その一般論は当てはまらない。天才には一般論は通用しないのだ。これも全曲素晴らしい名曲のオンパレード。それもフル・アレンジのフル・バンド演奏なので、巷でいう未発表というイメージの音ではない。それにしても出来の悪い曲が1曲もないというのは凄い。彼は400戦無敗の男、音楽界のヒクソン・グレイシーといっていいだろう。   (2003.4)


<楽曲レビュー>

One Soul

■練りに練られた凝ったアレンジが邪魔になるどころか、とても魅力的だ。彼のアレンジの凄さは、曲と有機的に結びついており、まるで呼吸しているように曲展開に立体的に絡みつき様々に変化している。凝ったアレンジの完成品の上に歌を載せているという感じがまるでしないのだ。今の時代、クオリティの高いサウンドを構築できるアーティストは数多くいるが、その微妙なセンスを持っている人はなかなかいない。カイルはそこのセンスが傑出しているのだ。今回のホール&オーツの新作もその次元に達していたので非常に気に入っているのだが、それすらも凌ぐと思われる曲がいくつもある。特にこの曲、コーラスとサウンドの絡み合いのアイデアは、パワーポップというよりは10CCすら思い起こさせる。ちなみにドラムスは、ひぜうにボストンちっくで私はニンマリ。


I Can Still Love You

■良質なAORサウンドに載って歌われるバラード。声の伸び、表現力も素晴らしく今度は彼の喉に引き込まれる。とてもスケールの大きなバラードで、声と曲の感じは、まるでスティックスを聴いているようだ。「ベイブ」とかが好きな人だったら大好きになる曲だろう。しかし、ベイブは全米1位だろ。カイルのアルバムを聴くとそういうことがバカバカしくなるのだ。だって、ほとんどが「ベイブ」レベル以上の曲ばっかりだもの。あえて言わせてもらえば、莫大な広告費が使えるのなら、このMD59曲はすべて全米1位になってもなんら不思議ではない。それほど彼の作曲とアレンジは強力だ。


Back Off

■ドラムスティックのカウントで始まる久々の明るいテンポのロックン・ロール。それも楽しいPOPな70年代風のロックだ。ウ〜ラララ。と中期のビートルズっぽいハーモニーも爽やかで楽しい。


One Ticket Home 

■いや〜あ。これはいい曲だ。なんて書けばいいのだろう?なんで私こんなバカなことをしているのでしょう?俺ってアホ?そう思えるほど胸をわしづかみされる切なく深いいい曲だ。こう書くと、もの凄く力の入った大仰なバラードと思うかもしれないが、さらっと自然に流れるミディアム・バラードだ。だがはじまった瞬間わかるのだ。この世に何曲もない素敵なメロディだということが。音楽的にはなにも難しいことはしていなくても人の心を捉えて離さない。そして生涯に渡り聴き続け、時代を越えて生き残る普遍的なメロディがある。そんなメロディばかり書ける人は最初から神様に選ばれているのだ。モーツッアルト、ポール・マッカトニー、カイル・ヴィンセント。。みんなそうだ。。。サウンドの芳醇さ、メロディにあった声、歌唱、歌心と、すべてが絶品だ。


Same Old Heartache

■なにか懐かしいサウンド。スペクター風サウンドに載って60年代の甘い良質なPOPSが、心地よいコーラスとともに鮮やかに広がる。この歌の中には60年代のアメリカがまだ生き生きとしていた時代の華やかさと心地よさが感じられる。60年代POPSももっとも良質な楽しさがある。単純にすごく楽しくていい曲だ。


I Only Know How To Love You

■タイトルからすると切ないラブソングに思えるが。ちょっと哀しいムードのメロディだが、アレンジが完璧で良質なAORなので、ムードに関係なく演奏に聞き惚れてしまう。


Any Other Girl

■今度は一転して、カイルの声、歌心がダイレクトに伝わってくる佳曲だ。展開も凝っていて、一筋縄でいかない広がりがある。といっても、その広がり自体もとてもPOPなメロディ展開なので安心して聴いていられる。例によってアレンジは曲の最中、様々に変化しているので、歌と演奏を分けて聴かないとその凄さはわからないだろう。


Man In The Moon

■心の港から船出するような落ち着いた出だしだが、中盤から彼の力強い声の力がこの楽曲の世界を、もうワンランク上のスケールに引き上げていく。そしてその様に醍醐味があって最高にカッコいい。またしても広がりのある素晴らしいメロディ展開で、彼の喉、歌心が最高に堪能できる一品だ。


If Your Were My Love

■カッコいいシャッフル・サウンドで、アレンジ、曲とも、はじまった瞬間、山本達彦さんかと思った(笑)。とうわけで山本ファンの私としてはこのサウンド、メロディは大好きだ。山本さんも我が国が誇る最高のメロディメイカーで、アレンジの凄さは世界有数だと私は密かに思っている。アレンジの話をしだすとesqも凄いし。。まあここはカイルのページなので勝負は3者いたみわけとしておこうか(笑)。しかし、ゴージャスでお洒落なサウンドだ。メロディは文句なく素晴らしいのでこういうアレンジをつけると山達になることがよくわかった。このサウンドほんと心地よい。最高のAORとはこういう曲をいうのだ。


Running Away

■出だしのピアノといいムードは「イヤー・オブ・ザ・キャット」に似ているが、歌がはじまると、もっとセンチメンタルで哀しいムードが漂う。雨の日に外を見ながら聴いていたくなるような感じだ。何度も聴きかえすとハマるセンチメンタリズムがある。という言い方があっているかどうかわからないが地味ながら、とてもいい曲だ。


Where Memories Go

■始まった瞬間10CCのようなコーラスが横切っていく。ピアノの弾き語りではじまる正統的なバラードだ。なぜか特にストリングスの音が大きく聴こえると思ったら、そういうコンセプトのアレンジのようだ。ピアノとストリングスのみのバック演奏なのだ。クラッシック好きの私としてはこのサウンドは大歓迎だ。曲のほうは、これまた歴史に残る大変な名曲だ。そんな凄い名曲ばかりを立て続けに30曲も40曲も聴かされて、どう表現すればいいのだろう?これを読んでいる人は、そんな私の苦悩が分かるだろうか。。。


On The Beach

■実は私はラズベリーズの「オン・ザ・ビーチ」が好きではない。出だしの部分は好きなのだが途中で曲調が無理やりかわるのが嫌いなのだ。狙いすぎだと思う。どうにも居心地が悪い構成に思える。あんな不自然な変化などなく、出だしの部分と後半の盛り上がる部分を自然に繋ぐような作り方だったら彼らの代表曲になったかもしれないほどいいメロディなのに残念だ。発想だけジョン(ビートルズの「アイ・ウオント・ユー」)のマネっこしたようであまり感心しない。あまり好きな曲でないので、当然カイルのこのカバーも嫌いかというと話はそれほど単純ではない。これが逆に大好きなのだ。最高にカッコいい。で、不思議にも改めてエリック・カルメンのヴォーカルの凄さを見直したのだ。こういうと、まるでカイルのヴォーカルがエリックより劣っている、あるいは弱いといっているように聞こえるかもしれないが、それも違う。例えエリックが彼の「Remember Me」を歌っても全然だめだろう。あの曲は、カイルの繊細でナイーブな甘い声が痛々しいほどデリケートに歌うからこそ宝石のような輝きを増すのだ。ラズベリーズの「オン・ザ・ビーチ」がよくないと思うのに、カイルを聴いてよかったと思うのは、単純にエリックの声や歌唱が濃厚すぎて暑苦しいからだ。だが、レッツ・プリテンドやトゥナイトなど、楽曲自体がその濃厚さを欲しがっているものは、実に深い味わいがでるし強力だと思う。たぶん以上の曲は、エリックが歌うからこそ独特の濃厚な魅力があったのだろう。したがってバリー・マニロウがラズベリーズを歌ってもだめだろうし、その逆もしかりだ。つまりカイルのほうが、この曲にあっているのだ。それは単純に二人のヴォーカル力の比較ではいえない。たとえば、オーティス・レディングは素晴らしいヴォーカリストだが、誰も彼が歌うビーチ・ボーイズの歌は聴きたいとは思わないだろうし、歌っても全然ダメだろう。。要はそういうことだ。


When I Close My Eyes

■出だしはイーグルスの「テイク・イット・イージー」を思い出すのはご愛嬌だ。非常にポジティヴなエネルギーを感じさせる逞しいアメリカン・ロックだ。例によって中盤、突如曲調はスローダウンして、ちょっぴり哀愁のムード漂う。曲としても楽しいPOPなものだが、もっと奥深いなにかを訴えかけているような心意気を感じる。


When I Need A Miracle

■ミッドナイト・スターだったっけ?昔「オールウェイズ」という大ヒット曲があった。あの歌は人生を前向きに生きる応援歌のような意味合いがあったのだろう。黒人の死刑囚を励ますボランティアの人たちが皆で歌っているのをドキュメントで見て感動した覚えがある。アレンジ、曲調がちょっと似ている気がする。もしかしたら全然似ていなくて、この歌の持つ心意気がそんなことを思い出させてくれたのかもしれない。誰もが口ずさみたくなる素敵な優しいメロディだ。


Rockin' Radio

■まったく文句なく楽しめるPOPなロック・ナンバーだ。なぜか、ランナウェイズやスターシップを思い出す。そういえば、カイルの声はレスリー・マッコーエンに似ていると思っていたが実は歌唱力は全然違う。あれほど作為的な甘さとわざとらしい節回しはないのだ。レスリーはプレスリーの影響が強いと今回改めて思ったものだ。カイルの自然にして大きな歌唱は、むしろミッキー・トーマス(スターシップ)を引き合いに出すべきだ。後、時折ナイーブなムードはアレッシーやエアサプライを思い起こさせるものもある。声や歌い方は、スティックスやREOスピードワゴンの最良にしてPOPな部分が練りこまれているところもあるが、両方聞き比べると全然違っている。素朴にPOPに見えてとても深い。彼はそれほど単純な音楽家ではないのだ。


If I Could Fly

しかし。。。最後の最後まで、またしても背中に鳥肌がたったではないか。本当に素朴に素直に語るようなこの優しいPOPなメロディはなんなのだろう。そして、またしてもあの甘い優しい歌声でこちらの琴線をぐっとわしづかみにする。このメロディは、まるでしばらくぶりに再会した旧友のような自然な語りかけに聴こえる。結局、彼の魅力とは、いいメロディを楽しいアレンジに乗せて、甘く優しい声で歌う。たったそれだけのことだ。だが、たったそれだけのことで、これほど心に響く音楽家はそうはいない。いや、ほとんどいないといっていい。だからよかった。本当によかったと思う。このカイル・ヴィンセントというアーティストに出会うことができて。(完)

どうでしたか?MIZUKIさんのレビューは。ここまで4回分で紹介してきたのですが、本当にカイルへの愛情に溢れるレビューばかりだったとは思いませんか?MIZUKIさんの書いた新作「don't you know」のレビューを読みたいなって思ったのは、きっと僕だけではないでしょう。MIZUKIさんのことですから、いつか必ず書いてくださると確信していますが、1日も早く僕たちの目に触れる日が来るように期待しています。(って、いきなり振っちゃった〜。ゴメンね、MIZUKIさん。(笑))

<2005.1.10追補>MIZUKIさんの「Don't You Know」のレビューですが、復活したMIZUKIさんのサイトにアップされました!!相変わらずの愛情溢れる(まるで恋をしているかのような)熱いレビューですので、行ってみてくださいね〜。

ところで、またまたいつものパターンですが、今回の最後を締めくくるのは、未CD化曲の「5000heroes」です。あの、ニューヨークのテロ事件に胸を痛めたカイルが書いた作品で、フラッシュ・ヴァージョンでのネット公開もされていますので、まだ見たことがない人は、ぜひ見に行ってくださいね。

5000 Heros

■美しいピアノ、10cc風のクールで爽やかなコーラス、ぞっくとくるアコギの生々しい響き。そこにカイルの優しい声が切々とドラマを織り成すように歌い上げる。まさに心の語りべのような深淵な世界。特に過去の風景にタイムスリップさせられる感覚が際立っており、聴きながらにして同窓会的気分に浸れるのは何故だろう?彼は本当に人生の美しい絵画が見える人なのだろう。

では、また次回に。


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