ウェイン・ショーター、アルバム紹介 1962年






   Art Blakey and the Jazz Messengers "Three Blind Mice,Vol.1" (UA→Blue Note)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『スリー・ブラインド・マイス,Vol.1』


01、Three Blind Mice
02、Blue Moon
03、That Old Feeling
04、Plexis
05、Up Jumped Spring
06、Up Jumped Spring (alt.take)  (bonus track)
07、When Lights Are Low
08、Children of the Night      (bonus track)

    Wayne Shorter (ts) Freddie Hubbard (tp)
    Curtis Fuller(trombone) Cedar Walton (p)
    Jymie Merritt (b) Art Blakey (ds)   62.5.18


 一般的的にはこの時期のメッセンジャーズの代表作としてよく名のあがるライヴ盤だ。リリースされた当時からかなり評判が良かったらしい。なぜそんなに評判が良かったんだろう。
 まず前作『Buhaina's Delight』(61) 以上にメッセンジャーズのカラーの変化を印象づけたという点だあるだろう。本作ではもうどこを見ても「ファンキー」という言葉は似つかわしくない。
 それに前作がショーターの曲中心で、当時の聴衆にはついていきづらい要素もあったろうが、本作はスタンダード中心で誰にでも親しみやすい選曲となっている。
 しかし個人的には不満がないわけではない。スタンダード中心ではもの足りないという点はおいておくとしても、この演奏、バンドとしての一体感がかんじられないのだ。
 つまり、まず "Blue Moon" はほぼ全編フレディ・ハバートのソロであり、他のメンバーはそのバックにまわっている。同様に "That Old Feelong" ではシダー・ウォルトンが、"When Lights are Low" ではカーティス・フラーが全編ソロを展開し、いわばメンバーの個人演奏の見せどころみたいな曲が続く。それも、前へ出てきて「どうだオレの演奏を聴け!」とやるのではなく、楽しげに演奏するソリストを他のメンバーが優しく後ろから支えてあげているかんじ。これらの曲ではショーターはバッキングにまわっている。
 バンドの演奏というより、個々のプレイヤーの演奏会といった雰囲気だ。まあ、それもバンドの在り方の一つだろうと言われれば、そうなのだろうが。
 たしかにジャズ・メッセンジャーズの別の一面を見せたアルバムということができるし、仕事から疲れて帰ってソファでくつろぎながら聴く……というスチュエーションには最適のアルバムかもしれない。
 やはりこのアルバムが良い評判を得たということは、つまりショーター色が出すぎた作品、先鋭的すぎる作品より、このような演奏のほうが聴きやすいから、というのが理由ではないだろうか。
 というわけで、全体的には個人的にはそれほど勧めたい作品ではない。しかしショーター・ファンとしても本作の聴きどころはないわけではない。
 まず何といってもボーナス・トラックとしてCDに追加された "Children of the Night" だ。
 この演奏、とくにテーマ部分の編曲などは『Mosaic』(61) での同曲よりさらに進んでいて、この名曲の完成形という気がする。ラストのテーマ再提示部でショーターがフレーズを2回繰り返すところを1回を長く伸ばして吹き切るところも素敵だ。
 逆にいえば、このような名演がオリジナル・アナログ盤には収録されなかったことに、本作の性格(編集方針)があらわれているといえるだろう。
 そのアナログ盤にも収録されているなかでは "Three Blind Mice"、"Plexis"、"Up Jumped Spring" の三曲が、いわば個人プレイではない、バンドとしての演奏だ。
 ミディアム・テンポのファンキー・チューン "Three Blind Mice"。急速曲の "Plexis" あたりが盛り上がり所だろうか。"Up Jumped Spring" は優雅でチャーミングなワルツ。
 ショーターのサックスが活躍するのは以上4曲。もしお好みならこれだけをMDに録音して編集し直せば、よりダイナミックなメッセンジャーズのライヴが聴ける。

 なお、タイトルの『三匹の盲ねずみ』はマザーグースの歌からの引用。





『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and the Jazz Messengers "Three Blind Mice,Vol.2" (Blue Note)


   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『スリー・ブラインド・マイス,Vol.2』
01、Tt's Only Paper Moon
02、Mosaic
03、Ping Pong

    Wayne Shorter (ts) Freddie Hubbard (tp)
    Curtis Fuller(trombone) Cedar Walton (p)
    Jymie Merritt (b) Art Blakey (ds)    1962.5.18

04、The Promised Land
05、Arabia

    Wayne Shorter (ts) Freddie Hubbard (tp)
    Curtis Fuller(trombone) Cedar Walton (p)
    Jymie Merritt (b) Art Blakey (ds)    1961.8.17


 以前『Live Messengers』というタイトルで発表されていた2枚組未発表ライヴ録音集のうち、61年8月録音の2曲と、62年5月録音の『Three Blind Mice』の同日録音の残り3曲を収録したアルバム。これが『…Vol.2』として出たために、以前、単なる『Three Blind Mice』だったアルバムが、『Three Blind Mice,Vol.1』というタイトルになった。
 ということで未発表録音集といった内容だが、スタンダード中心、個々のメンバーの個人プレイ中心だった『…Vol.1』にくらべ、こちらのほうはメンバーのオリジナル中心で、バンドとしての塊のサウンドになっている。1曲の長さは平均12〜13分の長尺で、それだけ個々のソロも長く聴ける。
 けれど、正直いって、それほど興味深いアルバムだとは思えない。選曲も過去のスタジオ盤に収められた人気曲ばかりで、前向きな部分はない。
 選曲も急速曲ばかりで芸がないし、アート・ブレイキーのメッセンジャーズらしさを演出するような選曲がなされているように思う。当時のファンがメッセンジャーズに求めていたのは、こういう演奏だということか。
 この後のライヴ盤『Ugetu』(63) と比べると差はあきらかなように思う。
 まあ、当時メッセンジャーズはライヴではこんな曲をこんなふうに演奏していたという、言葉通りの意味でのライヴ盤だろう。否定する気はまったくないのだが、メッセンジャーズを聴くときに真っ先に手を出すべき作品ではないという気がする。


03.3.7


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   Wayne Shorter "Wayning Moments"    (Vee Jay)
   ウェイン・ショーター『ウェイニング・モーメンツ』


01、Black Orpheus
02、Devil's Island
03、Moon of Manakoora 
04、Dead End
05、Wayning Moments
06、Power Keg
07、All or Nothing At All
08、Callaway Went That-a-Way

    Freddie Hubbard (tp) Wayne Shorter (ts)
    Eddie Higgins (p) James Merritt (b)
    Marshall Thompson (ds)      1962


 正直、ショーターのアルバムの中で最も理解に苦しんだのが本作。
 もちろん音楽自体が難解だというわけではまったくない。61年にメッセンンジャーズ等でガンガン先鋭的な作品を発表してきたショーターが、なんでこの62年にもなって、こんな絵に描いたように50年代的なハードバップ・スタイルの演奏をするのか、わからなかったのだ。
 全曲1曲あたり3〜5分くらいと短く、当然ソロも短い。リズム・セクションはまるでカーティス・フラーの『ブルース・エット』みたいな、二拍子に近い単純なハード・バップのリズムを繰り出してくる。まるでショーターらしさを感じない。
 ヴィー・ジェイの方針でこうさせられたんだろうか、などと考えてみていた。
 現在でもはっきりとは答えは出てないのだが、なんとなくわかってきたことはある。
 ショーターの作品を見ていくと、60〜61年に録音されたものには意欲的で先鋭的なものが多いのに対し、本作が録音された62年の作品は妙に保守的なものが多い。『Three Blind Mice』や『Caravan』はメッセンジャーズの作品中でも保守的な、くつろいだ雰囲気の演奏だし、ハバードの『Here to Stay』にしても前の『Ready for Freddie』(61)より古めかしい感じの演奏だ。
 そしてこの傾向は実はショーターだけでなく、当時先鋭的な作品を作っていた他のジャズマンにもいえる。例えばコルトレーンは61年のヴィレッジ・ヴァンガードのライヴに比べ、62年からは『Ballads』や『and Johnny Hartman』などおとなしいアルバムを発表していくようになるし、オーネット・コールマンは62年から64年まで一時引退を余儀なくされている。
 たぶんこの時期は61年までの走りすぎた時代の反動で、ジャズ界全体が保守化していた時代だったのではないか。そしてショーターもその風潮を受けて、あるいは何となく後ろを振り返ってみたい気分にっていた年なのかもしれない。
 そしてジャズ界の保守化傾向がおさまり、ショーターがまたハッキリと未来に向き直るのは64年のことだ。

 また、メッセンジャーズ〜マイルス・バンド〜ウェザーリポート時代のショーターは、所属しているバンドで出来ることは全てそのバンドでやり、そのバンドでできないことをソロ作でやるという方法をとっていた。
 このような二拍子に近い単純なリズムや、3〜5分の曲を連ねていく構成は、まずメッセンジャーズではできないだろう。
 たぶんショーターはこの時期、こういった古いスタイルのジャズも一度はやってみたいと思ったんじゃないか。しかし、メッセンジャーズではできないんで、リーダー作でやってみたのではないか。
 いまではそんなふうに理解している。

 さて、本作の内容だが、本作で成功しているのはバラードからミディアム・テンポぐらいの曲だと思う。
 つまり、ダイナミックさのあるショーターのオリジナル、"Dead End'、"Power Keg"、"Callaway Went That-a-Way"といった曲になると、リズムセクションがもたついたようになって躍動感が出ない。どうもこのドラマー、ミディアム・テンポまでならいい味を出すのだが、急速曲になると単調になる。
 ということで、ショーターのアルバムとしては何なんだが、聴きどころはスタンダード中心。冒頭の"Black Orpheus"やショーターがワンホーンでじっくりと吹くバラード、"All or Nothing At All"。本作でピアノを弾いているヒギンズの作のバラード、"Wayning Moments"。ショーターのオリジナルではミディアム・テンポの"Devil's Island"あたりがいい。

 あと、本作をショーターっぽくなく見せているものとして、アルバム・タイトルがある。
 『Wayning Moments』はヒギンズ作の曲からとっていて、ショーターの「Wayne」という名をもじったものだろう。よくジャズマンはこういうタイトルのつけかたをするのだが、ショーターは絶対しない。このタイトル自体がショーターらしくない。
 ここでショーターのオリジナルの曲名、例えば"Devil's Island"とか"Dead End"をアルバムタイトルにもってきたら、それだけでももう少しショーターっぽくなると思うのだが。


03.3.10


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and the Jazz Messengers "Caravan"    (Riverside)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『キャラヴァン』


01、Caravan
02、Sweet'N' Sour (take 4)  (bonus track)
03、Sweet'N' Sour
04、In the Wee Small Hours of the Morning
05、This is for Albert
06、Skylark
07、Thermo (take 2)    (bonus track)
08、Thermo

    Wayne Shorter (ts) Freddie Hubbard (tp)
    Curtis Fuller(trombone) Cedar Walton (p)
    Reginald Workman (b) Art Blakey (ds)  1962.10.23 / 24


 本作から3枚、メッセンジャーズのリバーサイド録音が始まる。そして本作からベーシストがコルトレーン・バンドにいたレジー・ワークマンに変わる。
 個人的にはこのメンバーがショーター主導によるメッセンジャーズの完成形だと思う。このメンバーでは4枚のアルバムが出ているが、ショーター・メッセンジャーズの到達点というべき作品群だ。とくに後の3枚が素晴らしい。
 では本作はというと、全体の半分の3曲がスタンダードだし、冒頭の "Caravan" を除くと、軽妙でくつろいだ雰囲気があって、先鋭的な迫力には欠けるところがある。
 もっとも、このくつろいだ雰囲気が本作の魅力だろう。それにスタンダードが多いといっても『Three Blind Mice,Vol.1』あたりに比べると、ぐっと深い演奏になっている。

 さて、冒頭のいきなり全速力の "Caravan" だが、いわずと知れたデューク・エリントンの名曲。ここではかなりアレンジが施されて、まったく別の魅力を持つ曲に生まれ変わっている。"A Night in Tunisia"や"Mosaic" の流れの、ライヴでブレイキーの見せ場になることも想定した曲だ。3管メッセンジャーズのスタンダード・アレンジの代表作の一つといっていいだろう。
 これでハードに始まって、いきなり2曲め、"Sweet'N' Sour" になる。ショーター作の、タイトルどおり甘くて爽やかな曲。これで空気が一気に変わる。
 続くスタンダードの "In the Wee Small Hours of the Morning" は、ほぼ全編にフラーのソロをフューチャーしたバラード。
 続く "This is for Albert" が本作の目玉ではないか。バド・パウエルに捧げたショーターのオリジナルだが、快適でわりと親しみやすい曲。
 次はまたスタンダードのバラード、"Skylark"。これもくつろいだ演奏。ハバードのトランペットが美しい。
 ラストはハバード作の "Thermo" で、また急速曲に変わる。つまりは最初と最後が派手な演奏という構成か。

 さて、メッセンジャーズがこの時期、リバーサイドに録音を残してくれたことは、すごく嬉しい。
 説明しておくが、当時、ジャズのレーベル(制作会社)はそれぞれ独自のカラーを出そうと苦心していた。その大きな要素の一つが録音・音づくりだったことはいうまでもない。それぞれのレーベルが独自の特徴ある録音を試みていたが、その方法論には二つの方向性があり、その一方は生の楽器音にできるだけ近い音で録音しようとするもの、もう一方は様々なエフェクターをかけるなどして音を加工し、独自の音を作り出していこうとするものだ。
 当時のジャズ・レーベルのうち、後者の代表がブルー・ノートであり、前者の代表、つまり東海岸のレーベルのうち、もっとも楽器の生の音にこだわっていたのがリバーサイドだった。
 つまり、メッセンジャーズがリバーサイドに3枚分の録音を残してくれたことで、当時のメッセンジャーズがどんな音を出していたのか、限りなく生の楽器の音に近い音で聴くことができるわけだ。


03.3.7


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   Freddie Hubbard "Here to Stay"    Blue Note)
   フレディ・ハバード『ヒア・トゥ・ステイ』


01、Philly Mignon
02、Father and Son 
03、Body and Soul
04、Nostrand and Fulton
05、Full Moon and Empty Arms
06、Assunta

    Freddie Hubbard (tp) Wayne Shorter (ts)
    Cedar Walton (p) Reggie Workman (b)
    Philly Jo Jones (ds)        1962,12,27


 『Ready for Freddie』(61) に続いて、フレディ・ハバードのソロ作への2作目の参加作。メンバー編成は当時のメッセンジャーズに似ていて、フラーが抜け、ドラムがフィリー・ジョー・ジョーンズに代わっただけ。
 ジャズの50年代を代表するフィリー・ジョーのドラムだからだろうか、あるいは62年のショーターが保守的な方向に傾いていたせいだろうか、印象としては『Ready for Freddie』より古い録音のように聴こえる。より50年代の香りを残した、伝統的なスタイルの演奏だ。
 ショーターの演奏のほうも、そんな古いスタイルに合っていて、浮いたところがなく、少々小じんまりとしているが、まとまりの良い演奏を聴かせている。スケールの大きな演奏でも、先鋭的でもないが、親しみやすいところが本作の良い点ではないか。

 さて、ハバードは70年代に入ると、眠っていたエンターティナーの本性が目覚めたのか、60年代の彼とは別人のように、派手で陽気な個性の人になってしまうが、本作の1曲目のハバード作の"Philly Mignon"には既にその片鱗がうかがえる。その意味ではこの曲だけ新しさがある。
 しかし個人的にこの70年代以後のハバードが好きじゃなく、60年代前半の真摯に音楽に向かっていたハバードが好きだ。そういうわけで、本作はいつも2曲目の"Father and Son"から聴いている。
 この2曲目と6曲目の"Assunta"がカル・マッセイ作の曲である。この人、ジャズ・トランペッターだそうだが、作曲力で定評があるらしく、演奏は聴いたことはないが、作曲者の根前ではよく見かける。やはりトランペッターから人気があるようで、モーガンも『Lee-Way』(60) などでよくとりあげている。
 本作もこのカル・マッセイ作の2曲が一番の聴きどころだと思う。
 まずは"Father and Son"。ショーターの本作での一番の聴きどころは、この曲でのソロだと思う。途中から音を探るようにしながら上っていく所が好きだ。"Assunta"では先行ソロをとり、やはり充実した演奏を聴かせる。
 3曲目のバラード、"Body and Soul"はショーターの渋い序奏から始まるが、あとはほとんどハバードがワンホーンで吹く。続いてのもう一曲のハバードのオリジナル"Nostrand and Fulton"は"Philly Mignon"よりずっと好きだが、ショーターのソロはいま一つ不調か。
 "Full Moon and Empty Arms"はよくまとまった演奏で、ショーターも乗ってる。

 まあ、ショーターとしてもハバードとしても、ズバ抜けた傑作というわけではまったくないが、充分に水準にいっている、親しみやすい佳作といった所か。


03.4.8


『ウェイン・ショーターの部屋』

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