ウェイン・ショーター、アルバム紹介 1978年〜79年



   『』この色で表記されたタイトルは、ショーター不参加の曲です。





   Weather Report "Mr.Gone"          (Columbia)
   ウェザーリポート『Mr.ゴーン』


01、The Purauit of the Woman in the Feathered Hat
02、River People
03、Young and Fine
04、The Elders
05、Mr.Gone
06、Punk Jazz
07、Pinocchio 
08、And Then 

  Wayne Shorter (ss,ts,vo) Josef Zawinul (syn,key,vo)
  Jaco Pastorius (b,ds-1,vo) Peter Erskine (ds-1.3.7,vo)
  Steve Gadd (ds-3.8) Tony Williams (ds-5.6)
  Manolo Badrena (solo vo-1)
  Deniece Williams, Maurice White (vo-8)    1978


 仄暗く神秘的なウェザーリポートが戻ってきたアルバムである。人によって賛否がかなり大きく分かれる作品だ。たいてい『Heavy Weather』でファンになった明るく楽しいフュージョン路線が好きな人のあいだでは評判が悪い。一方、初期からのウェザーのファンやショーターが好きな人のあいだでは評価が高い。つまりは本作をどう評価するかで、その人がどういうタイプのウェザーリポート・ファンか知ることができる。
 では、前作とちがってショーターが活躍しているアルバムなのかというと、そう単純にもいえない。前作と同じくショーターのソロ・スペースは少なく、編曲指向・サウンド指向の面が強く出たサウンドである。ショーターのオリジナルはやはり2曲で、1曲はマイルス・バンド時代の "Pinocchio" の再演でかなり短いテイク、もう1曲は編曲がザヴィヌルだそうだ。つまり前作と同様にショーターのサックスの活躍は少なく、ショーター作曲部分も少ない。
 しかしアルバム全体を覆っているのは濃厚なショーターの色なのである。オープニングから謎めいた緊迫感あふれる空気がみなぎり、あきらかにこの空気はザヴィヌルの個性でも、ジャコの個性でもない。
 正直、最初のうちはなんでこんなことがおこるのかわからなかった。でも、このへんの謎が解けたら、ウェザーリポートというグループの正体がわかるような気がしていた。そして、ずっと考えていて、以下に書くのが現在のとことのぼくの答えである。

 おそらく、ウェザーリポートというグループは、ショーターが思い描いたイマジネーションを、ザヴィヌルが具体的なサウンドにしていく……という共同作業によって成り立っていたグループだと思う。ウェザーリポートの曲は一人の作曲者がすべて作りあげるのではなく、ライヴで繰り返し演奏されるなかで完成させていく形をとっていたようだ。その過程でショーターのイマジネーションが何らかのかたちでザヴィヌル作の曲にも影響を与えていくような共同作業のかたちがあったのだと思う。
 ウェザーリポート時代、多くのファンが(スタジオ盤の演奏で)ザヴィヌルばかり前面に出ていてショーターのソロ・スペースが少ない。なんでショーターはもっと思いきり吹かないのかと不満に思っていたようだ。確かにザヴィヌルが中心になってスタジオ作業をする中で完成されたスタジオ盤では、比較的ショーターのサックスの影は薄い気がする。しかしショーター自身はウェザーリポートを気に入り、ザヴィヌルを本当にいい共同制作者だと発言していた。
 これはつまり、ショーターにすれば自身のサックス演奏が大きくフューチャーされているかどうかということより、自分が描きたい世界をザヴィヌルがサウンド化してくれている作業が気に入っていたので、それでよかったのではないか。自分のサックス一本で世界を描き出す作業の比重は減らしても、音楽全体が充分納得のいくものになっていたということだろう。
 したがって、たとえ多くの曲がザヴィヌルの作になっていたとしても、ザヴィヌルが作業した編曲・サウンド面が前面に出ていたとしても、そのような作業をとおしてザヴィヌルが具現化したのが、結局はショーターの世界なのだから、その基となるショーターのイマジネーションが変化すれば、音楽自体も大きく変化する……ということを本作は示しているのではないか。
 『Native Dancer』以後、ショーターはそれまでの世界と変えて、南国的なユートピア的世界を描き出そうとしていた。そして『Tales Spinnin'』『Black Marcket』『Heavy Weather』といった世界が生まれた。それがショーターの世界だと感じにくかったのは、ウェザー結成前はショーターはそういった世界をほとんど描いていなかったからであり、また、ザヴィヌルが意外なほどこの世界に共鳴して、ウェザー解散後もこの路線のサウンドを作り続けたからだろう。
 そして本作は、ショーターがそんな明るい南国から、また仄暗い世界へともどってきた作品だ。そのショーターのイマジネーションの変化によって、とうぜんザヴィヌルが作り出すサウンドも変化し、音楽全体が変化するのである。別にこの変化のために、ショーターが前面に出てきてサックスを吹きまくる必要もないし、ショーターが多くのオリジナル曲を提供する必要もない。いままでのようにザヴィヌルが曲を書き、サウンドを作りあげていく作業こそが、ショーターのイメージする世界を作り上げていく作業に他ならないからであり、うまくいっていたときのウェザーリポートとは、そのような共同作業によって音楽を作りだしていたグループだったからである。

 さて、ではこの変化がショーター主導でおきたのはいいとして、ショーターは本作で何を指向したのだろうか。これがよくわからない。
 この前年(77年)はウェザーリポートがお休みし、ショーターはV.S.O.P.で世界ツアーを回って大喝采を浴び、アコースティック・ジャズ復活の狼煙が上がった年だ。当然それがウェザーでの活動にも反映されてもよさそうだ。事実、次作の『8:30』のスタジオ録音部分にはその影響も感じられる。しかし、本作においてはV.S.O.P.の反映は感じられない。
 個人的には現在は、本作はウェザーリポートの影の側面、つまり『Heavy Weather』のように明るくわかりやすい面が前へ出たアルバムに対し、その翳りの面、いわばブラック・ウェザーリポートとでもいうべき側面が出てきたアルバムではないかと思っている。
 このような翳りは実は明るいウェザーリポート作品にも内在していたものであり、それがウェザーリポートを他の凡百のフュージョン・バンド、明るく楽しいだけの音楽をやるバンドと隔てていた重要な要素だったのだと思う。
 本作はその裏に隠されていた要素、実は重要な側面が、前へ出てきてしまったアルバムとはいえないか。つまり、『Heavy Weather』では水割りで出していた要素がいきなり原酒で出てきてしまったために、飲めないファンが出てきてしまったようなアルバムでは。

 曲を見ていこう。
 冒頭の"The Purauit of the Woman in the Feathered Hat"はザヴィヌル作の曲であり、確かによく聴くとメイン・メロディ等はウェザー解散後のザヴィヌル作品の雰囲気。だが、ここではそれが重く垂れ込んだ黒雲に覆われ、印象が変わってしまっている。
 ところでプリンスの『Around the World in a Day』(85)の冒頭の部分って、この曲の冒頭から影響を受けてるような気がするのはぼくだけだろうか?
 続く"River People"はジャコが休暇中に魚釣りをしている時作ったという曲。当時ヒットし、ディスコでもよくかかったナンバーだという。これも、ジャコの前作での"Teen Town"や"Havona"と比べると、重苦しい緊迫感が感じられる。
 "Young and Fine"はタイトルどおり、明るく爽やかな曲調。これまでの緊迫感から一転して、開放感が得られ、分厚い雲のあいだから晴れ間が見えたような効果がある。即興演奏性の強い曲で、本作の前半部では最も生き生きしたショーターの演奏が聴ける。
 続くショーター作の"The Elders"は本作を支配している薄暗い大気がそのまま結晶したような曲だ。寂しく薄暗いサウンドで、ウェザーリポートの一方の側の魅力をあらわしている。
 続く"Mr.Gone"は、長いシュールな序奏部が素晴らしい。前曲と通じて、寂寥とした心象風景を描いているよう。主部は不気味な行進曲になる。
 次のジャコ作の"Punk Jazz"が後半の山場だろう。トニーのドラムに乗ってジャコがベースで駆けめぐる序奏から始まって(多分別録してつなげたんだろう)、ショーターのソロから主部が始まる。本作のなかで最も即興演奏性の強い曲で、ショーターの演奏もたっぷり楽しめる。また、ウェザーリポート+トニー・ウィリアムズという取り合わせの妙もなかなか味があって良い。
 しかしこのタイトル、考えてみれば本作リリースの78年はイギリスでパンクの嵐が吹き荒れている頃だ。
 続く"Pinocchio"は先述したとおり、マイルス・バンド在籍時にショーターが書いた曲(『Nefertiti』収録)の再演だが、フェイド・インで始まって、ほとんどテーマ部だけですぐに終わってしまう。ウェザーリポート版"Pinocchio"もなかなかいい味なんで、もう少し聴いてたいのだが。
 ラストの"And Then"はバラード。いい雰囲気の曲で、モーリス・ホワイト(Earth Wind & Fire)とデニース・ウィリアムズのボーカルが聴けるのだが、これもすぐに終わってしまう。ラスト2曲はなんでこんなに短くしたのかは、疑問が残る。


03.5.3


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Weather Report "Live Weather"


「Disc-1」
01、Scarlet Woman
02、Teen Town
03、A Remark You Made
04、Black Market
05、Gibraltar

「Disc-2」
06、Shorter & Zawinul Duo (Sophisticated Lady)
07、Birdland

    Wayne Shorter (ts,ss) Joe Zawinul (key)
    Jaco Pastorius (b) Peter Erskine (ds)   
          Live in Tokyo, Japan   1978.7

08、Freezing Fire
09、Cucumber Slumber
10、Badia
11、Cucumber Slumber
12、Man in the Green Shirt

    Wayne Shorter (ts,ss) Joe Zawinul (key) Alphonso Johnson (b)
    Chester Thompson (ds) Dom Um Romao (per)   
          Live from Bottomline  1975?


 これはブートCD。
 1〜7曲めまでは東京でのライヴで当時FMで放送された音源らしく、音質はいい。この部分は合計して82分程度。
 8〜12曲めはボトムラインからのライヴとだけクレジットされているが、日付、メンバーともにクレジットされてない。選曲や演奏の感じからすると75年あたりのライヴかと思われる。音質は1〜7曲めより落ちるが、鑑賞には支障がない程度。この部分は合計して40分程度だ。

 メインとなる78年の東京でのライヴからいこう。
 先述したとおりFMが音源らしいが、当時放送されたのはこれが全てではなく、"Elegant People" も演奏されていたらしい。なんでよりによって一番聴きたい演奏を……という気がしないでもないが、ひょっとするともうどこかで完全版も出回っているのかもしれない。
 内容へいくと、なんだかこの日のライヴは行儀が良すぎる感じがする。熱気とか迫力といったものがあまりにも無いのだ。かといって手を抜いているということではない。各メンバーがきちんと演奏しているのだが、それぞれにきちんとしすぎていて、グループが一体になって躍動するような場面が無いのだ。これは同年2ヶ月後のライヴ録音『Mythique Weather』と聴き比べてみると差はあきらかだ。多分この日はなんとなくノラなかった日なのではないだろうか。もっとも、録音のせいでそのように聴こえるという面も、ひょっとしたらあるのかもしれないが。
 メリットとしては各楽器の音の輪郭がはっきりとわかるように録音されているので、各楽器がどんなフレーズを弾いているのか聴きわけやすい点がある。また、"Gibraltar" のラストでショーターがメンバー紹介をして日本語で別れの挨拶をしているのが聴ける。(2枚めの2曲はアンコールらしい)

 そういうわけで、オマケのようなラスト5曲のほうが、むしろ目玉かもしれない。
 先述のとおりクレジットはないのだが、演奏と曲目からすれば75年の『Tales Spinnin' 』のツアーからの録音らしい。ジャコ時代のライヴ音源が多数ブートレグとして出ているのに比べ、アルフォンゾ・ジョンソン時代の音源は少ないので貴重だ。
 しかし、"Cucumber Slumber" が2回演奏されているところから見ると、一回の公演の収録ではなく、編集されたものなのか、いろいろと謎の多い音源だ。
 さて、内容だが、こちらのほうはハッキリいって熱気がみなぎっている。グループが一丸となって疾走する躍動感がある。こうして比べてみるとあらためて思うのだが、アルフォンゾとジャコのベースを比べた場合、たしかにテクニックではジャコが上かもしれないが、直線的に突き進んでいくパワーとファンキーさではアルフォンゾのほうが数段上ではないだろうか。
 こういう演奏を聴いていると、アルフォンゾにもっと長くウェザーリポートにいてほしかったような気にもなってくるのだが、アルフォンゾとショーターの共演は96年のショーターのグループのライヴでも聴けるので、良しとしよう。


04.11.12


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Weather Report "8:30"       (Columbia)
   ウェザーリポート『8:30』


Disc-1
01、Black Market
02、Scarlet Woman
03、Teen Town
04、A Remark You Made
05、Slang   
06、In a Silent Way

Disc-2
07、Birdland
08、Thanks for the Memory
09、Badia〜Boogie Woogie Waltz Medley

    Wayne Shorter (ts,ss) Joe Zawinul (key,syn)
    Jaco Pastorius (b) Peter Erskine (ds,per)    1978.8-11

10、8:30   
11、Brown Street
12、The Orphan
13、Sight Seeing

    Wayne Shorter (ts,ss) Joe Zawinul (key,syn)
    Jaco Pastorius (ds, b) Peter Erskine (ds & per)
    Erich Zawinul (per) Robert Thomas Jr. (per)   1979.2-6


 前作『Mr.Gone』で部分的に参加していたアースキンが正式参加し、ここにウェザーリポート史上でも最強といわれる4人が揃う。そして4人編成で行われた78年のツアーがライヴ録音されることになる。
 本作は2枚組のうち、3/4がライヴ、1/4がパーカッションを加えた5人編成でのスタジオ録音で構成されている。
 この78年のメンバーは強力であり、この時期は "Black Market" や "Elegant People" など数年前のナンバーの編曲もスタジオ盤録音時よりグンと良くなっている。
 さて、しかし、私観ではショーターとザヴィヌルのやりたいこと・方向性が違いがハッキリと見えてきたのは本作あたりからだと思う。それがライヴ部分の選曲の偏りにも、スタジオ部分にも現れている。と、なると、分裂・解散に向かっていくのが筋だが、すぐにはそうならなかった理由は、この時期のウェザーリポートには理想的なメンバーが揃っていて、結成時に目指していた音楽がようやくここにきて理想的な形で実現できるようになってきていたせいだろう。2人の分裂が顕在化してくるのはジャコやアースキンがバンドを去った後になる。

 まずライヴ部分のほうから。
 先述した通りこの時期のウェザーリポートの演奏は素晴らしく、78年の8〜11月のライヴからベストの演奏を選んだ本作収録の演奏は素晴らしい。ウェザーリポートのスタジオ盤はザヴィヌル中心に作られているため、スタジオ盤での演奏ではショーターは妙におとなしく感じられることが多い。が、ライヴはナマのウェザーリポートが聴ける環境であり、ショーターがぐっと存在感を増す。こういったライヴ盤でこそ本当のウェザーリポートの姿を見ることができる。
 しかし、同時期のライヴを完全収録した素晴らしく音質のいいブートレグ『Mythique Weather』を聴いてしまうと、曲数でだいぶ見劣りがするし、選曲の点でいろいろ問題があることがわかってきた。
 まずライヴ部分の9曲のうち、各人の無伴奏ソロやデュオを除いたバンドの演奏は6曲だが、そのうち『Heavy Weather』の前半に収められたポップな曲が3曲を占め、レパートリーの中心になっていた『Mr.Gone』からの曲が1曲も収録されてない。『Mythique Weather』を聴くと当時のライヴがポップで明るい曲と、『Mr.Gone』に代表されるダークで神秘的な曲とが両方演奏されてメリハリがついていたのが、ポップな方向に傾き過ぎているのだ。さらに『Mythique Weather』では最大級の見せ場となっている "Elegant People" が収録されてないのが痛い。
 また、ウェザーリポートのトレードマークというべきブラジル風パーカッションが活躍する曲が"Black Market"くらいしかなく、打楽器が妙におとなしい。全体的に見てウェザーリポートらしさがイマイチ感じられないのだ。
 等々、いろいろ問題点があるのだが、それらは『Mythique Weather』や『Live and Unreleased』を同時に聴くことによって発展的に解消はできるだろう。収録された曲の演奏そのものはというと、文句ナシなのだから……。
 それにしても『Mythique Weather』の130分に比べると合計で60分弱しかない本作のライヴ部分はかなり量的に見劣りする。同時に録られたライヴ音源は豊富にあるはずなんで、ボーナス・トラックをたくさん入れた増補版を作ってもいいような気がするのだが……。

 個々の曲を聴いていこう。
 まず、ライヴ部分最大の聴きどころは、冒頭の"Black Market"だろう。この時期、ウェザーリポートはいつものドラム、パーカッション二人体制ではなく、アースキン一人しかいなかったのだが、そのアースキンが二人ぶんも打楽器を叩き出しているかんじ。とくに、ドラムの嵐のみをバックにショーターがサックスを吹きまくる部分は、本作最高の聴き所だろう。ジャコのベースも、とうぜん飛ばしてる。
 つづく"Scarlet Woman"。本作のライヴ部分では唯一のショーター作(共作だが)の曲。即興演奏よりも雰囲気で聴かせる曲で、数多くライヴでとりあげられているが、正直いうと本作のヴァージョンはその中で特に優れているとは思わない。
 ところで曲の冒頭の宇宙船打ち上げの効果音は冨田勲の『惑星』だろうか? こういう効果音はザヴィヌルの趣味だろうが、ショーターもこれなら反対しなかったろう。
 "Teen Town"はスタジオ盤ではジャコが全編ソロを弾く曲だったが、本作のライヴ盤は大分違う。曲の後半、ショーターがソロを吹く長いパートが付いて、別の曲に生まれ変わった。しかし、このショーターのソロ部分、やけにサックスの音がオフ気味で、ベースばかりが大きく聴こえる。ジャコの曲だから、ジャコの演奏をということなのか。
 つづく"A Remark You Made"。ショーターのサックスの聴かせどころなんだろうが、この通俗的な曲想はやはり好きになれない。
 さて、本作にはバンドによる演奏の他に、ジャコの無伴奏ソロによる"Slang"、ショーターとザヴィヌルのデュオの"In a Silent Way"、そしてショーターの無伴奏ソロによる"Thanks for the Memory"と、各プレイヤーの腕の見せ所的な曲が入っている。
 ジャコのこの手の演奏は、申し訳ないがあまり音楽的には聴こえない。テクを見せびらかしているだけではないか。"In a Silent Way"はあまりに短い。やはり"Thanks for the Memory"が一番いい。ショーターの無伴奏ソロなんて、たぶん他にはないんではないか。貴重だ。
 続いて"Birdland"。人気曲だろうが、ライヴ録音で聴いてそれほどおもしろい曲だとは思えない。
 それより"Badia/Boogie Woogie Waltz Medley"がいい。ライヴ部分の最後を締めくくるクライマックスだ。なんだかこの演奏だけ、ショーターのサックスの音色が締まって鋭く聴こえるのだが、ぼくだけだろうか。

 次は、スタジオ録音部分だ。
 このパートはライヴ部分とかわって、むしろショーターの色が強く出ている。
 というのは、このこの部分、ウェザーリポート結成当時のコンセプトである「集団即興」が戻ってきてる。
 全4曲中2曲あるザヴィヌル単独作の曲は、どちらもごく短く、残る2曲がこのパートの目玉だが、どちらも即興中心のジャズ的なナンバーだ。
 まずザヴィヌル作の"8:30"は効果音+断片といったかんじで、曲というよりイントロダクション。
 続く"Brown Street"がまず最初の山場だが、これはショーターとザヴィヌルの共作のカリプソ・ナンバーだ。戻ってきた集団即興の中で、ショーターのサックスが自由に跳ね、曲をリードしていく。しかし終盤、ザヴィヌルのキーボードのボリュームばかりが大きくなって、バランスが崩れる。ソロを吹いているショーターの音がオフ気味で、単純に伴奏をつけているだけのキーボードの音が大きく前へ出ていて、奇妙なことになってしまっている。これはスタジオ盤だから、たまたまマイクがオフ気味になってしまったとは考えられない。プロデューサーであるザヴィヌルが意識的にそのようにミキシングしたんだろう。どうもザヴィヌルとはこういうことをする人のようだ。プロデューサーという立場にたって、他メンバーのソロの上に自分の演奏をかぶせて、アンサンブルで演奏したように見せかけたり……。ジャコの最後のウェザー参加作『Weather Report』 (81)でジャコの演奏が目立たないのも、そのようなザヴィヌルの仕業である。そして、どうも、ショーターという人は、そんなスタンドプレーをされてもわりと平気な人だったようで、それがウェザーリポートが長く続いた理由だといえる。
 つづくザヴィヌル作の"The Orphan"は短い曲で、聖歌のような雰囲気。前半はショーターのサックスが、後半はコーラスが演奏の中心。まあ、"Brown Street"と"Sight Seeing"の間にアクセントとして置いたのだろう。
 次はショーター作の"Sight Seeing"。4ビートのストレートなジャズ的演奏だが、ストレートという表現はあまり似合わない奇妙なテーマをもった曲。このパートの文字通りのクライマックスだ。キーボードやエレキ・ベースを使っていてアコースティック・ジャズとはいえないが、この曲や"Brown Street"あたり、V.S.O.P.での活動が影響しているのではないか。
 しかし、V.S.O.P.がウケたからといって、他のV.S.O.P.のメンバーのように、アコースティック・ジャズのソロ・アルバムを作ったりしないところがショーターの偉いところだ。(やろうと思えば簡単にできたのだろうが)
 やはり、自分がいま追求している音楽と、企画ものとしてのV.S.O.P.とは分けて考えていたんだろう。アコースティック・ジャズの人気が復活したからといって、過去のスタイルに戻ったりはしない。人気があるスタイルの演奏をするのではなく、自分の音楽を追求していく人だ。
 しかし、V.S.O.P.での活動はやはりインプロヴァイザーとしてのショーターの魂に火をつけたのではないか。そこでここでウェザー的ストレート・ジャズの演奏をやってみた。しかし、やはり、たんにウェザーでストレートなジャズをやるということではなく、ウェザーリポート的な集団即興演奏というものを追求するべきだと考え、次作へと展開していったのではないか。


 それにしても前年にはハンコック、トニー、ハバード、ロンという黄金のメンバーとツアーを行い、この78年にはジャコ、ザヴィヌル、アースキンという最強のメンバーでツアーを行い、この時期のショーター周辺の顔ぶれは夢のように豪華だ。


03.3.21


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Weather Report "Mythique Weather"    (Syndicate Records)


Disc-1
01、Black Market
02、Scarlet Woman
03、Young and Fine
04、The Purauit of the Woman in the Feathered Hat
05、A Remark You Made
06、River People 
07、Thanks for the Memory〜Dolores
08、A Portrait of Tracy〜Slang〜Third Stone from the Sun   

Disc-2
09、Mr.Gone
10、In a Silent Way
11、Waterfall
12、Teen Town
13、I Got it Bad That Ain't Good
14、Birdland
15、The Band Introducing
16、Fred and Jack   
17、Elegant People
18、Badia〜Boogie Woogie Waltz Medley

    Wayne Shorter (ts,ss) Joe Zawinul (key,syn)
    Jaco Pastorius (b) Peter Erskine (ds & per)    1978.9.29
             Live at Offenbach "Stadthalle", Germany


 あまりに音がよく、ジャケットに記された曲目等も正確なので正規盤かと思っていたら、ブートレグのようだ。これは凄いアルバムだ。
 ドイツでのライヴを収録したドイツ製のアルバムで、音質はスタジオ盤なみ。2枚組CDで計130分弱と堂々とした分量。『8:30』のライヴ部分は合計して60分弱だから、実に倍以上の収録時間になる。
 その『8:30』のライヴ部分はこの年の8〜11月のライヴを編集したものだから、同時期のライヴ録音になる。当然ダブる曲も多く、編曲も似たかんじではあるが、重複する録音はない。演奏は全体に質が高く、なにより曲数と録音時間で完全に『8:30』を圧倒している。
 メンバーは当然4人編成の時代で、上記のような黄金のメンバーとなる。
 演奏・音質ともにこのままオフィシャル化しても何の問題もないと思う。ぜひそうしてほしいものだ。とくにジャコはこのころ絶頂期である。現在でもジャコの発掘モノは続々と出ているが、状態が悪くなってからのものや録音状態が良くないCDを何枚出されるよりも、絶頂期の演奏が高音質で聞けるこのようなCDが出たほうが、ファンには何倍うれしいかわからないだろう。

 さて、では本作が『8:30』より優れているのは長時間収録されているというメリットだけかというと、そうではないと思う。
 そもそも『8:30』のライヴ部分は『Mr.Gone』のツアーでの録音にもかかわらず、『Mr.Gone』収録の曲が1曲もないというヘンな選曲だった。意図はあきらかで、『Mr.Gone』に代表されるダークなイマジネーションを極力抑え、『Heavy Weather』の前半に代表される陽気でポップな演奏を中心に選曲していたのだ。
 しかし本作では当然『Mr.Gone』からの曲を含み、この時期のウェザーリポートのダークなイマジネーションの要素がよく発揮され、演奏全体に濃い陰翳を描き出している。すると、『8:30』にも収録されているポップ系の曲もまた別の輝きを放ちはじめる。つまりはダークな緊張感で引き締まって見えるのだ。
 妙に陽気で明るい『8:30』より、当然本作のほうがこの時期のウェザーリポートをよく捉えているといえるだろう。

 さて、曲を見ていこう。
 まず、本作の一番の聞き所は、やはり "Elegant People" ではないかと思う。ショーターの名曲で、ジャコはウェザー入団当時この曲を繰り返し演奏することによって初めて曲のおもしろさを知ったと語り、ウェザー退団後も重要なレパートリーとして繰り返し演奏していた。しかし、なぜか『8:30』には収録されず、『Live and Unreleased』でようやくオフィシャル化されたライヴ・ヴァージョンはショーターの演奏を前面に出して4分半ほどに短くまとめた77年の演奏だった。それがここでは黄金の4人による78年ライヴ・ヴァージョンが、たっぷり8分以上聴ける。特に後半はこれぞ集団即興というべきド迫力の演奏で、この演奏を聴いただけでもウェザーリポートというのがどういうバンドだったのか、その真価がすべてわかるような演奏だ。これだけでも本作はまず買いだと思う。
 冒頭にもどって順に見ていくと、まずオープニングは "Black Market"〜"Scarlet Woman" と、『8:30』と同じ曲順で始まる。この頃のウェザーリポートのライヴの定番だったのかもしれない。
 意表を突いた出だしで始まる "Black Market" は迫力満点で、中間部のドラムだけをバックにショーターが吹きまくる部分も素晴らしい。
 つづいて "Young and Fine"、"The Purauit of the Woman in the Feathered Hat"と、『Mr.Gone』からの曲が続く。"Young and Fine"はショーターの凄く気持ちいい演奏がたっぷりフューチャーされていて、うれしいヴァージョン。やはりソロがザヴィヌルにうつると緊張感が途切れる気がするのだが……。つづく "The Purauit of the Woman in the Feathered Hat" の特に前半で、一気にダークな緊張感があらわれてくるところがいい。この流れで "A Remark You Made" を聴くと、なんだか格調高く聴こえてくる。
 続いて "River People" はジャコとザヴィヌルの見せ場。続いてショーターの無伴奏ソロの "Thanks for the Memory〜Dolores" と続く。
 当時のウェザーリポートで最もエンターティナー性をふりまいていたのは、とうぜんジャコだろう。"A Portrait of Tracy〜Slang〜Third Stone from the Sun" 噂に聞く当時のジャコのソロ・パフォーマンスを10分以上にわたって繰り広げている。ま、これは映像で見たほうがより分かりやすく、おもしろい筈だが。
 ディスク2は "Mr.Gone" でダークに始まる。この流れでショーター=ザヴィヌルのデュオの "In a Silent Way" バンドが入っての "Waterfall" というメドレーが静かに続くのはなかなかいい雰囲気だ。
 そして空気が一気に変わって "Teen Town"。ここでも『8:30』のヴァージョンと同じく、スタジオ盤と同じ展開の前半に加えて、後半集団即興へと展開となる。ここでのショーターがいい。
 この頃、ショーターはスタンダードの演奏に興味をもっていたようだ。ソロで "Thanks for the Memory"(『8:30』と同じ選曲)、そしてザヴィヌルとのデュオではデューク・エリントンの "I Got It Bad and That Ain't Good" を演奏している。ショーターはエリントン・ナンバーの演奏はメッセンジャーズ時代の "Caravan" 以来だが、ここでふたたびエリントン・ナンバーをとりあげていることは、『Night Passage』での "Rockin' in Rhythm" につながっていくのだろうか。
 そして "Birdland" もなんだか本作では陰翳が濃く感じられる。
 "Fred and Jack" という見慣れないタイトルの曲はドラム・ソロだけの曲。
 そしてアンコールになり、先述の "Elegant People" と "Badia〜Boogie Woogie Waltz Medley" で終わる。これも良く演奏されるレパートリーだが、ここでの演奏は
ショーターは抑えめ。

 全体的にスタジオ盤以上にショーターが大活躍しているのはライヴ盤の常だが、ザヴィヌル中心に作られたスタジオ盤以上に、やはりライヴでこそウェザーリポートというグループの本当の姿が見えてくると思う。
 ブートレグにしておくのが惜しい名盤だ。


(追記)
 なお、この時のライヴは映像も残っていて、『Young and Fine Live』というタイトルでDVD化されている。しかし、あまりいい映像ではないので、過剰な期待はしないように。また、『Rockpalast '78』というタイトルのブート・ビデオはこの映像の一部。


04.1.10


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Joni Mitchell "Mingus"        (Asylum)
   ジョニ・ミッチェル『ミンガス』


01、(Happy Birthday 1975 (Rap) )  
02、God Must Be a Boogie Man  
03、(Funeral (Rap) )  
04、A Chair in the Sky
05、The Wolf that Lives in Lindsey  
06、(I's a Muggin' (Rap) )  
07、Sweet Sucker Dance
08、(Coin in the Pocker (Rap) )  
09、The Dre Cleaner from Des Moines
10、(Lucky (Rap) )  
11、Goodbye Porkpie Hat

   「04」「07」「09」「11」
   Joni Mitchell (vo,g) Wayne Shorter (ss) Herbie Hancock (key)
   Jaco Pastorius (b) Peter Erskine (ds)  他     1978


 ショーターは77年の『Don Juan's Reckless Daughter』で初めてジョニ・ミッチェルのレコーディングに参加、その後彼女のスタジオ盤の全てのレコーディングにゲスト参加している。
 なかでも極めつけというべきは本作だ。

 本作はジョニを気に入っていたらしいチャールズ・ミンガスが曲を書き、ジョニがそれに詞をつけて歌う、というコラボレーション企画だったものが、アルバム完成前にミンガスが急逝、追悼盤となったものだ。
 本作収録の全11曲中の5曲は曲ではなく、ミンガスが知人と会話している録音等の、ごく短い効果音である。残り6曲中2曲はジョニが作詞作曲したナンバーで、これはジョニのギター弾き語り+αで録音されている。残りの4曲がバンドによって演奏されているナンバーで、ミンガスの曲にジョニが詞をつけたもの。ショーターもこの4曲に参加している。
 さて、この4曲が何度聴いても聴き飽きない、底なしの魅力をもっている。
 この4曲、ショーターらが歌伴をつとめた作品というよりも、ジョニもプレイヤーの一人として参加したジャズ・バンドによる演奏といったほうがいいと思う。一般的なボーカリスト+バックバンドという関係ではない。
 当時のジョニのバンドの中心になっていたのは、ジャコ・パストリアスだ。ジャコは76年の『Hejira(逃避行)』以後、ジョニの作品のミュージカル・ディレクター的立場にいる。ここでもジャコのベースが波のように自由にうねり、そこにドラムがからんで、自由なリズムを作り上げていく。
 そしてその定型ではないリズムのもと、ショーターのサックスが、ハンコックのキーボードが、そしてもちろんジョニのボーカルが、そしてジャコのベースが自由自在に歌い、入り乱れながら対話し、すすんでいくのだ。これはショーターの追求していた集団即興のありかただ。ウェザーリポートではファンクのリズムを導入したためにリズムが定型化したが、もしウェザーリポートにファンクを導入しないままジャコが加入したら、こんなふうな演奏もありえたんじゃないかという気さえしてくる。V.S.O.P.よりもはるかに当時のショーターが追求していた音楽に近いスタイルだ。("The Dre Cleaner from Des Moines"のみジャコ編曲によるブラス・セッション入りで、少し雰囲気は違うが)
 さて、本作をこのような集団即興スタイルの演奏にもっていったのは誰なんだろうか。普通に考えればリーダーのジョニか、バンドを仕切っていたジャコだろうが、このジョニ=ジャコのバンドはこの後、本作のメンバーからショーターとハンコックが抜け、かわりにパット・メセニーやマイケル・ブレッカーらを加えたメンバーでツアーを行い、その模様が『Shadows and Light』(79)としてCD化われている。本作中の曲も演奏してるが、このライヴ盤ではもう本作のような集団即興は行ってなく、各奏者は前奏や中間部や後奏でモノローグ型のソロをくり広げるという普通の歌伴スタイルになっていて、本作の濃密な対話性、いまにも何かがおきそうな緊張感はない。本作は一音一音耳をそば立てて聴きたくなるが、『Shadows and Light』はかるく聴き流せる音楽である。
 つまり、ジョニやジャコが主導してこのようになったとは思えないのだ。
 するとやはりショーターが主導したんだろうか。それとも、このようなメンバーが揃ったために、自然にそういった演奏になったんだろうか。確かにジャコもギル・エヴァンスの集団即興的オーケストラ・アレンジに強い影響を受けたミュージシャンであることはこの後の活動を見ればわかるし、ショーターとジャコが(ザヴィヌル抜きで)意気投合し、そこにどんな試みもうまくまとめてしまうハンコックが加わったことで、このような演奏になったのかもしれない。
 なかなか興味がつきない。
 結論をいえば、本作の演奏はジャズっぽい演奏ではなく、ジャズそのものであり、本作はこの後のジョニの『Shadows and Light』等とも一線を画する、独自のスタイルの音楽である。ジョニの全作品中特異な作品だ。

 さて、ショーターによる、本作のようなタイプの(リズムまで含めた)集団即興演奏は、2001年に始まるアコースティック・バンド(『Footprints Live!』)でさらに追求されている。

 余談だが、レスター・ヤングの追悼曲として有名なのが、ショーター作の"Lester Left Town"とミンガス作の"Goodbye Porkpie Hat"。本作ではそのショーターが"Goodbye Porkpie Hat"を演奏することにより、さりげなくレスター・ヤングの追悼盤にもなっているような気も……。


02.12.20


『ウェイン・ショーターの部屋』

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    Weather Report "Berkley 1979"


「Disc-1」
01、Black Market
02、Scarlet Woman
03、Teen Town
04、A Remark You Made

「Disc-2」
05、Slang (Bass Solo)
06、Brother, Can You Spare a Dime? (Sax & Key Duo)
07、In a Silent Way (Sax & Key Duo)
08、Birdland
09、Key Improvisation〜Badia〜Boogie Woogie Waltz〜Badia

    Wayne Shorter (ts,ss) Joe Zawinul (key)
    Jaco Pastorius (b) Peter Erskine (ds) 
       Live at the Greek Theare,Berkley,CA 1979.5.26


 現在手に入るウェザーリポートのライヴ音源には偏向があって、何種類も手に入る時期もあれば、あまり手に入らない時期がある。ジャコ在籍時は数多く音源が入手できる時期なのだが、その内でも1979年のライヴはあまり出ていない。まあ、79年といえば、ショーターはVSOPクインテットで世界ツアーを行い、ジャコはジョニ・ミッチェルのツアーに参加していた年なので、ライヴ自体がそんなに数多く行われていないせいなのかもしれない。
 これはブートCDRで、クレジットが正しければ、その1979年の5月末のライヴだ。音質は中の中といったところか。良いとはいえないが、頭にくるほど悪くもない。収録時間は88分強。
 さて、79年のウェザーリポートのライヴはどうかという興味で聴いたのだが、もう79年も半ばになる頃なのだが、『8:30』のスタジオ面の曲はまだ登場していなく、曲目も編曲も78年のライヴの延長線上という感じだ。まだ4人編成の時期のためかもしれない。
 というわけで、より簡単に手にはいる78年のライヴを繰り返し聴いた後では、一聴変わりばえはしない内容にみえるのだが、それでも聴いていると78年との違いも聴こえてくる。この編曲での演奏に慣れてきたせいか演奏がより自由になり、編曲を崩しながら違う見せ場が強調されてきている点がいろいろ見られることだ。
 "Black Marcket" ではあのドラムのみをバックにしたショーターのインプロ部分が78年の頃より長くなっているし、ザヴィヌルのソロ部分でもバックでショーターがかるく吹き続けている。
 "Teen Town" はもともとは主役であったはずのジャコのソロ部分が短くおさえられ、スタジオ版では存在すらしなかったショーターのソロが入ってくるパートが78年の頃より大幅に長くなり、完全にショーターが主役の演奏に生まれ変わっている。ラスト近くでは4人入り乱れての集団即興になる展開で、かなりの名演だ。
 "Birdland" は14分におよぶロング・バージョンだが最初の7分ぐらいでやることは全部終わってしまう。78年ならここでエンディング……という雰囲気になるのだが、そこから続く続く……。小気味いいシャッフルのリズムに乗って、自由な演奏を気軽に楽しんでいるというかんじ。
 そのぶん緊張感に欠ける面もあるのだが、こんなふうになごやかで自由なライヴも、これはこれでいいのではないか。


05.11.25


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   V.S.O.P.The Quintet "Live Under the Sky '79"      (SME)
   VSOP・クインテット『ライヴ・アンダー・サ・スカイ伝説』


Disc-1
01、Eye of the Hurricane
02、Teardrop
03、Domo
04、Para Oriente
05、Pee Wee

Disc-2
06、One of Another Kind
07、Fragile
08、Stella By Starlight〜On Green Dolphin Street

     「01」〜「07」
     Wayne Shorter (ts,ss) Freddie Hubbard (tp) 
     Herbie Hancock (p) Ron Carter (b)
     Tony Williams (ds)              1979.7.26

     「08」
     Wayne Shorter (ts) Herbie Hancock (p)    1979.7.26


 V.S.O.P.による活動は'77年の世界ツアーとライヴ盤2組でいちおう完結させる予定だったのかもしれないが、圧倒的な人気を受けて翌々年の'79年に再活動を行う。
 本作は題名どおり、日本で行われた野外ライヴ「Live Under the Sky」での実況盤だ。この時のライヴはいまでもジャズ関係者の間では話題にのぼる伝説のライヴらしい。当時を知るジャズ・ファンに、いままで見たすべてのライヴの中で最ももう一度見たいライヴは何か? と聞くと真っ先に名前の出てくるライヴだそうで、それは日本のジャズ関係者だけでなく、演奏していたショーター、ハンコックらにとっても忘れられない、いつまでも昨日のことのように思い出せるライヴだという。
 突然激しい雨が降ってくるような悪天候にもかかわらず、一人も帰ろうとせずに熱心に演奏に聴きいる観客と演奏者のあいだに一体感が生まれたのがその理由らしい。
 たぶん、そのような感動というのは、実際にその会場にいて、その一体感を経験した人間でないと味わえないタイプのものではないか。正直、このCDで演奏を聴いただけだと、77年の2組のアルバムでの演奏より、特に優れた演奏だという気はしない。
 となると、聴き所はやはりショーターとハンコックのデュオだろうか。

 なお、本作はCD化にあたってカットされていた"Eye of the Hurricane"が復活し、曲順も実際のライヴ演奏の順序に戻され、曲間のMCも収録された。完全版のライヴ・アルバムといえる。
 「Disc-1」冒頭はその復活した"Eye of the Hurricane"から。これは別の意味でおもしろい演奏だ。これ、ショーターが完全に失敗しているのだ。いつもどおり快調に飛ばすハバードの後で、ショーターはイメージが湧かなかったのか同じフレーズを繰り返すだけのみじめなソロをとる。これはどういうことかというと、ショーターが天才型の天性のインプロヴァイザーであることの証明なのである。
 天才型のインプロヴァイザーというのは即興演奏に臨むとき、何も考えないでいきなり吹き始める人である。つまり自分が演奏をはじめれば、自然にメロディが次々と湧いてきて、見事な音楽が瞬時に生まれてくると自信をもっているのだ。だから真剣勝負というべき即興演奏の場にも、平気で何の準備もせずに臨める。準備をしてないから、失敗する時は平気で大失敗もする。
 しかし、天性のインプロヴァイザーではない人はそんな自信はないから、あらかじめ準備をしておかなければソロには臨めない。キメのフレーズをあらかじめ何パターンも考えておいたり、ソロ全体の構成をだいたい考えておいたり……。マイルスなどは典型的にこのタイプだ。
 こういった下準備をしておくタイプはまず失敗はしない。安定してある水準のソロをとれる。しかし本当に凄いのは失敗することも恐れず、何の準備もしないで真剣勝負に臨める人であり、即興演奏の真の醍醐味はそういった天性のインプロヴァイザーの演奏にこそある。そしてこのような失敗はまさにショーターが天性のインプロヴァイザーであることの証明だ。
 次はロン・カーター作のバラード、"Teardrop"。これは名曲だ。時が止まったような耽美的なメロディを受けて、ハンコックも耽美的なソロをとる。しかしショーターはほとんどソロをとらない。
 続いてハンコック作の"Domo"。ライヴでウケそうな急速曲で、ここにきて初めてショーターがテナーで激しく吹き荒れる。ちょっとマイクがオフ気味なかんじなのが惜しい。つづくハバードがここでも快調。ファンはこれを期待して会場に来たんだと思わせる。
 そしてトニーの曲が2曲つづく。まず"Para Oriente"。どちらかというとハンコックが作りそうなファンキーな曲。ショーターはソロらしいソロはとらず。
 つづく"Pee Wee"はマイルス・バンド時代、マイルス抜きで演奏した曲だが、ここでもハバード抜きのカルテットで演奏している。以前のヴァージョンは曲そのものよりショーターの吹き方のほうが印象に残っていたが、この演奏ではより曲の良さがうかがえる気がする。もちろんショーターの充実したバラード演奏もたっぷりと味わえる。

 「Disc-2」にきて、ハバード作の"One of Another Kind"の20分を超える演奏となる。4ビートだがロック的なかんじのする疾走するリズム。あいかわらず絶好調のハバードの後、ショーターはここではソプラノで駆け抜けるようなソロをとる。いかにもV.S.O.P.といったかんじの、ファンが期待するクライマックス。
 つづくロン作の"Fragile"はちょっとフリーっぽい印象もあるテーマ。ウェザーリポートの集団即興の方法論をそのままV.S.O.P.に持ち込んだような演奏で、個人的にはこちらが真のクライマックスではないかと思う。ショーター、ハバードの対話、それにバックから割り込むトニーが超迫力。
 そして、ついに伝説のショーターとハンコックのデュオ、"Stella By Starlight〜On Green Dolphin Street"だ。
 これは当日2度目のアンコールとして演奏されたもので、"Stella By Starlight"と"On Green Dolphin Street"のメドレーという構成の理由は日本盤のライナーノーツに書いてある(著者は成田正氏)。簡単にいうと、ショーターが"On Green Dolphin Street"をやろうといってハンコックがOKし、ステージに出てハンコックが前奏を弾いてると、突然ショーターが"Stella By Starlight"を吹き始めた(本人いわく、どうしてそうなったのか、自分でもわからないそうだ)。即座にハンコックがこれにバッキングをつける。そしてそこから"On Green Dolphin Street"へとつなげたという。
 聴いているファンだけでなく、演奏者にとっても緊張感のある対話だったようだ。この期におよんで何を考えているのかわからないショーターも凄いが、どんな人間にも的確に合わせてしまうハンコックも凄い。
 これ以後、ハンコックはジャズ・フェスティバル等でショーターと(別々のバンドであっても)一緒に出演した時には、会場でショーターの姿を探し、またあんなふうなデュオをやらないかと声をかけていたという。
 そのショーターとハンコックのデュオは『Jazz at the Opera House』(82)などを経て、20年近くたってようやく全曲デュオのアルバム『1+1』(97)として理想的な形に結実する。

 ところでこのアルバム、全体にショーターのマイクがオフ気味な気がするのだが、どうなんだろう。


03.7.19


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   V.S.O.P.The Quintet "Five Stars"        (SME)
   VSOP・クインテット『ファイヴ・スターズ』


01、Skagly 
02、Finger Painting 
03、Mutants on the Beach 
04、Circe 

     Wayne Shorter (ts,ss) Freddie Hubbard (tp-1-3) 
     Herbie Hancock (p) Ron Carter (b)
     Tony Williams (ds)           1979.7.29


 もともと企画ものとして始まり、圧倒的な人気を受けてライヴ・ツアーを行い、したがってこれまでライヴ盤しか出してこなかったV.S.O.P.が、ここにきて初めてスタジオ入りした。なんでまたこの時期にスタジオ盤を……というと、想像するに、ここまで人気が出てレギュラー・バンドとしてもう3年目に入ったのなら、このままライヴだけの企画で終わらせずに、このバンドで何か新しいものを創造してみよう、このバンドをこのままレギュラー・バンドとして続けて行こうか、という考えが芽生えたんじゃないかと思う。
 ということでV.S.O.P.唯一のスタジオ録音盤。と聞くと期待感が高まってしまうのだが、そうして本作を聴いた人は、おそらくガッカリ……というのが普通の第一印象ではないか。
 メンバーのうち、ロン以外の4人の作による曲が一曲づつ、計4曲入っているが、ショーター以外のメンバーが書いた3曲は、やっていることはライヴ録音と変わらない。軽快さ、明るさ、気持ちよさで聴かせる演奏で、しかし観客を前にしたライヴ録音に比べると、一回り迫力が小さくなっている。これならライヴ盤のほうが良かったといった内容。
 そして、最後にショーター作の"Circe"(キルケー)が登場する。この曲だけハバードが抜けたカルテットによる演奏だが、なんだか暗くて、地味で、音量も小さく、短くて、ほとんど印象に残らない。
 アルバム全体の演奏時間も33分弱と短く、なんだこれ……とそのまま棚に置いたままになってる人も多いのではないか。
 しかし、気をとり直して、今度はショーターの"Circe"のみを聴いてみてほしい。実はこれ、これだけで聴くと、すごくいい曲だ。明るく派手な3曲の後に聴くから、暗くて地味な印象しか残らず、音量が小さいので目立たないのだ。たった4分半の演奏ではあるが、この"Circe"を聴くためにこのアルバムを聴く意味はある。
 一応説明しておくと、キルケーとはホメロスの『オデッセイア』に出てくる、地中海の島に棲む魔女。オデッセウスの船は彼女の島に流れ着き、キルケーは魔法で船員たちを次々に豚に変え、オデッセウスは一年間彼女の島で愛人として過ごす……というエピソード。
 ベースが夢みるようなリズムを刻んで、ドラム抜きのトリオのようにはじまり、途中から静かにシンバルが入ってくる。幻想的な月明かりの島に佇む、美しい魔女の姿が浮かんでくる曲だ。
 この"Circe"という曲には、たしかにこれからV.S.O.P.が新しい音楽を生み出そうとしていた萌芽が見られる。このまま続いていたらV.S.O.P.にはおもしろい展開があったかもしれない。しかし、結局このアルバムを最後にV.S.O.P.は終了となる。
 思えばV.S.O.P.の解散が79年、翌80年にはブレイキーのジャズ・メッセンジャーズで新人ウィントン・マルサリスが注目を集めることになり、V.S.O.P.が人気を復活させたアコースティック・ジャズは若い世代によって復活していくことになる。

 人気の点でいけばV.S.O.P.はまだまだ続けられたんだろうが、個人的にはこんへんでやめといたのは慧眼だったと思う。
 例えばキース・ジャレットはピアノ・トリオでのスタンダード演奏という企画ものを20年以上も続けていて、けっこう安定して高い評価を受けてるようだが、個人的にはあれはやはり続けすぎだと思う。個人的には夢中で聴いたのは最初の3作までで、あとは飽きてしまった。そういう感覚が普通ではないか。
 新しい方向性が出てくるなり、何らかの発展性がないなら、3年くらいでやめとくのが、正解のような気がする。

 さて、この後の活動で、ショーターと他の4人のメンバーの間には差がある。それはアコースティック・ジャズの人気復活に応えて、他の4人はそれぞれのソロ・リーダー作でアコースティック・ジャズを再開するのに対して、ショーターはそれをしなかったということだ。サイドマンとして、あるいは企画ものではアコースティック・ジャズも演奏しているが、ウェザー解散後も(周囲は期待してただろうに)アコースティック・ジャズのリーダー作は作らなかった。
 そしてついにショーターがリーダー作でアコースティック・ジャズを始めるのは実に20年後の2001年、それも集団即興の自由度をさらに拡大するためにアコースティック・ジャズをやるといった新しい方法論での演奏であって、けっしてV.S.O.P.的な60年代のスタイルの復活ということではなかった。このショーターの態度は特筆すべきものだと思う。


03.3.17


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   Devadip Carlos Santana "The Swing of Delight"     (SME)
   カルロス・サンタナ『スウィング・オブ・デライト』


01、Swapan Tari   
02、Love Theme from "Spartacus"
03、Phuler Matan
04、Song for My Brother   
05、Jharna Kala   
06、Gardenia
07、La Llave   
08、Golden Hours   
09、Sher Khan, the Tiger

  Wayne Shorter (ss, ts) Russell Tubbs (fl, ss, ts)
  Carlos Santana (g, per, vo) Herbie Hancock (p, key, syn)
  Ron Carter (b) Harvey Mason, Tony Williams (d)
  Armando Peraza, Raul Rekow, Orestes Vilato (per)   1979


 サンタナの個人名義のアルバムである。
 77年の『Inner Secrets(太陽の秘宝)』から80年代いっぱいのサンタナは、バンド名義では売れセン狙いのポップなアルバムを次々にリリースする一方、そのウサを晴らすように、個人名義で自分の趣味に走った、本当にやりたい音楽を発表していた。本作もそんな中の一枚で、サンタナが自分のやりたことはこのアルバムでやりつくしたと語ったらしいアルバムである。
 さて、70年代初頭にラテン音楽的なリズムに乗って、インストゥルメンタル中心の、いわゆる「ラテン・ロック」で一世を風靡したサンタナだが、この頃になるとやりたい音楽の種類もだいぶ変わってきたようだ。本作のサウンドはスマートなフュージョンといったところで、あいかわらず打楽器隊の人数の多さは目立つものの、かつてのような土の匂いのするラテンのリズムという感じではない。
 メンバーはご覧のとおりショーター以下、V.S.O.P.のメンバーはハバート以外全員揃っていう豪華な顔ぶれだ。
 サンタナはもともとコルトレーンを心から敬愛するジャズ指向の強い人で、本作までにもジョン・マクラフリン、アリス・コルトレーン、Return to Forever のスタンリー・クラークとフローラ・プリムとそれぞれ共演したアルバムもあり、ジャズ・フュージョン畑のミュージシャンの共演もさほどめずらしいことではない。というより、サンタナの音楽自体、とくに初期のものは「ラテン・ロック」などというより、登場が5年も遅ければあきらかにフュージョンに分類されてたんじゃないかと個人的には思うのだ。

 さて、ショーターだが、本作では上記の4曲に参加した他、オリジナルの "Sher Khan, the Tiger" も提供している。この曲はこの後『Atlantis』(85)でも演奏されているが、本作のヴァージョンは『Atlantis』収録のものより倍以上も長いロング・ヴァージョンだ。
 内容だが、サンタナがバンド名義の作のポップ路線の鬱憤を晴らすかのような緊張感あふれるソロを次々に繰り出し、全体的にいい演奏だと思う。やはりサンタナはボーカル入りのポップさを意識した曲より、好きなようにギターを弾きまくった時のほうがいい。
 ショーター、ハンコックら他の参加メンバーにもそれなりに見せ場はあるが、基本的にはやはり本作はサンタナの演奏を聴くためのアルバムのようだ。どんなに他のメンバーがいいソロをとっても、結局はサンタナのソロが一番目立つように構成され、ミキシングされている。ジャズというより、フュージョンの発想なんだろう。
 で、 "Sher Khan, the Tiger" だが、この曲は他と違って演奏性より編曲性をおしだした作りになっている。ショーターが目立ったソロをとっているわけではないが、曲のせいか不思議な幻想性が感じられて、なかなかいいヴァージョンだと思う。


03.11.6


『ウェイン・ショーターの部屋』

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