ウェイン・ショーター、アルバム紹介 1991年



   『』この色で表記されたタイトルは、ショーター不参加の曲です。





   Joni Mitchell "Night Ride Home"      (Geffin)
   ジョニ・ミッチェル『ナイト・ライド・ホーム』


01、Night Ride Home
02、Passion Play
03、Cherokee Louise
04、The Windfall
05、Slouching Towards Bethlehem
06、Come in from the Child
07、Notthing Can Be Done
08、The Only Joy in Town
09、Ray's Dad's Cadillac
10、Two Grey Rooms

   Joni Mitchell (vo,g,key) Larry Klein (b,per)
   Wayne Shorter (ss)  /他     1991


 ジョニは本作、次作(『Turbulent Indigo』)と、アコースティック・ギターを中心にしたシンプルなサウンドに戻る。ジョニのギター弾き語りを中心に、ベースやパーカッションなど2、3の楽器のみを加えたスタイルで、ショーターは2曲に参加している。
 こういった、いわばフォーク的なサウンドの作品を、もっともジョニらしいと感じるファンも多いことだろう。とくに本作はよくできた曲・演奏が多く、安定感のある聴きやすい作品となっている。
 こういった作品を、ジョニが原点に戻った完成度の高い佳作と見るか、もしくは新しい試みもなく小さくまとまってしまった作品と見るかは、リスナーひとりひとりの趣味によるだろう。
 個人的にはもう少し何かを試みた作品のほうが好みで、次作(『Turbulent Indigo』)のほうが好きだ。しかし、本作を良いという意見を否定する気はない。いわゆるフォーク・ソング系のシンガー・ソングライターが好きな人にはいいアルバムだろう。
 さて、ショーターの参加曲だが、次作からはまたショーターの参加曲が増えるのだが、本作ではまだ2曲と少ない。が、サウンドがシンプルになったぶん、よく映えるようになったとは思う。どちらも歌声によりそうような好演だ。


03.3.5


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Salif Keita "Amen"    (Mango)
   サリフ・ケイタ『アメン』


01、Yele n Na
02、Waraya
03、Tono
04、Kuma
05、Nyanafin
06、Karifa
07、N B'l Fe
08、Lony

    「04」
    Salif Keita (vo) Wayne Shorter (ss)
    Kante Manfila (g) Joe Zawinul (key,syn)
    Etienne M'Bappe (b) Paco Sery (ds) /他   1991


 80年代の終わりにワールド・ミュージックのブームがあり、さまざまな国の音楽、とくにアフリカの音楽が日本でも手軽に聴けるようになったが、そのブームを作り出した立役者というと、ぼくの記憶ではまずサリフ・ケイタ、そしてちょっと遅れてユッスー・ンドゥールが出てきた……という感じではなかったかと思う。
 サリフ・ケイタは1949年、アフリカのマリで生まれている。サリフ・ケイタの名前が世界的になったのは87年の傑作『Soro』からで、ぼくが最初に聴いた彼のアルバムもこれだった。この『Amen』はその『Soro』の次々作にあたり、ジョー・ザヴィヌルがプロデューサーとなり、演奏にも参加している。アフリカ音楽好きのザヴィヌルらしい。このあとサリフ・ケイタはザヴィヌルのアルバムにゲスト参加している。
 ショーターの他、カルロス・サンタナ等、豪華ゲストが参加しているが、ショーターとしてはウェザーリポート解散以来のザヴィヌルとの共演ではないか。
 ショーターが参加しているのは "Kuma" だが、おそらくこれはトラックが完成した後にオーバーダビングで "共演" したのではないだろうか。対話性が感じられないし、まとまったソロ・パートもなく、ショーターはボーカルとコーラスの間を縫うように演奏している。
 はっきりいってショーターめあてに聴いてもそれほど得るものはないアルバムだろう。しかし、サリフ・ケイタ〜ザヴィヌルのコラボレーション作品としては立派なアルバムであり、聴いて損をするようなものではない。


05.4.26


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   W.Shorter, H.Hancock, S.Clark, O.Hakim  "Super Quartet in Europe"


「Disc-1」
01、Goodbye Pork Pie Hat
02、Virgo Rising
03、Footprints

「Disc-2」
04、Cantaloupe Island
05、Maiden Voyage
06、On the Milky Way Express 
07、'Round Midnight

    Wayne Shorter (ts,ss) Herbie Hancock (p,key)
    Stanley Clark (b) Omer Hakim (ds)   
          Live in Hamburg, Germany   1991.7.14


 これはブートCDR。2枚組で全体で89分ほど。音質はオフィシャル並みの高音質だ。
 1991年はショーターはハービー・ハンコックと一緒に多くの活動をしている。しかしライヴ活動のみで、この年の音源は現在までオフィシャルではリリースされていない。翌92年には例の『A Tribute to Miles』のバンドで共にツアーを行い、アルバムもリリースされているわけだが、ハッキリいって92年の活動より、この91年の音源こそオフィシャルでリリースしてほしいものだと思う。この年の演奏のほうが音楽的にずっと素晴らしく、現在につながる要素を多く含んでいるように思う。さいわいブートレグで数種類出ているし、いずれも音質はオフィシャル並みなので、まあ、困りはしないのだが、できたらオフィシャルで出すべきだろう。
 さて、この年のショーターとハンコックの共演は二種類のバンドのものがあり、いずれもカルテットによる演奏だ。エレクトリックもアコースティクもあるが、このアルバムはスタンリー・クラークとオマー・ハキムを加えた豪華メンバー(スーパー・カルテット)による、エレクトリック・バンドによるもの。
 ちなみにスタンリー・クラークとショーターの共演はオフィシャルでも数回あるが、こんなにたっぷり聴けるのはこのバンドくらいではないか。ハキムとショーターは後期ウェザーリポート以来の共演になる。
 さて、エレクトリック・バンドでのワン・ホーンというと当然ウェザーリポートに似た編成になるのだが、このバンドはウェザーリポートともウェザー解散後のショーター・バンドともかなり印象の違うサウンドになっている。
 一言でいえば編曲による構成的なサウンド作りの部分が薄く、即興演奏主体のよりジャズ的な演奏になっている。ハンコックも多くの部分でシンセではなくアコースティック・ピアノを使っている。これはこのような臨時編成のスーパーバンドだからこうなったという面もあるだろうが、けっこう意識的にそうしていたのではないか。
 逆にいうと、本作と聴き比べることで、ウェザーリポートやウェザー解散後のショーターのエレクトリック・バンドが、エレクトリック楽器を使用したジャズというのとも違う音楽であることが手にとるようにわかる。

 全7曲中、ショーター作の曲が3曲、ハンコックが2曲、スタンダード2曲という構成。ショーター作の曲が多く、しかも往年の名曲が並んでいる中でショーター作の2曲だけが新曲である点から見て、ひいき目に見なくてもこのグループはショーターがリードしていた気がする。
 冒頭の "Goodbye Pork Pie Hat" はご存知のとおりチャールズ・ミンガスのオリジナルだが、ショーターとクラークがクラークの『If the Bass Could Only Talk』(88) で共演した曲でもあり、ショーターとハンコックがジョニ・ミッチェルの『Mungus』(78) で共演した曲でもある。クラークがよくライヴでとりあげる曲なんで、クラークの意向で取り上げたような気がする。
 続く "Virgo Rising" と6曲めの "On the Milky Way Express" はともにショーターの曲で、オフィシャルではこの後『High Life』(95) に初出となる新曲。オーケストラによって彩られた『High Life』のヴァージョンもいいが、カルテットによるこのライヴ演奏もそれとは違った魅力がある。
 続いては "Footprints", "Cantaloupe Island", "Maiden Voyage" と言わずと知れた名曲が続く。ファンならさんざん聴きつくしてしまった曲だろうが、エレクトリック・バンド用に編曲し直されているので新鮮に聴ける。こういうのはエレクトリック・バンドのいいところだ。
 最後の "'Round Midnight" はセロニアス・モンクのオリジナルで、ショーターとハンコックにしてみればマイルス・バンド時代に数限りなく共演した曲だろう。こうしてみると2曲ともスタンダードといってもジャズマンのオリジナルだ。

 全体的にこの日のショーターは好調で、とくに前半が良い。ハンコックも冴えている。ただし、ショーター=ハンコックのインタープレイはこの後のアコースティック・グループのほうがより深まっている気がする。
 けれども、こういったスーパー・バンドの悪い点も少しは出ていて、つまり各ミュージシャンのソロ・パートがたっぷりとられて、一かたまりの演奏というより、個人技の総合みたいな面もないとはいえない。それが悪いという気もないのだが、個人的にはベテランが集まってそれぞれに自分の演奏をしたというだけの民主主義的な演奏にはスリルを感じない。
 このグループは作曲面も含めてショーターのリードと、それにからんでくるハンコックとの対話性、そしてエレクトリック・グループによる演奏のため、有名曲の編曲が変わっている点が、そんなスーパーバンド的な退屈さから演奏を救っている気がする。


04.11.5


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   Helen Merrill "Clear Out of This World"     (Antilles)
   ヘレン・メリル『クリア・アウト・オブ・ディス・ワールド』


01、Out of This World
02、Not Like This   
03、I'm All Smiles   
04、When I Grow Too Old to Dream   
05、Some of These Days   
06、Maybe   
07、A Tender Thing is Love   
08、Soon It's Gonna Rain   
09、Willow Weep for Me

    「01」「09」
    Helen Merrill (vo) Wayne Shorter (ss,ts)
    Roger Kellaway (p) Red Mitchell (b)
    Terry Clarke (ds)        1991.7-9


 ヘレン・メリルのアルバムへの2曲だけの参加だ。
 歌伴もので2曲だけ、ということで、どうせ歌の後ろでちょろっと吹いてる程度なんだろうな……と期待しないで聴いた。
 が、これは違うぞ、と思ったのは冒頭の1曲めの前奏からいきなりショーターのソプラノが入ってきて、印象的なソロを吹き始めるあたり。そしてメリルが歌ってるあいだもずっとバックでアドリブし、間奏部ではたっぷりソロを吹き……と、はっきりいってボーカルを無視して、1曲ずっとショーターのソロを聴いていることもできる。これはかなり聴きごたえがある演奏だ。他の伴奏がピアノ・トリオだけというのも余計な音が邪魔にならなくていい。
 もう一曲はラストの"Willow Weep for Me"。個人的にはビリー・ホリディの歌とジョゼフ・ロージーの映画『エヴァの匂い』を思い出すナンバー。今度はテナーで入ってきて、これもまた聴きごたえがある演奏がたっぷり聴ける。
 わずか2曲の参加とはいえ、これはなかなか見っけもんだった。

 遅ればせながら、アルバムそのものについて。
 とくにジャズ・ボーカルに興味がない人はそんなもんだと思うが、個人的にヘレン・メリルのアルバムで聴いたことがあるのは『ウィズ・クリフォード・ブラウン』 (54) とこれだけだ。間に30年以上の開きがあるのだが、そのわりにヘレン・メリルの声はあまり変わりがないように思えた。
 アルバム全9曲中、ピアノ・トリオのみをバックに歌っているのが4曲。それにショーターが入った上記2曲のほかに、Tom Harrell というトランペッターが入った曲が3曲ある。
 考えてみれば、歌伴ものは数多いショーターも、ジャズ・ボーカリストの歌伴はかなり珍しいといえる。


03.7.5


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   Herbie Hancock Quartet "Masqualero"  


01、(Announcement)
02、All Blues
03、Masqualero
04、'Round Midnight
05、(Member Introduction)
06、Pinocchio
07、Solar
08、Dolphin Dance

    Wayne Shorter (ts,ss) Herbie Hancock (p)
    Bunny Brunel (b) Gene Jackson (ds) 
              Live in Warsaw 1991.10.24

 これはブートレグCDR。収録時間は全体で76分ほど。音質はオフィシャルなみの高音質だ。
 この年の夏には、ショーターとハンコックはスタンリー・クラーク、オマー・ハキムとともに「Super Quartet」と名乗って活動していたが、これはメンバーの違うアコースティック・カルテットによる演奏だ。
 ベースとドラムはどうも当時のハンコックのワーキング・バンドのピアノ・トリオのメンバーらしい。オフィシャル盤に関するかぎりハンコックは長い間ピアノ・トリオのアルバムを作っていないが、ライヴにおいてはトリオ編成のワーキング・バンドでの活動を行っており、93年のライヴを収録したブートレグにも同じドラマーの名前が見られる。このハービー・ハンコック・カルテットというのは、そのハンコックのワーキング・バンドのアコースティック・ピアノ・トリオにショーターが加わったもののようだ。
 ハンコックのワーキング・バンドによるアコースティック・カルテットでは、ほぼ同時期の92年3月のマイケル・ブレッカー入りのライヴ音源がブートレグで出ている(『The Herbie Hancock Quartet Live』(JazzDoor) )ので、これと本作とを聴き比べてみると面白い。
 なぜ面白いかというと、同じハンコック名義のサックス入りアコースティック・カルテットの演奏にもかかわらず、内容が全然違うからだ。
 どう違うのかというと、まずマイケル・ブレッカー入りの92年のライヴ演奏は、50年代によくあったようなブローイング・セッションである。マイケルがジョニー・グリフィンを思わせるバリバリとしたソロを延々と繰り広げ、リズム・セクションはバッキングに徹する。そしてハンコックのソロ・パートになると、今度はハンコックが弾きまくる……という伝統的なスタイルだ。さらに同じ「Herbie Hancock Quartet」というタイトルでいえば、81年のウィントン・マルサリス入りのアルバムもだいたいこんなスタイルだ。
 対して本作はというと、演奏者間の対話性が重視されたスタイルで、ショーターのソロ・パートでもリズム・セクションは機械的なバッキングをつけるのではなく、グループ全員が対話的な演奏を繰り広げる、60年代のアコースティック・ジャズの雰囲気とも、ましてや50年代のジャズとも一線を画した雰囲気の演奏となっている。
 2001年に入るとショーターはアコースティック・カルテットでの集団即興を追求していくが、本作での演奏はまだそこまでは遠く至ってはないものの、その過程の一形態のようには思える。あるいは『1+1』(97) でのデュオ演奏にベース+ドラムが付いた形というべきか。
 92年の『The Herbie Hancock Quartet Live』の演奏との差を考えれば、本作は「Herbie Hancock Quartet」という名称ではあるものの、実質的にはショーターが音楽的リーダーシップをとっていたか、ショーター〜ハンコックのコンビネーションが音楽的方向性を決めていたのだろう。ま、この二人であれば、どちらのリーダー名義の演奏であるにかかわらず、この二人が揃ったことで自然にこういう形に落ち着いていくのかもしれない。
 曲はいずれも有名曲ばかりだが、演奏の緊密な対話性が実にスリリングで、2001年からのショーター・カルテットへと至る過程と見てもおもしろい。
 いずれにしろ、ブートレグにしておくのがもったいないくらいの名盤だ。はっきりいって翌年の『Tribute to Miles』よりずっといい。なんでこういうのをオフィシャルでリリースしないんだろう。


04.10.10


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