ウェイン・ショーター、アルバム紹介 1988年




   『』この色で表記されたタイトルは、ショーター不参加の曲です。





   Wayne Shorter "Joy Ryder"        (Columbia)
   ウェイン・ショーター『ジョイ・ライダー』


01、Joy Ryder
02、Cathay
03、Over Shadow Hill Way
04、Anthem
05、Causeways
06、Daredevil
07、Someplace Called ``Where''

   Wayne Shorter (ss, ts) Patrice Rushen (p, syn)
   Geri Allen (p, syn-1-3,5,7) Herbie Hancock (syn-4,7)
   Nathan East (elb) Darryl Jones (elb-4,6)
   Terri Lyne Carrington (ds) Frank Colon (per, 2,5)
   Dianne Reeves (vo-7)       1988


 『Atantis』以後の3部作の、ラストの作品だ。
 さて、この3作は当時聴衆にどのように受け入れられてきたんだろう。いわゆる狭義のジャズ・ファンは現在に至るまで、この3作の魅力を理解できてないようだ。ジャズ評論家の評を見ても低く評価されているのを多く見る。
 この3作のあまりに完成された濃い世界を理解できる感性をもっていないとは、可哀想なかぎりだが、そういうぼくも最初は戸惑った一人だ。
 この3作には一見わかりやすく見えながら、妙な難解な部分がある。見るからに難解であれば、むしろわかりやすいのだが、一見わかりやすいだけに難解だといえる。妙な言い回しかもしれないが、その通りだ。
 つまり、リズム・サウンドともに一聴ポップであり、わかりやすく見えるために、難解な部分に気づかないまま、わかったような気になってしまう。しかし、魅力を理解できてはいないので、魅力に乏しいように感じてしまう。そしてつまらないと判断を下してしまい、以後聴かなくなるので、魅力がわからないまま終わってしまった人も多いように、ジャズ・ジャーナリズムを見ていると感じられる。
 本作を含めた3作の魅力は、一聴ポップでわかりやすく見える表面の奥に広がる、限りなく豊かなイマジネーションの世界であり、その空間を自由に飛び回るショーターのサックスの魔法のような魅力が感じとれなければ、聴いたことにはならない。
 よって、この3作はいわゆるフュージョンとは一線を画する音楽である。

 また、この3作を受け入れがたくしている理由に、当時のファンの期待との食い違いもあったように思う。
 多分、当時の聴衆が、ウェザーリポート解散後のショーターが期待していたのは、60年代のようにアコースティック・ジャズのアルバムを続々と出してくれることではなかったか。ちょうど80年代はアコースティック・ジャズの人気が復活してきた時期で、その人気復活のきっかけを作ったのは他ならぬショーターの参加した .V.S.O.P.The Quintet だからだ。
 個人的にも、ちょうどこの頃のチック・コリアみたいに、エレクトリック・バンドと並行してアコースティック・バンドでもアルバムを出してくれたら、という気持ちも、まったくないではない。旧作やスタンダード中心にアコースティック・ジャズのアルバムを数枚作っておくくらい、ショーターなら容易だったろうし、そうしておけばとりあえず当時のジャズ・ファンも満足しただろう。
 しかし、ショーターという人を考えると、無理だったと思う。ショーターはそんなファン・サービスのためのアルバムなど作らない。自分がいま夢中になっている音楽世界を創り出す人だ。
 当時ショーターはこの新しい世界に夢中だったんだと思う。ショーターという人は、「自分の世界を創り、そこに住み、遊んでいる人」である。ショーターにとって作品世界とは、その場だけで作り上げた作り物ではなく、自分がいま棲んで、息をしている世界である。だから同時に違うカラーのものも作る、というわけにはいかない。
 そしてショーターの作風が変わる時は、別の世界に移住するように変わるのである。だから変わった後に、一作だけ昔の作風で作ってみようか……ということは、基本的にやらない。
 この頃のショーターはこの新しいアトランティスの住人であって、自分が生きて呼吸している世界の音楽は作れるが、アコースティックが流行だからといって、60年代みたいなものをまた……というわけにはいかないし、する気もなかった筈だ。

 さて、本作だが、『Atantis』3部作のなかでは最もシンプルなメンバー編成で、ジャズのワンホーン・カルテットにもう一台キーボードをプラスしたクインテットが基本。曲によってゲストが加わるという編成だ。使用楽器もピアノのかわりにシンセを使ってる他はアコースティック・ジャズのバンドに近い編成となっている。
 メンバーではジュリ・アレンや、パトリス・ラッツェン、テリ・リン・キャリントンなど、なぜか女性メンバーが多い。前作のチック・コリアに続いて、本作ではハンコックが2曲にゲスト参加している。
 本作は『Atlantis』『Phantom Navigater』と編曲性を重視し、独自の世界を描き出すタイプのコンセプト性の高いアルバム作りから変え、サウンド的には前2作を引き継ぎながらも、演奏性を重視した作品といっていいだろう。
 サウンド的にはウェザーリポート時代より前進しているし、ジュリ・アレン、ハンコック等バックのメンバーの演奏も見事だ。しかし、集団即興という方法を試みたウェザーリポートに比べると、本作は普通に順番にソロをとっていく演奏であり、一歩後退した面もなくはない。
 この時代もライヴではもっと集団即興的な演奏もしていたのだろうか。ライヴ・アルバムも聴いてみたいところだ。
 また、裏ジャケットにはショーター自身が描いた絵が使われている。ウィリアム・ブレイク風の幻想絵画で、さすが音楽に目覚める以前は画家を志していた人といったところ。

 1曲めの"Joy Ryder"は『Phantom Navigater』の冒頭の"Condition Red"につづいて、ショーターにしてはハード&へヴィーな立ち上がりだ。シンセとのアンサンブルによるテーマ部の後、目が醒めるような一音で入ってくるショーターが鮮やかだ。続くジュリ・アレンのシンセ・ソロもいい。
 つづく"Cathay"異国情緒もあふれるおだやかな曲。ショーターのソロはエキゾチックな街の空気中を漂うよう。
 シンセによるゆっくり下降してくるテーマも印象的な"Over Shadow Hill Way"が前半部のクライマックスだと思う。澄み切った陰鬱さというか、うすら寒いような気配に包まれた曲だ。
 続く"Anthem"ではハンコックが参加。しかし長いテーマの後、短いキーボード・ソロがあるだけで、ショーターはほとんど登場せず。アクセント的な曲か。
 うってかわって不気味な曲調の"Causeway"。長い曲ではあるが、これは演奏というより雰囲気で聴かせる曲のようだ。けっこうザヴィヌルのシンセ音楽的な曲に影響を受けているのかも。
 続く"Daredevil"が後半のクライマックスだと思う。レゲエっぽいリズムの、楽しげな曲調だが、どこか調子の狂ったようなショーターのサックスが、どこか知らない場所へと僕らをつれてどんどん歩いていってしまう。
 ラストの"Someplace Called ``Where''"はダイアン・リーヴスをフューチャーしたボーカル・ナンバーで、光に包まれたような美しさで、「『どこか』と呼ばれるどこかの場所」(?)を歌い上げる。まさしく音楽はショーターとともに『どこか』に去っていってしまう。

 さて、ショーターが『Atlantis』からの三部作で実現したのはショーターがウェザーリポートで追求した二つのコンセプト「集団即興」と「即興演奏と編曲性(音楽的冒険物語)の融合」のうち、「即興演奏と編曲性の融合」の方だ。では「集団即興」はどうなったのか。少なくともこの後しばらくはショーターのオフィシャルでのリーダー作を聴くかぎり、集団即興を追求した演奏は聴けなくなる。しかし終わってしまったわけではなく、この路線も後に『1+1』でのハンコックとの対話型演奏を経て、『Footprints Live』(2001)で劇的に復活することになる。
 本作以後、ショーターはソロ作は95年の『High Life』まで長く待たされることになる。
 が、この期間も演奏者・インプロヴァイザーとしてのショーターの名演ならば、様々なセッションで、けっこうこれまで以上によく聴けるのである。なかには準リーダー作として聴けるものも何作かある。


03.7.17


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Joni Mitchell "Chalk Mark in a Rain"   (Geffin)
   ジョニ・ミッチェル『レインストームとチョークの痕』


01、My Secret Place
02、Number One
03、Lakota
04、The Tea Leaf Prophecy
05、Dancin' Clown
06、Cool Water
07、The Beat of Black Wings
08、Snakes and Ladders
09、The Reoccurring Dream
10、A Bird that Whistles

   「10」
   Joni Mitchell (g,vo) Wayne Shorter (ss)
   Larry Klein (b)             1988


 ジョニ・ミッチェルのロック路線3部作の最終作となる。ショーターの参加曲は1曲だけ。
 ということでアルバム全体としては前作に引き続く80年代ロック的なサウンドで、本作では特に何人もの有名ボーカリストがゲスト参加し、ジョニとデュエットしていることが特色となっている。参加しているのはピーター・ガブリエルに、ウィリー・ネルソン、ドン・ヘンリー(元イーグルス)、トム・ペティ、ビリー・アイドル(!)といった面々。
 しかし、ショーター参加の"A Bird that Whistles"だけは、そういったアルバム・コンセプトとは外れ、ジョニのアコースティック・ギター弾き語りに、ショーターのサックスとベースのみを加えたシンプルな編成の演奏で、どちらかというと次作『Night Ride Home』(91)に入れたほうがピッタリするようなアコースティック・ナンバーだ。曲の位置もラストだし、次作の予告編といった感じだろうか。
 ショーターはタイトルにある「小鳥のさえずり」の部分を担当し、多重録音で数羽の小鳥がさえずりながら飛びまわるようなソロを展開している。シンプルな楽器編成で余計な音もないので、この部分は邪魔されずにショーターのソプラノを味わえる。
 と、いうわけで、ショーター参加の意味はあるし、一曲だけの参加とはいえ、聴く価値のあるアルバムになっていると思う。
 けれど、やはりショーターのみを目当てに聴くアルバムではないだろうが。


03.5.3


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Milton Nascimento "Yauarete"          (Epic)
   ミルトン・ナシメント『黒豹(ヤウアレテー)』


01、Planeta Blue (惑星ブルー)
02、O Vendedor Sonhos (夢売り人)
03、Yauarete(黒豹)
04、Cidade Encantada(魔法の町)
05、Meu Mestre Coracao (我が師、心)
06、Danca dos Meninos (少年達の踊り)
07、Eldorado (エルドラド)
08、Carta a Republica (共和国への手紙)
09、Morro Velho (古い丘)
10、Mountain
11、Cancoes e Momentos (歌と瞬間)

  「10」
  Milton Nascimento (g,vo) Don Grusin (key)
  Wayne Shorter (ss) Herbie Hancock (b)
  Eric Gayle (g) Neal Stubenhaus (b)
  Robertinho Silva (ds) Alex Acuna (per)       1988


 本作は7曲がリオで録音され、4曲が豪華ゲストを迎えてニューヨークで録音された。ショーターはニューヨーク録音で参加し、他のゲストは上記のハンコック、エリック・ゲイルらの他、ポール・サイモンも参加している。

 ミルトン・ナシメントは前作『Encontros Despedidas(出会いと別れ)』(86) から大きくサウンドを変える。土の香りのするアコースティック・サウンドから、フュージョン、ロックの要素を大きく取り入れた都会的なサウンドになる。しかし前作では盟友ヴァギネル・チゾのアレンジもあって、独特の哀愁にみちた霧に包まれたようなサウンドを展開していたが、前作を最後にそのチゾとも別れ、本作はわりと普通のフュージョン、ロック風サウンドになってきた感じだ。
 正直いうとこの間の変化はミルトンの音楽からだんだんミルトンらしさが無くなっていくようで、さびしい。本作もそんなに愛聴していなかったが、だいぶ間をおいて聴いてみると、やはり本作もこれはこれでデキの悪いアルバムでもないような気にもなった。ポール・サイモンとのデュエット「夢売り人」など、わりといい曲だ。
 ショーターが参加しているのは上記の1曲だけで、これはファースト・アルバムに入っていた曲の再録音。ショーターのソロ・パートは長いわけではないが、演奏の質としては、ハンコック、ショーター共にテンションの高いいい演奏をしている。


03.12.5


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Terri Lyne Carrington "Real Life Story"    (Verve Forcast)
   テリ・リン・キャリントン『リアル・ライフ・ストーリー』


01、Massage True
02、More Than Woman
03、Blackbird
04、Shh
05、Obstacle Illusion
06、Human Revolution
07、Real Life Story
08、Skeptic Alert
09、Pleasant Dreams
10、Hobo's Flat     (CD Only)

    「04」
    Wayne Shorter (ts,ss) John Scofield (g)
    Patrice Rushen (key,syn) Keith Jones (b)
    Terri Lyne Carrington (ds)  Don Alias (per)     1988


 テリ・リン・キャリントンがショーター・バンドに在籍中に録音した1st ソロ作である。
 キャリントンは1965年生まれの女性ドラマーで父親はジャズ・サックス奏者。ドラムの他、作編曲を行い、ヴォーカルもとる活躍を本作で見せている。
 このアルバムのもう一人の主役はパトリス・ラッシェンで、曲も書き、ほぼ全編にわたって活躍している。この二人にキース・ジョーンズ、ドン・アライアスのリズム・セクションが軸になり、そこに豪華ゲスト、ジョン・スコフィールド(4曲参加)、グレッグ・オズビー(4曲参加)、ハイラム・ブロック(4曲参加)、ダイアン・リーヴス(3曲参加)、カルロス・サンタナ(1曲参加)、グローヴァー・ワシントン Jr.(1曲参加)といった面々が入れ替わりたちかわり登場し、ショーターも1曲だけに参加している。
 当時のショーターのグループのメンバー二人が中心になって作ったアルバムということでもわかる通り、ショーターの『Joy Rider』(88) あたりの影響が強い、透明感のあるエレクトリック・サウンドになっている。が、ショーターがいないためか、『Joy Rider』と比べると演奏に厳しさや幻想味が失われ、妙に分かりやすくて親しみやすいかんじになってしまっている。深みや凄みには欠けるが、とはいえ、過大な期待をしなければ、気楽にたのしめるアルバムといっていいだろう。
 ショーターが参加しているのは "Shh" の一曲のみ。マイルスの『In a Silent Way』(69) に "Shhh" という曲があったが、これはそれとは別で、パトリス・ラッシェンのオリジナル。ショーターが参加していることで、この曲だけは『Joy Rider』の同レベルの内容になっていると思う。ショーターのバラード演奏がたっぷりと聴ける曲だ。


05.5.28


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Stanley Clarke "If This Bass Could Only Talk"   (Epic)
   スタンリー・クラーク『イフ・ジス・ベース・クド・オンリー・トーク』


01、If This Bass Could Only Talk
02、Goodbye Pork Pie Hat
03、I Want to Play for Ya
04、Stories to Tell
05、Funny How Time Blues
06、Workin' Man
07、Tradition
08、Come Take My Hand
09、Bassically Taps

   「02」
   Stanley Clarke (b) Wayne Shorter (ss)
   Gerry Brown (ds) Esward Arkin (syn)    1988


 スタンリー・クラークは説明するまでもなく、リターン・トゥ・フォーエヴァーのもう一人のリーダーであり、70年代からベーシストとして、作編曲者として、多くのリーダー作をリリースしている。
 このアルバムはタイトル通り彼のベーシスト=インプロヴァイザーとしての側面に焦点をあてたもので、彼の作品中では比較的ジャズ色の強い作品といっていいようだ。冒頭の表題曲はタップダンスの音とベースのデュオであり、その他、彼のベース演奏がたっぷりと聴ける内容になっている。
 ショーターは1曲だけに参加している。この "Goodbye Pork Pie Hat" は、相次いで亡くなったジャコ・パストリアスとギル・エヴァンスに捧げられた演奏だ。
 メンバーは上記のようにワンホーン・カルテットに近い編成で、普段の彼のフュージョン作品と同じくガチッとしたサウンド作りをしてはいるものの、かなりジャズに近い感覚で聴ける。普通ならこの編成ならサックスとシンセがソロをとることになるのだろうが、当然のことながらショーターとクラークが中心となってソロをとり、シンセは背景作りといった役割りだ。
 どこか都会的で薄暗い編曲もいいし、ショーター、クラークともにいいソロをとっている。たった1曲のみの参加なので、ショーターめあてに聴くにはボリューム不足だろうが、ショーター=クラークの共演としては満足できる演奏だ。
 それに、個人的な好みでいうと、クラークのアルバムはあまりフュージョン的でポップな感じのものより、本作のようなタイプのもののほうが好きだ。


04.2.3


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Wayne Shorter "Austria 1988"    (MegaDisc)


「Disc-1」
01、Causeways
02、Beauty and the Beast
03、The Three Marias

「Disc-2」
04、Over Shadow Hill Way
05、Drum Solo 〜 Daredevil
06、Endangered Species
07、Footprints

    Wayne Shorter (ts,ss) Renee Rosnes, Bernard Wright (key)
    Keith Jones (b) Terri Lyne Carrington (ds)    1988.3.21


 ブートレグのCDRだが、このままオフィシャルで出してほしいほどの内容だ。音質はオフィシャル並みで素晴らしく、2枚組で全94分ほど。演奏も文句なしだ。
 『Joy Ryder』期のライヴで、バンドにリニー・ロスネスやテリ・リン・キャリントンがいた時期のものだ。この時期のライヴ音源はオフィシャルでもリニーとのデュオがリニーのアルバムに一曲収録されていたり、またテリ・リン・キャリントンのアルバムにもショーターは顔を出したりしていて、バンドが充実していた時期かと予想されていたのだが、聴いてみるとその予想どおりの素晴らしい演奏である。
 さて、メンバーを見てまず気づくのは、この少し前の『Zurich 1985』『N.Y.C 1986』の頃のレギュラー・バンドのカルテット編成に比べて、キーボードが一人追加されてクインテットになっていることだ。
 これは『Joy Ryder』自体がクインテット編成中心のアルバムだったからということもあるだろうが、それをいえば『Atlantis』(85) や『Phantom Navigater』(86) のときはアルバムはもっと多人数で録音していたにもかかわらずライヴはカルテットで行っていたわけで、これはショーターがライヴ・バンドにおいてもサウンドの厚みを重要視してきた結果とみたほうがいいだろう。実際、この後の『High Live』(95?) 『Live Express』(96) 期にもライヴ・バンドは5〜6人編成である。
 さて、この一人追加の効果は歴然で、たった一人加わっただけでこれだけ違うのかと思うほどサウンドが厚くなり、安定感と広がりが出て、多彩な表現を可能にしている。これと比べてしまうと、『Zurich 1985』『N.Y.C 1986』のカルテットはガンバっているが人手が足りてない感じがしてしまう。
 たしかにエレクトリック・ジャズにおいてもメンバーは増やし過ぎないほうがよいことは、チック・コリアのエレクトリック・バンドの1枚めと2枚め以後の変化をみると思い知らされるのだけれど、この時期のショーター・バンドの場合、キーボード一人がショーターの対旋律やソロを弾いているときに、バックのサウンド作りをするもう一人がいたほうがぐっとサウンドに深みが増すようだ。(けれど、考えてみればウェザーリポート時代はずっとキーボード一人だが、4人編成だった時でもシンフォニックで分厚いサウンドを作りだしていたわけで、ザヴィヌルはバッキングにまわった時の演奏(ひとりオーケストラ)は凄かったんだと思い知らされたりもする)

 さて、というわけで、このアルバムはまず『Zurich 1985』『N.Y.C 1986』の頃に比べて厚みと安定感を増したバンドの演奏を聴くアルバムだとおもう。
 そして演奏を聴くと、まずリニー・ロスネスやテリ・リン・キャリントンに目が行くのだけど、確かに二人体制になって分厚くなったシンセのサウンドは見事だし、とくにテリ・リン・キャリントンのドラムは『Joy Ryder』や彼女のソロ第一作の『Real Life Story』(88) より素晴らしいくらいで、このライヴを聴いて彼女はこの頃から凄いドラマーだったんだなと認識した。けれども、けっこうこのバック・バンドのキーを握っているのはベースのキース・ジョーンズではないだろうか。
 この人、メンバー紹介でジャマイカ生まれと紹介されている他はよく知らないのだが、かなりファンキーなベースを弾く人だ。このベースの影響で演奏全体がかなりファンキーになっている。
 ウェザーリポートにおいてはファンキーを指向したのはザヴィヌルだったと思っていたのだけど、この時期にショーターがこんなファンキーな演奏を繰り広げていたのを聴くと、それも考え直してみる必要がありそうだ。
 しかし、あまりファンキーにしてしまうと、この時期のショーターの曲の雰囲気にそぐわないのでは、と最初は心配しながら聴いていたのだが、そこはわきまえていて、"Beauty and the Beast" や "Footprints" のような古くからの曲はファンキーさを強調して大きく改作されている一方、新しい曲ではファンキーさは抑えて流麗で未来的なサウンドを繰り広げるなど、違和感をかんじさせずに両方を生かす配慮がなされている。

 曲へ行こう。まず一曲めの "Causeways" は特殊効果音が足されてアルバム・バージョンより不気味な空気感が増強されている。となるとこの曲、ウェザーリポート時代にライヴの定番だった "Scarlet Woman" のようなタイプの曲にみえてきた。なかなかいい雰囲気のオープニングだ。
 続く "Beauty and the Beast" と "The Three Marias" はいずれも18分前後の長時間演奏で、このへんがまず最初のピークだ。 "Beauty and the Beast" は先述したとおりキース・ジョーンズのファンキー・ベースが大活躍する、原曲とは異なった味わいの演奏で、ファンキーなショーター・バンドもいいな、という気にさせてくれる。続く "The Three Marias" は『Atlantis』収録の味をそのまま生かしながら、ぐっと濃くしたような味わいである。
 80年代のショーターのスタジオ盤3部作は、難をいえばサウンドの完成度を求めすぎてインプロヴィゼーションの緊張感と自由さに欠けているような面があった。対して『Zurich 1985』と『N.Y.C 1986』でのライヴ演奏はインプロヴィゼーションの緊張感と自由さに満ちているが、サウンドが少々荒いのが難点だった。本作でのライヴ演奏はその両方の良いところが合わさり、インプロヴィゼーションの緊張感と自由さに満ちながら、サウンドとしても高い完成度を示している。
 それはこの "The Three Marias" に限らず、続く "Over Shadow Hill Way"、"Daredevil"、"Endangered Species" でも同様だ。
 "Over Shadow Hill Way" はこの後ライヴの定番になっていく曲だが、ここでの演奏も素晴らしい。冒頭にショーターが曲の紹介をしているのだが、早口でよく聴きとれないのだが、多分「That the place where someone said last saw UFO」(「誰かがこのまえUFOを見た場所だ」)といってるのではないか。
 続いて4分あまりのドラム・ソロをへての "Daredevil" も快調。このへんの『Joy Ryder』からの曲は、『Joy Ryder』が3部作のなかでも最も小さくまとまった印象を感じるアルバムだっただけに、スタジオ盤よりぐっと勢いと迫力を増しているように感じる。
 続いての "Endangered Species" は16分をこえる演奏だが、途中にベース・ソロのパートが入る。『Live Express』(96) のバージョンで長々と演奏していた前奏がここではいくらか短く演奏されている。このへんが後半のピークなのだが、しかし、その『Live Express』での演奏と比べてしまうと、とくに冒頭のテーマ部など、まだ突き抜けかたが足りない気もしてしまう。とはいえ、そんな比べかたをしなければもちろん最高。
 最後にエピローグのようにおかれた "Footprints" は先述したように原曲のイメージを変えた編曲で、少しほのぼのとした表情でライヴを締めくくる。


06.9.3


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   "Renee Rosnes"     (Somethin' Else)
   『リニー・ロスネス』


04、Diana

   「04」
   Wayne Shorter (ss)  Renee Rosnes (syn)    1988.4.18


 リニー・ロスネスは80年代後半にショーターのレギュラー・バンドに在籍した女流ピアノ・キーボード奏者。彼女の1990年リリースのファースト・リーダー作には、88年のショーターとのデュオでのライヴ音源が一曲収録されている。
 現在ではこの時期のライヴは『Austria 1988』という見事なブート盤で聴くことができるが、長いあいだこのデュオ演奏のみが当時のショーター・バンドのライヴの模様をうかがうことができる唯一の音源だった。そして『Austria 1988』にはデュオによる演奏がないので、この音源の価値はいまでも失われていない。
 演奏しているのはショーター作の"Diana"。内容は最高にいい。ショーターのサックスも絶好調だが、おもしろいのはリニーのシンセの演奏で、デュオでの即興演奏とは思えないほどのシンフォニックな広がりのある響きを出している。ちょっとシンセ音楽的な印象もある。ザヴィヌルとのデュオでのザヴィヌルのシンセの演奏と比べても、音楽の空間的広がりがずっと大きい気がするのだ。あるいはシンセサイザーそのものの機能アップによる印象の変化なんだろうか。
 6分程度の演奏だが、たっぷり聴いた気分にさせてくれる。星空を見上げながら聴いてみたい演奏だ。
 こういうデュオもアコースティックでのデュオとは違った魅力があるもんだ。こういう演奏をもっともっと聴いてみたい。
 ほんとうに、この頃のライブをボックスセットでドカン! と出してもらえないものかとつくづく思う。

 なお、この曲は2001年にブルーノートから出た彼女のベスト・アルバム、『With a Little Help from My Friends』にも収録されていて、実はぼくが持ってるのはこっちのほう。理由はたんにこちらのほうが入手しやすかっただけで、他意はない。
 "Diana"以外の曲では彼女はアコースティック・ピアノによる端正な演奏を繰り広げている。


03.8.6


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Santana & Wayne Shorter "Elegant People"  
   サンタナ&ウェイン・ショーター『エレガント・ピープル』


「Disc-1」
01、Peraza
02、Wayne 1
03、Virgo Rising
04、Incident at Neshabur
05、Shh
06、Bella
07、Fireball 2000

「Disc-2」
08、Sanctuary
09、For Those Who Chant
10、Blues Jam
11、The Healer
12、Hannibal
13、Alphonso Solo
14、Cavatina
15、Mandela
16、Elegant People
17、?
18、Once It's Gotcha

    Wayne Shorter (ts,ss) Carlos Santana (g)
    Patrice Rushen, Chester D.Thompson (key)
    Alphonso Johnson (b) Ndugu Chancler (ds)
    Armando Peraza (per) Chepito Areas (timb)
    John Lee Hooker (g,vo -10,11)  
          Live at Fillmore West     1988.6.15  


 1988年にショーターはサンタナと組んでツアーを行った。その模様は数枚のブートレグになって出ているようだが、これは6月15日のフィルモア・ウェストでのライヴ。全体で128分ほど収録されている。
 ツアーのメンバーは Chester D.Thompson、Alphonso Johnson、Armando Peraza 等、当時のサンタナのバンドのメンバーが中心で、ショーターの側から見ると『Joy Rider』(88) 参加の Patrice Rushen や、Alphonso Johnson は当時のサンタナのバンドのメンバーであると同時に、元ウェザーリポートのメンバーでもあった。
 なんといってもサンタナはライヴ・バンドであり、スタジオ盤の出来不出来にかかわらずライヴでは圧倒的な力を発揮するバンドである。そしてショーターもまたライヴで実力を発揮する天性のインプロヴァイザーであることを考えれが、このメンバーでのライヴは当然期待してしまうのだが、正直いうと、これは残念なアルバムという気がする。録音バランスがおかしいのだ。
 ギターが前へ出過ぎで、必要以上に近過ぎる。いっぽう打楽器隊は後ろへ下がり過ぎで、そのため妙に小ぢんまりとした、スケール感が無い演奏に聴こえてしまう。サックスもギターに比べて引っ込んでいる。サンタナがバッキングのつもりで弾いているようなフレーズが妙にデカく前へ出て聴こえてしまったり……と、なんだか変な演奏に聴こえる。キーボードも時々前へ出すぎたりする。
 ギターに比べてサックスが引っ込んでいるのは、あるいはショーター・ファンが悔しがればそれで済むのかもしれないが、打楽器隊が引っ込んでいるのはいただけない。パーカッションはサンタナ・バンドの命である。サンタナのファンだってギターばかりをこんなに前へ出してほしいと思っているわけではあるまい。結局、ギターの音がデカ過ぎるために、ギターが出てこない場面のほうがバランスが良く、演奏もいいように聴こえたりするほどなのだ。
 とはいえ、演奏自体がわるいというわけではない。事実、何かヘンだな……と思いながらもガマンして序盤を乗り切り、少しこの妙なバランスに耳が慣れてくると、演奏の良さも聴こえはじめてくる。
 ショーターとサンタナの共演がたっぷりと聴けるのはこの時のツアーの録音が一番のようだ。それも『The Swing of Delight』(79) のようにサンタナがジャズを指向したサウンドではなく、本来のサウンド、いつものメンバーでやっている所に意義があるだろう。ショーターとしてもバンド・メンバーの半数がリズム隊という演奏は『Odyssay of Iska』(70) で行っており、基本的に相性はいい。128分の収録時間も堂々たるもので、バランスの悪ささえ気にならなければ、たっぷりと心ゆくまで楽しむことができる。
 また、2曲だけジョン・リー・フッカーがゲスト参加している。2曲とはいっても1曲は断片的なものなので、実質1曲の参加だ。ショーター、サンタナがブルースをやるとどうなるかという興味では聴けるが、それ以上のものではない。


04.12.26


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Carlos Santana & Wayne Shorter Band "Live at the 1988 Montreux Jazz Festival" (Liberation)
   サンタナ&ウェイン・ショーター『モントルー・ジャズ・フェスティバル1988』


「Disc-1」
01、Spiritual
02、Peraza
03、Shh...
04、Incident at Neshabur
05、Elegant People
06、Percussion Solo
07、Goodness and Mercy
08、Sanctuary

「Disc-2」
09、For Those Who Chant
10、Blues for Salvador
11、Fireball 2000
12、Drum Solo
13、Ballroom in the Sky
14、Once It's Gotcha
15、Mandela
16、Deeper, Dig Deeper
17、Europa
18、Bonus Track: Inerviews with Carlos Santana, Wayne Shorter & Claude Nobs

    Wayne Shorter (ts,ss) Carlos Santana (g)
    Patrice Rushen, Chester D.Thompson (key)
    Alphonso Johnson (b) Leon "Ndugu" Chancler (ds)
    Armando Peraza (per) Chepito Areas (timb)
                           1988.7.14


 1988年に行われたショーターとサンタナのツアーから、モントルーでのライヴ音源がオフィシャル化された。上はCD版の曲目だがDVDも出ている。演奏時間は120分強で、ほかボーナストラックとしてインタビューが3分ほど入っている。
 メンバーは上記のとおりサンタナのバンドにショーターがゲスト参加したかたちだが、パトリス・ラッシェン、アルフォンゾ・ジョンソンなどショーターゆかりの顔もあり、ツイン・キーボードに打楽器3人の8人編成という大所帯のグループだ。
 先に出回っていたこのツアーからのブート盤より音質・バランス共に大きく向上し、とくに音質は文句なしの高音質で、まず感激した。しかしショーターのサックスの音がオフ気味なのは変わらず、サンタナのギターはおろか、キーボードの音より小さく聴こえ、聴いていて哀しくなる。
 さて、聴いた感想だが、そんなバランスの問題をおいておくとしても、複雑な心境だ。
 いくらバランスがオフ気味といっても、ショーターの見せ場はたっぷりとある。曲によってはサンタナのソロがない、完全にショーター中心の曲もある。だから、たぶん80年代後半のショーター・バンドのライヴ盤が聴きたくても手に入らなかった頃にこれを聴いたのなら喜んで愛聴していたかもしれない。
 しかし、ブート盤とはいえ同じ88年のショーター・バンドのライヴが高音質で聴ける現在となってしまっては、正直いってこのバンドのライヴは、88年ショーター・バンドのライヴよりかなり見劣りがする。
 8人編成の大所帯ではグループ間での対話を重視した演奏は難しく、編曲に頼った演奏となる。そこが既にショーター的ではない。それでもこのバンドの演奏は躍動感があってサンタナのバック・バンドとしては充分だ。けれど、ショーターのバック・バンドとして聴くとサウンドがわかりやすすぎ、安定感がありすぎて、スリルや緊張感が感じられないのだ。たぶん和声的な単純さが原因ではないだろうか。
 とはいっても、先述したとおりショーターの見せ場はある。しかしショーターの見せ場とサンタナの見せ場は別々で、けっきょく交互に自分の演奏をしているだけで、共演することによって生まれてくる何かというものは感じられない。それでは、そもそも一緒にライヴをやる意味ってあったんだろうかとも思えてくる。
 大物どうしの顔合わせなんてそんなものだと言う人もいるかもしれないが、この後の1990年のラリー・コリエルとの共演ライヴでの緊密な対話性をもった演奏の見事さを聴いてしまうと、それに比較して本作がよけい不満足なものに聴こえてくる。
 オフィシャルで出してもらったものにあまりケチはつけたくないし、ショーターの見せ場はあるのだからそれでいいじゃないかともわりきれればいいのだけれど、やはり本作と比べると88年のショーター・バンドや90年のコリエルとの共演ライヴのほうがずっと魅力的に聴こえてしまうのは否定できない。


09.5.10


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Wayne Shorter "Frankfurt 1988"       (MegaVision)


01、Joy Rider
02、The Three Marias
03、Anthem
04、Over Shadow Hill Way
05、Endangered Species

    Wayne Shorter (ts,ss) Renee Rosnes, Bernard Wright (key)
    Keith Jones (b) Terri Lyne Carrington (ds)    1988.10.3


 これはブートDVDRで収録時間は68分ほど。モトはおそらくTV番組らしく、画質・音質ともにこのままオフィシャル化しても何の問題もないほどのクオリティだ。
 もっとも個人的にはやはり音だけをMDに録音して愛聴している。ショーターのようにイメージが広がる音楽の場合は、映像を見ないで音だけ聴いたほうが自由なイメージが広がって良い気がする。
 さて、先行して出ていた『Austria 1988』と同一のメンバーで約半年後のライヴとなるのだが、おもしろいもので印象がかなり違う。
 というのは、『Austria 1988』ではキース・ジョーンズのベースのファンキーな味がけっこう前面に出ていた印象があるのだが、この演奏ではそこはぐっと抑えられてリズムは滑らかになり、かわりにツイン・キーボードによるファンタジックな広がりのあるシンセ・サウンドが印象的に演奏を包んでいる。『Austria 1988』よりむしろ96年の『Live Express』あたりのサウンドと共通点が感じられるもので、こちらのほうがよりショーターらしいといえるかもしれない。とくに "The Three Marias" のような曲はこちらのバージョンのほうが曲のイメージに合っている気がする。
 選曲は3曲が『Joy Rider』、残る2曲が『Atlantis』収録の曲となっている。『Austria 1988』では『Joy Rider』収録曲が一曲だけだったので、このDVDでたっぷりと聴けるのはうれしい。『Joy Rider』が何月にリリースされたのかわからないのだが、ひょっとすると『Austria 1988』(3月21日録音)はリリース前のライヴで、こちらが『Joy Rider』リリース後のツアーからの映像なのかもしれない。

 ところで、この時期のライヴを聴くことで『Joy Rider』というアルバムの性格がわかってきた気がする。
 『Atlantis』と『Phantom Navigater』というのは、多分スタジオの発想で作られたアルバムだ。一枚のディスクとなる作品として、スタジオで精密に組み立てられ、完成されている。しかしそれをライヴで演奏するとなると、この音楽をどのようにライヴ・バンドで再現するか改めて考えなけらばならない作品だ。ショーターとしても『Atlantis』を作ったのはまだウェザーリポート存続中、『Phantom Navigater』は解散直後で、まだレギュラー・バンドを組んで活動はしていなかった時期であり、だからこそそういった音楽になったのではないか。
 対してレギュラー・バンドでの活動を続けるなかで作られた『Joy Rider』は前二作と比べ、はじめからライヴでの演奏することを前提として作られている面が大きいように思える。曲の作りやアレンジがライヴで演奏しやすく、映えるように作られていて、実際 "Over Shadow Hill Way" など、後々までライヴのレパートリーとして残ってくる曲を含んでいる。
 しかしアルバムとしての『Joy Rider』前二作と比べてもう一つ独自の世界を築ききれてないように感じるのも、それが理由のような気がする。つまり、ライヴでの演奏を前提としたスタジオ録音というのは、結局ライヴの青写真にすぎないものになってしまうのではないか。
 そもそもジャズという即興演奏の真剣勝負を魅力の源泉とした音楽は、スタジオで計算して音楽を組み立てるより、ライヴ等でのやり直しのきかない一発勝負でこそ真の魅力を発揮するものだ。『Atlantis』や『Phantom Navigater』はライヴでの再現など考えずに好きなように作ったために、かえってライヴ演奏とは違った魅力を持つ音楽に仕上がったと思う。しかし、ライヴを前提としながらスタジオで作られた『Joy Rider』は、同時期のライヴと比べてしまった場合、やはり魅力に乏しい面が大きいのは否定できないように感じられるのだ。
 少なくともこのDVDで聴ける3曲については、『Joy Rider』で聴けるスタジオ録音より、このライヴ・バージョンのほうがずっといい気がする。
 ショーターもそのことに気づいて、2001年以後のショーター・カルテット(レギュラー・バンド)のアルバムはスタジオ録音ではなく、ライヴ録音のなかから良いものを選んでアルバム化する方法をとるようになったと考えるのは想像のしすぎだろうか。
 いずれにしろ、この88年のバンドは素晴らしい。


09.3.10


『ウェイン・ショーターの部屋』

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