サンタナ
Santana








    目次

   ■序
   ■アルバム紹介



■序

 カルロス・サンタナは79年の『The Swing of Delight』でショーターと共演、その後、ウェザーリポートの最終作『This is This』(86) に参加したり、88年には二人で組んでツアーも行い、『Spirits Dancing in the Flesh』(90) などでも共演したりと、親しい関係が続いているようだ。

 サンタナというのはギターリストのカルロス・サンタナが率いるバンドのバンド名。この他にリーダーのサンタナの個人名義のアルバムもある。
 カルロス・サンタナは1947年メキシコ生まれ。バンドを組んでアメリカに進出し、フィルモアでの一連のライヴで名を上げ、69年にファースト・アルバムをリリースしている。なお、この時期(初期)のサンタナの中心メンバーはカルロス・サンタナと、キーボードのグレッグ・ローリーである。
 ファースト・アルバムではまだ未完成の部分も多かったが、70年のセカンド・アルバム『Abraxas(天の守護神)』では一体何があったんだろう……と思うほどに飛躍的な成長を見せ、サウンドは一気に完成する。このアルバムはシングル "Black Magic Woman" とともに大ヒットする。
 このサンタナのサウンドは当時ラテン・ロックと呼ばれたのだが、一聴すればわかるとおりこれはロックにラテン音楽の要素を加えたというようなものではない。むしろ、ラテン・ジャズにロックの要素を加えたものといったほうがいいだろう。サンタナという人はもともとジョン・コルトレーンを心から敬愛するジャズ指向の強い人である。このインプロヴィゼーション性と電気楽器、ロックのビートを融合させた音楽は、その方法論からいっても後のフュージョンの先駆のひとつだったといえる。
 また、メンバーの半数が打楽器奏者という当時はめずらしかったバンド編成も話題を呼んだ。考えてみればこのメンバー編成はショーターの『Odyssey of Iska』(70) と似ていて、登場したのも同時期。同じ時期に同じようなことを考えた人がいたということか。
 さて、サンタナにはさらにニール・ショーン (g) が加わり、71年には3rd アルバムをリリース。この時期のサンタナこそが最強のラインナップと見る人も多いようだが、ここまででバンドとしてのサンタナを一旦解散し、再出発した傑作『Caravanserai』(72) ではよりジャズ的色彩を強めたインストゥルメンタル中心の内容で、幻想的な世界を作り上げた。
 このあたりまでが誰もが認めるサンタナの第一の絶頂期だろう。

 続いてサンタナがどこに向かっていったかというと、宗教へ傾倒していくと同時に、ジャズ=フュージョン路線を強めていったといえる。この方向性の変化についていけなかったのか、『Caravanserai』(72) の後でグレッグ・ローリーとニール・ショーンが相次いでバンドを離れ、この二人は新バンド、ジャーニーを結成する。
 中心メンバーに去られたサンタナはジョン・マクラフリンとの共演した『Love Devotion Surrender(魂の兄弟達)』(73) や、アリス・コルトレーンとの共演した『Illuminations(啓示)』(74)、Return to Forever のスタンリー・クラーク、フローラ・プリムの共演した『Borboletta(不死蝶)』(74) と進み、こういう方向性に進むと当然ながらアルバムの売り上げは落ちていくわけだが、ポピュラー音楽は売れた売れなかったが作品の評価につながってしまう所があるので、この時期はサンタナの不調時だといわれている。しかしもともとサンタナはコルトレーンを敬愛していた人なんで、これは自分の好きな方向へと進んでいった結果と言ったほうがよく、『Welcome』(73) や『Borboletta』など、この時期の作品は質が落ちているわけではないと思うし、ライヴ盤の『Lotus』(73) を聴いてもローリー、ショーンの不在などまったく気にならない、壮絶きわまるバンド・サウンドを聴かせてくれる。

 続いて「哀愁のヨーロッパ」が大ヒットした76年の『Amigo』あたりから再びポップな路線に戻り、特に『Inner Secrets(太陽の秘宝)』(78) 以後、80年代いっぱいは、バンドとしてのサンタナはポップ路線をひた走ることになり、ヒット作が続く。売れた売れなかったが作品の評価につながってしまう点から『Amigo』がサンタナの復活作と見る向きもあるようだが、内容的にいえばそうは思えない。特に『Inner Secrets(太陽の秘宝)』から80年代にかけてのポップ路線は、商業主義との妥協の産物としか思えない面もある。
 実際このポップ路線、サンタナ個人としては、やりたい音楽でもなかったようだ。それとのバランスをとるためか、サンタナは並行して個人名義で、自分のやりたいことを優先させた、ジャズ=フュージョン色の強いアルバムをリリースしていく。その内の一枚がショーターとの共演作の『The Swing of Delight』だ。
 そんなバンド名義と個人名義の分裂状態が80年代いっぱい続いた後、92年に『ミラグロ』からは心機一転して、より初期のスタイルに近いタイプの演奏に戻り、ファンを喜ばせたのだが、その後しばらくの沈黙。しかし99年の復活作『Supernatural』ではグラミー賞を史上最多受賞。アルバム、シングル「Smooth」も大ヒットし、以後も絶好調で活動を続けている。


■■

 余談だけど、カルロス・サンタナが1947年生まれと知って、サンタナって意外と若いんだな、と思った。
 同じギターリストで比べてみると、フランク・ザッパが1940年生まれ、ジミ・ヘンドリックスとジョン・マクラフリンが1942年生まれ、ジェフ・ベックが1944年生まれ、エリック・クラプトンが1945年生まれ、アラン・ホールズワースが1948年生まれとなる。
 こう見ていくと、やはりエリック・クラプトンとサンタナの早熟ぶりを感じる。ジミヘンもジェフ・ベックもマクラフリンもクラプトンの後から出てきたかんじだし、なんとなくザッパとサンタナって同年輩のように感じていたのだが(別にヒゲが似ているから……というわけでもなく)7歳も違うのか、などと思った。1歳しか年が違わないホールズワースは70年代の半ばになってようやく名をあげてくるのである。(というか、それがむしろ普通だ)
 1947年生まれということは、『Abraxas』が23歳、『Caravanserai』が25歳の作品ということになる。25歳で最高傑作を作ってしまう人生というのも、なんだかうらやましいのか、かわいそうなのか、わからなくなる。


04.12.27





     ■アルバム紹介


                                       
Santana "Santana"  1969 (Columbia)
Santana "Abraxas"(天の守護神)  1970 (Columbia)
Santana "Santana"(サンタナ III) 1971 (Columbia)
Santana "Caravanserai"  1972 (Columbia)
Carlos Santana &
Buddy Miles 
"Live!" 1972 (Columbia)
Carlos Santana &
John McLaughlin 
"Love Devotion Surrender"(魂の兄弟達) 1972 (Columbia)
Santana "Welcome" 1973 (Columbia)
Santana "Lotus"  1974 (Columbia)
Santana "Illuminations"(啓示) 1974 (Columbia)
Santana "Borboletta"(不死鳥)  1974 (Columbia)
Flora Purim "Stories to Tell" 1974 (Milestone)モ★
Santana "Amigos" 1976 (Columbia)
Santana "Festival" 1976 (Columbia)
Santana "Moonflower"  1977 (Columbia)
Santana "Inner Secrets"(太陽の秘宝) 1978 (Columbia)
Carlos Santana "Oneness" 1979 (Columbia)
Santana "Marathon" 1979 (Columbia)
Carlos Santana "The Swing of Delight" 1980 (Columbia)モ★
Santana "Zebop!" 1981 (Columbia)
Santana "Shango" 1982 (Columbia)
Carlos Santana "Havana Moon" 1983 (Columbia)
Santana "Beyond Appearances" 1985 (Columbia)
Weather Report "This is This" 1985-6 (Columbia)モ★
Santana "Freedom" 1987 (Columbia)
Carlos Santana "Blues for Salvador" 1987 (Columbia)
Santana & Wayne Shorter "Elegant People" 1988.6.15 モ★
Santana "Spirits Dancing in the Flesh" 1990 (SME)モ★
Santana "Milagro"  1992 (Polygram)
Santana "Sacred Fire: Live in South America" 1993 (Polygram)
Santana Brothers "Santana Brothers" 1994 (Island)
Santana "Supernatural"  1999 (Classic)
Santana "Shaman" 2002 (Classic)















  ■Santana『Santana』     (Columbia)

    Carlos Santana (g,vo) Greg Rolie (p,org,vo) David Brown (b)
    Mike Carabello (conga,per) Jose Chepito Areas (per) Michael Shrieve (ds)      1969

 サンタナのデビュー・アルバムだ。もっとも現在ではこれ以前の音源もリリースされている。
 さて、サンタナが自己の音楽スタイルを確立したのは翌年のセカンドアルバム『Abraxas』と見るのが一般的で、本作は習作といった評価を得ている。しかし、本作のCDはこのLPヴァージョンをそのままCD化したものの他に、ウッドストックでのライヴ音源を3曲(計24分ほど)ボーナス・トラックとして追加したものがあり、このボーナス・トラック追加版がお勧めだ。
 さて、そのライヴ音源部分から見ていってみよう。
 ウッドストックへの参加はサンタナを一躍有名にし、いいタイミングで本作がリリースされてサンタナは順調にスタートを切ったわけだが、そのウッドストックの映画等で演奏されている "Soul Sacrifice" はカットされた短縮版だったらしく、本作には11分半のフル・ヴァージョンで入っている。他2曲も含めてサンタナがライヴ・バンドであることを証明する見事な演奏だ。正直いうと現在ではこのCD、このボーナス・トラック部分のほうがメインのような気がする。
 このライヴ部分や、次作『Abraxas』と比べると、本作のもともとの部分(スタジオ録音部分)はあきらかに見劣りがする。サンタナのギターよりグレッグ・ローリーのキーボードが目立っているのは、それはそれで良いとしても、妙に行儀がよくて、グルーヴ感・迫力に欠ける。『Abraxas』で感じられるジャングルの暗闇から飛びかかってくるような神秘的な野生味がない。
 同時期のウッドストックでのライヴ演奏と聴き比べてみれば、個人的にはサンタナの音楽スタイルが完成されてなかったというよりも、ライヴを得意とするバンドが陥りがちな失敗、ライヴでの迫力をスタジオで再現できなかったという理由が大きいように思う。
 とはいえ、グレッグ・ローリーのキーボードが他のアルバムに増してたっぷりと聴けるなど、こういったものと思って聴けば、これはこれとして興味深い内容ではある。


04.5.8



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  ■Santana『Abraxas(天の守護神)』      (Columbia)

    Carlos Santana (g,vo) Greg Rolie (key,vo) David Brown (b)
    Jose Chepito Areas (per) Mike Carabello (conga) 
    Michael Shrieve (ds,per,vib)    1970

 このセカンド・アルバムはサンタナが初めて自己の音楽世界を完成させた作品であり、現在でもサンタナを代表するアルバムと評される作品だ。一聴しただけで前作より飛躍的に良くなっているのがわかる。演奏の迫力が格段に増し、曲の構成やアルバム全体の構成も含めてずっと複雑で見事に完成されている。いったい何があったのかと思うくらい、すべてにおいてジャンプ・アップしている。
 情熱的に渦巻くようなリズムの波のなかを、ギターやオルガンがぐいぐいと自由自在にインプロヴィゼーションし、展開していく様はまさに圧巻であり、ロックのような単純な構成の音楽をすでに超えている。これがラテン・ロックと呼ばれたのは、おそらくラテン・ジャズにロックのビートを導入したという意味であろう。その意味でまさしくフュージョンそのものでもある。
 また、何といったらいいのかわからないが、本作から『Caravanserai』や『Lotus』あたりまでのサンタナの音楽には独特の匂いのようなものがあったように思う。異国の薫りといったらいいのだろうか、強烈な土と風の匂いだ。
 後のサンタナの、より整理整頓されたサウンドでのアルバムが、演奏自体はわるくないのに、妙に物足りなく感じてしまうのは、この頃の匂いが感じられないからだ。
 このアルバムは "Black Magic Woman" のヒットとともに売れたわけだが、 "Black Magic Woman" はカヴァー曲であり、単に思いつきで演奏してみただけのもので、まさかこれが自分の代表曲になるとは思わなかったらしい。なんとなくわかる話だ。
 "Black Magic Woman" はあきらかに異質なポップな曲であり、熱気が渦巻く迫力の演奏のなかにこれが置かれることによって、ほっと一息……みたいな感じで印象に残るのである。あくまで圧倒的な演奏と、ポップな曲の対比で売れたんだと思う。
 なお、タイトルの『Abraxas』(アブラクサス)というのは古代ギリシャの神の名らしい。


04.12.27



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  ■Santana『Santana(サンタナ III)』      (Columbia)

    Carlos Santana (g,vo) Greg Rolie (p,org,vo) Neal Schon (g)
    David Brown (b) Jose Chepito Areas (per,ds,vo,flh) 
    Mike Carabello (per,vo) Michael Shrieve (ds,per,vib)    1971

 オリジナル・タイトルはデビュー作と同じ『Santana』であり、普通区別をつけるために『Santana III』と表記されている。内容的には前作の続編という感じ。
 このアルバムからニール・ショーンがメンバーに加わり、おそらくこの時のバンドがサンタナ最強のメンバーが揃っていた時期だと多くのファンが思っていることだろう。
 ニール・ショーンはまだ十代ながらサンタナを嫉妬させるほどの高度なギター・テクニックを持っていた。多くのリスナー(特にロック系のギター・ファン)はすぐにテクニックといいだすのだけれど、実のところテクニックなんてものはそれほど重要なものでもない。サンタナの音楽と、サンタナを離れた後にニール・ショーンが作ったジャーニーを聴き比べれば、テクニックうんぬんでギターリストを評価するのが実に意味のないことだということがわかるのではないか。音楽・サウンドを作りあげる創造力と、フレーズを生み出す力が重要なのであって、テクニックなんてそれを表現するのに必要充分なだけあればよいのだ。
 とはいえ、この時期のサンタナのサウンドはそのニール・ショーンが加わったことあって充実しきっていた。そして実はバンドとしてのサンタナのアルバムはこれで終わりである。これはそのサンタナ空前絶後のサウンドを聴くアルバムだろう。
 ただ、正直いうと、個人的には本作は『Abraxas(天の守護神)』ほど繰り返し聴いてはいない。欠点や不満な点があるわけではないのだが、みょうに聴きたくなるのは前作のほうなのだ。なぜなんだろう。
 

04.12.27



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  ■Santana『Caravanserai』      (Columbia)

    Carlos Santana (g,vo,per) Michael Shrieve (ds,per)   Neal Schon (g)
    Greg Rolie, Webdy Haas (key) Tom Rutley (ac-b) Douglas Rauch (g,b)
    James Mingo Lewis (p,per) Jose Chepito Areas, Armando Peraza (per) /他    1972

 これまでに比べれば必ずしも売れたアルバムではなかったようだが、多くの人がサンタナの最高傑作と評するアルバム。個人的にも同意見であり、同時に、なるほどこういう音楽を作る人はショーターとも気があうだろうなと思わせるアルバムでもある。
 キャラバンサライとは隊商宿という意味で、ジャケットの絵と重ねて理解すれば、砂漠をラクダで隊を組んで渡っていく隊商が泊まる宿という意味だろう。このような隊商宿は大きな中庭があるのが特徴らしく、アルバム冒頭の虫の声はこの中庭で歌う虫たち……というイメージなのかもしれない。
 アルバムの内容は収録各曲につけられた邦題を並べるとイメージがわくかもしれない「復活した永遠なるキャラバン」「宇宙への仰視」「栄光の夜明け」「リズムの架け橋」「ストーン・フラワー」「果てしなき道 」等々。幻想的にトリップさせてくれる音楽だ。
 あとはもう余計なことは言うまい。ひらすらこの幻想空間にトリップするのがいい。

 ところで、サンタナというのはカルロス・サンタナが率いるバンドの名前なのだが、前作までの3枚はそのサンタナというバンドの作品という色彩が強かったのに対し、本作ではメンバーが曲ごとに流動的になり、バンドの作品というより、カルロス・サンタナ個人の作品という色彩が強まっている。よりジャズ的になった内容を見ても、この後73〜74年に見せる作品傾向はこの時点ですでに始まっていたのだと思う。


04.12.27



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  ■Santana『Welcome』         (Columbia)

     Carlos Santana (g,per) Tom Coster, Richard Kermode (key)
     Douglas Rauch (b) Michael Shrieve (ds)
     Armando Peraza, Jose Chepito Areas (per) Leon Thomas (vo) /他   1973

 バンドのメンバーを大幅に変えた新サンタナによる第一作というべきアルバムだ。
 一般的にはサンタナの絶頂期は『Caravanserai』(72) までで、続く73〜74年には低迷期だと評価されている。この時代サンタナはジャズや精神世界へ傾倒し、ヒット曲がでなくなり、アルバムの売り上げも落ちていったためだ。しかし個人的にはこの時期のサンタナのアルバムは内容的には充分に優れたものが多く、むしろポップに転向した復活作といわれる『Amigo』(76) 以後のほうが内容的に低迷していった気がする。
 この時期のサンタナはよりなめらかで軽快なサウンドが特徴で、チック・コリアの『Return to Forever』(72) から始まる新しい時代の風を受けているように思う。本作ではフローラ・プリンがゲスト参加しているし、次作ではさらにアイアート・モレイア、スタンリー・クラークもゲスト参加する。
 そのため72年までのサンタナのラテンの強烈なリズム、野獣がひしめく密林のようなサウンドから、草原か大海原を駆け抜ける風のようなサウンドへと変化している。この変化がサンタナらしくないと不評の原因となっているのかもしれないが、ミュージシャンが新しいサウンドを意識的に目指した結果を、昔と感じが違うからと否定するのは間違いだろう。これはこれとして受け取れさえすれば、優れた音楽だとわかるはずだ。
 じっさい、ジャズ/フュージョンのリスナーからは、この時期のサンタナは好評だと聞く。個人的にもこの時期のサンタナは大好きだ。


04.12.27



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  ■Santana『Lotus』         (Columbia)

     Carlos Santana (g,per) Tom Coster, Richard Kermode (key)
     Douglas Rauch (b) Michael Shrieve (ds)
     Armando Peraza, Jose Chepito Areas (per) Leon Thomas (vo)   1973

 日本公演のライヴ盤で、当初は日本のみでLP3枚組としてリリースされた。現在ではCD2枚組になっている。
 サンタナは基本的にライヴ・バンドであり、スタジオ盤が出来不出来の差はあってもライヴではつねに圧倒的なパワーを発揮してきたグループである。サンタナの魅力を知るにはライヴ盤を聴くのが近道であり必須でもあるように思う。
 しかし(あいついでいる過去のライヴ音源の発掘で、現在どのようになっているのかわからないが)サンタナの絶頂期である70年代前半のライヴ録音をまとまった量聴けるのはこれくらいなわけで、よくぞ録ってくれましたリリースしてくれましたの日本録音だ。
 さて、この時期のサンタナのバンドはグレッグ・ローリー、ニール・ショーンという主力メンバーが抜けて絶頂期より少し落ちた時期という評価なんだろうし、スタジオ盤においてはよりなめらかで軽快なサウンドを目指していた時期なのだが、このライヴを聴いてみるとローリーらが抜けた穴なんてまったく感じさせない熱気とリズムの渦である。初期のジャーニーと聴き比べてみると、カルロス・サンタナを中心としたこのグループの底力を感じる。


04.12.27



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  ■Santana『Borboletta(不死蝶)』         (Columbia)

    Carlos Santana (g,per,vo) Tom Coster (key) Leon Patillo (key,vo)
    Flora Purim (vo) Airto Morira (per,ds,vo) Stanley Clark (b)
    David Brown (b) Armando Peraza, Jose Chepito Areas (per)
    Michael Shrieve, Leon Chancler (ds) /他        1974

 前作『Welcome』(73) の路線をさらに進めたアルバムだ。スタンリー・クラーク、フローラ・プリム、アイアートというチック・コリアの『Return to Forever』(72) のメンバーが参加したアルバムで、いわゆるフュージョンの時代の風を受けて、前作と比べてもよりなめらかで軽快なリズムでユートピア的な美しいサウンドになっている。以前のような強烈なリズムや色彩に対して、より中間色のおだやかなサウンドであり、これはこれで魅力的だと個人的には思う。
 しかし商業的にはかなりの失敗作で、これまでのサンタナのアルバムのなかでもダントツで売れなかったのだという。個人的には難解な作品だともまったく思わないのだけれど、なぜなんだろうか。よくわからない。
 結果的にサンタナはこの後、『Amigos』(76) など商業路線に走り、「哀愁のヨーロッパ」など歌のないポップソングのような曲を作る方向に進んでしまうのだが、個人的には残念だ。この路線でもう少し続けてほしかったと思う。


04.12.27



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  ■Santana『Moonflower』         (Columbia)

    Devadip Carlos Santana (g,per) Tom Coster (key) 
    David Margen, Pablo Tellez (b) Graham Lear (ds,per)
    Paul Rekow, Jose Chepito Areas, Pete Escovedo (per)
    Greg Walker (vo)       1977

 ライヴ録音部分とスタジオ録音部分を合わせた2枚組のアルバム。『Lotus』が当初日本のみのリリースだったことを考えれば、正規盤としては初めてのライヴ・アルバムといっていいのかもしれない。
 ライヴ部分が約55分、スタジオ部分が約32分というバランスは、かなりウェザーリポートの『8:30』に近い。もっとも本作はライヴ面とスタジオ面とに分けられているわけではない。
 さて、サンタナは『Amigos』(76) あたりから新展開が始まり、再びポップな路線に戻ってきて、「哀愁のヨーロッパ」を始めとするヒット曲も次々に出るようになる。続く『Festival』(76) そして本作もその路線のアルバムだ。
 個人的にはこの時期のサンタナはそれほど好きではないのだが、そのうちで一枚選ぶなら、まず本作を推す。
 本作のスタジオ部分からもヒット曲が出たし、ライヴ部分では「哀愁のヨーロッパ」など当時のヒット曲をまとめて聴けるので、まずお徳用と言えるというのが一つ。
 しかし一番大きな理由は、やはりライヴ演奏そのものにある。サンタナはやはりライヴ・バンドであり、スタジオ盤の出来不出来にかかわらず、ライヴではつねに圧倒的なパワーを発揮するバンドである。スタジオ録音部分にたいするライヴ部分の圧倒的な迫力こそ本作の一番の聴きどころだろう。特に圧巻というべきは、この当時のヒット曲なんかより初期のナンバーのライヴ・バージョン。14分にもおよぶ "Soul Sacrifice" や、13分におよぶ "Savor〜Toussaint L'overture" のメドレーだ。

 さて、翌78年の『Inner Secrets(太陽の秘宝)』あたりから90年あたりまで、バンドとしてのサンタナはさらにポップな路線に進むことになり、サンタナ自身がやりたい音楽はソロ名義で出していく……という分裂状態が始まる。


04.12.27



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  ■Santana『Milagro』         (Polygram)

    Carlos Santana (g,per,vo) Chester Thompson (key,arr)
    Benny Rietveld (b) Walfredo Reyes (ds,per)
    Paul Rekow (per,vo) /他           1992

 91年に相次いで亡くなったマイルス・デイヴィスとビル・グラハムへの追悼盤であり、サンタナのサウンドに初期(全盛期)のラテン・ロックの熱さが戻ってファンを喜ばせたアルバムである。前記2人の他にも、コルトレーンやギル・エヴァンスなど、サンタナに影響を与えた今は亡き人々の影が見え、サンタナが自己のルーツを見つめ直したアルバムだといていいだろう。
 まずは熱さを取り戻したサンタナの熱狂的なサウンド・演奏を心ゆくまで楽しみたい。しかし、だからといって手ばなしで絶賛していいのかというと、疑問もないではない。
 全盛期のラテン・ロックの雰囲気が戻ってきたということは、逆にいえば自己模倣であり、昔のやりかたに戻っただけ……という事でもある。自己のルーツを見つめ直したといえば聞こえはいいが、やはりルーツを見つめてるだけではいけない。ルーツを見つめ直した後の、新しい一歩というのが、本当はいちばん聴きたいところである。
 この後、サンタナはこの勢いに乗って走るのかと思いきや、しばらくの沈黙期に入るのだが、それはサンタナ自身もそのことに気づいていて、その「新しい一歩」を踏みだしあぐねていたのではないだろうか。


04.12.27



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  ■Santana『Supernatural』         (Classic)

    Carlos Santana (g,per) Chester Thompson (key)
    Paul Rekow (per) Benny Rietveld (b) /他    1999

 ソロ・リーダー名義のスタジオ盤でいえば実に7年ぶりになる。グラミー賞をばかばか獲り(史上最多)、デキすぎかと思われるほどバカ売れもしたアルバム。まずはサンタナの復活をよろこびたい。が、あまのじゃくで言うのではないが、むかしからサンタナを聴いてきた者からすれば、必ずしも無条件で絶賛もできない内容のアルバムだろう。
 多数のゲストを招き、そのゲストを立ててサンタナが共演するというスタイルのアルバムであり、個々の曲でも優れたものが多いと思うし、サンタナの演奏も決まっているが、当然、いわば統一感のあるよくできたコンピレーション・アルバムみたいな側面もある。つまり、サンタナ自身が自分の音楽を追求し、切り開いていった新展開といったものではない。『Milagro』(92) の後、少しそれが期待できたことを考えれば、この内容にはそれなりの不満はあるのではないか。
 しかし、だからといって本作を否定をするのも、それはそれで間違いだろう。こういったアルバム作りのあり方もあっていいものだと思うし、その範囲内では優れたアルバムだとは思う。
 サンタナも自分の音楽を探究するより、いままでの経験をもとに、みんなが楽しめる質の高い作品をつくりだすことを第一に考えてきたということだろうか。Verve に移ってからのジョー・ヘンダーソンを少し連想させる。
(それにしても "El Farol" ってメロディが "Fly Me to the Moon" だね。"Love of My Life" はギターリフがブラームスのシンフォニーだし)


04.12.27


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『ウェイン・ショーターの部屋』


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