ウェイン・ショーター、アルバム紹介 1959年







   Wynton Kelly "Kelly Great"     (Vee Jay)
   ウィントン・ケリー『ケリー・グレート』


01、Wrinkles
02、Mama "G"
03、June Night
04、What Know
05、Sydney

     Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
     Wynton Kelly (p)  Paul Chambers (b)
     Philly Joe Jones (ds)          1959.8.21


 ショーターの初録音。26歳の誕生日直前の録音だ。この年での出発は当時のジャズ界でいえば、比較的遅咲きといえるらしい。
 本作を聴いていえることは、ショーターは最初からショーターだったということだ。もうこの時点ではショーターは完全に個性的な独自のスタイルをもっている。
 それでわかることは、アーティストのタイプを、天才型・努力型という分けかたをした場合、ショーターは天才型だということだ。天才型の人というのは最初からある種の完璧さをもって登場してくるものだ。
 これは例えば典型的な努力型のミュージシャンであるマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンが、最初は下手くそなプレイヤーとして登場し、努力を積み重ねて徐々に実力を発揮していくのと対照的である。
 これはショーターがデビューが遅れたので、デビュー時点ですでに完成されたスタイルをもっていたというわけでもないだろう。コルトレーンの実質的デビューはもっと遅いし、この後の活動においてもショーターは努力や試行錯誤の跡を見せないのが特徴だ。
 途中過程がなくて、いきなり『Super Nova』(69) が登場するし、いきなり『Atlantis』(85)が登場する。これは『Bitches Brew』(69) の前にはその前段階のような『キリマンジャロの娘』(68) 等があるマイルスとは違う。また、ソプラノ・サックスを手にした時には、その初録音で既に完成された演奏をしている。これはまず『My Favoritte Things』(60) でまだ下手なソプラノ・サックスを吹き、徐々に上手くなっていくコルトレーンとは違う。ショーター作品はいつも、いきなり完成された形で出てくる。
 しかし、これは長所だといえるのかは怪しいと思う。見ていると試行錯誤や努力の跡を見せたほうが、そのミュージシャンが何を考え、何をしようとしているのかわかりやすく、ファンが感情移入しやすい面があるように思う。ショーターはそんな中途半端なものを作らないために、聴衆がついていきにくくなる面がある。いきなり変化するために、ファンがショーターの姿を見失う面がある。
 例えば『Native Dancer』(74)などをいきなり出されると、あまりにもこれまでの世界と違うものが完成された形で出てくるもんで、ショーターの変化が理解できず、これはミルトン・ナシメントの作品ではないかとか、あるいはウェザーリポートはザヴィヌルが中心ではないのかとか、誤解する人間が出てくるのだ。
 これは天才型の人が世間から理解されずらい理由でもある。

 本作に話を戻そう。
 本作のメンバーは当時のマイルス・バンドのリズム・セクションに、この少し後のメッセンジャーズのフロントが合わさった形の編成だ。
 ショーターは2曲のオリジナルを提供している。全5曲中の2曲だから、かなり大きな位置を占め、当時からショーターの作曲能力は高く評価されていたことの証明ともいえる。
 ところで、デビュー作でいきなり指摘するのも何だが、ショーターという人は本来サイドマンとしての適性はあまりない人だと思う。個性が強すぎ、他人のスタイルに合わせるのがうまくないからだ。そのためショーターがサイドマンとして参加すると、全体がショーターに引っ張られてショーター主導の演奏になるか、もしくはショーター一人が浮いた演奏になってしまう。これはショーターの盟友のハービー・ハンコックが、どんなスタイルのミュージシャンに対しても的確に合わせてバッキングをつけたり、他人を引き立てながら自分も見せ場もきちんと作るような演奏を得意とするのと対称的だ。
 もう少し後になってくると周囲のミュージシャンもそんなショーターの特性を理解し、ショーターが合いそうなスタイルで演奏をする時にショーターを起用するようになるので、それほど気にはならなくなるのだが、本作はそんな考えもなくショーターを起用したため、ショーターに引っ張られてショーター主導になってしまった曲と、ショーター一人が浮いている曲とにかなりハッキリ二つの方向に分かれる内容になっている。
 A、B面のそれぞれ冒頭となる "Wrinkles" と "June Night" は、いかにもケリー在籍時のマイルス・バンドそのままの、ほのぼのジャズというか、伝統的な演奏。例えば "June Night" のモーガンがミュート・トランペットが吹いている場面なんかを聴かされて、これ、マイルスの『Someday My Price Will Come』(60)の別テイクだよ、なんて言われたら、一瞬騙されそうな気もする。
 これらの曲ではショーターはめちゃくちゃ外しまくる異様な演奏を繰り広げる。サックス演奏のみによって曲を異様なものに変化させようとしているかのようで、あきらかにショーター一人が別の方向を見ているようで浮いている。まあ、それもそれでおもしろいが。
 一方、ショーター作の2曲はいきなり新しく、もっと後の年代の演奏のように聴こえる。バンド全体がショーターに引っ張られていて、ある意味バンドの統一感はこちらのほうがある。とくに "Mama "G"" が白眉だろう。この曲は後に "Nellie Blye" というタイトルでメッセンジャーズのレパートリーにもなる。しかし、他の曲との雰囲気の非統一感は否定できないし、ウィントン・ケリーのリーダー作という点から見てもこれでいいのかは疑問だ。
 モーガン作の "What Know" その中間ぐらいに位置する演奏で、いわば「つなぎ」の役をはたしているようだ。
 と、いうわけで本作はいい作品だが、統一感のある作品ではなく、完成されたというよりは過渡期的な魅力のあるアルバムである。
 個人的にはショーターへの興味で後から本作を聴いたので、ショーター作の2曲の演奏が特にいいと思うが、本作のリリース当時ジャズ・ファンの耳には、ショーターの曲や演奏は、何だかわからない奇妙なものに聴こえたそうだ。

 さて、本作のリーダーでもあり、ショーターの初リーダー作にもつきあう、ウィントン・ケリーだが、やはりショーター=ケリーの組み合わせはそんなに合ってないような気がする。ケリーにはもっと50年代の香りを残すホーン奏者、例えばこの後何度も共演するハンク・モブレーや、マイルスのほうが似合ってる。


03.3.18


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   "Introducing Wayne Shorter"           (Vee Jay)
   『イントロデューシング・ウェイン・ショーター』


01、Blues A La Carte
02、Harry's Last Stand
03、Down in the Depths
04、Pug Nose
05、Black Diamond
06、Mack the Knife
07、Blues A La Carte  (take 3)    (bonus track)
08、Harry's Last Stand  (take 4)    (bonus track)
09、Down in the Depths  (take 3)    (bonus track)
10、Pug Nose  (take 2)    (bonus track)
11、Black Diamond  (take 1)    (bonus track)

     Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
     Wynton Kelly (p)  Paul Chambers (b)
     Jimmy Cobb (ds)         1959.11.10  


 ショーターの初リーダー作だ。初録音からわずか3ヶ月後にリーダー作が録音されたということは、当時のヴィー・ジェイの彼への期待、高く評価されていたことがわかる。また、クレジットが正しければ同日にはメッセンジャーズでの初スタジオ盤『Africaine』が録音されている。
 メンバーは『Kelly Great』からドラマーがジミー・コブに変わったのみ。マイルス・バンドでもそうだが、ドラムがフィリー・ジョーからコブに変わると、ドラムが弱くなったぶん、チェンバースのベースがリズムを引っ張っているように聴こえる。
 さて本作の聴き所だが、50年代の定型的なジャズの枠内でやっているショーター作品……と、ヴィー・ジェイでのショーター作品の価値はここにつきるような気もする。同時期でもメッセンジャーズでの演奏となると、ブレイキーが変則的なビートを打ち出すなど、50年代の定型ジャズを超えている部分がある。しかしヴィー・ジェイでのショーター作品は、会社側の意向なのか、ショーター以外のメンバーは非常にオーソドックスなスタイルで演奏している。しかしそれでも『Kelly Great』の "Wrinkles" や "June Night" の演奏と比べると、ほとんど変わらないメンバーであるにも関わらず本作の斬新さが光る。
 なお、デビュー当時のショーターはフリー派の奏者と見られていたらしい。が、本作をどう聴いても、また、以後の活動を見ても、やはりフリーではないだろう。
 このショーターがデビューした59年という年はその前年にデビューしていたオーネット・コールマンが最初の名盤『The Shape of Jazz to Come(ジャズ、来たるべきもの)』を録音した年であり、エリック・ドルフィーの最初のリーダー作『Outward Bound』は翌60年の録音となる。つまりちょうどフリー派が登場して注目を集めていた頃であり、しかしまだこの一派がどういうものなのか正体が掴めているわけではなく、おそらく当時新しく出てきた奇妙な個性を持った演奏者は、みんなフリー派だと括られていたんじゃないだろうか。

 本作は "Blues A La Carte" で始まる。よくこの曲をオープニングに持ってきたと思う。"Down in the Depths" で始めたらもっと押し出しのいいアルバムになってた筈だが、個人的にはこのオープニングのほうがハードボイルドな感じでいい。
 これはちょっと奇妙なテーマの曲で、小節数が変則的なブルースのテーマと、ソロ・パートが交互に出てきて、そこからシームレスにソロに移行する。ごく自然で目立たないようでいて、かなり知的なおもしろさのある曲だ。
 つづく "Harry's Last Stand" はトランペットとサックスがコール・アンド・レスポンスをするようなテーマで、これもこの後メッセンジャーズで多用する方法。
 前述した "Down in the Depths" は派手なテーマで、メッセンジャーズだったらこれをトップに持ってきただろう。総じてアルバム前半は早めのミディアム・テンポで揃えてあり、ポール・チェンバースの快適なベースに乗った各奏者の好演が聴ける。この前半部はかなり好きだ。
 後半に移って、"Pug Nose" はゆっくりめのミディアム・テンポで、このくらいのテンポの曲にいちばんショーターらしさを感じる人も多いと思う。
 変わって "Black Diamond" は急速曲。しかしジミー・コブのドラムのせいか、迫力は感じられない。このリズム・セクションにはミディアム・テンポが合っているようだ。
 さて、ラストは "Mack the Knife" だ。あんまりショーターの個性に合った曲とも思えないし、ソニー・ロリンズの向こうを張ろうという意向だろうか、などと邪推ばかり浮かんできて、あまり好きじゃなかったが、聴き慣れてくると、これはこれでいい味を出してるような気がしてきた。
 全編にわたって、ショーターの初々しいソロはいい。が、テーマ〜各プレーヤーのソロ〜後テーマ……という展開はいかにも定型で工夫はない。この時点ではこれが普通だったんだろうが、やはりこれにあきたらずに何かをしたいと考え、この形を少しづつくずしていった、この後のショーターの行動はわかる。

 さて、ヴィー・ジェイで期待を受けてデビューしたショーターだったが、次作の『Second Genesis』がオクラ入りしたことを見ると、本作の売れ行きは期待ほどではなかったのかもしれない。やはり当時の聴衆にはまだ早かったのか。
 それにしても、この頃のヴィー・ジェイの音質には異様なナマナマしさがある。楽器の生音にできるだけ近づけようとする録音だ。ウィントン・ケリーの『Kelly at Midnight』などはドラマーの手の動きまでわかる感じだったが、この頃のショーター作品も、とくに24bit録音のCDで聴くと、効果は絶大だ。ぼくはオーディオ・マニアではなく安物のオーディオ・セットでしか聴いてないが、それでも凄い。
 もちろんブルーノート録音にはブルーノートの良さがあるが、やはりこの時期ヴィー・ジェイにも録音しといてくれて良かったと思う。


03.3.26


『ウェイン・ショーターの部屋』

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    Art Blakey and The Jazz Messengers "Africaine"   (Blue Note)
    アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『アフリケイン』


01、Africaine   
02、Lester Left Town
03、Splendid  
04、Haina   
05、The Midget 
06、Celine    

    Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
    Walter Davis,Jr. (p) Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds) Dizzy Reece (congas -1,4)    1959.11.10


 ショーターの初リーダー作『Introducine Wayne Shorter』と同日録音の、ショーターのメッセンジャーズでの初録音。しかし、これはオクラ入りし、20年後ようやくリリースされた。
 オクラ入りの理由はライナーノーツに書いてある。「(ブルーノート社長でプロデューサーの)アルフレッド・ライオンは、第二の "Moanin'" を求めていた。そしてジャズ・メッセンジャーズが第二のジミー・スミスになれると思っていた……」
 対してブレイキーは「おれはおれ以外の何者にもなりたくないし、これはおれのバンドだ。おれはおれのバンドを続けたい」といったそうだが、半年ほど後の『The Big Beat』(60)を聴くとやはり妥協を強いられたようだ。
 ということで「第二の"Moanin'"」を意識した感のある『The Big Beat』に比べて、むしろ本作のほうがショーターが加入しての新しいメッセンジャーズのイメージが強い。この後ブルーノートでのメッセンジャーズは、ショーターが推し進める新しい方向性と、ライオンが求めるメッセンジャーズのイメージへの妥協との間を行ったり来たりしながらアルバムを作り続けることになる。
 また、その他にも本作のライナーノーツには79年の時点でのショーターとブレイキーのインタヴューが豊富に載っていて興味深い。ファン必読だ。筆者はコンラッド・シルヴァート。そして82年には白血病の告知を受けたそのシルバートのためのコンサートにショーターも出演することになる。

 本作に話を戻そう。
 前述の通り本作は新しいメッセンジャーズのイメージを打ち出した完成度の高いアルバムだと思う。まだショーターの個性がアルバム全体から感じられるとことまではいってないが、『The Big Beat』より統一感がある。
 まず冒頭2曲のショーターのオリジナルから始まる。冒頭の "Africaine" はショーターがマンボに凝っていた頃作った曲だそうだ。『Super Nova』(69)以後開花する南国的な複雑なリズムへの嗜好は最初からあったのだと確認できる。しかしこの演奏を聴いた限りではリズム的にそれほど趣向が凝らされているとは思えず、普通のジャズのリズムに聴こえる。この曲と "Haina" の2曲がコンガ入りだが、そのコンガもさほど生きてない。哀愁を帯びたメロディと、先発するショーターの初々しいソロ(コルトレーンの影響が見える)を楽しみたい。
 続く "Lester Left Town" はいわずと知れた名曲中の名曲。1959年に死去した偉大なるサックス・プレイヤー、レスター・ヤングへの追悼曲で、スタンダード化したナンバー。この直後からメッセンジャーズのライヴでの重要なレパートリーとなり、本作がオクラ入りしたために、『The Big Beat』でも再演されている。聴き比べると『The Big Beat』版のほうがテンポが早く迫力があるが、この曲の個性の考えると本作のヴァージョンのほうがピッタリなのでは。モーガン、ショーターともアドリブが冴えている。
 "Splendid"はピアノのウォルター・デイヴィス・ジュニアのオリジナル。この人はブルーノートの『Davis Cup』で有名で、作編曲能力にも定評がある人らしいが、そのわりに中途半端な評価しか受けられない可哀想な人らしい。この時期のメッセンジャーズへの参加もティモンズのピンチ・ヒッターみたいな印象で損をしている。この曲も哀愁味のあるなかなかの名曲で、普通のハード・バップのアルバムなら、当然トップに持ってきてもいい出来。
 後半3曲はずべてモーガンのオリジナル。"Haina"は2曲めのコンガ入りだが、こちらのほうがリズムが複雑で華やか、趣向がこらされている。
 続く"The Midget"は"Lester Left Town"と並び、メッセンジャーズのライヴでのレパートリーとなった名曲。テーマ部のリズム、メロディともに意表を突いた感じでいい。モーガンの名曲の一つだろう。
 ラストの"Celine"は軽快なナンバー。先発するショーターのソロがいい。


03.3.26


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and The Jazz Messengers "Live in Europe 1959" (Bandstand)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『ライヴ・イン・ヨーロッパ 1959』


01、The Midget ── a 
02、Nellie Blye ── a 
03、Close Your Eyes ── b
04、Like Somene In Love ── b
05、Lester Left Town ── b 
06、Blues March ── c

    Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
    Walter Davis,Jr. (p) Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds)    
    「a」1959.11.5 「b」1959.11.23 「c」1959.11.29


 本作は下記の3枚からの再編集盤で、この3枚を既に入手している方は入手する必要はない。(各アルバムの収録曲は「a」〜「c」のとおり)

 「a」──『Live in Copenhagen 1959』   (Jeal)

 「b」──『Live in Stockholm 1959』    (Dragon)

 「c」──『Live in Berlin 1959/1962』    (New Sound Planet)

 3枚とも発掘モノのライブ盤であり、ブートレグっぽい。どれも入手しやすくはなく(ぼくは「a」と「b」は未入手)、本作のほうが入手しやすく、日本盤も出てるんで、本作を紹介する。

 この年のメッセンジャーズのヨーロッパ・ツアーは11月15日の『Champs Elysees』から、11月29日の『Live in Berlin』まで数種類の録音がリリースされている。
「a」はディスクへの表記によれば11月5日の録音とのことで、このツアーの最初期の録音ということになるが、11月10日にアメリカで『Introducine Wayne Shorter』とメッセンジャーズの『Africaine』が録音されたことになっており、データどおりだとするとこの2枚を録音するためにツアーからアメリカに一時戻ったことになり、どうもあやしい。
 また、本作の日本盤のライナーノーツには「b」は「11月23日の録音とされていたが、後から1960年12月6日の録音だとわかった」と書かれているが、同じ『Live in Stockholm 1959』というタイトルの内容の違うアルバムがあり、どうも1960年12月6日の録音はそちらのアルバムのほうらしい。
 ま、正直いうとこういったデータについてはよくわからず、ぼくの手に余る。

 内容にいこう。
 まず『Live in Copenhagen 1959』からの2曲。音質はあまり良くはないが、気にしなければ鑑賞にさしつかえないという程度だ。
 ここでの聴きどころは何といってもショーター作の"Nellie Blye"。『Kelly Great』(59)の"Mama "G""と同じ曲だが、メッセンジャーズでの演奏を聴いてみると、何ともメッセンジャーズ向きの曲だったことがわかる。『Kelly Great』での演奏よりずっとハードボイルドで、アブなげなカッコ良さがむんむんしている。
 続いて『Live in Stockholm 1959』からの3曲。音質はだいぶ良くなるが、オフィシャル並みとはいかない。しかも、"Close Your Eyes"や"Lester Left Town"はもっと音質がいいライヴ・アルバム(『Champs Elysees』など)でも聴くことが出来るんであまりありがたみはない。演奏自体は充分魅力的ではあるが。
 残る"Like Somene In Love"もスタジオ盤で聴くことができるが、あちらではモーガンが一人でソロをとるのに対し、本作ではショーターの演奏もたっぷり聴けて、これが一番の聴きどころか。
 残るは『Live in Berlin 1959/1962』からの1曲。この盤については別項で書くが、モーガンがキレまくってるスゴい演奏だ。しかし、本作収録の"Blues March"ではそのキレまくったモーガンを味わうことはできない。ここは"A Night in Tunisia"を選曲してほしかった。


03.7.4


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and The Jazz Messengers "Au Theatre Das Champs Elysees" (RCA)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『イン・シャンゼリゼ』


01、Close Your Eyes
02、Goldie 
03、Ray's Idea
04、Lester Left Town 

    Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
    Walter Davis,Jr. (p) Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds)        1959.11.15


 『Moanin'』の大ヒットを受けつつ、メッセンジャーズは1958年にヨーロッパ・ツアーを行い、大成功をおさめた。その模様は名盤『サンジェルマンのメッセンジャーズ』ほか何枚ものライヴ盤で聴ける。
 それを受けて、この1959年にもメッセンジャーズは『Africaine』の収録後、ヨーロッパ・ツアーを行い、その模様が数タイトルのライヴ盤になって出ている。
 本作はそのクラブ・サンジェルマンでのライヴから一年後のフランスでのライヴ。シャンゼリゼで行われた2回のコンサートからベストテイクを編集したものだとライナーノーツには書いてあるが、録音日は1日しか書いてない。昼の部と夜の部の2回コンサートが行われたということだろうか。
 この時期ならまだファンが期待しているのは"Moanin'"や"Blues March"のメッセンジャーズであり、実際そのような曲目も演奏されたようだが、本作ではそういった曲は避けて、上記の通り新鮮味の感じられる選曲になっている。個人的にはうれしい選曲だ。
 この時のライヴの模様はレーザーディスクにもなって出ており、そちらでは選曲が違って、"Blues March"などをやっている。

 冒頭はスタンダードの"Close Your Eyes"から始まる。透明な哀愁をかんじさせる曲で、アレンジも新鮮味があり、ショーターのソロも快調だが、やはりここではモーガンだ。この人のトランペットは観客を前にするといちだんと輝きが増す。スタジオ盤では時にくすぶったような演奏もあるが、ライヴではつねに天性のものが発揮されるタイプの人ではないか。
 つづくモーガン作の"Goldie"はミディアム・テンポのブルース・ナンバー。"Moanin'"の路線であり、当時のファンが最も期待していたタイプの曲だろう。ここでも先発はショーターで不思議なフレーズが連発していて、いい。
 "Ray's Idea"はテンポの早いバップ・チューン。ここでもモーガンが水際立ってる。
 ラストは"Lester Left Town"。ひょっとするとこの曲が初めてレコードになってリリースされたのは本作かもしれない。本作でのショーターのソロはこの曲がいちばんはじけていて、とんでもない世界に飛んでいってしまう。聴きどころだ。一年前の"Moanin'"を期待してライヴに来たファンは唖然としたのでは。

 ねらったのか偶然そうなったのかはわからないが、全曲ショーターが先発ソロをとる。まさにメッセンジャーズの新時代を宣言するライヴ盤だ。
 ショーターめあてに聴くなら、真っ先に"Lester Left Town"を。


03.3.26


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Art Blakey and The Jazz Messengers "Paris Jam Session" (Fontana)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『パリス・ジャム・セッション』


01、Dance of the Infidels
02、Bouncing with Bud

    Wayne Shorter (ts) Lee Morgan (tp)
    Bud Powell (p) Barney Wilen (as)
    Jymmie Merritt (b) Art Blakey (ds)   1959.11.18

03、The Midget
04、A Night in Tunizia

    Lee Morgan (tp) Wayne Shorter (ts)
    Walter Davis,Jr. (p) 
    Jymmie Merritt (b) Art Blakey (ds)   1959.11.18


 1959年のヨーロッパ・ツアーから生まれた数枚のライヴ盤のうち、ファンの間ではかなり名高い作品だ。理由はまず第一に上記の通り、前半2曲にバド・パウエルとバルネ・ウィランが参加していること。バルネ・ウィランはまあどちらでもいいが、バド・パウエルの参加は特筆ものだ。
 曲は "Dance of the Infidels" と "Bouncing with Bud" 。ご存知の通りブルーノートの『Amazing Bud Powell』でファッツ・ナバロとソニー・ロリンズの2管で演奏されていた曲。このスチュエーションに一番燃えたのはモーガンだ。
 もともとモーガンはアマチュア時代、マイルスはすぐにコピーできたが、ファッツ・ナバロのようにはなかなか吹けず、目標にしていた……と語っている。天才バド・パウエルと共に、そのナバロのパートを演じるとあって、一世一代の熱演、トランペットの音もいつも以上に力強い。
 対してショーターはというと、これも熱演はしているものの、もともとバップ・チューンとは資質が合っていない点はいかんともしがたい印象もある。また、この時期のバド・パウエルのアップテンポの演奏には往年の鋭さはなく、残念。むしろこの頃のパウエルならミディアムテンポかバラードをやったほうが良さも出ただろうし、ショーターとのからみももっとおもしろかったはずだ。
 しかしここは素直にモーガンの一世一代の名演を聴こう。

 後半はいつものメンバーでいつものナンバーにかわる。
 しかしバップ・チューン2曲の後で聴く "The Midget" は妙に新鮮だ。モーガンはあいかわらず好調、ショーターもこの曲調なら水を得た魚で、本作中一番のいいソロをとっている。
 ラストはいつもながらの "A Night in Tunizia" 。しかしこの日はモーガン、ショーターともに異様にテンションが高く、とくにモーガンは叩きつけるような迫力のある演奏。
 全編を通じてモーガンの名演が光る、モーガン・ファン必聴のアルバムだ。


03.12.18


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   Art Blakey and The Jazz Messengers
               "Live in Berlin 1959/1962"  (New Sound Planet)
   アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『イン・ベルリン 1959/1962』


01、Blues March
02、Moanin' 
03、A Night in Tunisia
04、Along Came Betty
05、Lester Left Town

    Lee Morgan (tp) Wayne Shorter (ts)
    Walter Davis,Jr. (p) Jymmie Merritt (b)
    Art Blakey (ds)            1959.11.29

06、'Round About Midnight
07、Mosaic

    Wayne Shorter (ts) Freddie Hubbard (tp)
    Curtis Fuller (tb) Cedar Walton (p)
    Jymie Merritt (b) Art Blakey (ds)    1962.2.4


 59年の5曲と、62年の2曲の、いずれもベルリンでのメッセンジャーズのライヴを収録したアルバム。いずれも録音状態は良いとはいえないが、贅沢をいわなければ鑑賞に支障はないという程度。
 メッセンジャーズの59年のライヴ録音は多数あり、まだショーターの影響力が強くなかった時期だし、本作は演奏曲目もこの頃のライヴ盤ではありきたりな曲ばかり。ということで62年の2曲のほうを期待していたのだが、この59年部分がスゴい。
 ここまで完全にキレてるモーガンを聴いたことがない。天才がキレるとここまでやるかというキレかただ。とくに凄いのが "A Night in Tunisia"! ほとんどこの曲が音楽であることを忘れてしまったように過激に吹きまくる。"Moanin'"ではソロが終わった後も吹き足りなかったような勢いで、ショーターの後ろで鳴らしてるし……。
 しかしショーターも負けてない。モーガンに煽られたように熱のこもった吹きまくり、モーガンとブロウ合戦を繰り広げる。
 その後の "Along Came Betty" は何事もなかったかのようにおとなしくなってしまうのだが、"Lester Left Town" で少し勢いが戻る。
 62年の2曲はこの時期のメッセンジャーズらしく、抑制の効いた演奏。当然ショーター色も強くなり、これもこれでいい。 "Mosaic" のライヴ・ヴァージョンは他で聴けないかも。

 しかしとにかく59年の"Moanin'"と "A Night in Tunisia"! 何があったのかと思わせるキレたモーガンに本作の価値がある。


03.12.18


『ウェイン・ショーターの部屋』

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