第90回 アッシュのライヴ音源その2 

 さて、アッシュの音源集の詳細第2弾です。

まず最初は、84年のロッテルダムでのライヴです。記録を紐解くと「7月7日のロッテルダムのライヴにブートレッグの音源と映像がある」となっていますので、この日の音源で間違いないと思われます。メンバーは、ベースはマーヴィンで、あとはアンディー、スティーヴ、ロ−リーのおなじみの3人というラインナップですね。

1.THE KING WILL COME / 2.DON'T COME BACK / 3.CAN'T FIGHT LOVE / 4.LIVING PROOF / 5.STREET OF SHAME / 6.PEAPLE IN MOTION / 7.NO MORE LONELY NIGHTS / 8.UNDERGROUND / 9.PARFECT TIMING - ENGINE OVERHEAT / 10.BLOWIN' FREE

マーヴィンの頃のライヴと言えば、ブートレッグの「NO MORE LONELY NIGHTS」が有名ですが、それよりもこちらのほうが聴きやすい音質になっています。

M1ですが、おなじみのイントロからローリーのリフが出てくる頃にはもう、マーヴィンのベースの音がタイトでパワフルなことに気づかされてしまいます。サビでは、マーヴィンの歌の上手さが目立ちます。マーティンやトニーも歌のうまいベーシストでしたが、マーヴィンの上手さはレベルが違いますね。それよりもローリーのギター・ソロです。ここでは、ディレイ(たぶんテープ・ディレイ)を効かせて、時にはまるでギター2本で弾いているような感じを出しています。まあ、ブライアン・メイばりにハーモナイズさせて弾くことはない(というか、はなからそういう意図はない)のですが、この曲のディレイを使ったソロは僕も初めて聴きました。

M2は、意外なほどノーマルな音質でのイントロに意表をつかれますが、マーヴィンのベースとヴォーカル、ローリーのギターのコンビネーションには目を見張るものがあります。僕の好きな曲ではあるのですが、本当にカッコいいテイクですよ。マーヴィンの声は、こういうメロディアス・マイナーでハードロックっぽい曲には抜群の相性の良さを見せてくれますね。M3はこの頃(トレバーやマーヴィンのいた時代)の他には演奏される機会のなかった曲ですね。演奏はずいぶんハード・ロックっぽく聞こえますが、いかんせん楽曲的にはクオリティの低い曲ですので...。(^^;

M4は定番曲ではあるのですが、ここでもマーヴィンのヴォーカルに圧倒されてしまいます。名曲に新しいパワーが加わったというところでしょうか。ローリーのソロも気合いが入っていますね。後半のソロでは、またディレイによる効果が見られます。M5も、ライヴでは珍しいですね。演奏自体はともかく、楽曲的には辛いものがあります。M6はマーヴィンの参加した(当時の)最新アルバムからの1曲です。ここまでくると、完全にアメリカン・ハード・ロックですね。高音部でのマーヴィンのヴォーカルが微妙にはずれるのが致命的かもしれません。ちょっと聞きづらいです。

M7はローリーの奇跡の(失礼!)名作です。マーヴィンの弾くベース・ラインは、アメリカ盤のリミックス・テイクよりもさらにタイトでパワフルです。そのベースとローリーのヘナヘナヴォーカルとのアンバランスが面白いですね。M8は、イントロからそのままアンディーのギターの弾き語りでかなり引っ張るアレンジになっています。面白いのは面白いのですが、アンディーの歌は今ほど上手くはないので、良し悪しかもしれません。ラストのハーモニー・ツインを聴かせる意図なのか、マーヴィンのベースは押さえ気味です。

M9も珍しい曲のメドレーですね。前半はハード・ロック的な曲で、イントロはなかなかカッコいいのですが、楽曲はイマイチです。後半もハード・ロック調の曲ですが、これも楽曲に魅力がないですね。さて、定番中の定番のM10です。ノーマルなギターの音を使っているせいか、この曲だけはいつものアッシュのイメージで聴けますね。マーヴィンのヴォーカルは、ここでも音程が外れ気味です。

全体的にはかなりパワフルな演奏で、ハード・ロック的なものを強く感じます。いくつかの書物でアッシュのことをハード・ロックの範疇に入れている文章があり、ファンの間でもいろいろ論議を呼んでいますが、何も知らない人がこの時期のライヴを見たら、(M10あたりはともかくとして)ハード・ロック・バンドだと思っても仕方ないかもしれません。(僕ならばアッシュのことをハード・ロックには入れませんけれども。)

あと、マーヴィンのヴォーカルです。曲がハマれば、その歌唱力で最上級のパフォーマンスを「魅せて」くれますが、ハマらなければ耳を覆いたくなるような場面もあり、全体的には不安定です。10年後のソロ・アルバムのようにハードでメロディアスなマーヴィンに合う曲ならいいのでしょうが、楽曲的に問題ありという感じですね。

ということで、この音源は「M2、M4、M7あたりの曲で、アッシュのハードな一面を聴く」という感じでしたね。

 続いて、「MAGIC NIGHT AT ODEON」です。これは、88年3月4日のライヴですね。場所はハマースミス・オデオン。BBCの音源による、テッド復活のライヴです。

1.INTRO / 2.TANGIBLE EVIDENCE / 3.LIVING PROOF / 4.GENEVIEVE / 5.NO MORE LONELY NIGHTS / 6.THE KING WILL COME / 7.THROW DOWN THE SWORD / 8.CLOUSSAU / 9.IN THE SKIN / 10.PHOENIX / 11.BLOWIN' FREE / 12.JAILBAIT / 13.BAD WEATHER BLUES(F.O.)

曲目は、概ねBBCのトランスクリプション・ディスクの順番なのですが、M10とM13はBBCのディスクには含まれておりません。メンバーは、M6からはオリジナル・メンバーの4人ですが、M5まではテッドの代わりにジェイミー・クロンプトンがギターを弾いています。

M1は、BBCのアナウンサーによる番組のMCですので、実際はM2からがギグということになります。この時のライヴについては、ずいぶん前に(一度、BBCのトランスクリプション・ディスクを入手したとき)に書いているので大体の流れはわかるのですが、このアルバムでは曲間のMCや歓声の部分に不自然な編集が見られます。
たとえば、M2の終わりには明らかな編集があり、あたかもテッドが最初からいるよう聞かせたいという意図が読みとれますね。(^^; 歓声の大きさも激変したり、なんか変な感じです。これならば1976年のラジオ音源みたいに(たとえ流れを細切れにする酷い編集ではあっても)全曲F.I.で入ったほうがまだましだと思います。まあ、個人の好みだとは思いますけどね。

曲で言うと、アンディーが歌うM5がやはり珍しくて面白いですね。(作者のローリーよりも歌は上手いけどね。)ここでは(オリジナルではローリーでしたが)アンディーが弾いていると思われるギターソロがメロディアスでいい感じですね。
テッドのギターは、ブランクを感じさせる曲もあるのですが、たとえばM9のスライド・ギターなどはさすがの演奏を聴かせてくれています。

M10ですが、前後に編集が入り、なんとなく会場の響きも変わっています。また、M13は1分程度でF.O.して終わってしまいます。ずっと前に書いた「HAMMERSMITH 88」 というブートレッグではフルに収められているんですけどね。テッドのスライドギターが最高なので、聴いたことがない人はそっちのブートで聴いてみてくださいね。

ということで、どうせ聞くのならば、素直にBBCのディスクを聴いたほうがいいよねと思えるアルバムですね。まあ、もとのブートレッグCD(CDR)は、20枚そこそこしか作られていないそうですから入手は事実上不可能なので、いらぬ心配かもしれませんけどね。(^^;


では、また次回に。