ウェイン・ショーター、アルバム紹介 1980年〜81年



   『』この色で表記されたタイトルは、ショーター不参加の曲です。





   Weather Report "Live Passage"    (Jazz Masters)
   ウェザーリポート『ライヴ・パッセージ』


「Disc-1」
01、8:30
02、Sight Seeing
03、Madagascar
04、Three Views of a Secret
05、Port of Entry
06、Dream Clock
07、Fast City

「Disc-2」
08、Bass Solo
09、Brown Street
10、Forlorn
11、Rockin' in Rhythm
12、Birdland

    Wayne Shorter(ts,ss) Joe Zawinul (key,syn)
    Jaco Pastorius (b) Peter Erskine (ds & per)
    Robert Thomas Jr.(per)   Live in Boston  1980.1.25


 これはブートレグで、ジャケットの記載が正しければ80年の1月のボストンでのライヴの模様をおさめたもののようだ。
 2枚組で計84分ほどで、録音状態はさほど良いとはいえないが、この手のものとしては充分満足できるレベルのものだと思う。ショーターの音がオフ気味になる箇所があるのは気にかかるが、基本的に鑑賞に支障はない。ただジャコめあてのファンねらいでワザとやっているのか、ベースの音がやけに大きくミキシングされている。ぼくは普段オーディオで低音部を増強して聴いているのだが、そのままの設定で本作を聴くとかえって異様なかんじになってしまい、設定を直して聴くことにしている。まあ、気持ちはわからないではないが、ベース好きの人間は大抵自分で低音部を増強するなどして聴いているんで、ワザとやっているのだとしたら余計なことはしないでくれたほうがありがたい。
 さて、クレジットが正しければ本作は80年の1月のライヴであり、タイトルは『Night Passage』からとっているが、『Night Passage』の主要部分の録音はこの年の8月であり、本作はそれより半年以上前、『8:30』のスタジオ部分の録音(79年の2〜6月)の半年後の演奏となる。よって演奏曲目は『8:30』のスタジオ部分の曲が全4曲中3曲もとられ、『Night Passage』収録の曲はまだアレンジが固まってないところもある。
 こういったアルバムの存在はウェザーリポートの曲の作り方がうかがえて興味深い。一人の人間がすべて仕上げてスタジオで完成させ、それをライヴで再現する……という流れではなく、録音の半年以上前からライヴで何度も演奏してその過程で完成していき、その後でスタジオ盤を録音する……というかたちをとっていたのだろう。
 だからこそザヴィヌル作の曲であってもショーターの色が強く感じられたり、つまり単独の作曲者の曲というより「ウェザーリポート」というグループの曲という性格が強い曲が、少なくともうまくいっていたときのウェザーリポートのアルバムにはつまっていたのだろう。
 また、ウェザーリポート時代はあれほど多作なコンポーザーだったザヴィヌルが、実はウェザーリポート結成前はかなり寡作で、ウェザーリポート解散後も寡作に戻ってしまう……という事実と考え合わせても、ウェザーリポートでの作曲の在り方というのも、考えてみるとおもしろいかもしれない。

 また、本作収録の80年頃のライヴ演奏は現在のところオフィシャル盤ではまとまった量を聴くことはできないので、その点でも本作は貴重である。(『Live and Unreleased』に80年7月の録音が20分ほどあり、スタジオ盤でライヴ音源が使われた曲が数曲あるていど。この『Live and Unreleased』等をみても、この頃のライヴ音源は高音質のものが大量に残っていると思われ、まとめてリリースしてほしいところだ)
 メンバーは『8:30』のライヴ部分の4人にパーカッションが加わったクインテット編成になっている。

 内容にいこう。
 本作ではまず冒頭の "8:30"、"Sight Seeing" と続くあたりが第一のピークで、緊張感みなぎる迫力の演奏だ。"8:30" などスタジオ盤ではオープニングの効果音程度にしか思わなかったが、ライヴで演奏されるとかなり鮮やか。そこから "Sight Seeing" なだれ込んでいき、ショーター、ザヴィヌル、ジャコの三者のソロが素晴らしい。
 つづく "Madagascar" はショーターのサックスがオフ気味で残念……。
 ジャコの "Three Views of a Secret" は牧歌的でのんびりした演奏になっており、『Night Passage』収録の同曲よりはむしろ『Ward of Mouth』での演奏に近い雰囲気を感じる。ジャコ自身が初期形に近いかたちで録音し直したということは、『Night Passage』でのこの曲は他メンバーによりジャコが必ずしも好まない形で仕上がってしまったバージョンということだろうか。個人的には『Night Passage』のバージョンのほうが好きなのだが。
 つづく "Port of Entry" もずいぶんのんびりした演奏で、『Night Passage』でのスピーディーで迫力ある演奏とはだいぶ差がある。が、聴いてみるとこれはこれでいいかなという気もしてくる。
 つづく "Dream Clock"、"Fast City" は『Night Passage』での演奏に近い気分になっていて、この時すでに完成に近づいていたようだ。どちらも好調な演奏。
 Disc-2 はジャコによるベース・ソロから始まる。ジミ・ヘンドリックスの真似みたいな部分もある演奏だ。当時のジャコのステージングが良くわかる。
 つづく "Brown Street" が本作の第二のピークだと思う。もともと即興演奏性の強い曲だが、各奏者ともよく歌っていてみずみずしい快演。スタジオ盤では後半ザヴィヌルが自分の音ばかり大音量でミキシングして興ざめさせるのだが、ライヴのためそれもなくて最後まで気持ちがいい演奏。
 明るい曲調の "Brown Street" から一気にダークで静寂に満ちた "Forlorn" に移り、また明るい "Rockin' in Rhythm" へとメドレーで移っていく。べつにここに限ったことではないが、この頃のウェザーリポートのライヴ盤はこのような陰の曲と陽の曲のメリハリの付け方がいいのだと思う。
 さて、ここでの "Rockin' in Rhythm" はごく短い演奏だがショーターの演奏を大きくフューチャーしており、『Night Passage』での単にウェザーリポートで演奏してみました……というだけのようにも思える演奏に対して、ここでの演奏のほうがむしろデューク・エリントンの曲を取り上げてみた意味を感じる。
 ラストはいつもながらの "Birdland" だが、なんだかこの "Birdland" はいい。もともと編曲性が強すぎて即興演奏性が少ないのがつまらない曲なのだが、ここでの演奏では全編にわたってショーターがかなり前面に出てソロをとっている。耳タコの曲だろうが、本作での "Birdland" は聴きモノだ。

 それにしても、ライヴでのウェザーリポートはショーター・バンドのイメージが濃い。ウェザーリポートはスタジオではザヴィヌル中心、ライヴではショーター中心という役割分担がなされていたのではないか。音がオフ気味な部分があるにかかわらず、ショーターの存在感がぐいぐいと迫ってくるかんじだ。


03.12.15


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Weather Report "Paris Live 1980 vol.1"


01、River People
02、Fast City
03、Three Views of a Secret
04、Port of Entry
05、Black Market

    Wayne Shorter(ts,ss) Joe Zawinul (key,syn)
    Jaco Pastorius (b) Peter Erskine (ds)
    Robert Thomas Jr.(per)      1980,Spring


 これはブートレグのCD。5曲入りで収録時間は計41分ほどと短い。録音状態はあまり良くなく、まあ、期待しなければ我慢もできるという程度だろうか。
 ジャケットにはウェザーリポートという名よりジャコの名が大きく書かれていて、あきらかにジャコ・ファンねらいのようだ。曲目でも冒頭と3曲めという目立つ位置にジャコが書いた曲がきている。とはいえ、とくにジャコのソロが大きくフューチャーされているわけではなく、全編バンドによる演奏である。
 さて、そんな思惑に反してか、聴いてみるとジャコの書いた2曲の演奏がいちばんつまらない。
 冒頭の "River People" はもともとライヴでやってそれほどおもしろい曲ではないと思うが、ここでも何ということもなく、2曲目の "Fast City" に入るとショーターのサックスとともに演奏が快適に走り出すのが感じられる。ジャコの演奏の聴きどころは "Port of Entry" だろう。
 意外に一番おもしろかったのが、いまさら期待していなかった "Black Market" 。80年ということで、もう演奏するほうもかなり慣れと飽きがきているせいか、後半でショーターがかなり崩して自由に演奏している。このあたりの逸脱ぶりがこのアルバムでは一番の聴きどころではないか。


04.9.15


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Weather Report "Buenos Aires 1980"


01、Port of Entry
02、Dream Clock
03、Fast City
04、Bass Solo
05、Brown Street
06、A Remark You Made
07、Rockin' in Rhythm
08、Birdland

    Wayne Shorter (ts,ss) Joe Zawinul (key)
    Jaco Pastorius (b) Peter Erskine (ds)
    Robert Thomas Jr.(per)        1980.8.20


 これはブートCDRで、収録時間は68分半ほど。『Night Passage』のナンバーがレパートリーに取り上げられはじめた時期だろうか。録音状態は中の中といったところか、良くもないがとくに悪くもない。一番の特徴は録音バランスがすごく悪いのだが、ケガの巧妙というか、バランスの悪さが独自の価値になっているアルバムだとおもう。
 つまり、キーボードがオフ気味なのだ。したがってジャコのベースと打楽器隊だけをバックにショーターが吹いているという雰囲気になる。けれどこれがすごく良いのだ。普段はザヴィヌルの分厚いシンフォニックなサウンドに埋もれがちなところもあるジャコの驚異的なベースラインが、一音一音ビシビシ明瞭に聴こえる。もちろんショーターも快調に飛ばし、打楽器の連打がそれを支える……というかんじ。
 とくに冒頭の "Port of Entry" はザヴィヌルが遅刻したんじゃないかと思うほどキーボードが弱い。ところがこれが、めちゃくちゃスリリングなのだ。けっきょくこの時期のウェザーリポートの演奏のスリリングさというのは、ショーター〜ジャコによって担われていたことがよくわかる。ザヴィヌルは、それに色づけする役割をしていたことが……。そのため、キーボードがオフ気味の本作の演奏は色は単色だが、スリリングさは普段より増している。
 つづくバラードの "Dream Clock" になると、さすがザヴィヌルによる色づけの不足が欠点としてあらわれてくる。ジャコのベースではバックを支えきれていない。しかし、これはジャコのせいではないだろう。ジャコとしてはキーボードが聴こえることを前提に、それを支えるような演奏をしているので、最初からキーボード・レスだったら違った弾き方をしていたと思う。
 3曲めの "Fast City" あたりからキーボードが少しづつ聴こえ始めるのだが、それでもラストまでオフ気味なことには変わりない。ショーター〜ジャコ・バンドといった雰囲気のウェザーリポートのスリリングな演奏が、全編にわたって堪能できる。
 ラスト2曲の "Rockin' in Rhythm" と "Birdland" はキーボードが必要な曲であることは聴いてみるとわかる。しかし、それ以外の曲は、とくに "Port of Entry"、"Fast City"、"Brown Street" あたり、ザヴィヌル抜きのウェザーリポートもかなりアリなんじゃないかと思える。そんなアルバムだ。


05.11.26


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Weather Report "Night Passage"    (Columbia)
   ウェザー・リポート『ナイト・パッセージ』


01、Night Passage  
02、Dream Clock  
03、Port of Entry 
04、Forlorn  
05、Rockin' in Rhythm 
06、Fast City 
07、Three View of a Secret 
08、Madagascar  

    Wayne Shorter(ts,ss) Joe Zawinul (key,syn)
    Jaco Pastorius (b) Peter Erskine (ds & per)
    Robert Thomas Jr.(per)        1980.6/8


 タイトル通り、「夜」をコンセプトとしたアルバムだ。ひとつの夜に包まれたいろいろな場所、さまざまな夜、きらびやかな夜、真っ暗な夜、にぎやかな夜、さびしい夜、幻想的な夜……。曲ごとに夜のさまざまな横顔を描いていて、魅力的だ。
 ウェザーリポートの長い活動期間のうちで、いつを頂点とするかは人それぞれ違うだろうが、本作と次作あたりが頂点の一つを形成しているのは間違いない。
 この時期はウェザーリポートに理想的な安定したメンバーが揃い、集団即興路線が復活してきた時期である。
 では誰が集団即興路線の復活を導いたのだろうか。それはV.S.O.P.の活動を通してインプロヴァイザーとしての心に火をつけられたショーターだろう。

 ウェザーリポートの曲を、その作曲者で分けて、ショーターの曲はショーター的、ザヴィヌルの曲はザヴィヌル的であり、ショーター的なウェザーリポートを聴くなら、ショーター作の曲を聴かなければならないとする人がいるが、間違いである。
 それは、本作と次作『Weather Report (81)』ではショーター作の曲が他のアルバムより少ないが、ショーターの存在感は他のアルバムより濃いことを見ればわかる。
 なぜそうなったのか。
 当時、ウェザーリポートのアルバムの録音はリハーサルも本番もなく、スタジオでのメンバーの即興演奏をすべて録音しておき、後でいいとこ取りで編集していくことによって完成されたらしい。つまり作・編曲が誰かということより、個人々々の即興演奏がすべてといった演奏だ。
 このような方法だと、作曲者より各即興演奏者のカラーが強くなるのは、むしろ当然だし、そうなるとショーターの色が強く出るのは、インプロヴァイザーの資質からいって当然だ。
 この時期はメンバー的にも集団即興を行うのに理想的なメンバーが揃っていて、後にショーター、ザヴィヌルはここにきて初めてウェザーリポート結成当時考えていた演奏ができるようになったんだと語っている。
 実際は、ザヴィヌルはこの当時にはもうやりたい音楽の方向性が変わってきているようだが、これだけ理想的な条件がそろったのなら、もう一度初心に戻ろうという気になったんだろう。

 内容にいこう。
 1曲目の"Night Passage"。じつは長い間、どこがいいのかわからなかった。『Live and Unreleased』でのライヴ・ヴァージョンを聴いて、初めてこの曲の魅力に気づいた。ザヴィヌルが夜行列車に乗っている時に、列車の響きにインスパイアされて作った曲で、真っ暗な夜のなかを明るい光で照らしながら進む列車に乗っている雰囲気が出ている。しかし、本作のヴァージョンではやはり、ザヴィヌルが盛り上がりもなく、ただ漫然とキーボードを弾きつづける姿ばかりが印象に残る。
 しかし、この1曲目が終わり、2曲目"Dream Clock"がはじまると、とたんに空気がピーンと張りつめてくる。不思議な効果音から始まるバラード。そしてジャコのベースに続き、ショーターのサックスが登場してくると一気に最高潮にたっする。全編にわたってショーターのソロがたっぷり聴ける。
 続くショーター作の"Port of Entry"でまた一気に盛り上がる。ジャコの見せ場というべき怒涛のベース・ソロも聴ける曲だ。もはやこのへんはいうことなし。途中からライヴ音源にオーバーダビングされる。
 この2曲に比べるとつづく"Forlorn"(タイトルは「見捨てられた」といった意味)は少しボルテージが落ちるかと思う。抽象画のような曲想はおもしろく、ショーターのはかなげな演奏も印象的ではあるが。
 さて、次の "Rockin' in Rhythm" はご存知デューク・エリントンの名曲のカヴァーなのだが、原曲に対してあまりアレンジが工夫されてない気がする。最新式の(当時では)シンセを使えば、少人数でもこれだけの音が出せますよ……とでもいいたかったんだろうか? ショーターもメッセンジャーズ時代にもエリントンの"Caravan"をやったが、あちらのほうがアレンジによって独自のもにになっていた気がする。
 しかし、この後は文句なしだ。つづく"Fast City"ではショーターが怒涛のブロウを見せ、つづいてザヴィヌルもタイトルどおり突っ走る。
 つづくジャコのバラード、"Three View of a Secret"は、この後『Ward of Mouth』でも取り上げられる名曲。個人的には神秘的な本作のヴァージョンのほうが好きだ。ベースとキーボードのアンサンブルによるテーマ演奏もおもしろいし、ショーター、ザヴィヌル、ジャコが対話しながら語りつづけ、全体がビロードの布に包みこまれている感じ。
 ラストの"Madagascar"はライヴ録音。奇妙な打楽器の音とザヴィヌルの弾く遠い世界のようなテーマから始まり、ゆっくりショーターも加わってくる。リズミカルだが、空間を感じさせる曲。ショーターの演奏は本作中いちばんぶっとんでる。


03.3.21


『ウェイン・ショーターの部屋』

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  Jaco Pastorious "Ward of Mouth"     (Warner Bros.)
  ジャコ・パストリアス『ワード・オブ・マウス』


01、Crisis
02、3 Views of a Secret   
03、Liberty City   
04、Chromatic Fantasy   
05、Blackbird   
06、Ward of Mouth   
07、John and Mary

  Jaco Pastorious (b,syn,vo) Wayne Shorter (ts)
  Herbie Hancock (p) Toots Teielemans (hca) Michael Brecker (ts)
  Jack DeJonette, Peter Erskine (ds) /他    1980,81


 ジャコ・パストリアスの最高傑作と評されることもあるアルバム。ジャコのソロ作としては2作目にあたり、ショーターは1枚目に続いての参加となる。
 この翌年にはジャコはウェザーリポートを離れるので、本作はウェザー脱退後、ジャコが進もうとした路線を示すアルバムといっていいだろう。
 なお、ジャコがウェザーを離れた理由については諸説あるが、少なくともザヴィヌルとの確執であったことは確かなようだ。この間もジャコとショーターの関係は良好で、ジャコがウェザーを離れた後の『Twins』(82)の日本公演にもショーターが参加する予定があったというし、本作の次のスタジオ盤になるはずだった『Holiday for Pans』(82)のセッションにも参加している。
 83年以後はジャコが破滅型の生活の中で凋落していってしまうので共演はなくなるが、あるいはジャコがもう少し長くマトモでいてくれたら、『Atlantis』(85)以後のショーターのアルバムにジャコが参加なんてこともありえたのかなと思う。

 さて、本作でジャコがやりたかったこととはビッグ・バンド、それも60年代以後ギル・エヴァンスがやっていた線の、編曲を重視しすぎず、集団即興的要素をとりいれたビッグバンドだったといえる。
 といっても本作はジャコの自宅に駐車したライヴ・レコーディング用トラックに一人づつ演奏者を呼んで録音し、オーバー・ダビングを繰り返して完成させた、いわば疑似ビッグ・バンドによる演奏である。
 なぜこのような方法をとったのかは、わからない。ただ、"Crisis"はこの方法でしかできない実験作だ。
 ジャコは本作発表後、このアルバムと同じ「ワード・オブ・マウス」という名前のビッグ・バンドを組み、短期間だったがレギュラーバンドとして活躍、ライブ・アルバムも残している。(そちらにはショーターは不参加)

 さて、ショーターが参加したのは2曲。
 まず冒頭の"Crisis"は最初にベースとリズム・トラックだけを録音し、スタジオに呼んだソロイストにそのテープだけを聴かせて演奏させ、最後に全ての演奏をオーヴァー・ダビングしたもの。つまり、演奏者全員が他の演奏者がどんな演奏をしているかわからない中でのビッグバンド演奏となる。
 続けていってもそれほど実り豊かな結果をもたらす実験だとは思わないが、まあ、1曲ぐらいなら聴くのもおもしろい。
 2曲目以後は、ハーモニカのトゥーツ・シールマンスをメインのソロイストとしての演奏が多い。ハーモニカをもってくる所はおもしろいが、トゥーツはこの後の「ワード・オブ・マウス」のレギュラーバンドとして活動にも参加している。
 後半、4曲目以後は組曲の構成になっている。もう1曲のショーター参加の"John and Mary"はその組曲のクライマックスにあたる曲で、アルバム全体のクライマックスというべき曲。ここでショーターのサックスが大きくフューチャーされているんで、本作もショーターめあてで聴いても損はない。青空のように澄み切ったサウンドの中を、ショーターのサックスが高らかに響きわたる様は、何度聴いても美しい。

 本作録音時、ワーナーはかなりの大金を積んでジャコと契約したようだ。それはウェザーリポートが大ヒットを飛ばすのと、ジャコが参加したのがほぼ同時期であり、当時のウェザーリポートのライヴではジャコが派手なステージ・パフォーマンスによってスーパー・スターのような喝采を浴びていたことから、ジャコが「売れる」ミュージシャンだと勘違いしてしまったためらしい。
 しかし、本作は会社側の期待を大きく下まわる売り上げしか残さず、続く『Holiday for Pans』もとても売れそうもない内容であったために、リリースされることもなくジャコはクビを切られ、そのあたりからジャコは酒と麻薬で身を崩した、破滅型の人生を一気に下って行ってしまう。
 それらはジャコに対する誤解が原因だと思う。ウェザーリポートが売れたのは、ザヴィヌルが中心になって編曲中心のポップなサウンド作りをはじめた結果であり、ジャコの参加と同時期だったのは偶然でしかない。
 ジャコはかならずしも「売れセン」のミュージシャンではないし、それは決してジャコにとって不名誉なことでもない。1stの『Jaco Pastorius』から、ジョニの諸作、本作、そして『Twins』と聴いていけば、ジャコが目指した音楽も一貫したものとして見えてくる。
 本作だって、「売れる」んじゃないかと余計な期待さえしなければ、充分傑作といえる内容だし、現在ではそう評価されているようだ。

 しかし、むしろジャコのファンの中に、当時のレコード会社と同じように、「ウェザーリポートはジャコのために売れた」と言い続けているのがいるのには困ったものだ。そういう人は、ファンだと自称しながら、本当はジャコの音楽なんてわかってないような気もしてしまうのだが、どうなんだろうか。


03.3.19


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Weather Report "Weather Report (81)"   (Columbia)
   ウェザーリポート『ウェザーリポート (81)』


01、Volcano for Hire 
02、Current Affairs 
03、N.Y.C. 
    Part 1: 41st Parallel
    Part 2: The Dance
    Part 3: Crazy About Jazz
04、Dara Factor One 
05、When It Was Now
06、Speechless 
07、Dara Factor Two 

    Wayne Shorter (ts,ss) Joe Zawinul (key,syn)
    Jaco Pastorius (b) Peter Erskine (ds & per)
    Robert Thomas Jr.(per)    1981


 前作『Night Passage』につづく、ウェザーリポート絶頂期の傑作。本作を最後にジャコ、アースキンがグループを離れることになるので、このメンバーでの最終作となる。
 本作でも前作につづきウェザーリポート結成当時の集団即興というコンセプトが実現している。しかもバンドはこのメンバーだ。何もいうことない。
 アルバム・タイトルはデビュー作と同じ『ウェザーリポート』で、区別をつけるため一般的には『ウェザーリポート(81)』とか『ウェザーリポート(82)』とか書かれている。録音されたのが81年で、リリースされたのが82年なので、どちらをとるかによって変わるためだ。
 なんでまたデビュー作と同じ『ウェザーリポート』というアルバム・タイトルにしたのか。いろいろいわれているようだが、個人的にはバンド結成当時考えていた集団即興というコンセプトに、見事に達成したという実感があったからではないかと思っている。「これウェザーリポートだ!」といいたかったのでは。
 とはいえ、この後ジャコ、アースキンがグループを離れることの予感はすでに感じとれる。
 本作では前作までと比べ、ジャコの演奏があまり目立たないように感じられるだろう。それはジャコのソロの演奏にかぶせるように、ザヴィヌルが自分の演奏を後から加え、アンサンブルで演奏したように見せようなことを行っているのだ。
 ザヴィヌルはずっとウェザーリポートのスタジオ盤のプロデューサーという座を他人にゆずらなかったが、ザヴィヌルという人は自己顕示欲の強い人であり、このようなことをする人である。
 ショーターという人はそんなこともされても、出来上がってくる音楽自体がわるいものでなければ、勝手にやらせておくような人だが、ジャコという人はザヴィヌルと同じく自己顕示欲の強い人である。このあたりに当時ザヴィヌルとジャコの仲が険悪化してきていたのが感じられる。
 じっさい、ジャコがウェザーリポートを離れたのはザヴィヌルとの不和が原因のようで、ショーターとはその後も共演したり、親しい関係が続いていた。

 さて、そのようなことはおいておいて、作品を聴こう。たとえ裏でメンバー間の亀裂が走りはじめていたとしても、本作はこのメンバーによる最後の傑作であることは間違いない。
 「夜」をコンセプトとした前作に対し、本作のコンセプトは「都会」ではなないか。どちらかというと、昼の都会。かわいた、無機質なコンクリートのビル街。アスファルトの舗道。都会の賑わい、冷たさ、熱狂、孤独……。洗練された都会的なものではなく、ゴツゴツした都会そのものの、地に足がついたような感覚だ。

 冒頭の"Volcano for Hire"はドラムの連打によって始まる。このオープニングはウェザーリポートの歴代アルバムのオープニングの中でもかなり好きだ。そしてすぎにアドリブ・パートに入り、メンバー入り乱れてのソロの応酬の後、ザヴィヌルによるテーマ提示部がある。そしてまたアドリブ・パートに再突入、という構成。
 次の"Current Affairs"はショーターのサックスを前面に出したバラード・ナンバー。『Heavy Weather』(76)の"A Remark You Made"の路線だが、こちらのほうがクールでずっといい。
 続く"N.Y.C."は3つのパートからなる組曲。最初の"41st Parallel"は奇妙な効果音にはじまり(何をあらわしてるんだろう)サックスとキーボードによって断片の組み合わせのようなテーマが奏でられる。
 薄暗い闇の奥から小さく聴こえてくるような"The Dance"も、いくつかの曲を細かく切って交互に組み合わせたような奇妙な感じのテーマ。そして薄暗い廊下を通り抜けるようにして、ラストの明るく陽気な"Crazy About Jazz"にたどりつく。全体的にショーターのサックスが不思議な世界へ連れていってくれる案内人のように感じられる。
 さて、後半(B面)はまず、奇妙なリズムのリフをもつユーモラスな曲がつづく。
 "Dara Factor One"はベースのリフのうえにキーボードがゆっくりメロディをつけていく組み合わせがユニークな曲で、ショーターは終始アクセントをつけるように自由に副旋律をつけていく。
 つづくショーター作の"When It Was Now"はさらにユニークでユーモラスなリフで、どうなるのかと思っているとショーターのサックスが鮮やかな疾走を見せる。と、ユーモラスなリズム隊のほうもモゴモゴと動き出して……と、奇妙さが増していく。これまでにないパターンのショーターの曲だ。
 "Speechless"はうってかわって、空虚で寂しげなバラード。前半ジャコのベースがリード楽器がリード楽器となって静かに歌い上げていく。
 "Dara Factor Two"はタイトルどおりB面トップの"Dara Factor One"の兄弟曲。この曲は作曲者の欄にメンバー全員の名があるので、ジャム・セッション的にできたのかもしれない。こちらのほうが集団即興の要素が濃く、ショーターも生き生きと吹いている。とくに後半はすばらしい。

 先に書いたとおり全体的に集団即興性が強いアルバムであり、ショーターのサックスが活躍している場面も多く、質の高いアルバムだと思う。
 が、ご存知のとおり本作を最後に、ジャコとアースキンが辞め、このメンバーでの演奏はこれが最後になる。
 ジャコ退団の理由について、ザヴィヌルはジャコの演奏も、ステージでのショーマンめいた振る舞いも、マンネリ化してつまらなくなったんで辞めさせた、と語ったらしいが、この人は自分と袂を分かったミュージシャンについてはいつもボロクソにケナすので信用はできない。
 ジャコ自身は、ウェザーリポートの仕事はエキサイティングだが、時間をとられ過ぎて他の仕事が出来ないと語ったそうだが……。むしろウェザー脱退後のジャコの「他の仕事」は軌道に乗らず、このへんから破滅型の転落人生へと進んでしまったのは事実だ。


03.7.18

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   Weather Report "Tokyo 1981"



「Disc-1」
01、Fast City
02、Madagascar
03、Dream Clock
04、Night Passage

「Disc-2」
05、Bass Solo 
06、It's About That Time
07、Speachless

「Disc-3」
08、N.Y.C.
09、Sax Solo 〜 Sax & Key. Duo
10、Remark You Made 〜 Rockin' In Rhythm
11、Ds. & Per. Duo
12、Volcano for Hire
13、Birdland

   Wayne Shorter (ss,ts) Joe Zawinul (key)
   Jaco Pastorius (b) Peter Erskine (ds)
   Robert Thomas (per)  
        Live at Fumonkan, Tokyo  1981.6.7

 3枚組のブートCDRだ。といっても収録時間は146分と、2枚に入る内容。それでも3枚になったのは、当日の演奏順そのままに収録することにこだわったためだそうだ。
 実はこれはかなり異色作で、録音のバランスが変わっている。ジャコ在籍時のウェザーリポートのライヴのブート盤は、ジャコ・ファン向けに低音部をむやみに増強したようなバランスの悪いアルバムが多いのだが、本作は逆に低音部が貧弱で、中〜高音部がよくのびるバランスになっている。おまけにザヴィヌルのキーボードの音もオフ気味らしくて、ソロになると前へ出てくるのだが、伴奏にまわったときの音が薄っぺらになる。けっきょくショーターのサックスとドラム&パーカッションが一番良く聴こえる録音となっている。
 そのバランスの悪さをのぞけば、音質そのものはいい。オーディエンス録音だが澄んだ音質で、各楽器の音の輪郭が明確に録音されている。低音部が薄くてもベースの音だってちゃんと聴こえる。
 さて、ケガの巧妙というか、本作はこのサウンドのバランスの悪さのせいで、演奏がすごく新鮮に聴こえる。いつもと違うウェザーリポートだ。
 分厚いサウンドからくる重量感や迫力がないかわりに、すごく軽快でスリリングなのだ。ドラム&パーカッションの疾走にのせて、サックスが実にキビキビ動きまわる演奏だ。なんだかバンドがダイエットに成功して筋肉質になったみたい。たまにはこんなウェザーリポートもいいなと思ってしまう。
 もちろんバランスが悪さがそのまま悪く出ている点もあるにはあるが、そういう点は別のライヴ盤を聴けばいい。ウェザーリポートのライブのブート盤なんてもうたくさん出ているのだから、たまにはこんなアルバムがあってもいいとおもう内容だ。
 曲にいくと、まず目をひかれるのは "It's About That Time" だろう。この曲をウェザーのライヴでとりあげるのは珍しいし、ここではたっぷり21分も演奏している。演奏の質もいい。
 よくわからないのは9曲めのサックス・ソロの部分で、なんだか三味線っぽい音を出す弦楽器が登場して、デュオでかなりたっぷりと演奏しているところ。誰かがゲスト参加したんだろうか。それともこれ、ザヴィヌルがシンセにサンプリングかなんかした音なんだろうか。この三味線のような音の演奏がジャズ的でなく、延々と続くので、聴いていてかなり退屈になる。
 その他、全体を聴きとおすと冗長な部分はいろいろとある。録音のバランスの悪さのせいでそう感じられる部分なのかもしれない。そのへんを編集すればもっといいライヴ盤になると思うのだが、曲順を含めて当日のライヴをそのまま……という点へのこだわりは、貴重な記録として意味のあるものだとおもう。
 個人的にはいつもと何かが違うウェザーリポートが聴けるという点だけでも価値のあるアルバムだとおもう。


07.2.3


『ウェイン・ショーターの部屋』

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  Weather Report  "At the Hollywood Bowl"



01、Opening
02、Fast City
03、Madagascar
04、Current Affairs
05、Night Passage
06、Bass Solo
07、Drums & Percussion Duo
08、Volcano for Hire
09、Sax Solo (Sophisticated Lady)
10、A Remark You Made
11、Rockin' In Rhythm
12、Birdland

   Wayne Shorter (ss,ts) Joe Zawinul (key)
   Jaco Pastorius (b) Peter Erskine (ds)
   Robert Thomas (per)      1981.6.21

 これはブートCDR。収録時間は72分半だが、オープニングが3分強あるので、演奏部分は実質的には69分強だ。
 オーディエンス録音だが、かなりいい音で録音されている。演奏の質も全体をとおしてなかなか良い。音質・演奏の両方の点からいってお勧めできるものである。
 問題があるとすれば『Live at Opera House』とわずか20日違いという録音日時で、あちらも音質も演奏もいい上に、あちらは132分収録なんで、どっちがオススメかと問われたらボリュームからいって『Live at Opera House』のほうをとってしまう点だ。
 別時期のものがこれくらいの音質で出ていたらうれしいのだが、世の中うまくいかないものだ。
 けれど、もちろんだからといって本作の価値が落ちるというわけでもない。一枚にこれだけ入っていれば、まあお買い得といえるだろうし、買って損はないものではある。
 "Opening" というのはライヴが始まる前に会場にかかっていた音楽がそのまま入っている部分で、クラシックの管弦楽曲が入っている。聴きおぼえがあるので何か有名な曲だと思うが、何かは忘れた(たぶんベートーベンとかワーグナーとか、そのへんだとおもう)。3分以上も堂々と収録しなくてもいいものだとは思うが、当時ライヴ前にクラシックをかけていたことは知ることはできた。


07.2.3


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Weather Report "Live at Opera House, Boston"


「Disc-1」
01、Fast City
02、Madagascar
03、Current Affairs
04、Night Passage
05、Bass Impro.
06、Drum Solo
07、Volcano for Hire

「Disc-2」
08、Dream Clock
09、N.Y.C.
10、Shorter, Zawinul Duo
11、Remark You Made
12、Rockin' In Rhythm 
13、Birdland
14、Badia 〜 Boogie Woogie Waltz

   Wayne Shorter (ss,ts) Joe Zawinul (key)
   Jaco Pastorius (b) Peter Erskine (ds)
   Robert Thomas (per)      
        Live at Opera House, Boston  1981.7.11


 これは2枚組ブートCDR。
 ジャコがウェザーリポートを離れる直前の81年のライヴのなかでは、聴いたかぎりではまず第一にこれを推したい。
 まず素晴らしく音がいい。オーディエンス録音だが、なみのサウンドボード以上といっていい、シブくて立体感もあるいい音質で録音されている。そして次に収録時間が全体で約132分と長時間収録されていて、たっぷりと聴けるという点だ。
 この81年はオリジナル・アルバムでいえば『Night Passage』(80) 『Weather Report』(81) と集団即興演奏性の強いアルバムを出していた頃であり、ライヴのレパートリーもそのアルバムの曲が中心となっている。そのためこのライヴ演奏を聴くと、78年の『8:30』などの頃にくらべると編曲性が弱まり、即興演奏性が強くなって、つまりはよりジャズっぽい、よりスリリングな演奏になっている。よりジャズっぽいウェザーリポートを聴きたいのであれば、このあたりは狙い目かもしれない。
 内容だが、「Disc-1」の冒頭、いきなり猛スピードで疾走する "Fast City" から17分におよぶ "Madagascar"、そしてバラードの "Current Affairs" をじっくり聴かせるあたりがまず最初の見せ場。「Disc-1」後半になるとベースとドラムのソロが入って少しダレる。ジャコのソロはここまでくると(ザヴィヌルの言葉ではないが)ジミ・ヘンドリックスの単なるマネのように聴こえる。そして景気のいい "Volcano for Hire" を演って「Disc-2」へ。
 ぼくがこのアルバムでいちばん好きなのは「Disc-2」の前半の展開だ。まず、静かでミステリアスな "Dream Clock" をたっぷりと聴かせ、そのまま夜の森の中の湖の上を滑っていくような爽快で幻想的な "N.Y.C." へと盛り上がっていき、さらに夜の森深く踏み込んでいくような神秘的なショーターのソロ、そしてザヴィヌルが加わってデュオになっていくあたり。壮大な幻想を感じる。
 スタジオ盤では「昼」を感じさせた "N.Y.C." が、このライヴだと「夜」を感じさせるのもおもしろい。夜風を頬に受けながら水を上を滑っていくような爽快感があり、個人的にはスタジオ盤での演奏よりずっと好きだ。


05.4.16


『ウェイン・ショーターの部屋』

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