第6回  MIZUKIさんのレビュー その3 

 さて、仕事の多忙等の理由(言い訳とも言いますが(笑))でしばらく更新できなかったMIZUKIさんのレビューですが、カイルの新作も出ましたし、のんびりと構えてもいられません。ということで、今回はサードアルバムの「SOLITARY ROAD」のレビューということになります。

セカンド同様、このサードも初回盤と再発盤で収録曲が違います。そのへんのところは、例によって第2回を見てくださいね。MIZUKIさんのレビューは、初回盤仕様です。またまたマークさんもゲストで出てきますよ〜!

では、参りましょう!

<アルバムについて>

圧倒的に素晴らしいメロディばかり書ける男。そのカイル・ヴィンセントのアルバムの中では、当初これが1番地味に聴こえた。だが聴きこむ内につれて、とても奥深く引き込まれる素晴らしい名作であることが分かる。我々の琴線を司る資質というものは、これまでの人生経験やそこから培われた知識、あるいは喜怒哀楽による感情や苦悩、そして生きるための希望や勇気などが集約され醸成されたものだといってもいいだろう。だが、そういう資質が浅い人は、つい派手で意表を衝いたアレンジに惑わされ心奪われがちだ。そういう意味で、この作品は、まさしく心の醸成度を試されるようなアルバムといえる。商業性という観点では、ほんの少し地味(あくまでも彼の最高レベルでという意味だが)に聴こえるかもしれないが、心の熟成度という観点で聴くと、これほど奥深くダイナミズム溢れる作品はない。勿論全曲圧倒的に素晴らしいメロディで、どの曲もとても心に残る。彼は間違いなく天才だ。それにしても、このバラードの美しさ、説得力は比類すべきものがないほど素晴らしい。これは最新作にして最高傑作と断言できる。このアルバムの存在を知らずして、漠然と日常を過ごし人生を終える人は本当に不幸といえる。  (2003.4) 

 


<楽曲レビュー>

You Will Dance Again

とても美しいピアノバラードで大変な名曲なのだが、最初の部分はレックス・スミスの「ユー・テイク・マイ・ブレス・アウェイ」という曲にそっくりだ。最初カバーかと思ったくらいだ。当然途中からまったく違う曲になるのだが。はじめてカイルを聴く人はこういう曲が1番心を捉えるだろう。特に女性は。


Everything

POPでコマーシャルな曲ばかりかというと、こういう曲は非常に広がりがあって深い。実に穏やかに静かに流れるのだが、プログレっぽいムードというか、ビートルズの「アクロス・ザ・ユニバース」のような独自の世界に自然に引き込まれていく感じが心地よい。人生の深い意味に気付きを与えてくれるような曲といっていい。


Let Me Let Go

■泣いている。君の心も。僕の心も。。。センチメンタルなピアノ1本に乗って、切々とエモーショナル豊かに歌い上げるカイルの声は痛々しいほどに切ない。くるおしいほどの想いを吐露するかのように歌う君は、いったいなにを訴えかけているのだろう?そう思わずにはいられないほど、このカイルの熱唱は凄まじい。この全テイク中、最も心に引っかかる表現力と歌心で私の心をわしづかみにする。人生の岳を1つ1つ静かに黙々とだが、しっかりとした足取りで昇っていくようなメロディ展開も素晴らしい。彼は本当に歌える人なのだ。


Lovin' Everything You Do

とてもこの世のものとは思えない深淵で美しいコーラスとムードだ。メロディも圧倒的に素晴らしいのだが、本当に秀逸なアレンジでに聴いている最中は完全に夢心地だ。楽器の重ね方が多層的でありながらも立体的で常にいろいろな音があちこちで出入りしており飽きさせない。同時に都会の夜の情景が立ち上がってくる。このサウンドの魅力はちょっと言葉では表現不能だ。ややムードはジョー・ジャクソンの「ステッピン・アウト」を思わせるが、メロディはもっと奥行きがあり圧倒的にいい。しかしこのアレンジといい演奏もカッコいい。ギターの音色もお洒落なセンスだ。


I Sing For You

マークちゃんご推奨の「I Sing For You 」だが、本当に心の奥底の琴線に響いてくるような名曲だ。ハープのイントロに導かれ、素朴なピアノで歌いだすとクラシカルな弦楽器が寄り添うように絡みつく。そして美しいストリングスとボーカルとコーラスの美しいブレンドはあまりに心地よい。これは彼の卓越したPOPな名曲群の中では、むしろ素朴すぎるほどの手触りの曲なのだが、何度も繰り返して聴くと、聴くほどに味わい深くなり懐かしい気持ちにさせられる曲だ。その懐かしい気持ちというのは、汚れなき子供時代にもっていた憧憬のような感覚だ。もう一度これまでの人生を振り返り考えたくなるような気持ちにさせられた。この曲を聴けて本当に生まれてきてよかったと思えるほどだ。


《マーク談》
"I Sing For You"は、必殺女性キラー的曲です。(笑)
かつての恋人であり、毎回ライブに足を運んでくれる女性に対し、

「君には離ればなれになって知らない時期のボクがある。 
なのに君は、毎回ライブになると店に顔を出してそこに座り、
すべての曲をひとことも間違えずに口ずさんでいる。
どうやったらそんなことができるか不思議なくらいだ。
今はもう他の人間なんか目に入らない。今夜は、君のためだけに歌うよ。」

ステージでこんなことを歌われちゃあ、女性はたまらないでしょう。
ステージ上のシンガーと客席の女性の姿のイメージが浮かんでくるし、
過去の二人の関係にまで想像力が働いてしまう曲です。


Magically

悲愴感漂う旋律にのせたピアノの美しい調べは、初期のエルトン・ジョンが持っていたような孤独で詩的なムード一杯だ。これは彼のレパートリーでは初めて接するタイプの曲で、人生の不条理を歌ったような苦悩すら想起させられる。その深さとドラマ性豊かなメロディの広がりは素晴らしい。これはPOPSという枠を超えて格調高く純文学的な香りにさえ包まれている見事な大人のバラードだ。音楽家カイルの奥行きを堪能できる傑作といえる。


It's Too Late

■どひぃやあ〜。聴いた瞬間、鳥肌が立ち背筋が凍るほど素敵なキャロル・キングのカバーだ。この曲は、中ぐらい程度に好きな曲だったが大好きな曲になった。もうアレンジが尋常ではない。お〜洒落!という感じ。都会の夜のイカした風景が見えてきて、しかもとても色気があって黒っぽい。カイルの声が最高にかっこいい。こんなの高層ホテルでディナーしながら聴いていたら、部屋に戻る前にイッてしまいます(笑)。またしても低俗な表現になってしまったが本音だ。サウンドの説明をすれば、ハウスっぽい打ち込みビートではじまり、彼の艶なけだるいスキャットが入る。全体的に色香のムード漂う歌い方だが、それがサウンドに溶け合っていて、とてもお洒落。この曲のミステリアスで哀切なムードによくマッチしている。この曲のここまでいいカバーは初めて聴いた。


Away

■またしても遠慮がちに「カモン!」と入る。だがそれがすごくカッコいい。これは非常にカッコいいロックだが、イントロから深い世界に引き込まれるとてもスケール豊かな演奏だ。このスケール感、ムードはU2を思わせる。ギターのアレンジがやや近いからそう思えるのかもしれない。しかしサウンド的にはあれほど重くなく、しかも当然メロディアスで安心して彼のPOPな世界を堪能することができる。しかし彼はロックバンド・サウンドになると急激にスケールを増すので聴いているほうは、呆気にとられることがある。この素晴らしいアレンジの量産力も凄い。よくこれだけカッコいいアレンジが思いつくものだ。繰り返すが私は彼の多彩な才能に呆気に取られている。


Our Song

幼少時、母親の帰りを待ちわびながら夕陽を眺めているような、ちょっぴり寂しくて切ない気持ちにさせられる。いい大人が、そんな甘酸っぱいセンチメンタルな追憶を呼起こされて、つい涙腺がゆるんでしまうのだ。どうして彼のメロディは、これほどまでに人の心を衝き懐かしい気持ちにさせるのだろう?優しい声と切ない歌唱も印象的でとても癒される。なぜか聴き終ると、すっかりと心が洗い流されており優しい気持ちになっている自分を感じて不思議な気分だ。たぶんそれは童謡が持っている最も根源的な愛情と同種のものが彼のメロディにも宿っているからだろう。これは心の詩だ。


Remember Me

■あまりにも生々しく響くアコースティック・ギターの音。そしてピアノと共に導かれ素朴に歌い出す、まさに正統的な美しいバラードだ。彼のバラード作の中でもベスト3に入れたくなるほどに好きな曲。あるいはベスト1かもしれない。聴くたびに感動の波紋が広がり、深く引き込まれる名曲だ。もしかしたら、今後の私の人生での最重要曲になるかもしれないほどだ。この曲を聴くと、なぜかNHKのドキュメント番組「プロジェクトX」を思い出す。秀逸なドキュメントを見ると胸を衝かれ涙が溢れてくるような感動を覚えることがあるだろう。あれと同種の感動があるのだ。凡百なアーティストでは、一生かかっても書けないであろう鳥肌ものの名曲。たとえバリー・マニロウを100人連れてきて肩車しても、この曲の次元の高さにはとどかないだろう。個人的には、この曲1曲でビートルズに対抗できるほどだ。

≪マーク談≫
カイルのミニライブで彼がこの曲をアコギ1本で演奏したあとには、聴衆になんともいえぬ感動が広がっているとか。
一見、カイルが自分の息子に語りかけているような内容にみえますが、最後の方の歌詞(息子よ、おまえがこの曲を書かざるを得なかったことをすまないとは思う)から、この息子とはカイルのことではないかと思ったりしています。これは、カイルにとっては自分の父親に対しての許しの歌なのかなと。このあたりは本人も語っていませんので、違っているかもしれませんが。まぁ、いずれにしても心に響くいい曲です。

というわけで、マークは出張でこの半年、羽田-伊丹路線を50回以上飛んだそうだ。まさにフライマ〜ン(笑)
飛行場、機中など空いた時間で歌詞を訳して送ってきてくれました。著作権の問題で全文公開することが出来ないのはあまりにもったい無いので私が独自の解釈で以下要約してみました。

老いた父親が息子に対し、自分は良き父親ではなかったと悔恨の気持ち延々と語ります。たぶんこの父親は家族のことを顧みず、仕事に没頭し、結局離婚してしまい息子と離れ離れになっていたのでしょう。そして、そのことを息子に対して今でもとてもすまなく思っている。その心の傷のことを、息子に悪い代償を支払わせてしまっていると表現しています。時に大声で叫んで息子を叱り付け、当り散らしたりしたこともあるのでしょう。だが、もう一度人生をやり直せるのだったら、やりたいことは山ほどあり、一緒に野球の試合を見に行ったり、息子が自転車に乗れるようになるところも見守ってやりたいと独白します。
............
憶えているよ
はじめてのデートで緊張しているおまえを
おまえが放った怒りに満ちた言葉ではなく、
私の足の上でずっと踊り続けていた小さなおまえのことを...
............
今夜おまえがこの曲を歌うのを聴けたことに対して、息子よ、
おまえがこの曲を書かざるを得なかったことをすまないとは思う
でも、それがおまえが乗り切ってくれる助けとなっていたならいいとも思う
Remember me
私のことを忘れないでおくれ
And I'll always remember you
おまえのことは決して忘れないよ


Bridge

■夢の世界から聴こえてくるような素敵なアコギの響きと優しいコーラス。まるで1本のドラマを見ているような映像感覚がある。静かに展開し様々に変化しながらも、気がつくと自然に心の隙間に染み込んでくる素晴らしいメロディだ。しかも地味ながら、とてもお洒落な世界が波紋のように広がっていく。この辺まで聴いてくると、曲やアレンジの素晴らしさもさることながら、メインは彼の声の魅力と説得力だ。この声自体の甘くとろける魅力はなんとも癖になる。誰しも心の奥底に持っている懐かしき郷愁観。カイルのこの世界はバート・バカラックさえも凌いでいるといいたくなるほどに魅力的に響いてくる。


Sierra

ギター、マンドリン、スリングス、ハーモニー、そしてハープのような素敵な音の妖精たち夢の彼方から我々の為に集まってきて祝福してくれているようだ。それはまるで日々を一生懸命生きている我々にご褒美をくれているような優しさだ。そんな優しい妖精たちに囲まれてカイルの力強いしなやかな声がよく伸びる。ほとんど息づきする間もなくひたすら彼の声がサウンドに溶け合って継ぎ目なく聴こえる。そして妖精達はいつの間にかいなくなる。後半ギター1本で歌いだし再び音の妖精たちは集まってくる。夢のようなハーモニーが通り過ぎた後、静にピアノの調べに乗って妖精たちは夢の世界に帰っていく。どうすればこんなに美しい夢の世界が作れるのだろう。彼の感性は向こう側と繋がっているとしか思えない。感動の刹那。それが彼の作る歌だ。


If  I Had Anything

■小学生の合唱隊で歌わせたくなるほど、純朴で優しい響きのミディアム・バラードだ。しかも職業作家が作ったという作為性がまったく感じられないのだ。子供たちが学校の帰り道に素朴に口づさんだメロディをそのまま発展させて作り上げたような自然な響きだ。それだけに自分の中に残っている子供心に無垢に響いてきてなんともいえなくなる。こういう風景が見える人を私は人間として好きだ。彼は熱い心を持ちながらも、とても優しい眼差しで他人を見つめる思慮のある素敵な大人なのだろう。この曲は、そんな人じゃないと絶対に作れない。

ということで、MIZUKIさんのレビューでした。(アップが遅くなって本当にごめんなさい。)
最後に、例によってMIZUKIさんが書いた再発盤に収録された名曲のレビューを載せて締めくくることにしましょう。

I Should Understand

印象的なアコギのカッティング。一瞬にして広がる哀愁のある世界。さすが天才。と軽々しくはいいたくないが、とても視覚を刺激されるドラマチックなメロディ。このドラマ的な歌世界とインタープレイを繰り広げる流れるようなアレンジは相変わらず素晴らしい。が、もっと素晴らしいのが彼の歌とメロディ。冬の朝を思わせる崇高でロマンティックな世界が曲の隅々まで息づいている。人生で決して見落としてはならない宝物をまた1つ見つけた気分だ。


では、また次回に。


ご感想とかご意見とかがありましたら、どしどしメールくださいね。