ウェイン・ショーター、アルバム紹介 1989年




   『』この色で表記されたタイトルは、ショーター不参加の曲です。





   Buster Williams "Something More"   (In+Out)
   バスター・ウィリアムズ『サムシング・モア』


01、Air Dancing
02、Christina
03、Fortune Dance
04、Something More
05、Deception
06、Sophisticated Lady
07、I Don't Know What Time It Was

    Buster Williams (b) Wayne Shorter (ts,ss)
    Herbie Hancock (p,key) Shunzo Ohno (tp)
    Al Foster (ds)      1989.3.8/9


 ショーター・ファンならぜひ持っていたいアルバムの一枚。
 このメンバーによるアコースティック・ジャズで、評にもV.S.O.P.みたいだとあったので、そういうものを期待してまず一曲目から聴きはじめ、すぐにそうでないことに気づいた。(まあ、評がアテにならないのは今にはじまったことではないが)
 冒頭2曲(ともにバラード)は、アコースティック楽器を主に使ってはいるが、曲全体に編曲を施したフュージョンだ。しかし編曲中心には陥らず、あくまでソロを前面に出して、編曲はその邪魔をせずに、ソロをバックアップするような形で出来ている。趣味の良さを感じる。それにウマいのかヘタなのかよくわからないバスター・ウィリアムズの、弦の緩んだようなベースの音が波のようにたゆたって、その浮遊感がなかなか心地よい。
 しかし1曲目の"Air Dancing"はショーターが活躍しないのを不満に思っていたら、次の"Christina"はやってくれましたの始めから終わりまでずっとショーターのソロ。ベースが刻むリズムの浮遊感に、心憎いまでにショーターのサックスが合う。
 4曲目の表題曲もこれと同じ路線で、波に揺られるようにショーターとハンコックの演奏が聴ける。これも心地よい。
 3曲目と5曲目がうってかわってストレートなジャズとなる。本作中、V.S.O.P.みたいだと感じられる部分があるとしたら、この2曲のみだ。この2曲、アルバム内での位置からいってメインではなく、他の曲へのアクセントのように置かれているのではないか。しかし個人的にはこのトランペット、ないほうが良かったんじゃないかと思う。地味にたゆたうリズムにサックスの音はうまく溶け込むのだが、トランペットの金属的な音はやけに耳ざわりに感じられるのだ。演奏がどうこういう以前に、この音を聴きたくないという気持ちになる。せめてフリューゲルホーンを使うなどの工夫がほしかった。
 以上5曲がバスター・ウィリアムズのオリジナルであり、ラストの2曲がスタンダードとなる。
 まず"Sophisticated Lady"は別の意味でやってくれましたの、全曲ベースがメイン・メロディを弾く曲。ベーシストってやはりこういうことをやりたいもんなんだろうか? ま、飛ばしてもしまえるので、かまわないけど。
 ラストの"I Don't Know What Time It Was"がトランペットが抜けたカルテットによるストレート・ジャズ。14分におよぶ演奏だが、このメンバーで演って出来が悪いはずもなく、前記耳ざわりだったトランペットも抜けて、もはや快感のみ。しかしワン・ホーン・カルテットでスタンダードを吹きまくるショーターなんて、何十年ぶりなんだろう。(ひょっとしてソプラノでは、初めて?)
 結論。この時期にはめずらしいショーターのアコースティック楽器によるアルバムだが、聴きどころはV.S.O.P.とは違う。まず、夜の海に漂うような濃密な浮遊感を心ゆくまで楽しむべき。その後で"I Don't Know What Time It Was"で、ショーターのスタンダード演奏に酔おう。


03.6.4


『ウェイン・ショーターの部屋』

リストに戻る。



 

   渡辺香津美 "Kilowatt"          (Domo)
   渡辺香津美『キロワット』


01、1000 Mega   
02、Capri
03、No One   
04、Jive   
05、Papyrus   
06、Sunspin   
07、Pretty Soon   
08、Bernard
09、Dolphin Dance   
10、Good Night Machines   

    Kazumi watanabe (g,syn-g,key) Wayne Shorter (ts,ss)
    Patrick Moraz (key) Bunny Brunel (b,syn-b,key)
    John Wackerman (ds,syn-ds,el-vib) Alex Acuna (per)   1989


 世界的に活躍する日本のギターリスト、渡辺香津美のアルバム。
 メンバー編成はレギュラーのギター・トリオを中心に、ショーター、モラーツ、アクーニャという3人のゲストが曲によって加わるという編成。ショーター参加の2曲はどちらもフルメンバーの6人全員参加の演奏である。
 ショーターの他のゲストのうち、アクーニャは元ウェザーリポートのメンバー。残るパトリック・モラーツは元イエスのキーボード奏者で、74年頃リック・ウェイクマンが抜けたために、代わりにヴァンゲリスを入れようとして、ヴァンゲリスが断ったために代わりに加入した人だ。なお、ショーターはミルトン・ナシメントの『Angelus』(94)でジョン・アンダーソンともディスク上では共演していて、イエスとはなぜかちょっとだけ縁がある。

 内容はというと、全体としては明るく健康的なフュージョンだ。デジタル的なシンセの、かわいた感触に覆われていて、ギターの速弾きなどスポーツのような爽快感がある。
 収録曲のタイトルを見てもわかるとおり、南国的な雰囲気をねらったアルバムのようで、そこから『Native Dancer』や中期ウェザーリポートのイメージで、ショーターを……という話になったのかもしれない。しかし、南国とはいっても、本作のは海岸線に沿って続くハイウェイを、冷房のきいたスポーツカーで走っているような南国であり、このようなサウンドとショーターは似合わない。
 と思って聴いていると、"Bernard" だけは仄かな愁いのような湿った感触をもった曲で、この曲でのショーターはいい味を出している。
 ショーター的にはこの1曲を聴くべきアルバムではないか。


03.11.8


『ウェイン・ショーターの部屋』

リストに戻る。



 

   Larry Coryell "American Odyssey"     (NEC Avenue)
   ラリー・コリエル『アメリカン・オデッセイ』


01、Julian's Card   
02、"Rodeo"   
     a) Buckaroo Holiday
03、  b) Corral Nocturne
04、  c) Saturday Night Waltz
05、  d) Hoe-Down
06、El Salon Mexico
07、Adagio for Strings
08、slow part from Concerto for Clarinet
09、New Age in America   

   「07」「08」
   Larry Coryell (g) Wayne Shorter (ss,ts)    1989.9


 かならずしもショーターの本領ではないが、ショーターの別の側面が見られるという点で、本作もショーターのファンとしては聴きのがせないものとなっている。というのも、実は本作はクラシックのアルバムなのだ。
 最初から説明していこう。ラリー・コリエルはもともとはロック・バンドを組んでデビュー、その後ジャズに転向してゲイリー・バートンの『Duster』(67) への参加で一躍有名になる。60年代後半に飛躍的に進歩を遂げるエレキ・ギターのロック的奏法をジャズに持ち込んだという点で有名だ。(少し遅れてジョン・マクラフリンがこれに続く)
 そして70年代のフュージョン時代に入ってビッグ・ネームになる一方、70年代半ばからはアコースティック・ギターのほうがより多彩な音が出せるといって、アコースティック・ギターの演奏に力を注いだ。この時代のアルバム『Two for the Road』(76) ではスティーヴ・カーンとのアコースティック・ギター2本という、とてもおもしろい音楽ができそうにもない編成で見事な演奏をし、特にショーターの "Juju" と "Footprints" をカヴァーして、たったギター2本でよくぞここまで! と注目される。
 本作はそのアコースティック・ギター路線をさらに進めた作品で、基本的にはクラシック・ギター1本による無伴奏ソロで、クラシックの演奏に挑戦した作品である。曲はアーロン・コープランドという人の作曲したものを主にとりあげているが、ぼくはこちらの方面は不案内で、このコープランドという人も知らない。
 ショーターは2曲のみに参加している。合計13分ほどのパートだが、この部分は木管が主役でギターは伴奏という役割のようで、かなりたっぷりショーターの演奏を聴ける。
 デュオといってもハンコックとのデュオのようにジャズによる対話的な演奏ではなく、あくまでクラシックの演奏だ。当然ショーターにしてみれば勝手が違うスタイルでの演奏だと思うのだが、サックスの響きの美しさ、微妙なニュアンスのつけかた等、まさに聴きほれるばかりで、おそらくショーターはクラシックのミュージシャンを目指していてもそれはそれで一流になってたんだろうな、と思わせる。
 静かで、ちょっと古風な響きを感じる演奏だ。


04.1.12


『ウェイン・ショーターの部屋』

リストに戻る。



 

   Andrea Marcelli "Silent Will"       (Verve Forcast)
   アンドレア・マルセリ『サイレント・ウィル』


01、Exit   
02、Silent Will   
03、Final Project
04、Different Moments   
05、Love Rememberd
06、Three Small Dreams   
07、Everyday   
08、Lights   

   「03」「05」
   Wayne Shorter (ss) Allan Holdsworth (g,synthaxe)
   Mitch Forman (p) John Patitucci (b,elb)
   Andrea Marcelli (ds,syn,clarinet,congas)
   Alex Acuna (timbales,cowbells-5)    1989


 リーダーがいちばん無名で、参加メンバーがみんなビッグ・ネームばかりという不思議な編成のアルバムだが、この時期のフュージョン〜エレクトリック・ジャズとしてはかなりの高水準のアルバムだと思う。
 メンバーの曲による入れ替わりは比較的少なく、リズム・セクションはアルバムを通してほぼ同じ(曲によってフォアマンやアクーニャが抜けるぐらい)。フロント陣の編成は、だいたい2つの部分に分かれている。
 つまり、全8曲中5曲はマイク・スターン (g) とボブ・バーグ (ts) をフロントにしたセッションで、1曲だけバーグが抜ける。残る3曲がウェイン・ショーターとアラン・ホールズワースをフロントにしたセッションで、やはり1曲だけショーターが抜ける。と、曲数にするとスターン〜バーグ組の部分のほうが圧倒的に多そうだが、演奏時間にすると27分対20分と、それほど差はない。ショーターが参加しているのは2曲のみだが、いずれも長めの曲なんで、計15分強と、全体の3分の1ぐらいの部分には参加しており、見かけよりたっぷりと聴ける。
 スターンとバーグは共に80年代のマイルス・バンドを支えたメンバーだが、相性が良かったらしく、この時期はさまざまなセッションで、このコンビで録音を残している。本作あたりもその代表作といっていいアルバムかもしれない。
 この後ウェイン・ショーター・カルテットでも組むことになるジョン・パティトゥッチはまだチック・コリアのエレクトリック・バンドにいた頃だが、キーボードのフォアマンともどもショーターの『Phantom Navigater』(86)にも参加していた。アクーニャも当然ウェザーリポートの元メンバーで、ショーターゆかりに人たちである。
 やはり、メンバー中ではアラン・ホールズワースが一番異色だろうか。それとリーダーだが、この Andrea Marcelli というドラム、パーカッション奏者についてはよく知らない。

 全体のサウンドは『Atlantis』以後のショーター作品と同じ流れのような気がする。つまり、ありがちなフュージョンのようにファンクや陽気さを強調せず、これみよがしのテクニックの見せびらかしもせず(一部やってる所もあるが)、なめらかに洗練された、空間的イマジネーションを感じさせるサウンド世界を繰り広げている。
 ドラム、パーカッション奏者のリーダー作といっても、打楽器が前面に出てきて叩きまくるタイプのものではなく、控えめな演奏に徹しているところも好感がもてる。本作の曲は全曲 Marcelli のオリジナルなので、作編曲者としてリーダーシップをとるタイプなのかもしれない。
 さて、本作での興味はなんと言ってもショーターとアラン・ホールズワースとの共演ということになるのだろう。アラン・ホールズワースはイギリスのロック・シーン(プログレ)で名を上げたギターリストで、80年代以後、彼の影響を受けたハイテク・ギターリストが主にヘヴィメタ・シーンで成功したことから有名になったので、超絶テクニック・ギターリストみたいなかたちで有名になってしまったが、本来はジャズ・ピアニストの父を持ち、チャーリー・パーカーやコルトレーンに影響を受けたジャズ指向の強い人で、70年代にはトニー・ウィリアムスのライフタイムにも在籍し、トニーを最も影響を受けた共演者だと言っている人だから、ショーターからそれほど遠い位置にいる人でもない。とくに80年代後半から(ファンの期待に反して)ギター・シンセ(synthaxe)を好んで用い始めてからは、ロックというよりフュージョンといったほうがいい音楽を演奏していて、チック・コリアのエレクトリック・バンドのオープニング・アクトをしたり、マイルス・デイヴィスからバンドに誘われたりしていた(断ったそうだが)。
 個人的にはこのホールズワースとショーターの音楽的相性は、かなりいいのではないかと思っている。ホールズワースはギンギンに弾きまくるというよりは、なめらかで抽象的・空間的なフレーズを作りだしていくタイプであり、本作でもギター・シンセも使用して透明感のある世界を描き出している。 "Love Rememberd" の後半に登場するホールズワースのギター・ソロと、続く "Three Small Dreams" のスターンのギターを聴き比べれば、ショーターと合うのはスターンではなくホールズワースだということが一遍でわかるだろう。synthaxe を使用した部分は、よりショーターと近い位置で共演しているように感じる。
 マイク・スターン+ボブ・バーグのコンビがいかにもフュージョン的なギンギンの演奏を聴かせるとすれば、ショーター+ホールズワースのコンビはより空間的・未来的なサウンドを聴かせてくれる。個人的にはやはり後者が本作のサウンドに合っている気がする。このショーター+ホールズワース・コンビの演奏がもう少し多くかったらよかった気もするのだが、ま、贅沢はいえないか。
 とにかく、この時期のフュージョン〜エレクトリック・ジャズとしてはかなりの高水準のアルバムだと思う。リーダーが無名なため、あまり取り上げられないアルバムかもしれないが、おそらくリーダー名を隠して誰かに聴かせれば、聴く耳のある人ならレベルの高さに驚くのではないだろうか。


03.11.7


『ウェイン・ショーターの部屋』

リストに戻る。



 

   dido "Pagina"    (Popstar)
   dido〜フューチャリング おおたか静流『Pagina』


01、逢瀬(であい)
02、Whisper Low
03、Memoire
04、Knob
05、FU-MI
06、Pagina
07、Salute
08、カレデマシタ
09、Trou de Poche
10、The place in the sun

   「01、04、05、08、10」
   Shizuru Ohtaka (vo) Michiaki Katoh (prog,g,syn)
   Wayne Shorter (sax) Norimasa Yamazaki (key)
   Chiharu Mikuzuki, Masafumi Yokoyama (b)
   Toshihiro Tsuchiya (ds) & others        1989


 その後同名の女性ボーカリストなどがデビューしてしまったので紛らわしいことになっているのだが、この「dido」というのは日本のグループ名で、詳しくはわからないのだが、おおたか静流と加藤みちあきの二人のユニット名らしい。このアルバム以外でどんな活動を行っているのかは不明。
 おおたか静流という人はヒーリング系とでもいうのだろうか、柔らかな美しい声で優しい歌をうたう女性ボーカリストで、加藤みちあきのほうはジャズ系の人で、本来はギターリストのようだがシンセも弾き、打ち込みもおこなっている。どいういう流れでショーターがこのユニットのアルバムに参加することになったのかは不明だが、全体の半分の5曲に参加している。
 さて、内容だが、印象からいうとジャズとかフュージョンとかいった系統の音楽ではなく、癒し系の洒落た優しいポップスといったかんじ。全10曲中8曲まではおおたか静流のボーカルが大きくフューチャーされていて、演奏のほうはポップスの伴奏の域を出ていない。これらの曲ではショーターは曲の雰囲気にもあった味のあるソロを吹いているが、とくに大きなソロ・スペースがあるわけでもなく、ミキシングで音自体が小さく抑えられているので、味つけ程度の役割だろうか。
 2曲あるインストゥルメンタルのうち、"FU-MI" がショーターをフューチャーした曲となるが、ここでもショーターの音は小さく抑えられ、大きなソロ・スペースがあるわけでもない。多分、トラックが全部出来上がってから、かぶせるかたちで後からショーターが演奏した(だからソロ・スペースも与えられず、音も小さめに抑えなければならなかった)んじゃないかと思うのだが、どうだろう。
 参加曲が多いわりに、ショーターを聴くという点ではあまり満足は得られないアルバムだ。けれど個人的にはアルバム自体はいいものだと気に入った。おおたか静流の声は聴いていてすごく気持ちのいい声だし、サウンドや演奏のほうも控え目ながら充分にアイデアがあって聴いていて楽しい。
 個人的には、こういったヒーリング系のポップスみたいなジャンルは普段聴かないので、こういう機会でもなかったらこのアルバムも聴くことはなかったろう。期待どおりではなかったが、めっけもののアルバムだった。


07.2.24


『ウェイン・ショーターの部屋』

リストに戻る。



 

   Victor Bailey "Bottom's Up"    (Atlantic)
   ヴィクター・ベイリー『ボトムズ・アップ』

01、Kid Logic
02、Joyce's Favorite
03、Miles Wows (Live)
04、Round Midnight
05、Bottom's Up
06、Hear the Design
07、In the Hat
08、For Wendell and Brenda

     「03」
    Wayne Shorter (ss) Mike "Dino" Campbell (g)
    Victor Bailey (b,syn,vo) Dennis Chambers (ds)
    Mark Ledford (vo)  /他(4人編成のホーン・セクション)  1989


 ヴィクター・ベイリーはウェザーリポートの最後期のベーシスト。1960年生まれということなんで、ウェザーに参加したのは22歳頃の計算となる。22歳であのジャコ・パストリアスに代わってウェザーリポートに参加したのだから、当時のプレッシャーはどれほどのものだったのかと想像できる。
 ウェザーリポート解散後、ベイリーはステップス・アヘッドに加わるのだが、これが86年の『Magnetic』に参加後、続く2作には参加せず、その後92〜95年の『Yin-Yang』『Vibe』には参加している。このへんの事情はよくわからないが、このアルバムはそのステップス・アヘッドに一時不参加だった89年に録音されたベイリーの最初のソロ・アルバムとなる。
 この後、ベイリーは10年ほどソロ作の録音の機会に恵まれなかったのだが、『Low Blow』(99)、『That's Right』(01) とソロ作をリリースしており、続けて聴けば彼が目指しているものは一貫していることがわかる。それは硬派で骨太のエレクトリック・ジャズ/フュージョンであり、ファンキーなリズムにのせて演奏者の真剣勝負が繰り広げられる音楽だ。
 さてこの一作め、参加メンバーは曲によって違うが、中心になるのはビル・エヴァンスやジム・ベアード、オマー・ハキム、デニス・チェンバースなどいつもの気の合ったメンバーで、他にゲスト的にマーカス・ミラーやリチャード・ティー、ブランフォード・マルサリス、ウェイン・クランツ、ケヴィン・ユーバンクスなどがそれぞれ一曲づつ参加し、ショーターも一曲のみに参加している。
 このショーター参加の "Miles Wows" だが、上記のとおりこれだけライヴ録音で、デニス・チェンバースの入ったバンドが中心になり、バックにはテレンス・ブランチャードやドナルド・ハリスンを含む4管がバックにつくという、けっこう豪華なメンバーだ。ベイリー〜デニチェンが叩きだすソリットなファンキー・ビートに対して、ショーターは妙に力の抜けた幽霊のようにフラフラしたフレーズをとる。最初のうちはこれがミスマッチなかんじがして、ショーターはやる気がなかったのかな……などと思ってたのだけれど、聴いているうちにこれがいい味になってる気がしてきた。これでショーターがハードに吹きまくったら、もっと底の浅いファンキー大会のようになっていたかもしれない。
 全体的には、ベイリーの若くてイキのいいファンキー・サウンドが印象的なアルバムだ。10年後の『Low Blow』(99) 『That's Right』(01) になると、このイキの良さは抑えられ、より真摯さが感じられるサウンドになっていて、個人的にはそっちのほうがさらに好みなのだが、もちろんこの1st も良い。ソロ作は数少ないが、もっと活躍してほしい人だ。


07.2.25


『ウェイン・ショーターの部屋』

リストに戻る。



 

   Art Blakey and the Jazz Messengers "The Art of Jazz"  (In+Out)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『アート・オブ・ジャズ』


01、Two of a Kind
02、Moanin'
03、Along Care Betty
04、Lester Left Town
05、Mr. Blakey
06、Drum Duo    
07、Blues March
08、Buhaina's Valediction    
09、interview    

   Freddie Hubbard, Terence Blanchard, Brian Lynch (tp) Curtis Fuller,
   Frank Lacy (tb) Donald Harrison, Jackie McLean (as) Wayne Shorter,
   Benny Golson, Javon Jackson (ts) Walter Davis Jr., Geoff Keezer (p)
   Essiet Okon Essiet, Buster Williams (b) Art Blakey, Roy Haynes (d)
   Michele Hendricks (vo)      1989.10.9 


 これは音楽的な何かを期待して聴くアルバムではない。アート・ブレイキーという希代のバンド・リーダーの長年の功労を称えるために、過去にメッセンジャーズに所属したジャズマンがみんなで集まって行ったコンサート、そのライヴ盤だ。
 大勢のメンバーが一同に介して挨拶的なソロ演奏を交わしあったもので、本来はこういうのは映像付きで見て、なつかしのあの顔やこの顔を見てたのしむべき作品だろう。映像メディアでもリリースされている。
 それにしても、過去にメッセンジャーズのメンバーが一同に介したにしては、顔ぶれが寂しい気がする。そしてふと思うと、モーガンはもちろん、ボビー・ティモンズもハンク・モブレーもケニー・ドーハムもあの人もあの人も、この年にはもう亡くなっていたのだと気づく。ジャズマンは早死にしすぎだ。


03.12.18


『ウェイン・ショーターの部屋』

リストに戻る。



 

   The Manhattan Project "The Manhattan Project"    (Blue Note)
   『マンハッタン・プロジェクト』

01、Old Wine, New Bottle
02、Dania
03、Autumn Leaves
04、Nefertiti
05、Virgo Rising
06、Goodbye Pork Pie Hat
07、Summertime

    Wayne Shorter (ts,ss) Michel Petrucciani (p)
    Stanley Clarke (b) Lenny white (ds)
    Gil Goldstein, Pete Levin (key) Rachelle Ferrell (vo)   1989.12.16

 このアルバムにはCD版とDVD版があって曲目が少し違う。上にあげたのはDVD版の曲目だが、それはぼくがたまたま入手できたのがDVD版のほうだったからであり、他意はない。CD版には "Autumn Leaves" が未収録で、その代わり "Michael's Waltz" と "Stella by Starlight" の二曲が収録されている。CD版は未聴だが、DVD版のみ収録の "Autumn Leaves" はラシェル・フェレルのデビュー作にも収録されていることもあり、映像の有無を別にすればCD版のほうがオトクのような気がする。
 さて、この「マンハッタン・プロジェクト」というのはドラムのレニー・ホワイトが中心になったグループであり、これが一作目だが、メンバーを変えて同グループ名義のアルバムはリリースされているようだ。しかし、このアルバムに関するかぎりでいえば上記でわかるとおり大物ばかり集めたオールスター・セッションという感じで、このメンバーでバンドとして続けられるとは、多分最初から期待はしていなかったのではないか。
 メンバーはショーター、ペトルチアーニ、クラーク、ホワイトのワンホーン・カルテットが中心で、二人のキーボード奏者はシンセでバックグラウンドのサウンド作りに徹している。スタンリー・クラークは前半はアコースティック・ベースを、後半はエレクトリック・ベースを弾く。当時新人の Rachelle Ferrell は一曲(Autumn Leaves)のみに登場する。
 ライヴによる録音だが、通常の意味でのライヴではなく、あくまでCD〜DVD録音・録画用にスタジオに客を入れて録られたものである。そのため、ライヴ特有の盛り上がりというのはなく、スタジオ録音的に一曲一曲を丁寧に演奏している。(それならそれで拍手の音はもっと小さくミキシングするべきじゃないかという気が、個人的にはする)
 曲目をみるとホワイトのショーターにたいする敬意をかんじる。 "Virgo Rising" はリーダー作での録音はこの5年ほど後の『High Life』(95) となる、当然ショーター作の新曲であり、その他にもマイルス・バンド時代の "Nefertiti"、かつてのバンド仲間ジャコ・パストリアス作の "Dania" とショーターと関連性をかんじる曲が多く、他はスタンダード中心だ。
 演奏は、前半クラークがアコースティック・ベースを弾いている時は、シンセによる伴奏付きのアコースティック・ジャズといった雰囲気。後半に入ってクラークがエレベでファンキーなリズムを刻みだすとフュージョンの雰囲気となる。二人のキーボーディストによるバックのシンセのアレンジと演奏は全編にわたってファンタジックで広がりのあるサウンドを作り出していて、かといって出しゃばりすぎもせず、良いかんじだ。ショーター〜ペトルチアーニの演奏をうまく引き立てている。
 逆に個人的にミス・キャストではないかと感じるのはスタンリー・クラークだ。とくにエレベでの陽気でファンキーなプレイはショーター〜ペトルチアーニの演奏に合ってない気がする。それでもバッキングに徹してるうちはいいのだが、最後の2曲ではエンターティナーの血が騒ぎだしたかのように、どんどん出しゃばってきて、ソロも弾きまくり、どんどん音楽を違う方向に引っ張っていってしまう。
 リーダーのホワイトとしては、多分当初の予定としてはショーター〜ペトルチアーニの路線で行こうとしたんだろうとは思うのだが、クラークとはリターン・トゥ・フォーエバーでの同僚でもあり、気もあっているところから、クラークが引っ張りだすとそれに乗っていってしまう……。何事も有名人を集めれば上手くいくというものではないだろう。
 さて、ショーターだが、当然のことながら全曲参加で、基本的には主役の位置を占める。けれど、前半はなんだか元気がない。この日、調子がわるかったんだろうかとおもうほど、肝心なところで音がかすれてしまったりする。だんだん調子を上げてくるので、全体としては満足できるのだが、それでも『Austria 1988』など同時期の彼のバンドでのライヴの凄さを聴いてしまうと、どこか精彩のないかんじはぬぐえない。スタジオ録音的なライヴのせいだろうか。それでもフュージョン版の "Nefertiti" や "Virgo Rising" など聴きどころはけっこうある。
 一曲だけ参加のラシェル・フェレルは当時ブルーノートが売り出そうとしていた新人で、8オクターブ出るなどと宣伝された器楽的な唱法の人で、大声で高く低くスキャットしまくるという迫力唱法の人だ。会社側の意向で参加したのかもしれないが、個人的にあまり好きではないことは別にしても、このトラック、他の曲と方向性が合ってなく浮いているし、無いほうが全体のまとまりが良くなったとおもう。録音的にも、なんだか彼女の声が他の楽器より大きな音でミキシングされているらしくて、聴いていてうるさく、雰囲気を壊してしまう。これをカットしたCD版の編集のほうが正解ではないか。
 それから余談だが、ペトルチアーニがピアノを弾いている姿って、このDVDで初めて見た。たしかに、凄いものだとおもう。おもわず「あんな身体でよくあんなに弾けるものだ」と言いたくなるが、あんな身体でなくたって、五体満足な人間でもとても弾けないようなレベルに達した演奏であることは言うまでもない。


07.3.23


『ウェイン・ショーターの部屋』

リストに戻る。



このホームページに記載されている内容の無断引用・無断転載等を禁じます。
(c) 2004-2007 Y.Yamada