ウェイン・ショーター、アルバム紹介 1960年


   『』この色で表記されたタイトルは、ショーター不参加の曲です。





   Art Blakey and The Jazz Messengers "The Big Beat" (Blue Note)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『ビッグ・ビート』


01、The Chess Players
02、Sakeena's Vision
03、Politely 
04、Dat Dere
05、Lester Left Town
06、It's Only a Paper Moon
07、It's Only a Paper Moon (alt.take)    (bonus track)

    Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
    Bobby Timmons (p) Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds)     1960,3,6


 リリースされた順からいうと、ブルーノートから出たスタジオ盤としては、本作がショーターが入ってから初のアルバムということになる。
 『Africaine』(59) の項で書いたとおり、『Moanin'』の大ヒットにより、第二の『Moanin'』を求めたライオンは、ショーター参加後の新しいメッセンジャーズの姿を示す『Africaine』をオクラ入りし、本作を先にリリースした。その事実からもわかるとおり、本作には『Moanin'』の続編的なファンキー・ジャズの要素がみられる。
 それはその"Moanin'"の作曲者のティモンズがバンドに戻ってきたという理由もあるだろうが、やはりライオンへの妥協もあるんだろう。
 しかし一方では曲の半数の3曲がショーターのオリジナルであるなど、ショーターの参加による新感覚の要素も見られ、いわば新旧メッセンジャーズが同居したようなアルバムになっている。
 そのため、一聴すると本作はむしろ『Africaine』より古い録音に聴こえ、旧路線とショーターの方向性とが分裂している感じから、むしろショーター初参加作はこっちであるように聴こえる。
 さて、その『Moanin'』は、ボビー・ティモンズ作のミディアム・テンポのファンキー・ナンバー "Moanin'" の大ヒットとともに売れたわけだが、本作ではその路線のミディアム・テンポのファンキー・ナンバーが3曲も入っている。
 まずは "Moanin'" と並ぶティモンズの名曲 "Dat Dere"、『サン・ジェルマン』でもやっていた "Politely" 、いずれも名曲名演だがそれらを抑えて冒頭を飾るのはショーター作の "The Chess Players" だ。
 このへんはゴルソン時代のメッセンジャーズそのままの印象だ。"The Chess Players" にしても、ゴルソン時代のメッセンジャーズを想定して作ったような感じで、ショーターらしさは薄い。逆にいえば、ショーターの意外な器用さのあらわれともいえるが、もともとショーターにはかなり黒っぽい、ファンキーな要素もあるんだと思う。
 ショーターが持ち込んだ新しさが見られるのが、ショーター作の残りの2曲、"Sakeena's Vision" と "Lester Left Town" だ。
 "Sakeena's Vision" は、ライナーノーツでショーターが「口をきけない赤ん坊の無垢さや、大人には理解できない子供の考えを象徴する曲」にしたかったと語っている曲。軽快でいて一筋縄ではいかないようなメロディだ。
 名曲 "Lester Left Town" はオクラ入りした『Africaine』に続いての収録。当時のメッセンジャーズのライヴでも重要なレパートリーだったため何としてもリリースしておきたかったのだろう。演奏は『Africaine』版よりテンポが早く、2分強短くなっている。個人的には『Africaine』版の演奏のほうが曲にあっているような気がするが。
 ラストはスタンダードの"It's Only a Paper Moon"。新鮮味をかんじるアレンジだ。ちょっと明るくエンディングといったところか。

 全体としては先述した通り『Kelly Great』(59) に似て、大きく二つの方向性に分かれているような気がする。旧メッセンジャーズ路線のファンキー・ナンバーと、ショーターによる新しい風とに。旧メッセンジャーズ的ナンバーではショーターのサックスだけが別の方向を向いている。そういう意味では完成度はかならずしも高くない。
 しかし、逆にいえばそこが本作の魅力ともいえる。ライオンならずとも、「第二の『Moanin'』」を求めてるファンは多いだろうし、そういった演奏が聴けるのも本作の魅力だ。それに個人的にベニー・ゴルソンは作編曲者としてはいいのだが、彼のサックスはあまり聴きたくはないもんで(そういう人は多いのでは)、ファンキー・メッセンジャーズの作品としても『モーニン』より推したいくらい。
 モーガン、ティモンズはまさに水を得た魚のように生き生きとしている。それに、何といっても名曲揃いである。その点でも、すごいアルバムだと改めて思った。
 しかし、ショーターめあてでメッセンジャーズを聴くのだとすれば、このへんではまだまだ序の口といったところか。
 ショーターはこの翌年あたりから音楽監督としてメッセンジャーズのサウンド全体を仕切るようになっていくので、今後のメッセンジャーズのアルバムにはこのような方向性の分裂はなくなる。
 とはいえ、ライオンの求める「第二の『Moanin'』」のイメージへ妥協した作品は、この後も何作かある。


03.3.5


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   "The Young Lions"   (Vee Jay)
   『ヤング・ライオンズ』


01、Seeds of Sin   
02、Scourn'      
03、Fat Lady      
04、Peaches and Cream 
05、That's Right    
06、Seeds of Sin (take 4)   (bonus track) 
07、Scourn' (take 3)    (bonus track)  
08、Fat Lady  (take 3)    (bonus track)  

    Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp) 
    Frank Strozier (as) Bobby Timmons (p)
    Bob Cranshaw (b) Lois Hayes, Albert Heath (ds) 1960,4,25  


 本作はショーター色が濃厚。全5曲中3曲はショーター作で、アナログ盤ではA、B面ともショーターの曲で始まる。
 だが、もともとは特にリーダーをおかず、当時ヴィー・ジェイにいた若いジャズ・マンを集めて作られたアルバムで、タイトルは当時流行っていたアーウィン・ショーの小説のタイトル(邦題『若き獅子たち』)そのまま。ジャケ写は動物園のライオンと、かなり安易だ。演奏自体も安易でまとまりに欠ける感じ。では悪いのかというと、これがいい!
 リーダーもいなければ、ボス的ベテラン奏者もいない、若いメンバーだけの肩に力の入らない無責任なセッションのため、演奏がいつも以上にぶっ飛んでるのだ。たいがいインプロヴァイザー・タイプのミュージシャンは、こういった気楽なセッションで、むしろ実力を発揮する場合が多い。ショーターはインプロヴァイザーとしても天才肌のミュージシャンなだけに、本作ではそういったショーターの魅力が、メッセンジャーズでの演奏や、ソロ・リーダー作での演奏以上に爆発している。
 対するはこれも典型的なインプロヴァイザー・タイプのモーガンに、メッセンジャーズでも息の合ったところを見せているティモンズ。悪かろうはずはない。
 本作のいい加減なノリは収録曲のタイトルにもあらわれている。ショーター作の「罪の種子」「スカーン」「桃とクリーム」。なんだこれ。ティモンズ作の「デブ女」。モーガンの "That's Right" は、オリジナル盤では単に "Blues" と表記されていたらしい。
 こういうワルのり感覚が本作の魅力である。

 収録曲ではやはりショーター作の3曲がいい。
 まず "Seeds of Sin" 。黒っぽくてファンキーな曲。アンサンブルによるテーマの後、ショーターのソロの出だしがまたトンデモなく、一気につかまれてしまう。あとは勢いにのせられていくのみ。
 イントロなしで、いきなりショーターのソロで始まる "Scourn'" は軽快なアップテンポのナンバー。その後次々にソロ奏者が変わっていく、ジャム・セッション的内容。
 "Peaches and Cream" はベースで始まるオープニングがゾクゾクさせる。テーマも光ってる。
 その他のメンバーの曲では、"Fat Lady" はいつもながらのティモンズのファンキー・ナンバーだが、ショーターの曲と並べて聴くとなぜか黒っぽさがうすれて聴こえる。
 モーガンの "That's Right" は11分を超える本作では一番長い曲。ブルース・ナンバーで、やはりこういう曲だとティモンズが光る。この曲だけショーターのソロはかなり後になってから出てくる。が、快調なのは変わらない。

 全編にわたって、ショーター、モーガンの肩の力の抜けた、思いきりのいいアドリブが炸裂している。
 "That's Right" 以外の全曲でショーターが第一ソロをとり、やはりショーターのリーダー作の雰囲気は強い。

 それにしても、ヴィー・ジェイのこのジャケットのセンスはどうにかならないもんだろうか。今からでもいいから、いいジャケットに取り替えればいいのにと思う。ぼくはジャズ・ファンが何でオリジナル・ジャケットに執着するのかわからない。いいジャケットなら変えるべきではないが、よくないものはどんどん変えていったほうがいいと思うのだが。


03.3.21


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Lee Morgan featured with Art Blakey's Jazz Messengers
               "More Birdland Sessions"  (Fresh Sound)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『モア・バードランド・セッションズ』

01、Lester Left Town
02、Noise in the Attic
03、So Tired
04、It's Only Paper Moon
05、This Here
06、Skeena's Vision
07、Kozo's Waltz

    Lee Morgan (tp) Wayne Shorter (ts)
    Walter Davis,Jr. (p-1) Bobby Timmons (p-omit 1)
    Jymmie Merritt (b) Art Blakey (ds)  1960.6.4/ 9.11/ 10.28/ 11.5


 1960年のメッセンジャーズのバードランドでのライヴ音源が集められ、Fresh Sound から2枚CD化された。4月から6月までの録音を集めた『Unforgettable Lee!』と、6月から11月の録音を集めた本作だ。
 タイトルはリー・モーガンの名を先に出してあるが、いつもどおりのメッセンジャーズの演奏で、モーガン・ファンをねらってリリースされたので上記のような表記になったのだろう。
 音質はあまり良くない、AMラジオを聴いているような感じだ。演奏は充分優れたもので、とくにフロントの2人がいい。しかし、同時期のメッセンジャーズのライヴはもっといい録音状態のものが手軽に手に入る。
 しかし、リー・モーガンが最も輝いていた時代だけに、モーガン・ファンとしてはどんな録音でも全部集めたいところかもしれない。モーガン・マニア、コレクターか、この時期のメッセンジャーズの演奏が好きな人が、他のものを聴いた後で手を出すべきアルバムだろう。


03.6.5


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   J.Coltrane, L.Morgan  "The Best of Birdland,vol.1"  (Roulette)
   J・コルトレーン、L・モーガン『バードランドの巨星』


01、Exotica
02、One and Four
03、Simple Like
04、Suspended Sentence
05、Minor Strain
06、A Bid for Sid

    「04」〜「06」
    Lee Morgan (tp) Wayne Shorter (ts)
    Bobby Timmons (p) Jimmy Rowser (b)
    Art Taylor (ds)      1960.7


 ルーレットという会社は出所のよくわからない貴重な音源を発掘・リリースしてくれる会社だそうだが、これも出所のよくわからない音源だ。
 LPの片面にコルトレーン・カルテットの演奏、片面にリー・モーガン・クインテットを収めたアルバムだが、片面15〜6分で、合計でも30分ちょっとの短かさだ。なんだってこの時期にアルバムの片面なんて中途半端な量を録音したのかはわからない。バードランドとタイトルにあるのでライヴ録音かと思いきや、スタジオ・セッションだ。
 内容はコルトレーン・カルテットのほうはマッコイ・タイナーが加入した直後の演奏らしく、ドラムはビリー・ヒギンズが叩いている。
 リー・モーガン・クインテットと名づけられているバンドはメンバーを見ればあきらかに、ブレイキーのいないメッセンジャーズであり、たぶん実質的にはノン・リーダー・セッションだったのではと思われる。曲はショーター、ティモンズ、モーガンが1曲づつ書いている。
 さて、内容だが、とくに可もなく不可もなくといった内容。べつにデキが悪いわけではないが、探してでもぜひ聴くべきと強くは勧められない。同時期の他のアルバムを聴いておけば、まあ想像はつく内容だ。
 実はこれはもう片面のコルトレーンのほうも似たようなもので、エルヴィン・ジョーンズが入る前のコルトレーン・カルテットはどんな感じだったのか……という興味では聴けるものの、とくに印象に残る演奏というわけではない。
 とはいえ、コレクター向きというほどしょうもないものではないので、リリースしてくれたこと自体はうれしいのだが……。

 ぼくはたまたま中古LPを安値で見つけたので買ったのだが、サド・ジョーンズのアルバムと抱き合わせて『Minor Strain 』というタイトルでCD化されているらしい。が、現物を見たことがないので、詳しいことはわからない。
 しかし、個人的にはこれくらいの演奏時間と内容なら、同時期のアルバムにボーナス・トラックとしてつけるのが理想的なような気がするのだが……。


04.6.2


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and The Jazz Messengers "A Night in Tunisia"  (Blue Note)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『チュニジアの夜』


01、A Night in Tunisia 
02、Sincerely Diana  
03、Sincerely Diana (alt.take)  (bonus track)
04、So Tired   
05、Yama   
06、Kozo's Waltz   
07、When Your Lover Has Gone 

    Lee Morgan (tp) Wayne Shorter (ts)
    Bobby Timmons (p)  Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds)        1960,8,7/14 


 いきなりメッセンジャーズが若返ってしまったような、フレッシュでみずみずしいサウンドだ。
 前作『Big Beat』ではショーター作曲部分と他の部分の分裂が見られたが、本作のセッションあたりからショーターのカラーでの統一感が出てくる。このへんからショーターが音楽監督としてメッセンジャーズを仕切りはじめたのだろう。
 61年の来日の時、ショーターは本作前後からのメッセンジャーズの新しい雰囲気の理由を、モード・ジャズの手法の導入によるものだとタネあかしし、その後日本にもモードの手法が急速に広がっていったという。
 このモードという手法、ご存知のようにギル・エヴァンスによって発案され、マイルスの『Kind of Blue』(59)あたりで形になった。が、マイルス・バンドによるモード・ジャズはこれだけで一旦挫折して、再び普通のハード・バップに戻り、再開するのは63年になってからだ。
 コルトレーンも『Kind of Blue』の直後録音された『Giant Steps』(59)ではイン・コードで演奏しているのだが、早くも翌60年にはモード・ジャズを再開する。つまり本作の録音と同じ年だ。
 当時ショーターとコルトレーンは仲が良く、よく会ってはジャズについて語りあい、互いの演奏を研究していたという。ショーターがこの年からモード・ジャズを始めるのも、このコルトレーン=ショーターの影響関係からだろう。この二人によってモード・ジャズは新しい段階に進化したのではないかと思う。
 本作の録音は60年の8月。コルトレーンが新路線の出発点というべき『My Favorite Things』を録音するのは同じ60年の10月。この2人の間で、ほぼ同時期にモード・ジャズの導入が始まっていることに確認しておこう。
 この後、60年代前半のモード・ジャズはこのコルトレーン=ショーターによって先導され、発展していくことになる。

 さて、話を本作に戻す。
 本作は60年の8月7日、14日の2つのセッションから編集された2枚のアルバムのうちの一枚で、こちらはリアルタイムでリリースされた。ショーターのオリジナル曲はほとんどもう一枚(『Like Someone in Love』)のほうにいって、こちらは一曲のみである。という事実からもわかるとおり、本作はショーター色が出すぎてないナンバーが集められたアルバムといっていいだろう。したがってショーターめあてで聴くなら本作より『Like Someone in Love』のほうがずっといいが、本作もこの時期のメッセンジャーズの名盤との定評のあるアルバムで、聴いて損はない。
 本作の最大のウリはタイトルでもあり、一曲目でもある、ブレイキーの腕の見せどころの曲"A Night in Tunisia"なんだろうが、メッセンジャーズによるこの曲の演奏は少々食傷ぎみ。
 2曲目はショーター作の"Sincerely Diana"。これも勢いのある軽快な曲で、ショーターのソロのあれよあれよと逸脱していく感じがおもしろい。
 次はボビー・ティモンズ作の"So Tired"だが、これまで"Moanin'"、"Dat Dare"とバンドのカラーを決定づけていたティモンズの曲は、この生まれ変わったようなフレッシュさの中では浮いてきていることは否めない。ティモンズの曲はもっと泥臭さがないとつまらない。
 後半ではモーガン作のバラード"Yama"が聴きどころ。モーガンの澄み切ったトランペットの音の後に、ショーターが不思議なとぼけた音で入ってくるところも最高だ。
 先述したような編集により、ショーターの色はそれほど濃いとは思わない。しかし、ショーターの加入によってメッセンジャーズが新しい時代に入ってきたことは確実に感じさせるアルバムだ。
 そんな新しく生まれ変わったバンドの中で、やはりモーガンのトランペットが美しい。真正面から正統に吹ききるモーガンに対して、道を踏み外してどんどん逸脱していくショーターの対称がおもしろいところ。モーガンが正面突破するんで、ショーターが逸脱できるわけでもあり、けっこういい役割分担だったのでは。






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   Art Blakey and The Jazz Messengers "Like Someone in Love"  (Blue Note)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『ライク・サムワン・イン・ラヴ』


01、Like Someone in Love
02、Johnny's Blue 
03、Noise in the Attic 
04、Sleeping Dancer Sleeping On 
05、Sleeping Dancer Sleeping On (alt.take)   (bonus track)
06、Giantis 

    Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
    Bobby Timmons (p) Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds)  1960,8,7/14


 本作はショーター時代のメッセンジャーズのアルバムの中でもショーター色が突出した作品となっていて、ショーター・ファン必聴だ。本作では後に「新主流派」と呼ばれるスタイルの芽生えがすでに聴かれる。
 『A Night in Tunisia』と同じ二つのセッションの残りの曲が後に未発表曲集みたいなかたちでリリースされたものだが、ショーターめあてでメッセンジャーズのアルバムを聴くならリリースが遅れたアルバムのほうがいいものが多い。たいがい当時は先鋭的すぎる、リスナーが求めるメッセンジャーズのイメージから離れ過ぎている……などの理由でリアルタイムに発表されなかったものなので、こちらのほうがショーター色が強く出ているからだ。
 本作は冒頭2曲以外はすべてショーターのオリジナル曲。ブレイキーはサイドマンのようにおとなしく、恋愛映画のワン・シーンのようなジャケットも含めて、ほとんどメッセンジャーズらしくない作品だ。ミュージシャン名を隠して誰かに聴かせたとしたら、誰もメッセンジャーズのアルバムだとは思わないのではないか。
 このような作品はショーター・ファンとしてはうれしい限りなのだが、当時のメッセンジャーズの音楽監督としてのショーターの立場からすれば問題がないとはいえない。そのような立場で作品を作るなら、従来のメッセンジャーズのファンや、レコード会社の意向とも折り合いをつけていくことを考えるべきで、あまり自分の個性ばかりを押し出してはいけない。
 ということで、本作以後のショーターは、ファンが求めるメッセンジャーズのカラーも大事にしつつ、自分のやりたいこともうまく混ぜていこうとする方法をとっていく。
 つまり本作はメッセンジャーズの音楽監督となったばかりのショーターの、フライング気味に自分を出しすぎた作品といっていいかもしれない。
 ま、メッセンジャーズの、というより、ショーターの傑作というべき作品だ。

 まず本作で最初に聴いてもらいたいのは、バラードの"Sleeping Dancer Sleeping On"だ。
 ワルツによるバラード・プレイはショーターの得意とする所だが、これはその中でも最も美しい曲・演奏の一つ。「眠る踊子は眠りつづける」というタイトルも詩的だ。煙のような幻想的なメロディで、踊子の眠るベッドが霧のたちこめる森にかわる……。まどろみというのか、半分眠っているような感じで聴きたい曲だ。
 モーガンというとファンキーのイメージが強いが、こういう繊細で詩的な演奏ができるトランペッターもモーガンだけではないか。別テイクをオリジナルの後に入れて、同じ曲を2曲続ける別テイクの入れ方はあまり好きではないのだが、この曲ばかりはうれしい。長くこの世界に浸っていられるからだ。

 一曲目に戻って順に見ていこう。
 冒頭の表題曲はいわずと知れたスタンダード。これは編曲ジャズで、モーガンが全編ソロをとり、ショーターは伴奏に徹する。冒頭にもってくるような演奏ではないと思うが、冒頭の曲は親しみやすいものにしようという配慮なんだろうか。
 がぜんジャズの緊張感とカッコ良さが出てくるのは2曲目のモーガン作の"Johnny's Blue"から。モーガンが先発のソロをとるが、なぜか不調。後発のショーターが凄い。音を激しく旋回させる前半から、きゅうに一音々々をのばすように吹きはじめるあたり、最高。
 "Noise in the Attic"。タイトルは"Toys in the Attic"のもじり。モーガンとショーターの両方ソロが決まっているということでは、本作中随一。
 ラストの"Giantis"もショーター作。「女巨人」とか「巨大女」と訳すのだろうか。ショーターらしいタイトルで、たしかに壮大さを感じさせるテーマだ。


03.3.10


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   Art Blakey and The Jazz Messengers
   "Meet You at the Jazz Corner of the World ,Vol.1 / Vol.2" (Blue Note)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『ジャズ・コーナーで会いましょう, Vol.1 / Vol.2』


Vol.1
01、The Opener 
02、What Know 
03、The Theme
04、'Round About Midnight 
05、The Breeze and I

Vol.2
01、High Modes 
02、Night Watch 
03、The Things I Love
04、The Summit  
05、The Theme

    Lee Morgan (tp) Wayne Shorter (ts)
    Bobby Timmons (p) Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds)      1960.9.14


 ご存知の方も多いだろうが、当時のブルーノートは2枚別売りのライヴ・アルバムを売り物にしていた。
 メッセンジャーズもその例にもれず、何枚かの2枚別売りのライヴ・アルバムをリリースしている。順にいえば、まずメッセンジャーズを名乗る前の『A Night at Birdland』(54)、メッセンジャーズを名乗ってすぐの『at the Cafe Bohemia』(55)、そして、ショーターが入る直前の『At the Jazz Corner of the World』(59)、そして本作となる。うち、『at the Cafe Bohemia』を除く3セットはいずれもバードランドにおけるライヴであり、ピー・ウィー・マーケットのアナウンスが聴ける。逆にピー・ウィー・マーケットのアナウンスを思い出そうとすると、きまってメッセンジャーズを紹介している時のものになる。この頃のバードランドではメッセンジャーズが呼び物となっていたようだ。

 さて、一作前の2枚セットの『At the Jazz Corner of the World』では、突然退団したベニー・ゴルソンに代わって、以前のメンバーだったハンク・モブレーが急遽呼び戻されてサックス奏者をつとめている。ちなみにこのアルバム、以前の2作に比べて少々地味な名声しかないが、かなりの傑作である。
 そして本作だが、そのハンク・モブレーが隠れた主役をつとめたアルバムともいえる。
 収録曲10曲のうち「テーマ」を除いた8曲のなかで、モブレー作の曲が3曲。ほかはショーターとモーガンの曲が1曲づつ。モンクの曲が1曲。スタンダードが2曲となっている。
 ショーターが入ってすぐの59年のヨーロッパ・ツアーからのライヴ・アルバムにはモブレーの曲など入ってないところをみると、どうしてこの時期、ここまでモブレー・ナンバーが復活してるのか、不思議だ。それとも59年には選曲されてなかっただけなのか。
 どちらにせよ、スタジオ盤ではショーター主導のもと先鋭的な演奏も見られるようになってきたこの頃のメッセンジャーズも、ライヴではまだまだ50年代的な色の残る演奏を、おそらく意識的にしていたのだろう。

 さて、「volume 1」はいかにもモブレーらしい親しみやすいメロディー・軽快なテンポの"The Opener"で幕を開ける。モブレーのほのぼのとした持ち味がバンドにも感染して、先行するショーターのソロもどこかほのぼのとした印象してるし、つづくモーガンもどこかほのぼの。
 つづくモーガン作の"What Know"は、"Moanin'"路線のミディアム・テンポのファンキー・ナンバー。哀愁をおびたテーマがなかなかいい。ここはいつも通りのショーター=モーガンのメッセンジャーズの雰囲気。サックスもトランペットもギラギラした光を放つ。ここが「volume 1」の一番の聴きどころだろう。ネオンがギラギラ光る夜の都会にくりだしたよう。
 短い"The Theme"をはさんで、"'Round About Midnight"。そしてポップな"The Breeze and I"とスタンダードを演奏して「volume 1」は終わる。とくに"The Breeze and I"のショーターがモブレー・ナンバーのノリのように感じるのだが、どうだろう。

 「volume 2」にうつろう。
 冒頭2曲モブレー・ナンバーが続くが、"High Modes"はかなり渋いファンキー・ナンバー。地味だが隠れた名曲・名演ではないかと思う。「volume 1」だけ聴いて満足してる人がいたら、ぜひ聴いてみてほしい。モーガンのミュート・トランペットによる、薄暗い中を歩いているようなテーマから、ショーターのソロも見事。ティモンズのピアノも氷のように冷たく硬い光を放つ。
 つづく"Night Watch"激情的なマイナー・コードの急速曲。ふだんのメッセンジャーズならもっと迫力のある演奏になるはずだが、どこかほのぼのとした味わいがあるのは、やはりモブレーの曲だからだろうか。モブレーは凄い作曲家というふうではないが、親しみやすいメロディをつくるのがほんとうにうまいと思う。ホレス・シルヴァーとかの系列だろうか。
 つづいてスタンダードの"The Things I Love"を、やはりほのぼのと演奏して、ショーター作の"The Summit"にうつる。急に時代が新しくなったようなきらめくテーマ。しかしショーターのソロにはまだほのぼのの味わいが残っているような気がするのは気のせいだろうか。それとも録音のせいなんだろうか。

 ショーターはつねに先行ソロをとる。こういうほのぼの系のショーターも、これはこれでいい。


03.7.18


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   Wayne Shorter "Second Genesis"       (Vee Jay)
   ウェイン・ショーター『セカンド・ジェネシス』


01、The Ruby and the Pearl
02、Pay as You Go
03、Second Genesis 
04、Mister Chairman
05、Tenderfoot
06、The Albatross
07、Getting to Know You
08、I Didn't Know What Time It Was

    Wayne Shorter (ts) Cedar Walton (p)
    Bob Cranshaw (b) Art Blakey (ds)   1960.10.11


 ファースト・ソロの『Introducing Wayne Shorter』(59)の翌年に録音されたショーターのワン・ホーンによるセカンド・アルバムだ。しかし当初はオクラ入りされ、実に75年になってようやくリリースされた。
 さて、ブルーノート盤でショーターを聴いて、遡ってヴィー・ジェイ時代のショーターの3枚のソロ作を聴くと、誰しも感じるのがショーター色の薄さだろう。しかも、後に録音されたものほど古めかしい伝統的なスタイルに、逆に戻っていっているように感じる。つまり最初の『Introducing...』が最も先鋭的であり、最後の『Wayning Moments』(62) となるとまるでハードバップのようなスタイルである。
 なぜこのようになったんだろうか。ヴィー・ジェイ側の方針だろうか、それともショーター自身の意志なんだろうか。別項で書くようにシーンの保守化もあったろう。しかし、本作がオクラ入りされたことを考えると、『Introducing...』が期待したほど売れず、もっと親しみやすい伝統的なスタイルのアルバムを作るようにというヴィー・ジェイ側のテコ入れもあったような気がする。
 しかし、逆に考えればショーターらしい意欲的なアルバムは『Night Dreamer』(64) 以後のブルーノート作品でいくらでも聴けるので、ヴィー・ジェイ時代のショーターのソロ作はハードバップっぽいスタイルのショーターが聴けるという点に独自の価値があるともいえる。
 さて、そこでヴィー・ジェイ2作目の本作だが、『Wayning Moments』ほどではないが、やはり『Introducing...』と比べてもどこか伝統的でおとなしい演奏になっていると思う。とくにリズムが、アート・ブレイキーが叩いているにしては同時期のメッセンジャーズと比べても工夫がなく、スムーズすぎる気がする。さらにはいきなりスタンダード・ナンバーから始まるという曲順もショーター色を薄く感じさせる理由かもしれない。CDを2曲めからかけるといくらかショーター色が増したように感じる。
 『Wayning Moments』も冒頭はスタンダードだったが、これもヴィー・ジェイ側の、ショーター色を薄めて口あたりのいいアルバム作りをしようとした意図かもしれない。『Second Genesis(第二創世記)』というタイトルはショーターらしさを感じるのだが……。
 まあ、逆にいえばショーター色が濃すぎないワン・ホーンによるアルバムということで、ショーター入門者には最適かもしれない。
 バンドのメンバーは先述のとおり当時のボス、ブレイキーをドラムに据え、ピアノには翌年にはメッセンジャーズに加入するシダー・ウォルトンを起用。コンパクトによくまとまったバンドになっている。

 前半4曲はだいたい同じくらいのテンポの曲が揃い、メドレーのように一気に聴けるようになっている。冒頭スタンダードの"The Ruby and the Pearl"は前記の通りショーターらしさを薄める原因ではあるが、快演は快演。つづく3曲のショーターのオリジナルは、どれも哀愁味を帯びた爽やかな曲調で、風が吹き抜けるように聴ける。
 後半になるとメリハリのついた構成となる。本作でもっとも早いテンポの"Tenderfoot"。つづく"The Albatross"はロマンティックなバラード。ショーターの本領発揮の部分だ。
 ラスト2曲はスタンダード。楽しげな"Getting to Know You"の後、バラードの"I Didn't Know What Time It Was"。この曲はこの後メッセンジャーズの『Ugetu』(63)や、ずっと後のバスター・ウィリアムスの『Something More』(89)などでも演奏していて、ショーターのお気に入りのスタンダードなのかもしれない。

 ヴィー・ジェイ盤としては比較的ショーター色が濃いとはいえ、60年という録音年でもあり、後のショーターのような強烈な個性は感じさせない。が、ひたすら気持ちがいいアルバムだ。ショーターのサックスは決してブロウせず、風のように駆け抜けていく。そのサックスの響きの美味しいこと。
 けっこうレスター・ヤング派のショーターを一番感じさせるのは本作あたりかもしれない。


03.3.10


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and The Jazz Messengers
              "Live in Stockholm 1959"  (Dragon)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『ライヴ・イン・ストックホルム 1959』


01、Blues March
02、Lester Left Town
03、The Theme
04、The Summit
05、Along Came Betty
06、Night in Tunisia
07、The Theme

    Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
    Bobby Timmons (p) Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds)         1960.12.6


 この『Live in Stockholm 1959』という同じタイトルの、しかし内容の違うアルバムが2種類ある。収録曲が違うので、曲名を見ればどちらかがわかるはずだ。
 どちらも1959年11月23日の録音とクレジットされているが、どうもこちらのアルバムのほうは、実は1960年12月6日の録音だと後でわかったそうだ。よって、ピアノもクレジットされているウォルター・デイヴィスではなく、ボビー・ティモンズとなる。
 で、本作だが、この録音は素晴らしく音質がいい。この手の発掘ものとは思えないほど。オフィシャルなみという言葉があるが、それ以上といっていい。ブルーノートから出てる同年のライヴ録音『Meet You at the Jazz Corner of the World』より、はっきりいって音質がいい。
 収録曲ではショーター作の"The Summit"が注目されるところ。これはその『Meet You at ……』に入っているぐらいで、こちらのほうが音質がいいんで、うれしい。
 それ以外の曲は上記の通り、この時期のメッセンジャーズの代表的な曲ばかりで、スタジオ録音ほか、ライヴでの録音も何種類もある。
 演奏のレベルとしては、この時期のメッセンジャーズとしては平均点といったところ。充分聴きごたえはあるが、特に本作での演奏を……というほど特別盛り上がっているわけではない。
 やはり音質の良さで聴くアルバムだと思う。



03.7.11


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and The Jazz Messengers
              "Lausanne 1960, Part 1"  (TCB)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『ローザンヌ 1960, Part 1』


01、Now the Time
02、Announcement by Art Blakey
03、Lester Left Town
04、Noise in the Attic
05、Dat Dere
06、Kozo's Waltz

    Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
    Bobby Timmons (p) Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds)         1960.12.8


 "Swiss Radio Days Jazz Series,vol.2"と表記されたCD。どうもこれはスイスへやってきたジャズマンのラジオ用のライヴ音源をCD化していったシリーズのようで、"Vol.1" はクインシー・ジョーンズのビッグ・バンド、"Vol.2" がこれ、"Vol.3" はキャノンボール・アダレイ……と続いて、"Vol.6" がまたブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの『Lausanne 1960, 2nd Set』となっていいる。
 音質はちょっと薄っぺたい気がするが、贅沢をいわなければ鑑賞に邪魔になるほどでもない。
 メッセンジャーズの59年、60年のヨーロッパ・ツアーからは実にたくさんのライヴ録音がリリースされていて、61年以後になるとぐっと数が減る。おそらく『Moanin'』のヒットを受けたこの頃が最もメッセンジャーズの人気が盛り上がった頃なのかもしれない。
 その点からいくと60年12月録音の本作はライヴ盤が豊富な時期の終わり近くの録音となる。

 さて、曲目をみると当然 "Noise in the Attic" と "Kozo's Waltz" に目がいく。この2曲のライヴ・ヴァージョンはめずらしい。が、実はありがちな "Now the Time" もショーター参加以後のメッセンジャーズではめずらしい。
 ご存知のように "Now the Time" チャーリー・パーカー作のバップ・チューンの代名詞のような曲だが、マイルスは自伝の中でマイルス・バンド時代のショーターについてこう言っている。

  当時のウェインは、オレが知る限り、バードが書いたように何かを書いた、
 真に唯一の人間だった。それは、楽譜に書く時のビートとの合わせ方に表れて
 いた。(中山康樹・訳)

 どうも「楽譜に……」以後の文章が何を言っているのかわからない。訳文で判断せずに原文にあたるべきなんだろうが、原書を持ってない。
 さて、しかしマイルスのいうショーターがパーカーのように作曲した唯一の人間というのはどのような意味なんだろうか。ぼくはパーカーも大好きだが、パーカー作の曲とショーター作の曲はかなり違うように思える。マイルスの目にどこが同じように作曲したと映ってたんだろうか。それが「楽譜に書く時のビートとの合わせ方」ということなんだろうか。興味深いが、よくわからない。

 さて、内容にいこう。
 注目の "Now the Time" だが、予想通りというべきか、資質が合わずあまり好演とはいえない。ショーターばかりかモーガンのソロも冴えず、当時メッセンジャーズはショーターひとりでなく、バンド全体がバップ的な音楽とは違う方向にむかっていたのではないだろうか。
 続いてブレイキーによるアナウンスをへて "Lester Left Town"。こちらはいつもながらの好演。
 しかし、本作の聴きどころはこの後3曲の後半だろう。
 まず "Noise in the Attic" 、これはライヴに映える曲だ。とくにメッセンジャーズのハードボイルドな雰囲気がよく似合う。もっとライヴ・ヴァージョンがあったらいいのに。
 そして "Moanin'" と並ぶティモンズの代表曲の "Dat Dere" をシブくビシッと決める。
 ラストは "Kozo's Waltz"。斬新なメロディの曲だが、音を遊んでいるようなショーターのソロも斬新。このへんのレパートリーをライヴ盤でもっと聴きたかった。


04.1.11, 06.7.6


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and The Jazz Messengers
              "Lausanne 1960, 2nd Set"  (TCB)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『ローザンヌ 1960, 2nd Set』


01、Announcement
02、It's Only a Papermoon
03、'Round About Midnight
04、The Summit
05、A Night in Tunisia
06、This Here

    Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
    Bobby Timmons (p) Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds)         1960.12.8


 上記の『Part 1』と同じシリーズの、今度は "Swiss Radio Days Jazz Series,vol.6" と記された『2nd Set』だ。録音日時は同じなので、タイトル通りセカンド・セットを収録したらしい。このシリーズから出ているメッセンジャーズのアルバムはこの2枚だけなのか、わからない。
 とりあえず、上の『Part 1』とは一曲もかぶらないので、単純に2枚組の感覚で聴けばいいアルバムだろう。
 曲へいくと、一曲めの "It's Only a Papermoon" は、スタジオ盤ならともかくライヴで聴くと、どうもメッセンジャーズ向きの曲でない気がしてしまうのはぼくだけだろうか。次の "'Round About Midnight" はモーガンのミス・トーンも目立ち、この1〜2曲めはなんだかモーガンの調子がイマイチで覇気がない気がする。ショーターは堂々とした演奏をくり広げているのだが、この曲はモーガンが主役でなければならない曲だ。
 そんな前半の欲求不満を一気に吹き飛ばしてくれるのが次の "The Summit"。気迫みなぎる演奏で本作のいちばんの聴きどころだろう。ここからモーガンも復調し、いつもながらの "A Night in Tunisia" を駆け抜け、ティモンズ作の "This Here" へ至る。この曲のメッセンジャーズでのバージョンはめずらしく、このライヴを2枚揃えるとティモンズの代表曲が "Dat Dere " , "This Here" と揃うことになる。


06.7.6


『ウェイン・ショーターの部屋』

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