ウェイン・ショーター、アルバム紹介 1990年



   『』この色で表記されたタイトルは、ショーター不参加の曲です。





   Jim Beard "Song of the Sun"     (CTI)
   ジム・ベアード『ソング・オブ・ザ・サン』


01、Camieff   
02、Parsley Trees
03、Song of the Sun   
04、Holodeck Waltz
05、Diana   
06、Baker's Annex   
07、Haydel Bay   
08、Lucky Charms   
09、Long Bashels
10、Sweet Bumps   
11、Crossing Troll Bridge   

   「02」「04」「09」
   Wayne Shorter (ss,ts) Jim Beard (syn,p) Lenny Pickett (cl,ts-2,4)
   Bob Mintzer (bcl,fl-2,4) John Herington (g-4,9) 
   Batundi Pano (b-2) Anthony Jackson (b-4,9)
   Ben Perowsky (ds-2) Dennis Chambers (ds-4) Kenny Aronoff (ds-9)
   Mino Cinelu, Raphael Ican (per-2) Don Alias (per-4,9)     1990


 ショーターの『Phantom Navigater』(86)にも参加していたピアノ、キーボード奏者ジム・ベアードのアルバムだ。
 その後の活躍を見ても、ベアードは演奏者というより、サウンド全体を作り上げていくという作業に力を発揮するタイプの人のようだ。このアルバムでも自分が前面に出てきて弾きまくるというよりは、たいていの曲で別のソリストをたてて彼自身はサウンドを総合的に作っていく側にまわるという形で演奏をしている。
 そして、そのソロ奏者として参加したのがショーター、マイケル・ブレッカー、トゥーツ・シールマンスの3人で、それぞれ3曲づつリードをとっている。

 ベアードはもともとウェザーリポートに強い影響を受けた人らしく、冒頭の「01」ではさっそくウェザー的なリズムのナンバーをやっている。が、躍動感がなくて、迫力不足の感は否めない。むしろ2曲め以下のソフトな感じの曲のほうが、この人の持ち味ではないか。
 これらの曲は、どこか懐かしいような暖かい雰囲気がする。遊園地のスチーム・オルガンの響きを思わせるような、子供部屋で聴く音楽のような感じだ。フカフカのソファに横になっているような気持ち良さだ。
 ショーター参加の3曲はどれもショーターの個性に合った曲で、曲数は少ないながらけっこうたっぷりショーターの演奏を聴ける。不思議の国に迷い込んだような印象の"Parsley Trees"や"Holodeck Waltz"もいいし、"Long Bashels" の穏やかな序奏から一気のショーターのソロが始まるところなど、大好きだ。
 大傑作というのではないが、聴いていて気持ちいい好作品だと思う。

 それにしてもベアードの一番の欠点は、ジャケットのセンスの無さではないだろうか。なんだか聴く気がおきないジャケットばかりが目につくのだけれど……。


03.11.14


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Haru "A Galactic Odyssey"             (eau)
   HARU『銀河宇宙オデッセイ』


01、Odyssey Overture    
02、IO
03、Fossil Cosmos     
04、Time Paradox    
05、Odyssey Episode
06、Lunar    
07、Takion 
08、Nebula 
09、Odyssey Theme   

    Haru Takauchi (g,syn) Wayne Shorter (ss,ts)
    Bob Schwimmer (p,syn) Arto Tuncboyaci (vo.per)
    Koji Ohneda (a-b) Jeff Andrews (el-b)
    Danny Gottleb (ds)      1990


 ぼくは本作のショーター参加部分をかなり気に入っている。ショーターのある部分を代表する作品ではないかと思う。
 それは、ショーターとシンセサイザー・ミュージック(シンセ音楽)との共演という部分で、本作以上の規模でシンセ音楽と共演したショーターのアルバムはほかにないからだ。
 ここでいうシンセ音楽とはキーボードにシンセを使ってみました、というだけのフュージョン作品のことではなく、シンセを多重録音するなどしてシンフォニックなサウンドを作り出す、例えばヴァンゲリスや、ジャン・ミシェル・ジャール、冨田勲や喜多郎などの音楽のことだ。どうも『Atlantis』等でのショーターのシンセサイザーの使い方を見ていると、ピアノやキーボードとして使っているという気がする。しかし、一般的にはシンセはピアノ等より後ろに、いわば背景のように使う使い方があり、そういうやり方で本作はシンセを効果的に使っていて、そのため広い空間を思わせるサウンドを作り出すことに成功している。
 そういったシンセ音楽とバンドの演奏=即興演奏を融合するというのが本作の基本的な方法だろう。
 個人的にはシンセ音楽はBGMとしてはかけておくのは好きなのだが、スリリングさやノリに欠けるので、それ以上のものとしては聴けない。こういった音楽をバックにしてジャズ・インプロヴァイザーのソロ・プレイを加えたら、もっとのめり込める音楽になるのにと思うのだが、その場合のインプロヴァイザーとして、ショーター以上の適任はちょっと想像できない。
 例えばヴァンゲリスの『ブレードランナー』のサントラの"Love Theme"ではサックス・ソロがフューチャーされているが、雰囲気作りの効果音の役割しかはたしていない。例えば本作でのショーターのように、サックス演奏そのものによって音楽に質的な変化をもたらすものにはなっていないからだ。

 さて本作はもともとはNHKスペシャルの『銀河系オデッセイ』というシリーズ番組のサウンド・トラックとして作られた音楽だそうだ。
 Haruという人は日本人ジャズ(フュージョン)ギタリストだそうで、どこからこのようなシンセ・サウンドへ指向したかはわからない。あるいは、科学系番組のサントラということで、カール・セーガンのTVシリーズ『コスモス』に使われて評判になったヴァンゲリスの音楽のことが念頭にあったのかもしれない。
 ショーターはゲスト参加であるが、全9曲中4曲に参加していて、かなりたっぷりショーターのソロが聴ける。
 ざて、9曲全曲がいいとは思わない。CDをそのまま聴くと、一曲目にいかにもNHK風の大仰なテーマ曲が出てきて個人的にはゲンナリしてしまう。たぶんオープニングのナレーションのバックのBGMだろう。その他にもショーターが不参加の曲の中には、たんなるBGM的なサウンドもあるし、宇宙の雰囲気ではないものもある。たぶんそのような音楽が必要な箇所があったのだろう。アルバムの性格上しかたがない。
 そこで、本作を宇宙をテーマとしたコンセプト・アルバムとして聴くためには、まずMDに録音するなどして、ショーター参加の4曲("IO"、"Odyssey Episode"、"Takion"、"Nebula")と、ショーターは不参加だがエンディング・テーマ("Odyssey Theme")を、この順で前に出してみてほしい。これだけで合計30分弱、かなり浸れる長さだ。正直ぼくは最初この5曲ばかりを繰り返し聴いていた。
 この5曲がこのアルバムの核であり、宇宙サウンドを体現している曲だ。つまり、このHaruという人、アルバムの一番大事な曲でショーターを使っている。だからショーター参加曲をとり出して聴いただけでアルバムの核を聴くことができ、それに、この順で聴くことによって新しい流れができる。
 では、この5曲を聴いてみよう。まずは"IO"。これは丁寧に作編曲されたサウンド指向の曲で、後半になって満を持してショーターの登場となる。ショーターのソロ、いいソロはとっているが、もう少し聴きたいかなと思うと、2曲目のバラード、"Odyssey Episode"では、シンセ、ギター・シンセをバックに一曲まるごとショーターがソロが聴ける。うまい展開だ。それに美しい。そして続く"Takion"がこのアルバムのクライマックスだろう。オープニング、巨大機械の作動音みたいな不気味な音が響き、一気にショーターのフリー・ブローイングに移る。アコースティック・ジャズのスタイルだが、それを宇宙的イメージの効果音が包みこむ。この曲も一曲まるごとショーターのソロだ。演奏の白熱とともに緊張感がいやがおうにも高まっていき、そして高まり過ぎてきた所で"Nebula"でホッと一息。これもうまい展開だ。この曲はくつろいだ雰囲気のセッションで、ショーターもリーダーのHaru氏もソロを繰り広げ、親しげ音楽的会話を交わす。そして、もろに宇宙をイメージしたエンディング・テーマで、銀河の旅の終わりをいい雰囲気で演出してくれる。
 さて、本作でのショーターの演奏の特徴はというと、大胆に「はずす奏法」を繰り広げている点につきるだろう。BGM的に安定してしまおうとするシンセ音楽を、リズムをずらし、メロディを逸脱させることで、音楽全体に浮遊感をもたせている。その効果は"Nebula"を聴くと一目瞭然だ。安定したセッションに、ショーターが登場すると奇妙な浮遊したオーラが加わるのだ。とくに"Takion"での演奏は、ほとんどメロディもなくして、リズムを無視した音を大量にブチ込んでいくことだけに賭けてるような凄絶さだ。これなんかショーターの音だけを取り出して聴いたら、いったい何を吹いているのか、まったくわからないのではないか。
 ということで、まずこの5曲をこの曲順で聴くことをおすすめする。

 なおこの後、ショーターはまた広がりのあるシンフォニックな響きとの共演という路線へ進んでいく。しかしそれは本作のようなシンセ音楽ではなく、ハバードの『The Body & the Soul』(63)以来途絶えていたオーケストラの編曲としてであり、『High Life』(95)『Alegria』(03)といった作品に結晶していく。


03.2.14


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Masahiko Satoh "Randooga --selected live under the sky '90--"  (Epic)
   佐藤充彦『ランドゥーガ』


01、磯浦網引き唄 (Seine Dragging Song)
02、陵王伝 (The King Behind the Mask)
03、捨丸囃子 (Sutemaru)
04、井戸替え唄 (Well Digger's Song)
05、田の畔節 (Tanokuro-Bushi)
06、鬱散・うっぽぽ (Ussan-Utpopo)
07、稲が種ぁょー (Seeding Down)

    佐藤充彦 (key) Wayne Shorter (ss,ts) 梅津和時 (as) 峰厚介 (ts)
    Ray Anderson (tb) 土方隆行 (g) 岡沢章 (b) Alex Acuna (ds)
    Nana Vasconcellos, 高田みどり (per)        1990.7.28-29


 「ランドゥーガ」というのは佐藤允彦が提唱した集団即興演奏の方式で、あらゆる音楽ジャンル、楽器の種類、演奏技術にこだわらず、集まった人たちが何の規制をうけずに自由に音を出し、そこから自然に何かが生まれる……ということを理想とした音楽だそうだ。しかし実際はなかなかそうはいかないので、ある程度のルールを決めて指揮者の指示に従ってやっていくそうだが。(このへんのところは専門のページもあるので、そちらをあたってほしい)
 もう既に何枚かアルバムが出ているが、本作はその最初期の試みのようで、ここでは日本の民族音楽がテーマになっている。ジャズはいろいろな国の民族音楽から影響を受けてきたが、日本の伝統音楽から影響を受けたことがなかった……ということからの発想らしい。
 さて、しかし日本人ミュージシャンだけで日本の民族音楽がテーマにやったのではおもしろくないとの理由で、アクーニャ(アルゼンチン)、ヴァスコンセロス(ブラジル)と様々な国からミュージシャンを集め、メイン・ソリストとしてはもっとも根源的な、原始の深みから音楽が湧き上がってくるタイプのミュージシャン……との理由でショーターを選んだそうだ。ショーターも日本の古い音楽に興味を持っていたところなので、よろこんで引き受けたという。
 演奏自体は90年のライヴ・アンダー・ザ・スカイで2日間行われたライヴからセレクトされた録音で、たっぷり73分収録されている。
 ということで日本の民族音楽とショーターとの共演という興味もあれば、単純に佐藤充彦とショーターとの共演という点も聴きどころだし、もっと単純には、1時間以上にわたってショーターのソロがたっぷりと聴けるという点だけでもファン必聴のアルバムといえる。

 さて、聴いてみると、そういった方法論を意識しなくても単純にいい音楽だと思った。難解になることなく親しみやすくて、しかし通俗的ではなく、明快で迫力のあるアンサンブルもあるのだが、全体に自由さが感じられる。
 また、この時はショーターは調子が良かったのか、全編にわたってショーターのソロは涙が出そうになるほど素晴らしい。ソリストの自由さを編曲が殺していない所がこのような名演につながってるんだろうか。全体の編曲も日本的な色彩を出すことだけに執着せず、音楽的におもしろいしかけを随所で発揮していて、聴いていると「ランドゥーガ」という企画以外でもまたショーターと佐藤充彦の共演が実現しないかな……と思わせる内容だ。

 まず冒頭の「磯浦網引き唄」は和風ロックとでもいった曲調。分厚いアンサンブルの中からショーターのソプラノが浮かび上がってくるところはかなりカッコいい。そしてたっぷりとショーターのソロを聴かせた後、後半は各奏者入り乱れてのソロ合戦となる。15分を超える長い曲だが、飽きさせない展開だ。
 続く「陵王伝」はショーターと佐藤充彦の効果音付きデュオといったかんじに始まる。このデュオ風の部分は「ランドゥーガ」のコンセプトとは無関係に、単にデュオ演奏としてかなりのレベルのもので、ひきこまれる。そしてだんだんと別の楽器も加わってきて、後半はミディアム・テンポでアンサンブル主体の演奏。ここも展開の妙が冴える。
 「捨丸囃子」はマリンバのソロによる序奏で始まるが、マリンバはクレジットはないので誰が叩いているのか、ここもかなりいい。続いてアンサンブルがゆっくり入ってきて、今度はテナーでの長いソロに入る。これもテンションが高くて素晴らしいソロ。
 「井戸替え唄」はショーターのソロはなく、レイ・アンダーソンとアンサンブルとのコール・アンド・レスポンスで演奏される短い演奏。
 続く「田の畔節」、「鬱散・うっぽぽ」の2曲では大ファンク大会といった内容になり(盆踊りファンク?)、どちらも長尺で聴きごたえ充分な演奏。分厚いアンサンブルもよく鳴ればソロも自由自在に歌い、後半のクライマックスだろう。とくにファンキーに盛り上がるアンサンブルとショーターの哀愁味をおびたサックスのコントラストが、個人的にはすごく好きだ。
 ラストの「稲が種ぁょー」はショーターをソロを全編にフューチャーしたトーン・ポエム風のバラードで、日本の民族音楽というテーマから離れても単純にジャズ演奏としてため息が出る名演。静かな余韻を残して演奏を締めくくってくれる。


04.2.11


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Wayne Shorter "Copenhagen 1990 feat. Larry Coryell"  (MegaDisc)


「Disc-1」
01、Sanctuary
02、Footprints
03、The Three Marias

「Disc-2」
04、Virgo Rising
05、Pinocchio 〜 On the Milky Way Express
06、Endangered Species

    Wayne Shorter (ts,ss) Larry Coryell (g)
    Jim Beard (key) Jeff Andrews (b)
    Ronny Barrage (ds)       
         Live at Jazzhus Montmarter, Copenhagen  1990.10.7


 これはブートCDRで、音質はきわめて良く、文句無しのオフィシャル並み、収録時間は90分ほど。このままオフィシャル化してもらいたい、必聴モノのライヴだ。
 上記のとおりラリー・コリエルと共演ライヴだが、冒頭で「ウェイン・ショーター・クインテット」と紹介されているので、ショーターのバンドにコリエルが加わったかたちだろう。
 ぼくは本来有名ミュージシャンどうしの共演が必ずしも良い結果をもたらすとは限らないと思っている。とくにソリストどうしの共演となると、たんに交互にソロをとってるというだけで、別に一緒に聴いたからといってどうなんだ? と言いたくなる場合も多い。
 しかしこの共演は凄い! しょっぱなからショーターのサックスにからみついてくるコリエルのギターを聴いて、相性の良さにゾクッとする。
 コリエルは主にアコースティック・ギターを使っていて、アンサンブルの部分では目立たないきらいはあるが、シブくて魅力的な音色だ。ベアードもソロでは主にアコースティック・ピアノの音に近いキーボードを弾いているし、バンドそのものも基本的にはフュージョン/エレクトリック・ジャズでありながら、みょうにアコースティックな雰囲気を感じるサウンドになっている。躍動感には欠けるかわりに、アコースティック・ジャズ的なくつろぎというのか、そういった感触をうける。
 注目すべきはショーターのサックスの音に対して対話的に応じてくるのが共演歴が長いベアードよりむしろコリエルであるところだ。コリエルはソロ・スペースで即興演奏を繰り広げるだけでなく、演奏全体のなかを自由に泳ぎまわって、さまざまな楽器と対話している。コリエルが加わったことで演奏全体の対話性が増している。
 もちろんコリエルのソロも充分に良い。好ましいのはコリエルという人がクールに燃え上がるタイプのギターリストである点だ。ショーターとギターリストが共演する場合、サンタナのような熱血系であるより、このようなクール系のほうが合う気がする。それにしても、オフィシャル化されたサンタナとの共演ライヴと聴き比べるにつけ、オフィシャル化してほしいのはむしろ本作のような演奏だと思わずにいられない。
 もちろんショーターの演奏もアタマからゾクゾクするほどいいし、ベアードも本作ではかなりいいソロをとっている。いまにも不吉なことがおこりそうな不気味さに満ちた "Sanctuary" はこの曲のベスト・トラックではないだろうか。
 たんに有名ミュージシャンが二人同時にステージに乗ってます的な共演ではなく、1+1が3にも4にもなる共演とはこういうものを言うのだろう。
 70年代からこっち、自分のバンドにギターリストは加えなかったショーターが、1996年のバンドにギルモアを加えたのはどういう心境の変化だったんだろうと思っていたが、この共演が上手くいったからじゃないかと考えるのは考えすぎだろうか。



09.5.11


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   "Stanley Clarke and George Duke - 3"   (Epic)
   『スタンリー・クラーク・アンド・ジョージ・デューク -3』


01、Pit Bulls
02、Oh Oh
03、No Place to Hide
04、Someday Else
05、Mothership Connection
06、Right by My Side
07、From the Deepest Corner of My Heart
08、Lady
09、Find Out Who You Are
10、Quiet Time
11、Finger Prints
12、Always

   「09」
   Wayne Shorter (ss) Joe Henderson (ts)
   George Duke (el-b,vo) Stanley Clarke (key)
   Dennis Chambers (ds) 他      1990


 タイトル通り、スタンリー・クラークとジョージ・デュークが組んだプロジェクトの3作め。メンバーは曲によって異なるが、中心となるのはその2人にドラムのデニス・チェンバースを加えたトリオで、アルバム前半はこのメンバーから想像される通りのファンク大会、後半はメローなスロー・ナンバーで構成されている。
 ショーターはわずか一曲の参加とはいえ、ジョー・ヘンダーソンとの共演だ。ところでショーターとジョーヘンの共演はこれが初めてではなく、67年頃マイルス・バンドに一時期ジョーヘンが参加し、ショーターとのツイン・テナー編成であったことがあるらしい。しかし、この時期の録音はなく、結局ジョーヘンが抜けたクインテットに戻って『Sorcerer』が録音された。
 そんなわけで、ようやくこの2人の共演が聴けるのかと期待してしまったのだが、あまり期待してはいけない内容だった。
 この"Find Out Who You Are"という曲、スタンリー・クラークのボーカルを全編にフューチャーした、ボーカル・ナンバーなのだ。したがって、ショーターもジョーヘンも、歌伴としての演奏になる。歌伴としては申し分ない、というよりかなり名演だとは思うのだが、これほどのサックス奏者を2人も揃えて、何が悲しくてボーカル・ナンバーにしなけりゃいけないのかわからない。歌うのは別の曲にしといて、この曲ではゲスト2人のサックスを充分に聴かせてほしかった。
 と、不満から書いてしまったが、ショーターやジョーヘンを期待しなければ、本作自体の内容が悪いわけでもない。先述した通り"Find Out Who You Are"だって、歌伴とわりきればそれなりにいい演奏だとは思う。
 個人的には後半のメロウな曲でのジョージ・デュークの演奏がなかなか好きだ。"Finger Prints"から"Always"あたりなんかがいい。


03.4.13


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   Bruce Hornsby & The Range "A Night on the Town"    (RCA)
   ブルース・ホーンズビー&ザ・レインジ『ナイト・オン・ザ・タウン』


01、A Night on the Town
02、Carry the Water
03、Fire on the Cross
04、Barren Ground
05、Across the River
06、Stranded on Easy Street
07、Stander on the Mountain
08、Lost Soul
09、Another Day
10、Special Night
11、These Arms of Mine

   「03」
   Bruce Hornsby (vo,p,key,syn) Wayne Shorter (ts)
   George Marinelli Jr.(g,mandolin) Bela Fleck (banjo)
   Joe Puerta (b) John Molo (ds,per)   1990


 1954年生まれのブルース・ホーンズビーは1986年にブルース・ホーンズビー&ザ・レインジとしてデビューし、すぐに "The Way It Is" のヒットを放った。
 ホーンズビーは、デビュー前にピアニストとしてプロ・デビューしないかと誘われたほどのピアノの名手でもあり(やりたい音楽の方向性と違うので断ったそうだが)、実際、デビュー後もピアニストとして様々なセッションに引っ張りだこになった。そのうちの一つ、ドン・ヘンリーの "The End of the Innocence" (87) でショーターと共演。これは曲もホーンズビーとドン・ヘンリーの共作であり、グラミー賞を受賞している。
 さて、これはそのブルース・ホーンズビー&ザ・レインジの3枚めのアルバムで、ショーターとホーンズビーの再共演となる。ほかにグレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアなどもゲスト参加している。

 デビュー直後の "The Way It Is" はホーンズビーのピアノ演奏を大きくフューチャーした、かなりシンプルなサウンドだったように記憶しているが、このアルバムではバンドのサウンドが厚みを増し、逆にホーンズビーのピアノはぐっと抑えられている気がする。あまりにもピアノばかりが注目されるので嫌気がさしてきたのだろうか。しかし、こっちとしてはやはりホーンズビーのピアノをたっぷりと聴きたいというのが本音で、この方向転換は個人的にはそれほどうれしくはない。
 ショーターが参加しているのは "Fire on the Cross" 一曲だが、この曲もわるい曲ではないのだが、ロック的にがっちりとサウンドができているだけに、ショーターの参加も単に中間部と後奏でソロをとってます……というだけの、さほどクリエイティヴでもない共演になってしまった感がある。
 "The End of the Innocence" の夢よもう一度……というふうにはならなかったと思う。個人的にはホーンズビーのピアノとショーターとの共演を聴きたかった。
 ま、アルバム自体を否定する気もないのだが。


05.4.26


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   Santana   "Spirits Dancing in the Flesh"     (SME)
   サンタナ『スピリット・ダンシング・イン・フレッシュ』


01、Let there be light/ Spirits Dancing in the Flesh
02、Gypsy Woman
03、It's a Jungle Out There
04、Soweto (Africa Libre)
05、Choose
06、Peace on Earth...Mother Earth...Third Stone from the Sun
07、Full Moon
08、Who's That Lady
09、Jin-go-lo-ba
10、Goodness and Mercy

   「04」
   Carlos Santana (g) Wayne Shorter (ts,ss)
   Chester Thompson (key) Alphonso Johnson (b)
   Walredo Reyes (ds,per) Armado peraza (conga)  1990


 サンタナは77年の『Inner Secrets(太陽の秘宝)』から80年代を通して、バンド名義では売れセン狙いのポップなアルバムをつくり、個人名義で自分がやりたい音楽を発表していくという分裂状態に陥っていた。
 それが心機一転し、初期のサウンドに戻ってファンを驚かせたのが92年の『Milagro』だ。本作はその『Milagro』の前作にあたり、そろそろ何かが起きそうな予感は感じさせる作品になっている。

 ショーターは "Soweto (Africa Libre)" 一曲だけに参加。イントロから前半にかけてソプラノでバックで色づけをし、ソロ・パートはテナーを吹いている。
 アルフォンゾ・ジョンソンとの共演ということもあって、一曲だけとはいえそれなりに期待はあったのだが、ソプラノ部分はともかく、テナーでのソロ部分は録音的にサックスの音の輪郭がはっきりしなくて、バックの音に埋もれてしまっている。あきらかにサンタナのギターの音のほうがボリュームが大きくミキシングされていて、結局サンタナばかりが目立つように出来ている。サンタナが主役なんだからそれでいいじゃないかといえばそれまでなんだが、こんなふうに仕上げるなら、そもそもショーターをゲストに呼ぶ必要はなかったんじゃないかと疑問が残った。

 余談だが本作3、5曲めにはボビー・ウォーマックがゲスト参加している。


03.11.7


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   Jason Rebello "Clearer View"    (Novus)
   ジェイソン・リベーロ『クリアラー・ビュー』



    Wayne Shorter (producer) 

    Jason Rebello (p,key) David O'Higgins (ts,ss)
    Julian Crampton, Lowrence Cottle (b)
    Jeremy Stacey (ds)        1990


 これはショーターがプロデューサーとしてかかわった仕事で、ショーター自身は演奏には参加していない。

 ジェイソン・リベーロは80年代末からイギリスでおこったアシッド・ジャズの流れの中から登場してきたピアニスト。個人的にはアシッド・ジャズ自体は良く知らないのだが、基本的にはジャズで踊るブームが生まれたイギリスの80年代のクラブ・シーンから登場して、ダンス・ミュージック的な傾向を強めたジャズの流れらしい。
 ジェイソン・リベーロはその中から登場しながらも、むしろアシッド・ジャズの傾向に逆らって、ダンス・ミュージック的なグルーヴよりも、ジャズ的な演奏性を追求していった点で注目されたピアニストだということだ。本作録音時にはリベロは21歳。まさに新進気鋭のピアニストによるファースト・アルバムということになる。
 ショーターが本作をプロデュースすることになったいきさつは、たんにリベーロがテープを送って依頼したら、OKしてくれたとのこと。

 さて、本作の内容はというと、ピアノ・トリオにサックスをプラスしたカルテットでの演奏となるが、サウンドはモロに『Atlantis』の路線の、透明感のある空間的なイマジネーションのひろがりをかんじさせるサウンドとなっている。『Atlantis』の光に包まれた透明な世界に、新人バンドが迷い込んだような雰囲気だ。
 リベーロらは正統ジャズを目指した熱演をみせるが、正直いって、本作でのリベーロの演奏自体には、他のアルバムも聴いてみたいと思わせるような独自の魅力は、まだない気がする。が、このアルバム自体は、『Atlantis』三部作の番外編みたいなかんじで、けっこうたのしんで気持ちよく聴けるアルバムだ。
 『Atlantis』みたいな雰囲気のフュージョン・サウンドをもっと聴きたいと思っても、なかなか似た雰囲気のアルバムも見つからない。そんな思いでいる人には最適な一枚だろう。

 その後、ジェイソン・リベーロはショーターのバンドに参加、しばらくライヴ活動をしていたらしいが、その間のショーターのアルバムはない。ライヴ音源が発掘・リリースされることを期待したい。
 その後もリベーロはソロ・アルバムを発表する一方、スティングのバックなどでも演奏してる。


03.10.5


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