ウェイン・ショーター、アルバム紹介 1961年


   『』この色で表記されたタイトルは、ショーター不参加の曲です。




   Art Blakey and the Jazz Messengers "A Day with Art Blakey 1961" (M & I)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『ライブ・イン・ジャパン〜1961』


「Disc-1」
01、The Summit
02、The Breeze and I
03、Blues March
04、Moanin'
05、It's Only a Paper Moon

「Disc-2」
06、Nelly Bly
07、Dat Dere
08、Round About Midnight
09、A Night in Tunisia

    Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
    Bobby Timmons (p) Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds)          1961.1.2

 1961年の1月に、ジャズ・メッセンジャーズは日本へやってくる。
 モダン・ジャズのバンドが日本公演をするのはこれが最初だったらしく、これは当時社会現象にもなり、日本じゅうが大さわぎだったらしい。当時を知っている人には、5年後のビートルズ来日の時よりスゴかった……と言う人もいるほどだとか。
 これはその日本にとって歴史的な公演を記録したライヴ盤。2枚組で(別売もされている)、計100分を超える堂々たる量だ。
 さて、当時のライヴ演奏の録音は現在とは大きく条件が違って、まだまだ不備な点が多く、このアルバムの録音はマイクのセッティングに問題があり、サックスの音がオフ気味でほとんど聴こえないと聞いていた。が、2002年に M & I から再発されたCDを聴いたかぎりでは、言われているほどバランスが悪いとは思わなかった。はじめからそう覚悟して聴いたので、そんなに気にならなかったのだろうか。
 とはいえ、確かにサックスの音よりトランペットの音のほうが大きい。というか、トランペットの音もオフ気味に小さくなったり、また大きくなったりする。当時の日本のライブの録音技術はこれで精一杯だった……と大目に見て聴く必要はあるが、バランスの点を気にしなければ音質自体は良い。

 さて、当時の日本の聴衆が期待していたメッセンジャーズとは "Moanin'" や "Blues March" のメッセンジャーズ、つまりショーターのメッセンジャーズではなく、あくまでゴルソンのメッセンジャーズだったろう。なにしろハードバップはおろか、ビ・バップ以後のスタイルのバンドはこれが初来日という状態だったわけだし、実のところ、アメリカでだってまだまだそれが期待されていた時代だ。
 メッセンジャーズ側もこの期待に応えているのが選曲からも感じられる。つまり、当時のメッセンジャーズからすれば、ちょっと昔の曲が多く、この来日から戻ってすぐに『The Freedom Rider』『Roots & Herbs』『The Witch Doctor』といった傑作を次々にものにするバンドのイメージからは、だいぶ差がある。
 とはいえ、そこはもう61年に入ったメッセンジャーズである。ショーターが入ったばかりの頃と比べるとずっと進化しており、同じ "Moanin'" をやっていても59年頃の演奏よりずっと尖った印象である。
 そして何といっても新しいメッセンジャーズのイメージを最も印象づけているのは、"The Summit"、"Nelly Bly" と、各ディスクのそれぞれ冒頭に入ったショーターのナンバーだろう。

 さて、この日本公演はそんなふうに大成功だったという事で、ある年齢層の日本人は、ジャズなんてふだんまったく聴かない人でも、けっこう「アート・ブレイキー」とか、「リー・モーガン」という名前を知っている人は多いらしい。
 その言葉でもわかるとおり、当時の日本の受けとめ方としては、やはりメッセンジャーズのスターはリー・モーガン。そしてリーダーのアート・ブレイキーが目立ち、ショーターはといえば、なんだか一人だけヘンなことをしているのがいるな……ていどの受けとめられかただったらしい。
 しかし、当時のショーター、日本のジャズマンたちにコルトレーンの素晴らしさを語り、コルトレーンや自分がやっているのはモードという手法なんだと教え、そのやり方を教えていて、影響を受けたジャズマンも多かったらしい。


04.9.14


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and the Jazz Messengers "The Freedom Rider" (Blue Note)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『フリーダム・ライダー』


01、Tell It Like It Is
02、The Freedom Rider
03、El Toro
04、Pretty Larceny
05、Blue Lace
06、Uptight     (bonus track)
07、Pisces      (bonus track)
08、Blue Ching    (bonus track)

    Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
    Bobby Timmons (p) Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds)     1961.2.12/ 2.18/ 5.27


 2管メッセンジャーズの頂点というべき時期が始まる。

 61年はショーターの創造力が最初の爆発を見せた年で、メッセンジャーズにおいて次々に優れた作品を作り上げていった。
 スタジオ録音盤だけ見ても、1月の伝説的な日本公演から帰ると、まず2〜5月にブルーノートに後にLP4枚(CD3枚)となってリリースされる曲を録音。6月にインパルスに1枚。10〜11月にはさらにブルーノートに2枚を録音した。
 特筆すべきは2〜5月の録音で、これはモーガンとの2管メッセンジャーズの頂点というべき作品群だ。

 さて、2〜5月には次々に4つのセッションが行われ、現在までに世に出ている曲でいうと、別テイクも含めて、2月12日に4曲、18日に6曲、3月14日に6曲、5月27日に7曲の計23曲が録音されている。
 何でこんなに次々に録音されていったかというと、実はアルフレッド・ライオンがなかなかOKを出さなかったかららしい。実際、これらの録音は当初すべてがオクラ入りされた。
 最初にリリースされたのは3年後の64年の『The Freedom Rider』で、5/27の4曲に2/18の1曲をプラスした計5曲。当然のことながらこの後にメッセンジャーズが録音した『Mosaic』や『Buhaina's Delight』のほうが先にリリースされている。あとは『The Witch Dictor』や『Roots & Herbs』が67〜8年あたりにリリースされ、残りテイクを集めた『Pisces』が70年代末にリリースされたらしい。
 本作リリースの64年といえばショーターはメッセンジャーズを離れて『Night Dreamer』を録音した年で、コルトレーンが『至上の愛』を録音した年だ。この3年の開きは大きい。
 しかし、ブルーノートでリリースが遅れることは作品の質の低さを意味せず、むしろショーター中心で聴くには期待できる点であることは別項で説明した通り。むしろ本作は64年にならなければ世に出せないほど進み過ぎていた作品といったほうがいいだろう。
 そして先述したとおり、これらの録音はショーター、モーガンの2管メッセンジャーズの頂点というべきもので、理由は何であれ、この時期にメッセンジャーズがたくさん録音をおこなった事はうれしい限りだ。
 これらの録音は4枚のLPとなってリリースされていたが、現在では3枚のCDに再編収録されている。本作のCD版はそのうち『The Freedom Rider』としてリリースされた5曲に、『Pisces』としてリリースされていた中から3曲をプラスしたお徳用盤。結果的に4〜7曲目にモーガン作の曲が並び、モーガンの作曲能力が味わえるアルバムにもなった。

 さて、この時期のスタジオ録音を聴いて、まず感じることは何かというと、一言でいえば先鋭性だろう。同時期のライヴ録音が、まだ昔ながらのメッセンジャーズの色を残しているのに対し、スタジオ盤では一歩も二歩も先へ進んだサウンドが聴ける。
 この時期ショーターは、ファンやレコード会社が期待するメッセンジャーズのイメージを生かしつつ、そこに自分のやりたいことを混ぜあわせるやり方を模索していたんじゃないかと思う。
 つまり、ショーター的に先鋭的でありながら、同時にメッセンジャーズらしい強力なビートをもった、タイトにまとまったバンド・サウンドがこの時期のアルバムの特徴だ。
 LP一枚分を除いて次々にオクラ入りしてしまったのは、そのへんの調合の割合があまく、ショーターとしては充分にレコード会社が期待するメッセンジャーズ像にも応えてるつもりでいたのだが、実際はショーター色を強く調合しすぎていたという結果だろう。

 さて、そういうことで、本作中冒頭5曲がこの時期の録音で唯一リアルタイムでリリースされた部分なわけだが、ならばこの部分はショーター色の薄い、つまらない部分かというと、そうではない。これも傑作。
 では、なぜ順調にリリースされたかというと、その理由は聴けばわかるが、演奏は申し分なく、だが人気の出そうなキャッチーな曲がそろってるのだ。
 まず冒頭の"Tell It Like It Is"。これは"Moanin'"路線のミディアム・テンポのファンキー・ナンバー。当時のファンが最も期待していた曲調だろう。しかし、"Moanin'"路線そのままだった『The Big Beat』の"The Chess Players"と比べると、ファンキーな中にもショーターらしさも感じられる曲になっていて、ショーターのソングライターとしての成長が感じられる。
 2曲目はブレイキーによるドラム・ソロ。これも当時のメッセンジャーズ・ファンは喜んだのだろう。が、個人的にはわるいが飛ばして聴いている。ドラム・ソロって、ライヴでは盛り上がる部分だが、CDで何度も繰り返し聴きたいものでもない。
 "El Toro"は哀愁味を帯びたテーマが魅力的なショーター作の曲。祭りのような華やかさの中に哀しさがあって、すごくいい。
 "Pretty Larceny"も哀愁味を帯びたテーマの、こちらはファンキー・ナンバー。作曲者のモーガンも、ショーターもいいが、ティモンズの弾むようなピアノは、このタイプの曲が一番合ってるような気がする。
 "Blue Lace"は爽やかさを感じさせるワルツ。この時期のメッセンジャーズには珍しいタイプの曲だと思うが、デザートのような後味の良さだ。

 ここから『Pisces』として出ていた部分に入る。
 "Uptight"は迫力のあるアップ・テンポのナンバー。本来なら1曲目に持ってくるタイプの曲。ただし、カッコイイテーマ部の直後、モーガンのソロの出だしがちょっとカスレてる印象があり、残念。
 続く"Pisces"がこの部分の目玉だろう。モーガン作による美しいバラード。リズムがちょっと変わったことをやっている。それにしてもショーター、モーガンの二管によるバラード演奏はどれも素晴らしい。
 ラストの"Blue Ching"はケニー・ドーハムの曲。これもそこはかとない哀愁味がある。

 全体的に演奏は良くまとまっていて文句なく、曲もいい曲が揃っているし、オマケ部分も充実していて、まさに二管メッセンジャーズの頂点の一つといっていい作品。
 しかし、長々としたドラム・ソロが2曲目に来てしまうのはどうにかならないもんか。これを避けるために3曲目から聴いたりいているが、やはり"Tell It Like It Is"から聴き始めたいアルバムだ。


03.3.8


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and the Jazz Messengers "Roots & Herbs" (Blue Note)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『ルーツ・アンド・ハーブス』


01、Ping Pong    
02、Roots and Herbs 
03、The Back Sliders
04、United
05、Look at the Birdie
06、Master Mind   
07、The Back Sliders (alt.take)     (bonus track)
08、Ping Pong (alt.version)     (bonus track)
09、United (alt.version)     (bonus track)

    Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
    Bobby Timmons (p) Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds)    1961.2.18/5.27


 ショーターめあてでメッセンジャーズを聴くなら外せないのが本作だ。
 別項で書いたとおり、本作は61年の2〜5月にブルーノートに録音され、後にLP4枚(CD3枚)となってリリースされたアルバムの一つ。本作のCD版はそのうち、LPで『Roots & Herbs』としてリリースされた6曲に、『Pisces』としてリリースされていた中から、本作収録曲の別テイクにあたる3曲をプラスしたもの。
 この『Roots & Herbs』は結果的に全曲がショーターのオリジナルとなったアルバムで、先鋭性ゆえに録音当初はオクラ入りして、70年頃になってやっとリリースされたものだ。
 当然ショーター色が強いアルバムだが、前年の『Like Someone in Love』と比べると、同じくショーター色が強いといっても、だいぶ違う気がする。
 一口でいえば、本作はメッセンジャーズというバンドのサウンドが強調されていることだ。
 つまり、『Like Someone in Love』は、説明されずに音だけ聴かされたら、メッセンジャーズのアルバムだとわからないんじゃないかと思うのに対し、本作は説明ぬきに音だけ聴かされても、(曲が個性的なのはともかくとして)メッセンジャーズらしい音に聴こえる。
 しかし、この頃にはその「メッセンジャーズらしい音」そのものが、『モーニン』の頃の大らかな響きのものから、よりソリッドでタイトなものに大きく変わってきている。それもまたショーターの力だろう。
 つまり、この頃になるとショーターがメッセンジャーズの音楽監督として、よりシッカリとバンドを把握し、バンドのサウンドそのものを自分流に作り変えた。そして、自分の曲を作編曲する時でもその「メッセンジャーズの音」を意識するようになってきたということだ。
 そのため、『Like Someone in Love』がメッセンジャーズの音から離れたショーターの音を感じさせるのに対し、本作はショーター流のメッセンジャーズの音を感じさせる作品となっている。

 収録曲だが、本作はどうも「奇妙なメロディ+ノリのいいリズム」というのが曲作りのコンセプトになってるような気がする。
 冒頭の"Ping Pong"は、ピンポンが飛び跳ねるような奇妙なテーマで、いきなりメッセンジャーズのファンが面をくらいそう。だが、いくつものライヴ盤で演奏されており、当時のライヴでは定番になっていたようだ。
 そのほか、"Roots and Herbs"、"United"、"Master Mind"といった曲で、なんか人を食ったような、奇妙なメロディ、リズムの組み合わせのテーマが聴ける。それに続くソロも、テーマの奇妙さとノリの良さに引っ張られるように快調。
 ほかの曲は、"The Back Sliders"はメッセンジャーズお得意のファンキー・ナンバー。"Look at the Birdie"は、風に乗っているような軽快で爽やかな曲。本来、大衆受けをねらうなら、このへんの曲をトップにもってきたほうがいい気もするのだが。
 全て急速曲。バラードはなし、というのが少し残念か。

 『Pisces』からのプラスぶんは、すべて別テイクになってしまったので、お得感はすこし少なめ。
 2管メッセンジャーズはこの時期の録音で完成の域に達してしまい、これ以上先に進めなくなったせいか、次作からショーターはバンドにフラーのトロンボーンを加え、3管メッセンジャーズの時代が始まる。


03.3.10


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and the Jazz Messengers "The Witch Doctor" (Blue Note)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『ウィッチ・ドクター』


01、The Witch Dictor 
02、Afrique
03、Those Who Sit and Wait
04、A Little Busy
05、Joelle
06、Lost and Found
07、The Witch Doctor   (alt.take)     (bonus track)

    Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
    Bobby Timmons (p) Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds)         1961.3.14


 本作も61年の2〜5月にブルーノートに録音され、後にLP4枚(CD3枚)となってリリースされたアルバムの一つ。本作は3月14日の録音でまとめられている。
 さて、この61年の2〜5月に次々に録音されたアルバムのうち、一般的に注目されるのはリアルタイムでリリースされた『The Freedom Rider』であり、全曲ショーター作という話題性のある『Roots & Herbs』であって、本作はどちらかというと地味で無視されがちなアルバムだ。
 しかしだ、文字情報抜きで純粋にすべてを聴いたとしたら、むしろ本作は61年のメッセンジャーズの頂点、いや、この時期のジャズを代表する名盤というべき内容ではないか。こんなアルバムを埋もれさせておくことにはジャズ評論家の怠慢を感じる。ぼくが目にした限りでは(たいして目にはしてないが)出版物で本作について言及されていたのは、『ジャズ評論87 リー・モーガン大全集』の上條直之氏の文章ぐらい。この文章で上條氏は本作を大絶賛しているが、そのとおり、聴きさえすれば誰だって名盤だとわかるアルバムなのだ。しかし同誌の『ジャズ評論99 ウェイン・ショーター』では紙面の都合のためか、その他大勢扱いしかされてない。しかし紙面が足りないなら『Mosaic』あたりをその他大勢に回して本作について言及するべきなのだ。
 だいたいその他のジャズ紹介本でもマイルスの『Someday My Prince Will Come』(61)なんかを紹介するスペースがあったら、本作こそを61年を代表する名盤として紹介すべきなのだ。知性、スリリングさ、不良っぽさ、ファンキーさ、あらゆる点からみてずっと上だ。

 本作はまず冒頭2曲つづくモーガン作の曲が素晴らしい。このへん、モーガンの書く曲もショーターの影響を受けて、ショーター化してきているようでおもしろい。
 冒頭の表題曲"The Witch Dictor"、このどう見てもショーター的なタイトルの曲が、実はモーガン作である。内容はミディアム・テンポのファンキーナンバーで、メッセンジャーズ的な曲ではあるのだが、薄暗いかんじが以前の元気なメッセンジャーズのイメージとはあきらかに違う。
 続く"Afrique"は複雑に連打されるリズムが特徴的で、ショーターが吹くリフの上をモーガンがテーマを奏でる様も、いかにもショーターが好きそうなパターンなのだが、やはりモーガン作。この曲はテーマ部もいいが、先行するショーターのソロのぶっ飛び方が最高。それを受けたモーガンも力が漲る。
 つづく"Those Who Sit and Wait"と5曲目の"Joelle"がショーターのオリジナル。両曲ともスマートにスピーディに疾走するメッセンジャーズが聴ける。当然のことながら先鋭的な、新しいメッセンジャーズを代表する演奏だ。
 一方ティモンズの"A Little Busy"と、クリフォード・ジョーダン作の"Lost and Found"は、従来型の50年代のメッセンジャーズを思わせる、派手で元気のいい演奏になっている。
 とにかく全曲、バンドの一体感、演奏の質が素晴らしく高い。文句なしにメッセンジャーズを代表する名盤だ。


03.6.18


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   "Art Blakey and The Jazz Messengers"(Alamode)    (IMPULSE) 
   『アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ』(アラモード)


01、Alamode
02、Invitation
03、Circus
04、You Don't Know What Love Is
05、I Hear a Rhapsody
06、Gee Baby, Ain't I Good to You

     Wayne Shorter(ts) Lee Morgan(tp)
     Curtis Fuller(tb) Bobby Timmons(p) 
     Jymie Merritt(b) Art Blakey(ds)   1961.6.13-14


 インパルスから一枚だけ出た出たジャズ・メッセンジャーズのアルバム。どういう事情でこういうことになったのかは知らない。タイトルがバンド名なので、一曲目のタイトルをとって『アラモード』という通称で呼ばれることも多い。
 ショーターの希望によってトロンボーンが追加され、3管に増えての第一作だ。
 ショーターが3管にした意図は、メッセンジャーズを小さなオーケストラのようにするということにあったらしい。つまり、アンサンブルによるテーマ〜各奏者のソロ……という定型ではなく、ソロ部分でもバックで他の奏者がたえずアンサンブルを加えていくような、編曲性の強い、よりシンフォニックなサウンドを追求するという意図だ。
 そのような意図が完全に実現してくるのはもう少し後のことだが、本作でもすでにアンサンブルの彩りが豊かになってきたのは感じとれる。

 さて、インパルスというレーベル・カラーのせいなのか、本作はモーガン、ティモンズ在籍時のメッセンジャーズにしてはかなり大人しい、抑制の美が聴けるアルバムになっている。ブレイキーもたんなるサイドマンの位置に引いているし、アンサンブルも3管のわりに分厚さが感じられない。
 この後『Buhaina's Delight』(61)以後の、ハバート、ウォルトンの入ったメッセンジャーズでは、このような抑制美を目指す傾向も出てくるのだが、本作はそれを先取りしているのだろうか。あるいは単に慣れないレーベルで調子が出なかったのだろうか。しかし個人的にはこのような静かなメッセンジャーズは、これはこれで大好きだ。別の味わいで聴ける。
 曲的には、新参加のカーティス・フラーのオリジナル、"Alamode"以外はすべてスタンダードだ。大人しさといい、スタンダード演奏といい、インパルスという点から無理矢理こじつければ、コルトレーンでいえば『バラード』(62)の位置にあたるアルバムといえるかもしれない。
 ショーターのソロ作の気分で聴けるし、比較的スタンダードを演奏する機会の少ないショーターとしては、これだけまとめてスタンダードが聴けるのアルバムは貴重だ。

 冒頭の1曲だけのオリジナル、"Alamode"が本作中では一番普段のメッセンジャーズらしい迫力のある演奏といえる。それでもかなり大人しいが。
 普段より軽やかなブレイキーのビートに乗せて、ショーターがつんのめるように入ってくる所が好きだ。
 2曲目からはスタンダード演奏の世界に入る。
 どれも優雅にして完成された演奏だが、特にといわれれば、個人的には"You Don't Know What Love Is"が好きだ。典雅な前奏に続いて、モーガン、ショーターの順で奏でられるテーマ、そして繊細なモーガンのソロ、ショーターのソロはサックスの音を聴いただけでハッとするほどなまめかしい。
 全編にわたって、ショーター、モーガンの落ちついたソロが堪能できる。それにインパルスの録音によるショーターのサックス音が、ブルーノートとはまた違ったかんじで美しい。
 どんな形でもいいから、インパルスにももう少し録音を残してほしかった気がする。


03.3.4


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   Freddie Hubbard "Ready for Freddie"     (Blue Note)
   フレディ・ハバード『レディ・フォー・フレディ』


01、Arietis
02、Weaver of Dreams  
03、Marie Antoinette
04、Byrdlike
05、Crisis

     Freddie Hubbard (tp) Bernard McKinney (euphonium)
     Wayne Shorter (ts) McCoy Tyner (p)
     Art Davis (b) Elvin Jones (ds)     1961,8,21


 大好きなアルバムだ。
 前後してメッセンジャーズでの同僚となり何度も共演するハバードもそうだが、ここでは何といってもコルトレーン・バンドのリズム・セクションとショーターとの初共演が聴きモノだ。ユーフォニウムという楽器はよくわからないが。
 60年代はジャズがさまざまな方向性に分岐していった時代だが、60年代前半のフレディ・ハバードはモード・ジャズもやればフリー・ジャズもやる、50年代的なスタイルもこなせる……と、どんなスタイルにも合わせられる器用さで大活躍していた。
 それ故かどこか器用貧乏っぽいところもあって、強烈な自分の個性があるというよりは、この時期はリーダー・アルバムでも共演者の個性がけっこう出る作品となっている。つまり『Open Sesame』は表題曲や"Gypsy Blue"を提供したティナ・ブルックスの個性が感じられるし、『Goin' Up』はハンク・モブレーの色、『Hub Cap』は本作と同じ3管だが、ジミー・ヒースの色が感じられ、本作よりもっと古いスタイルに見える。
 ということで、本作はショーター+コルトレーン・バンドの色がかなり強く出た作品だ。
 後にショーター+コルトレーン・バンドでは『Night Dreamer』(64)『Juju』(64)といった傑作が生み出されるが、この61年の時点でもショーターとコルトレーン・バンドが組めば、ここまでゾクゾクするような斬新なサウンドが出てくるという証明みたいな演奏だ。もちろんハバードも息が合わないわけはない。
 ベースはコルトレーン・バンドではツイン・ベース要員といった二次的な参加だったアート・デイヴィスだが、ここではむしろこのアートがエルヴィンらをリードしているように思える。

 一曲目"Arietis"。テーマ部のソロと2管アンサンブルが対話するようにメロディを奏でるやり方は3管メッセンジャーズでショーターがよく使う手で、この編曲はショーターのアイデアが入っていたのでは……と思わせる。知的でスムーズなメロディで、ぼくは本作のベストだと思う。
 スタンダードの"Weaver of Dreams"はハバードのワン・ホーンによるバラード。この頃のハバードはほんとうにいいトランペッターだったとおもう。
 次の"Marie Antoinette"はショーターが提供した曲。ちょとメッセンジャーズ風か。
 つづく"Byrdlike"はバップ風。V.S.O.P.でも演奏されてる。
 ラストの"Crisis"はこの後すぐにメッセンジャーズでも演奏される、これも佳曲。

 とにかく演奏全体に心地良いスピード感と、爽やかな黒っぽさがある。この、ショーター+ハバード+コルトレーン・バンドのリズムセクションという組み合わせ、一回限りのセッションに終わらせるのが惜しいほどに絶妙の組み合わせだったと思う。


03.3.7


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   Art Blakey and the Jazz Messengers "Mosaic"   (Blue Note)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『モザイク』


01、Mosaic
02、Down Under
03、Children of the Night
04、Arabia
05、Crisis

    Freddie Hubbard (tp) Curtis Fuller (tb)
    Wayne Shorter (ts) Cedar Walton (p)
    Jymie Merritt (b) Art Blakey (ds)    1961,10,2


 3管になってから初のブルーノート録音。本作からトランペットがフレディ・ハバード、ピアノがシダー・ウォルトンに変わる。このメンバーチェンジによって、メッセンジャーズはファンキー路線から、よりショーターに合ったバンドに近づいてきた。
 しかし、本作はこの年前半の録音が次々にオクラ入りしたことの反省か、むしろ昔ながらの元気のいいファンキー・メッセンジャーズ、レコード会社の期待に応えるような後ろ向きの演奏を指向していて、先鋭的な印象はない。それはショーター作の曲が1曲しかない(しかもアナログ盤A面のラストの曲)という点にもあらわれている。ショーター色は薄い。
 また、鉄壁だったモーガン=ティモンズの布陣に比べると、メンバーチェンジ後間もないためか、まだバンドのまとまりに欠ける印象がある。
 と、書いていると、本作がつまらない作品のように思えるかもしれないが、実は本作は人気盤だ。ただ本作を支持しているのは、主に50年代的なファンキー・メッセンジャーズを好むファンだろう。
 しかしショーターめあてで聴いても、聴きどころがないわけでもない。

 まずは本作中1曲しかないショーターのオリジナル、"Children of the Night"。これは名曲だ。
 しかし、この曲のアレンジの完成形は『Three Blind Mice,Vol.1』(62) で聴かれるものだ。聴き比べてみると本作版はテーマ部のアレンジが未完。しかし、つづくショーターのソロは本作版のほうが好きだ。
 続いて1曲目にもどって、"Mosaic"。これは"A Night in Tunisia"など、ライヴでブレイキーの見せ場として演奏されるタイプの曲だ。いきなり激しい勢いで飛び込んでくるブレイキーのドラムと、スケールの大きいショーターのソロが印象的。この曲をはじめ、本作ではショーターの力強いブローが各所で聴かれ、それが本作でショーターを聴く魅力になっている。
 続く"Down Under"も元気のいい曲。
 アナログ盤ではB面トップにあたるフラーの"Arabia"はタイトル通りエキゾチックなテーマを持つナンバー。これも人気曲だったようだ。
 フラー参加のメリットは、彼の書く派手で力強いなオリジナル曲にある。つまり、いかにもメッセンジャーズと思わせるタイプのナンバーの作曲が、このへんからフラーの担当になり、冒頭やB面トップの位置にフラー作の曲が来ることが多い。
 ラストの"Crisis"は『Ready for Freddie』(61) でもやってた、ハバードの名曲。
 
 ハバード、ウォルトンへのメンバー・チェンジもショーターの希望によるものだったらしく、メッセンジャーズは本作あたりからより強くショーターのバンド化したのだろう。
 しかし、前述したとおり、本作自体は意識的に『モーニン』(58)以来のファンキー路線を打ち出していて、ショーターはサイドマンとしての名演を自ら目指した感がある。
 ショーター主導でメッセンジャーズが変わり始めるのは次作の『Buhaina's Delight』(61) からだが、しかしそれも僅か2ヶ月後の録音。むしろショーターとしてはこの2枚をセットで考えていたのかもしれない。
 本作ではファンが望むメッセンジャーズを、そして『Buhaina's Delight』で好きなことをやろうと。
 実際のところ、多くの人がイメージする元気なファンキー・メッセンジャーズ、『モーニン』(58) のメッセンジャーズは本作でいったん終わる。


03.3.6


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   Art Blakey and the Jazz Messengers "Buhaina's Delight"    (Blue Note)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『ブハイナズ・デライト』


01、Backstage Sally
02、Contemplation
03、Bu's Delight
04、Reincarnation Blues
05、Shaky Jake
06、Moon River

    Wayne Shorter (ts) Freddie Hubbard (tp)
    Curtis Fuller(trombone) Cedar Walton (p)
    Jymie Merritt (b) Art Blakey (ds)    1961,11,28/12,18


 これはショーター色の濃い、メッセンジャーズにとっては分岐点の意味ももつ傑作だ。
 何の分岐点か。
 人間というもの、最初に受けたイメージというのは強力なようで、現実には相手はどんどん変わってるのに、いつも最初のイメージで見つづけてしまう所がある。
 そのため『モーニン』以後のメッセンジャーズ=ファンキー・ジャズ、というイメージを持ちつづけている人が多いのだが、実はメッセンジャーズがファンキー・ジャズをバンド・カラーにしていたのは、前作『Mosaic』までだ。
 といっても本作以後もファンキー・ナンバーや、派手で元気のいいナンバーがまったく無くなるわけでもない。が、基調となるのはもっと知的な雰囲気の曲になる。ファンキー路線をまったく捨てはしなかったのは、多分従来のメッセンジャーズ・ファンへの配慮だろう。

 さて、前作『Mosaic』より、本作はグンと深くなった印象がある。抑制のきいた、アダルトな雰囲気というか、大都会の夜の裏通りに歩みだしたような、ハードボイルドの気分だ。サウンドにも渋い翳りが出てくる。
 ハバード、ウォルトンの加入の効果が本作あたりからがあらわれてる。モーガン、ティモンズもぼくは大好きだが、当時のショーターの目指していた方向性からいくと、この新メンバーのほうが最適だ。ブレイキー、モーガン、ティモンズの三人が揃うと、どうしてもファンキー路線の方向に演奏が引っ張られてしまう。
 ショーターのオリジナルは前作の1曲に対して、本作は3曲で、しかもアナログ盤A、B面のトップを占める位置にあり、さらにスタンダードの"Moon River"もショーターのアレンジ。まさにメッセンジャーズのアルバムというよりショーターのソロ作の色が濃厚な、ショーター的メッセンジャーズの代表的傑作だ。

 まずはショーターのオリジナル3作が素晴らしい。
 冒頭の"Backstage Sally"はショーター作によるミディアム・テンポのファンキー・ナンバーで、いわば"Moanin'"以来のメッセンジャーズ的曲調といえるが、以前の『The Freedom Rider』の冒頭の"Tell It Like It Is"などと比べると違いはあきらかだ。勢いとビートで押していくのではなく、どこか沈んでいて、哀愁味を帯びた男の背中を感じさせる。
 つづくバラード、"Contemplation"はこの時期としてはかなり進んだ曲かもしれない。
 "Reincarnation Blues"は3管が輪唱のようにテーマを奏でる曲。それが「リ・インカネーション」を表してるのかと、これはショーターにしては分かりやすい。しかし「霊魂再生ブルース」というのはすごいタイトルだ。
 いずれも夜の大都会のようにかっこよく、それでいて不思議なフィーリングをもつ曲。
 ウォルトンの"Shaky Jake"もこの路線で、この4曲が本作のカラーを決定づけている、主部だ。
 フラーの"Bu's Delight"は本作中最も『Mosaic』までの従来のメッセンジャーズの色に近い、派手なナンバー。ちなみに本作タイトルの「ブハイナ」とはブレイキーのイスラム名だそうで、タイトルを直訳すると『ブレイキーの喜び』の意味。
 ラストの"Moon River"はいきなり爽快感あふれるアレンジ。「ムーン・リバー」というより青空を飛翔しているような雰囲気。本作には不似合いだが、まあ、さわやかなエンディングを、ということか。

 本作を最後にメッセンジャーズは一時ブルーノートを離れることになる。


03.3.7


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Donald Byrd "Free Form"    (Blue Note)
   ドナルド・バード『フリー・フォーム』


01、Pentecostal Feeling
02、Night Flower
03、Nai Nai
04、French Spice
05、Free Form

    Donald Byrd (tp) Wayne Shorter (ts)
    Herbie Hancock (p) Butch Warren (b) 
    Billy Higgins (ds)       1961.12.11


 オールド・ファンには50年代の大活躍したトランペッターとして、若いファンには70年代あたりの録音からクラブDJを経由して聴かれているドナルド・バード。
 この時期のバードはバリトン・サックスのペッパー・アダムスとの名コンビを解消して、これまでのファンキー・スタイルとは別の新しい作風を開発しようと様々な試みを行っていた。ショーターを起用して実験的な表題曲を含む本作を録音したのもその一環だろう。
 しかし、ショーター目当てで本作を聴く場合、何より関心を引くのは、ハービー・ハンコックとの初競演という点につきるだろう。
 順に聴いていってみよう。
 まず1曲目"Pentecostal Feeling"。8ビートによるファンキー・チューンで、これと3曲目の50年代的な"Nai Nai"あたりが、まとまり・完成度という点では整っている。が、このメンバーならこのくらいの演奏はするだろうと予想がつく程度の出来で、驚きはない。それより前半部で面白いのは2曲目のハンコック作のバラード"Night Flower"だ。バードのソロの後、ハンコックが幻想的なまでに美しいソロをとり、それを受けてショーターの見事なソロがはじまる、ここが前半最大の聴きどころだ。ここだけ音楽の解像度がぐっと上がっている気がする。この2人がこの後40年以上にわたって音楽的パートナーシップを保っていく事も頷ける演奏だ。ただし、ショーターとハンコックが濃密な会話をはじめると、このベースとドラムでは支えられなくなるっている気も……。
 後半に入るとショーターの独壇場となる。4曲目の"French Spice"。これまでと違ってサスペンスフルな曲調、アンサンブルによるテーマ部もショーターの音がバードに勝ってしまっており、そのままショーターが第一ソロに突入。まるでリーダーのようなふるまいだ。
 そして本作の目玉というべきラストの11分を超える表題曲。実験的なテーマ・リズムの曲だが、その先鋭性にノリにノってしまうのはバードではなくショーター。61年の録音とは思えないほどの斬新なフレーズを次々と繰り出してくる。目玉というべきこの曲がラストになっているあたり、当時の聴衆の理解は超えていたのかも……
 全体として見ると完成度は高くはないと思う。先鋭的な部分ではベースとドラムが足を引っ張る気もするし、リーダーのバード自体、この路線はあまり合ってない。(結局バードのショーターとの競演はこの一枚で終わり、バードは別の方向性に向かっていったのも頷ける)
 しかし、ショーターのソロのみ、またショーターとハンコックのみに集中して聴くなら、ショーターがこの年最も先鋭的なアドリブを展開したアルバムといえるかもしれない。やはりこれも必聴もの。





『ウェイン・ショーターの部屋』

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