ウェイン・ショーター、アルバム紹介 1963年〜64年4月







    Freddie Hubbard "The Body & the Soul"   (Impulse)
    フレディ・ハバード『ボディ・アンド・ソウル』


01、Body and Soul
02、Carnival (Manha De Carnaval)
03、Chocolate Shake
04、Dedicated to you
05、Clarence's Place
06、Aries
07、Skylark
08、I Got it Bad (and That Ain;t Good)
09、Thermo

   「03」「07」「08」
   Wayne Shorter (arr, comp) Freddie Hubbard, Ed Armour, Richard Williams (tp)
   Curtis Fuller, Melba Liston (tb) Bob Northern, Julius Watkins (frh) Eric Dolphy (as)
   Jerome Richardson (bars) Cedar Walton (p) Reggie Workman (b)
   Philly Joe Jones (ds)  with strings  1963.3.8

   「02」「06」「09」
   Wayne Shorter (arr, comp) Ed Armour, Al DeRisi, Freddie Hubbard, Ernie Royal,
   Clark Terry, Richard Williams (tp) Curtis Fuller, Melba Liston (tb) Bob Northern (frh)
   Robert Powell (tu) Eric Dolphy (as) Seldon Powell (ts) Charles Davis,
   Jerome Richardson (bars) Cedar Walton (p) Reggie Workman (b)
   Philly Joe Jones (ds)   1963.3.11

   「01」「04」「05」
   Freddie Hubbard (tp) Curtis Fuller (tb) Eric Dolphy (as, fl) Wayne Shorter (ts)
   Cedar Walton (p) Reggie Workman (b) Louis Hayes (ds)   1963.5.2


 これもショーターの特異な才能の一面を示す作品だ。
 『Here to Stay』(62)に続くハバードのソロ作への参加だが、今回はビッグ・バンドの編曲者+指揮者としての参加だ。
 もう少し詳しく説明すると、3/8日に録音した「3」「7」「8」がストリングス入りのビッグ・バンド、3/11日の「2」「6」「9」がホーン中心のビッグ・バンド、「1」「4」「5」は4管7人編成の、いちおうスモール・コンボで、この3曲ではショーターはサックスも吹いている。
 が、全曲がほぼハバードのトランペットを主役にした編曲で、ショーターふくめ他の奏者は、あくまでハバードのバックでの演奏だ。
 また、ハバードからのつながりか、全曲にエリック・ドルフィーが参加し、「5」では短いがソロも吹いている。ショーターとドルフィーの共演は、おそらく録音されて残っているものとしては唯一だろう。このような編曲ものである点が惜しい。

 さて、正直ぼくは編曲者の腕の善し悪しを判断できるような人間ではない。普段からそれほどビッグ・バンド、編曲ジャズは聴いているほうではないからだ。
 だから、好みだけでいわせてもらえば、本作は好きだ。大人数でありながら、音がうるさくない。抑制がきいていて、なめらかで、知的な響きだ。こういうのは、ギル・エヴァンスの影響なんだろうか。
 ストリングスの使い方も趣味がいいと思う。ストリングス入りのジャズというのは、とかく甘すぎる編曲になるか、あるいは逆にウィントン・マルサリスのようにクラシックの交響曲みたいに鳴らしてしまい、これはこれで違うよなあ……と思わせられたものだが、本作のストリングスは甘すぎず、アーティスティックになりすぎず、ちょうどいいバランスだ。
 かなりの成功作といっていいんじゃないだろうか。

 しかし、ショーターがこの後に、こういった大編成のバンドやオーケストラの編曲を手がけるのは、実に30年以上後の『High Life』(95)や『Alegria』(03)を待たなければならない。これは。なぜだろうか。
 ここから先はぼくの推測に過ぎないが、たぶんその理由は、この翌年の64年にショーターが、ギル・エヴァンスの『The Individualisum of Gil Evans』に参加したためではないか。
 その頃ギルは既に、50年代にマイルスとやったようなスコアを作り上げていく方法を古いスタイルとして捨て去り、スコアを壊しながら集団即興的な演奏の在り方を探究していた。
 ショーターもその集団即興のバンド内でのメイン・ソロをとることを経験し、この新しい方法に、より強い興味をおぼえたのではないか。そしてまず、スモールコンボで、プレイヤーとして集団即興を追求するバンド、ウェザーリポートの結成へと繋がっていったのでは。
 そして、再び大編成のバンドやオーケストラの編曲を始めたのは、ウェザーリポート〜スモールコンボでの集団即興の追求に一応の答えを見た、30年後ということになったのではないか。
 実に気の長い話だが、ショーターという人は実に気の長い人なのだ。
 『Alegria』(03)のライナーノーツでは、18才の時に思いついた曲をいままで(つまり50年以上)書き続けたこを嬉々として語っている。つまい、そういう人なのだ。


03.3.14


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and The Jazz Messengers "Ugetu"   (Riverside)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『雨月』


01、One by One
02、Ugetu
03、Time Off
04、Ping-Pong 
05、I Didn't Know What Time It Was
06、On the Ginza 
07、Eva        (bonus track)
08、The High Priest  (bonus track)
09、The Theme    (bonus track)

    Wayne Shorter (ts) Freddie Hubbard (tp)
    Curtis Fuller(trombone) Cedar Walton (p)
    Reginald Workman (b) Art Blakey (ds)  1963.6.16


 本作から『Free for All』『Kyoto』とつづく3枚が、3管メッセンジャーズの頂点だ。
 本作はリバーサイドにおける二枚目、バードランドでのライヴ録音で、ピー・ウィー・マーケットのアナウンスも入ってる。
 さて、リバーサイドの後半2枚は「日本趣味」シリーズとなり、『雨月』『京都』と続く。表題曲の"Ugetu"はシダー・ウォルトンの作。彼が溝口健二の『雨月物語』に感動してつけたタイトルだそうだ。
 本作はまず、ベースの名盤だ。録音のせいなのかもしれないが、ブレイキーの影が薄く、ベースがぐいぐいと演奏を引っ張っていく。ワークマンの深く弾むベースがここまで前に出ているアルバムも珍しいのでは。

 本作は久々にメッセンジャーズ的なミディアム・テンポのファンキー・ナンバー、ショーター作による"One by One"に始まる。出だしは新しいメッセンジャーズ的な、くつろいだ曲かと思わせておいて、ファンキーに雪崩れ込んでいく所が見事なテーマだ。この曲はこの後も、ずっとメッセンジャーズのライヴで演奏され続けたという。
 本作の日本趣味を代表するタイトルは2曲目の"Ugetu"と、6曲目の"On the Ginza"だが、この二曲がそのまま本作の一番の聴きどころだろう。両曲ともよく似た軽快なリズムの曲で、これが彼らの感じた日本のイメージなんだろうか。よく欧米人が描く「いかにも」というかんじの俗っぽい日本のイメージとは無縁なところが嬉しい。この2曲を比べると、さすがにショーター作の"On the Ginza"のほうが、3管アンサンブルの使い方が堂に入ってるのがわかるが、両方好きだ。ワークマンの重々しくて軽快に弾むベースに乗って、バンド全体がうきうきしたかんじ。新しい風が流れてくるようだ。
 "Time Off"はフラー作の派手な曲。"Ping-Pong"は『Roots & Herbs』(61)に入っていたショーターの曲だが、『Three Blind Mice2』でも演奏されており、この頃のメッセンジャーズのライヴでは定番だったのでは。
 スタンダードのバラード"I Didn't Know What Time It Was"では全編ショーターがソロ吹く。ショーターのソロ作『Second Genesis』の演奏に近いが、本作録音時点では『Second Genesis』はオクラ入りになっていたので、ここでやっておこうというかんじか。
 ここからの3曲はCD版のボーナス・トラックだ。
 まずショーター作の"Eva"はちょっと変わった曲で、アンサンブルによるゆっくりしたテンポの、しかし劇的な盛り上がりを見せるテーマが長々と続き、その後でウォルトン一人がソロをとる。このパターンの曲は他にないような気がするのだが、どういう意図でできた曲なんだろう。
 続く"The High Priest"はこの後の『Kyoto』で冒頭に入っている。ラストはいつもの"The Theme"だが、ピー・ウィー・マーケットのアナウンスがバックできこえるのがうれしい。



03.3.7


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and The Jazz Messengers "Free for All"   (Blue Note)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『フリー・フォー・オール』


01、Free for All 
02、Hammer Head 
03、The Core
04、Pensativa

     Wayne Shorter(ts) Freddie Hubbard(tp)
     Curtis Fuller(tb)  Cedar Walton(p)
     Reginald Workman(b) Art Blakey(ds)   1964,2,10


 本作から64年録音の作品が始まる。この年はショーター大躍進の年で、メッセンジャーズの本作、『Kyoto』、ソロ作『Night Dreamer』『JuJu』『Speak No Evel』が一年のうちに出たというのは信じられない。つまり、この時期のショーター音楽の完成形というべき代表作がこの年一気に出揃う。
 普通のミュージシャンなら一生かけでも出来ないほどの仕事を一年のうちでしてしまった感がある。もっとも、こういうのは本当に一年で作ったというより、長い間かかってミュージシャンの内に溜まってきていたものが、あるきっかけで噴き出してきた結果であり、つまり、長い間かけて作ってきたものが形になったのがこの一年というべきだろう。

 ブルーノートに戻ってきての第一作。本作はメッセンジャーズのピークの一つだ。
 本作は何といってもまず、"Free for All"、そして"The Core"だ。
 嵐のようなブレイキーのドラムの連打を浴びながら、ショーターが猛然とサックスを吹き進む……。後のウェザーリポートでも最大の聴かせどころの一つは、嵐のようなドラム、パーカッションの連打を浴びながら、ショーターが猛然とサックスを吹き進む所だったが、ショーターがあのようなサウンドを作ったのは、本作での演奏の快感が忘れられなかったからではないか、と思ってしまうほどだ。
 ブレイキーのドラミングについて「ナイアガラの滝のような」という形容があったと思うが、それはドラム・ソロに関しての事だと思うが、ここでは曲の最初から最後まで、豪雨のようにドラムの飛沫が降りってくる。対するショーターの猛然とした吹きぶりも凄い。前も見えない豪雨の中を一心不乱に駆け出して行くよう。
 しかし、ドラムの連打が激しさだけでなく空間的スケールの大きさを感じさせるのは、ブレイキーの技なんだろうか。
 前作『Ugetu』では(録音のせいか)ベースの影に隠れてあまり目立たなかったブレイキーだが、面目躍如といったところ。
 もちろんワークマンのベースも相変わらずいい。"The Core"では渋い序奏を聴かせるが、そもそもこういったパーカッション的なドラムの使い方も出来るのも、一つにはワークマンががっしりしたベースでリズムを刻んでいってくれるからだと思う。
 とにかくこの二曲、とくに"Free for All"でのドラムは大音量で聴いてもらいたい。
 続いて"Hammer Head"。ショーター作のファンキーなナンバー。テーマ自体はそれほど好きでもない。先発するショーターのソロの出だしが、むしろテーマよりいい。
 ラストの"Pensativa"はほっと一息つける、くつろいだ演奏。嵐の後にリヴィングでかるく紅茶でも一杯。といったところか。

 さて、ここで少し疑念もある。
 本作は全体的にハードな内容で、ファンキー・チューンをフューチャーしているわけだが、ブルーノートに戻ってきた途端こういう内容になるというのは、ブルーノートがメッセンジャーズに求めていたのは、昔ながらの元気のいいファンキーなメッセンジャーズだったのかもしれない。
 じっさい前回のメッセンジャーズのカラーの変化(ファンキーでなくなる)はブルーノートから離れる前後の『Buhaina's Delight』(61)『Three Blind Mice』(62)あたりでおこっている。
 だとすると、本作は以前の『Mosaic』(61)のように、意識的に「元気のいいファンキー・メッセンジャーズ」を演出したアルバムかもしれない。
 さすがに本作は鉄壁のメンバーだけあって、『Mosaic』のように単に昔風に戻ったようなアルバムにはならなかった。しかし次のブルーノートからのアルバム、ハバードが抜けてモーガンが戻ってきた『Indestructible』(64)になると、これまでの方向性を見失ったショーター色の薄いメッセンジャーズが見られる。
 このへんのの変化がショーターがメッセンジャーズを離れる原因になったのだろうか。


03.3.9


『ウェイン・ショーターの部屋』

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    Lee Morgan "Serch for the New Land"      (Blue Note)
   リー・モーガン『サーチ・フォー・ザ・ニュー・ランド』


01、Serch for the New Land
02、The Joker
03、Mr.Kenyatta
04、Melancholee
05、Morgan the Pirate

    Lee Morgan(tp) Wayne Shorter(ts)
    Herbie Hancock(p) Grant Green(g)
    Reginald Workman(b) Billy Higgins(ds)  1964.2.15


 メッセンジャーズを離れた61年からリー・モーガンは麻薬中毒の治療のため2年近く故郷へ帰って休養していた。そのモーガンがニューヨークに戻ってきたのは63年末。ここからモーガンの音楽活動第二幕が始まる。
 こういう休養期間、ミュージシャンはおそらく復帰後自分が何をしようか、策を練っているものだろう。
 そしてモーガンは63年末から2作連続して、まったく性格の異なるリーダー作をブルーノートに録音する。その第一作が8ビートと黒っぽいフィーリングを押し出した『The Sidewinder』(63)、そしてその僅か2ヶ月後に吹き込まれたのが、いわゆる新主流派を目指した本作だ。この二作の路線がモーガンが今後に向けて用意してきた二つの試みだとみるべきだろう。
 結果はご存知の通り、64年夏にリリースされた『The Sidewinder』はブルーノート史上空前の大ヒット作となり、以後モーガンは『The Sidewinder』的なものを求められるようになる。しかしモーガンは本作の系列の演奏も積極的に続けることになる。
 メンバーではグラント・グリーンの参加がうれしい。ソウル・ジャズ畑から登場した人だが、この前年にジョー・ヘンダーソンやボビー・ハチャーソンを加えた『Idle Moments』で新主流派の素晴らしい演奏を見せた。グリーンのこの路線での演奏はそれほど多くないが、好きだ。
 逆に個人的に嫌いなのが、ドラムのビリー・ヒギンズ。この後モーガンはずっとこの人をドラムに据えるが、どこが気に入ったのかわからない。インタープレイを拒否するかのように、ずっと同じ調子で叩きつづけるドラムで、嫌いだ。個人的にはモーガンやハンク・モブレーの60年代後半の作品は、ヒギンズのせいで魅力が減じていると思っている。

 さて、本作は全曲がモーガンのオリジナルで、編曲にもさまざまな工夫があり、意気込みが感じられる作品だ。が、どうもこのタイプの音楽、この時点では、どうやってもショーターの個性が勝ってしまう気がする。特に前半、"Serch for the New Land"、"The Joker"ではいずれもショーターが第一ソロをとり、ショーターのアルバムかと思うほど。
 むしろ二ヶ月ほど後のショーターの『Night Dreamer』での演奏のほうが、モーガンらしい華々しさや思いきりの良さがあるように感じる。
 後半"Mr.Kenyatta"や、繊細なバラード、"Melancholee"ではさすがにモーガンが先発ソロをとるが、後からショーターが吹き始めると一気にショーター色に塗りつぶされてしまう。ショーター・ファンとしてはうれしい限りだが、モーガン・ファンには不満かも。
 本作のモーガンの演奏が一番好きなのは、ラストの"Morgan the Pirate"。「海賊モーガン」の題名どおり、蒼空の下の海原を、帆船で波飛沫をたてながら進んでいるような、清々しいトランペットの音に聴きほれる。
 ショーターのほうはこの"Morgan the Pirate"だけが不調で、あとは全編にわたって快調。グリーンは少し出番が少なめで残念。


 03.3.4


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   Art Blakey and The Jazz Messengers "Kyoto"    (Riverside)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『京都』


01、The High Priest
02、Never Never Land
03、Willington's Blues
04、Nihon Bash
05、Kyoto

    Freddie Hubbard (tp) Curtis Fuller(trombone)
    Wayne Shorter (ts) Cedar Walton (p)
    Reginald Workman (b) Art Blakey (ds)
    Willington Blakey (vo)       1964.2.20


 『Free for All』と順序が逆転してるが、メッセンジャーズのリバーサイドでの最終作。そしてこのメンバーでの、ジャズ・メッセンジャーズの黄金時代のラスト・アルバムでもある。
 『雨月』に引き続いての「日本趣味」シリーズだ。本作は後半に渡辺貞夫の作曲による"Nihon Bash"と、ハバード作の「京都」が入ってる。
 その他、ボーカルの歌伴のブルース・ナンバー。ディズニー映画『ピーター・パン』のテーマと、バラエティ豊かな楽しい内容になっている。
 が、この頃になるとバンドの完成度は極まった感じで、どんな素材を扱おうと、また、本作ではショーター作の曲は1曲もないが、ショーターの築き上げたバンドサウンドはビクともしない。
 本作あたりの豊かで楽しげなメッセンジャーズを聴いていると、メッセンジャーズはブルーノートを離れたままだったほうが良かったんじゃないかという気にさえなってくる。

 さて、本作の目玉は"Nihon Bash"だろう。これは凄い。ブレイキーのドラムが効果音のようなビートの雨を降らせ、ベースはリズムを刻むかと思えば自由に動きまわり、ピアノは不定形のリズムを鳴らし、ポリリズムの効果を出す。フロントの管楽器はリズムがバックと合っているような、合ってないようなメロディで、ビートの雨の中を彷徨うように行き来する。メッセンジャーズ最高の到達点の一つだろう。
 このドラムの叩き方は"Free for All"の応用だろうが、力を弱め、リズムを微妙に外す方向に変えているように思う。それとも録音の違いからそう感じられるのだろうか。
 1曲目にもどって順に見ていこう。
 本作もフラー作の元気のいいナンバー、"The High Priest"から始まる。セロニアス・モンクに捧げた曲だ。ブルーノートでないせいか、軽快な感じがある。
 2曲目、"Never Never Land"。これはディズニー映画『ピーター・パン』のテーマ。ここまでロマンティックなメッセンジャーズもめずらしい。メッセンジャーズの別の顔がうかがえる。
 次の、ボーカル入りの"Willington's Blues"もめずらしさで目立つ曲。メッセンジャーズが歌伴をするのもめずらしいが、ここまでストレートなブルース・ナンバーを演奏するのもめずらしい。ベースだけを伴奏にして歌い出す所なんかすごくいいし、やはり黒人といったところか、ずっと演奏してきたようなブルージーな匂いが出る。ボーカリストはアート・ブレイキーの甥だそうだ。
 ラストの"Kyoto"は軽快なワルツで、爽やかにメッセンジャーズの黄金時代の幕を閉じる。


03.3.9


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and The Jazz Messengers "Indestructible"  (Blue Note)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『インデストラクティブル』


01、The Egyptian
02、Sortie
03、Calling Miss Khadija 
04、When Love is New 
05、Mr.Jin 
06、It's a Long Way Down   (bonus track)

    Lee Morgan (tp) Curtis Fuller(trombone)
    Wayne Shorter (ts) Cedar Walton (p)
    Reginald Workman (b) Art Blakey (ds)  1964.4.15/24/5.15


 ついにショーターのメッセンジャーズ最終作となった。
 本作からハバードが抜け、復帰したモーガンがメッセンジャーズにも戻ってくる。
 さて、ショーターとモーガンは、本作録音中にはもう『Night Dreamer』を録音している。『Night Dreamer』と同時期録音というと期待を持つなという方が無理なのだが、結果からいうと本作は『Mosaic』(61) と並んで3管メッセンジャーズのアルバムの内で最もショーター色が薄いものだと思う。
 あるいはショーターの気持ちはもう『Night Dreamer』のほうに行ってしまって、メッセンジャーズにはなかったのか……

 前作から比べてバンドがガラッと変わってしまった印象がある。メンバー的にはハバードがモーガンに変わっただけだが、この二人のトランペッターの個性の違いだけが変化の理由とは思えない。このメンバーチェンジが何らかの作用をおこして、バンド内で何かが生まれ、何かが壊れたのではないか。
 内容は、冒頭フラー作の曲が2曲続くことでもわかる通り派手で元気のいいメッセンジャーズが戻ってきた……というカラーだ。モーガンが戻ってきたんで思いきり派手に迎えてやろうということなんだろうか。それともブルーノートからの要請なんだろうか。
 派手といえば、『Free for All』だって派手な演奏だったが、あれはダークな派手さがあった。あのダークに底光りしていた部分がスッパリと抜け落ちて、本作はただ派手で元気がいいだけという印象で、奥行きがかんじられない。
 なぜこのようになったのだろう。

 思うに、ショーターにとってジャズ・メッセンジャーズの音楽監督という立場は、かなり好きなことも出来たが、妥協も強いられるという環境だったのだのではないか。メッセンジャーズというバンドのイメージや、『Moanin'』以来のファンの期待、レコード会社の方針といったものにも応えながら、限られた枠内で自分のやりたいことを出していく(しかし出しすぎるとアルバムはオクラ入りする)という綱引きの中での仕事だったのだと思う。
 60〜61年頃にはショーターが自分のやりたいことを出しすぎ、アルバムが次々にオクラ入りするという事態もあったが、63年以後にもなるとショーターもそれなりのさじ加減をわきまえてサウンド作りをしていたことも感じられる。逆にいえばそれがストレートにショーターが自分を出した『Night Dreamer』と後期のメッセンジャーズ作品との差となって現れているのだと思う。
 そのショーターのイマジネーションがついにメッセンジャーズの枠内を飛び出して『Night Dreamer』という形で結実をみてしまったときに、ショーターの気持ちは急速にメッセンジャーズから離れてしまったのではないか。
 考えてみれば、マイルス・バンドの時も、ウェザーリポートの時も、ショーター参加最終作はショーター色が薄いものだった。
 興味がそのバンドではできないことに移ってしまい、そのバンドで自分の色が出せなくなったら、やめる……というのがショーターの行動パターンなのかもしれない。

 というわけで、本作はショーター参加のメッセンジャーズ作の中でとくに勧めようとは思わないが、それでも聴くのなら、冒頭3曲は飛ばしてウォルトン作のバラード、"When Love is New"から聴いてはどうだろう。これはいい曲だ。そしてその後のショーター作の曲が2曲続く。
 しかしやっぱり、奥が浅い印象は否めない。『Night Dreamer』と同時期の作とはとても思えない。

 さて、本作の後、メッセンジャーズは長い低迷期に入ってしまう。やはりショーターが抜けた穴は大きかったようだ。
 が、80年頃から、ウィントン・マルサリスを筆頭に、ショーターたちのV.S.O.P.に影響を受けた若い、アコースティック・ジャズを指向するジャズマンが次々と加入して再び力を取り戻し、ブレイキーは幸福な晩年を過ごすことになる。


03.3.7


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