ウェイン・ショーター、アルバム紹介 2000年-現在



   『』この色で表記されたタイトルは、ショーター不参加の曲です。





   Carlos Santana, Herbie Hancock,Wayne Shorter "For Peace 2005"   (Sulph)


「Disc-1」
01、Day of Celebration
02、Victory is Won
03、Africa Bamba
04、Concerto>
05、Maria Maria
06、Foo Foo
07、Spiritual / Sun Ra>
08、Yaleo>
09、Bass Solo
10、Drums Solo

「Disc-2」
11、Wayne Shorter & Herbie Hancock Duo
12、Safiatu
13、I am Somebody
14、Apache>
15、Smooth
16、Novus
17、Jingo
18、Lionel Loueke Guitar Solo
19、A Love Supreme

    Carlos Santana (g) Herbie Hancock (key)
    Wayne Shorter (ts,ss) Chester Thompson (key)
    Benny Rietveld (b) Dennis Chambers (ds)
    Karl Parazzo (per) Bill Ortiz (tp) Jeff Cressman (tb)
    Lionel Loueke, Tommy Anthony (g,vo) Andy Vargas (vo)
          Live at Osaka Festival Hall 2005.8.1


 タイトルにある通り、平和への祈りをテーマに、ショーター、ハンコック、サンタナが結集して横浜、大阪、そして広島で行われたライヴの、これは大阪での演奏を収録した2枚組みブートCDRである。個人的には音楽で平和が実現できるという信仰には賛同できないのだが、どういう理由であれ素晴らしい音楽が聴けるのであれば文句をいう気はない。
 収録時間は計147分超の大ボリュームであり、音質もオフィシャル並みで、とりあえずお買い得感はある。問題は内容だ。
 さて、このグループ、サンタナの右腕というべきチェスター・トンプスンが参加しているとこを見てもわかるとおり、『Supernatural』(99) 以後大復活を遂げ商業的大成功を続けるサンタナの路線が中心になっている。つまり、ボーカリストを立てて曲・歌を聴かせつつ、フュージョン〜ロック的な完成度の高いバンド・サウンドのなかでソロ奏者の見せ場も作っていくというスタイルが中心となる。当然、ショーター、ハンコックの活躍も、またソロ奏者としてのサンタナの活躍も、そのような編曲性、バンドサウンドの枠内ということになり、例えばショーター、ハンコックがホランド、ブレイドとのスーパー・バンドで聴かせてくれたような緊密なジャズ的な演奏を期待することはできない。
 そういう意味でいうと、ここのところ絶好調のショーターの活動のなかでは、そう賛同することはできないような部分である。
 が、だからといってこれを否定するのも、それはそれで間違いだろう。『Supernatural』以後のサンタナの活動はそれはそれで優れたものだと思うし、そのサンタナのバンドにショーターやハンコックが加わった演奏というのも、できればオリジナル・アルバム中でも実現してもらいたかったものでもある。それをたっぷり聴けるのだから、まあ、それはそれでいい。
 特筆すべきは打楽器の音がすごく良く録音されていることだ。打楽器はサンタナ・バンドの命であり、これが良く録音されているかどうかで印象がガラリと変わる。その点でいって、本作は気持ちのいい打楽器の音に支えられた大所帯スーパー・バンドのダイナミックな演奏が余すところなく録音されているといっていいだろう。とにかく大勢での熱く盛り上がる演奏だ。
 その他の聴きどころとしては、ショーターとハンコックのデュオが一曲ある。ないものねだりをさせてもらえば、ショーター〜ハンコック〜サンタナの3人でジャズ的に演奏する部分もあってもよかったような気もする。


05.11.21


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Wayne Shorter "Antwerpen 2005"  (MegaDisc)


「Disc-1」
01、Beyound the Sound Barrier
02、As Far as the Eye Can See
03、
04、Smilin' Through

「Disc-2」
05、Unknown Title
06、Aung San Suu Kyi
07、Joy Ryder
08、Adventures Aboard the Golden Mean

   Wayne Shorter (ts.ss) Danilo Perez (p)
   John Patitucci (b) Brian Blade (ds)
   Live at Park Den Brandt, Antwerpen 2005.8.14


 2005年のウェイン・ショーター・カルテットの演奏を収録したブートCDR。2枚組で収録時間は計92分ほど。
 まず書いておかなければならないのは音質で、本作の音質はオフィシャル並みというには少し落ちる。まるで薄い膜の向こうで演奏しているようなかんじ。といってもほんの四、五年前なら最高級音質! と大喜びしていたほどのレベルで、最近はオフィシャル顔負けの高音質のブート盤が当たり前のように出るようになったので、それに比べると少し落ちるという程度だ。観賞には問題ない。
 さて、『Beyound the Sound Barrier』に収録された音源は2004年の4月までなので、このアルバムはそれより一年ちょっと後のライヴということになる。
 ウェイン・ショーター・カルテットは2000年に結成されたので、2005年は5年めにあたる。ジャズの世界では一つのバンドが一人もメンバー変更せずに5年も続けば、すでに長寿グループといってもいい存在だろう。あの伝説のコルトレーン・カルテットだってエルヴィン・ジョーンズの在籍期間で数えて5年、ジミー・ギャリソンが揃ってからの不動のメンバーでは3年ほどの活動期間しかない。
 では、5年たって、さすがのウェイン・ショーター・カルテットも多少はマンネリとか、逆に内部分裂の徴候がみえてきたのかとおもうと、そんな様子は微塵もかんじられない。集団即興の緊密度はますます高まり、さらに繊細で複雑な演奏へと深まっているかんじだ。
 どこか深い森をおもわせる演奏だ。枝や根が互いにからまりあいながら生成し、広がっていくような。一つの楽器があるメロディを鳴らすと、他の楽器がそれを打ち消すようなリズムを奏で、互いに反発する要素がからまりながら一つの演奏へと統合されていくかんじだ。
 それと、ぼんやり聴いていてかんじたのは、ショーター以外の三人の成長だ。このアルバム、ショーターがわりと長いあいだ吹いていない場面があるのだが、そんなときにも残りのピアノ・トリオだけでも充分に異様な世界を描きだしている。この三人の場合、ピアノ・トリオになっても、かならずしもピアノが主になってリズムが従属するかたちにならないのがおもしろいのだが。
 こういった他のメンバーからも新しい展開も出てきそうだ。いや、もう出てきてるのであって、ぼくが聴いてないだけか?


07.2.3


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Herbie Hancock "River  -the joni letters-"     (Verve)
   ハービー・ハンコック『ザ・リヴァー』



01、Court and Spark featuring Norah Jones
02、Edith and the Kingpin featuring Tina Turner
03、Both Side Now
04、River featuring Corinne Bailey Rae
05、Sweet Bird
06、Tea Leaf Prophecy featuring Joni Mitchell
07、Solitude
08、Amelia  featuring Luciana Souza
09、Nefertiti
10、The Jungle Line featuring Leonard Cohen
11、A Case of You (Bonus Track)
12、All I Want featuring Sonya Kitchell (Bonus Track)

   「12」以外
   Wayne Shorter (ts) Herbie Hancock (p)
   Dave Holland (b) Vinnie Colaiuta (ds) Lionel Loueke (g)

   「12」のみ
   Wayne Shorter (ss,ts) Herbie Hancock (p)
   Larry Klein (b) Vinnie Colaiuta (ds)
   Paulinho Da Costa (per) Dean Parks, Lionel Loueke (g)
                             2007リリース


 音楽産業の商業性に嫌気がさしたといって一時は引退を宣言していたジョニ・ミッチェルも見事に復活をはたしたが、これはハービー・ハンコックによるジョニ・ミッチェル曲集。
 演奏の中心となっているのはショーター〜ハンコック〜ホランド〜カリウタのアコースティック・カルテットだ。そこに上記のような女性ボーカリスト達が次々に登場して一曲づつ歌っていき、バンドだけの演奏もあるという内容。ジョニ・ミッチェル自身も6曲めで歌っている。(ギターのリオーネル・ルークはあまり目立たず、引き立て役か)
 ジョニの曲が並ぶなかで、なぜデューク・エリントンの "Solitude" やショーターの "Nefertiti" を演奏しているかは不明。(日本盤を買えば解説されてたんだろうか)
 テンポはどの曲もミディアム〜バラードに揃えてあり、単純にアコースティック・ジャズによるバラード集として、BGM的に聴くこともできる。
 さて、中心となるカルテットの演奏だが、ここではデイヴ・ホランドのベースの存在感が大きい。夜の湖を小さな舟でたゆたうようなというか、深く揺れるリズムを鳴らしている。対するハンコックは波間に揺れる月の光のような、神秘的で透明感のあるピアノの音を散らしていく。
 ショーターとハンコックがアコースティック・ジャズを演る場合、ショーター〜ハンコックの対話にリズムが付くという形になることが多いのだが、ここではむしろハンコック〜ホランドのコンビネーションが中心になっている気がする。ヴィニー・カリウタはザッパ・バンド出身の超絶技巧ドラマーという印象がいままで頭のどこかにあったのだが、このアルバムを聴いてその偏見が吹っ飛んだ。ブラシを多用して見事なまでにジャジーな演奏をしている。
 そしてショーターはというと、ほとんどの曲では歌伴の枠内での演奏になるのだが、さすがにソロ・スペースは大きくとられているので、ショーターのソロもハンコックのソロも充分に聴ける。基本的には軽みのある滋味ゆたかな演奏になるが、"Nefertiti" ではかなりテンションの高い対話的な演奏を見せていて、ショーター目当てならここが聴きどころ。
 ところで本作にはボーナス・トラック付きとそうでないアルバムがあるが、"A Case of You" でのハンコックのピアノが良いので、ボーナス・トラック入りを推薦しておこうか。でも、アルバムの終わり方としては、レナード・コーエンの詩の朗読で終わる終わりかた(ボーナス・トラック無し)のほうが素晴らしいと思うのだが。

 なお、このアルバムはグラミー賞の最優秀アルバム賞を受賞したそうで、ジャズアーティストが最優秀アルバム賞を受賞するのは四十数年ぶりなんだそうだ。ではその四十数年前に受賞したのは何かと思ったら、『ゲッツ〜ジルベルト』なんだそうで、なんだかグラミー賞の選考委員の基準がミエミエのような気がしたのはぼくだけだろうか。結局歌入りで穏やかなやつがいいのかと。
 でもまあ、そんな賞を受賞したのなら、その話題性をかって(サンタナの時のように)近年のハンコックのライヴ盤などをオフィシャルでリリースしてくれないものだろうか。
 まず第一にリリースすべきはやはり本作の主役、ハンコック〜ショーター〜ホランドの三人にブライアン・ブレイドを加えたカルテットでの2004年のライヴだろう! ぜひオフィシャルでリリースを!!


09.5.4


『ウェイン・ショーターの部屋』

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   Wayne Shorter "Cologne 2007"       (MegaVision)


01、Zero Gravity
02、She Moves Through the Fair
03、As Far as the Eye Can See
04、(Interview)
05、Over the Shadow Hill Way
06、Smilin' Through
07、Prometheus Unbound

   Wayne Shorter (ts.ss) Danilo Perez (p)
   John Patitucci (b) Brian Blade (ds)
       Live at Cologne, Germany   2007.4.30


 これはドイツでのライヴを収録したブートもののDVDRだが、映像・音質ともにオフィシャル並みの高クオリティー。モトは多分放送用の収録だろうが、カメラワークなどもきちんとしていて、暗いホールで演奏するカルテットの姿が美しい。収録時間は77分で、途中に4分ほどのインタビューが入るので演奏時間は正味73分ほど。インタビューはショーター以外の3人のメンバーへのものである。
 欠点をいえば演奏からインタビューに入るタイミングが唐突なことだ。これは一曲一曲がきれてる演奏ではなく、ずっとメドレーで演っているので、途中でインタビューを挟むのにはそうするしかなかったんだろう。欲をいえばインタビューなど挟まずに演奏を切れ目なく収録してほしかったところだが、まあそれは贅沢な要求かもしれない。これほどのオフィシャル同然の音質・画質でショーター・カルテットの演奏を73分間も聴けるというだけでも充分すぎるほど満足だ。
 さて、2007年のショーター・カルテットの演奏である。
 長年一緒に演奏してきたことによって、バンドの演奏の対話性はより緊密で自然なものになってきている。対話的に演奏しようと構えなくても、自然に演奏がそうなっているような感じに聴こえた。
 一言でいえば「幽玄」と表現したくなるような神秘的な色彩の濃い演奏だ。ショーターの吹く口笛に呼応するように闇のなかから音楽が風のように現れて、様々に変化しながら空中を浮游し、時には静寂に満ち、時には激しく躍動しては、やがて消えていく……というようなかんじ。カルテットもおそるべき境地に達したものだ。
 実はここまで見事な演奏をされてしまうと、何も書くことがなくて困っている。ただただ「聴いてください」と言うほかない。


09.3.30


『ウェイン・ショーターの部屋』

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