ボビー・ハチャーソン
Bobby Hutcherson









  目次

  ■ボビー・ハチャーソンとジョー・チェンバース
  ■アルバム紹介






■ボビー・ハチャーソンとジョー・チェンバース


 別項にも書いたが、新主流派といっても、数枚のアルバムを作っただけですぐにこのスタイルから離れていったミュージシャンも多い中、長い期間にわたってコンスタントに優れた作品を発表し続けたミュージシャンの代表はまず、ショーター、ボビー・ハチャーソン、ジョー・ヘンダーソン、アンドリュー・ヒルの四人だろう。
 ハチャーソンは60年代の半ばから終わりにかけてブルーノートにコンスタントに質の高い作品を残したが、この時代のハチャーソンのグループは実質的にはハチャーソンとジョー・チェンバースとの双頭グループというべきではないだろうか。この時代のハチャーソンのアルバムほとんどでチェンバースがドラムを叩いているし、曲も多く書き、なかには過半数の曲をチェンバースが書いているアルバムもある。
 ショーターとハチャーソンとの共演は録音されているかぎりではリー・モーガンの『The Procrastinator』(67) など数少ないが、ジョー・チェンバースは『Etcetera』(65) 以後、『The All Seeing Eye』(65) 『Adam's Apple』(66) 『Schizophrenia』(67) と、一連のソロ作をすべてに起用している。おそらく当時のジャズ・シーンで最も気に入っていたドラマーだったのではないか。
 ジョー・チェンバースは新主流派を代表するドラマーだといえるが、60年代にはソロ・リーダー名義でアルバムを作ることがなかった。そんなこの時代の彼の音楽を聴くにも、半リーダー・グループというべき、この一連のハチャーソンのアルバムを聴くのが最適だろう。



■■


 さて、ボビー・ハチャーソンは1941年生まれで、チック・コリアと同い年で(誕生日は15日の差しかない)一つ年上がハービー・ハンコック……という世代である。もともと西海岸の人で60年代の初頭にニューヨークに出てきたようだ。
 目立った活躍を始めたのは63年頃で、エリック・ドルフィーのアルバム数枚にサイドマンとして参加している他、ジャッキー・マクリーン〜グレシャン・モンカー三世の双頭バンドのメンバーとして初めてブルーノートにも録音している。このグループはマクリーンがもっともフリージャズに近づいた頃のバンドだが、ハチャーソンの他、わずか17歳のドラマー、トニー・ウィリアムスをジャズ・シーンに紹介したグループだったことはご存知の通り。
 この年の暮れにはグラント・グリーンの『Idle Moments』のセッションに参加、この時のメンバーとほぼ同じメンバーで初リーダー作を録音している。(ただしオクラ入り)
 その後、アンドリュー・ヒルのアルバムでサイドマンとして好演し、そのアンドリュー・ヒルの裏リーダー作ともいえる『Dialogue』(65) がリリース順からいえば最初のリーダー作といえる。
 その後はコンスタントに質の高いアルバムを作っていくが、60年代後半には再び西海岸に拠点を移して活動している。個人的にはハチャーソンがもっとも新主流派的だったのは東海岸にいた時代だったような気がする。



■■


 さて、ハチャーソンはどのようなタイプのミュージシャンなんだろうか。
 目立った特徴はというと、個人的には、バランス感覚とセンスに優れているという点ではないかと思っている。
 つまり、過度に行きすぎたり、方向性を大きく間違ったりせずに、どんな状況でも絶妙のバランス感覚を保ってレベルの高い音楽を作り上げる力がある。そのため、ハチャーソンの作品は平均点が高いのが特徴だ。
 また、参加ミュージシャンの起用のしかたでもそのバランス感覚とセンスが発揮されている。
 たいてい、ジャズをある程度聴いていると、店で聴いたことのないアルバムを見かけたとき、ジャケ裏に書かれた参加ミュージシャンの一覧を見て「この人とこの人とこの人……で演奏してるなら、だいたいこんな感じだろう」と予想してアルバムを買うようになるものだ。
 しかし、ハチャーソンのアルバムでは参加ミュージシャンの一覧を見ると、この組み合わせではたいした演奏にはならないのではないか……と思うのに、聴いてみるとすごくいい、ということがよくある。そういった点もハチャーソンのバランス感覚とセンスのなせる技だとおもう。
 そういった点でいって、多分ハチャーソンはチック・コリアと対照的なミュージシャンのような気がする。チックは過度に行きすぎたり、舵取りを大きく間違ったりすることが多い。手を出したと思ったら、すぐにやめてみたり、見事に決まった作品の後で、いきなり変な方向転換をはかってしまったり……。そのため、その一貫性の無さ、節操の無さが批判の対象になるわけだ。
 その点、ハチャーソンは一貫性とバランス感覚に優れているわけだが、逆にいうとチックのように突出した作品、大胆な舵取りが時代や状況に見事なまでにハマったエポック・メイキングなアルバムというものはない。
 そういった点が、心ある音楽ファンなら誰でもその実力とアルバムの平均点の高さを評価するにもかかわらず、いまいち一般のリスナーには知名度が広がっていかない理由のような気もする。


 さて、そのようなわけで、ハチャーソンはコンスタントに優れた作品を発表し続けたこと、アルバムの平均点の高さには定評のあるはずなのだが、たいていの本・雑誌メディアで紹介される場合、『Happenings』(66) が代表作とあげられるだけで済まされてしまっている場合が圧倒的に多いように見える。しかし『Happenings』はこの頃のハチャーソンのアルバムとしては平均点の出来で、とくに優れたアルバムではないと思う。
 ここではもう少し詳しく個々のアルバムを紹介してみたいのだが、長期間充実した活動を続けてきた人だけに、ちゃんと紹介しようとすれば扱うべきアルバムの数は膨大になる。ここでは60年代を中心にかるくアウトラインだけ紹介してみたいと思う。


04.12.18






   ■アルバム紹介 (今後とも紹介アルバムを追加していくつもりです)


                                                                   
Jackie McLean "One Step Beyond" 1963.4 (Blue Note)
Jackie McLean "Destination Out" 1963.9 (Blue Note)
Grant Green "Idle Moments"  1963.11 (Blue Note)
JGrachan Moncur 。 "Evolution" 1963.11 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "The Kicker" 1963.12 (Blue Note)
Andrew Hill "Judgement" 1964.1 (Blue Note)
Eric Dolphy "Out to Lunch"  1964.2 (Blue Note)
Andrew Hill "Andrew !" 1964.6 (Blue Note)
Tony Williams "Life Time" 1964 (Blue Note)
Grant Green "Street Of Dreams"  1964.11 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Dialogue"  1965.4 (Blue Note)
Dexter Gordon "Gettin' Around"  1965.5 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Components"  1965.6 (Blue Note)
Joe Henderson "Mode for Joe" 1966.1 (Blue Note) 
Bobby Hutcherson "Happenings"  1966.2 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Stick Up" 1966.7 (Blue Note)
Lee Morgan "The Procrastinator" 1967.7 (Blue Note)モ★
Bobby Hutcherson "Oblique"  1967.7 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Patterns"  1968.3 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Total Eclipse" 1968.7 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Spiral"  1968.11 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Now" 1969 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Medina"  1969.8 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Blow Up" 1969 (Jazz Music)
Bobby Hutcherson "San Francisco" 1970 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Head On" 1971 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Natural Illusions"  1972 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Live at Montreux" 1973 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Cirrus" 1974 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Linger Lane" 1974 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Inner Glow" 1975 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Montara"  1975 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Waiting" 1976 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "The View from the Inside" 1976 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Dance of the Sun" 1977 (Timeless)
Bobby Hutcherson "Knuckle Bean" 1977 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Highway One"  1978 (Columbia)
Bobby Hutcherson "Conception: The Gift of Love" 1979 (Columbia)
Bobby Hutcherson "Un Poco Loco"  1979 (Koch Jazz)
George Cables "Cables' Vision"  1979 (Contemporary)
Bobby Hutcherson "Solo/Quartet" 1981 (Contemporary)
Bobby Hutcherson "Farewell Keystone" 1982 (Evidence)
"Jazz At The Opera House" 1982 (Sony) モ★
Bobby Hutcherson "Four Seasons" 1983 (Timeless)
Bobby Hutcherson "Good Bait" 1984 (Landmark)
Bobby Hutcherson "Vibe Wise" 1984 (32 Jazz)
Bobby Hutcherson "Color Schemes" 1985 (Landmark)
Bobby Hutcherson "It Ain't Easy" 1985 (Landmark)
Dexter Gordon "Round Midnight" 1985 (SME)モ★
Dexter Gordon "Other Side of 'Round Midnight" 1985 (Blue Note)モ★
Tony Williams "Foreign Intrigue" 1985 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Essence: The Timeless All-Stars" 1986 (Delos)
Bobby Hutcherson "In the Vanguard"  1986 (32 Jazz)
Bobby Hutcherson "Cruisin' the Bird" 1988 (Landmark)
Bobby Hutcherson "Ambos Mundos" 1989 (Landmark)
Andrew Hill "Eternal Spirit" 1989 (Blue Note)
Bobby Hutcherson "Mirage" 1991 (Landmark)
Bobby Hutcherson "Landmarks" 1992 (Landmark)
Bobby Hutcherson "Acoustic Masters II"  1993 (Atlantic)
Bobby Hutcherson "Skyline"  1999 (Verve)


















  ■Grant Green『Idle Moments』     (Blue Note)

    Grant Green (g) Joe Henderson (ts)
    Bobby Hutcherson (vib) Duke Pearson (p)
    Bob Cranshaw (b) Al Harewood (ds)    1963.11.4/ 15

 グラント・グリーンは基本的にはソウル・ジャズの流れの中で活躍したギターリストだが、63年から64年にかけての一時期、新主流派にも片脚をかけモードジャズにも挑戦した。リー・モーガンが主流派に挑戦した『Search For The New Land』(64) ではショーターとも共演している。これはその一連の作品中最初のアルバムで、グリーンの新主流派宣言とでもいうべきアルバム。
 なんといっても15分におよぶ表題曲が最高で、気怠く物憂い沈みこむような曲想である。ため息のようなサックスを吹くジョー・ヘンダーソンや、つぶやくように音を綴るグラント・グリーンもいいが、ハチャーソンのヴァイヴの響きが演奏全体にアクセントを与え、曲に深みを出しているのがよくわかる。
 ハチャーソンもこのセッションに大いに気にいったようで、1ヶ月後にほぼ同一メンバーで最初のリーダー作『The Kicker』(63) を録音するが、それはオクラ入りにされる。


04.12.17



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  ■Eric Dolphy『Out to Lunch』     (Blue Note)

    Freddie Hubbard (tp) Eric Dolphy (as,fl,bcl) Bobby Hutcherson (vib)
    Richard Davis (b) Tony Williams (ds)  1964.2.25

 おそらくハチャーソンの最初の録音は同じ西海岸出身のエリック・ドルフィーのアルバムへの参加だと思う。63年には『Conversations』『Iron Man』等、多くのドルフィーのセッションに参加しているが、このドルフィーの最初のブルーノート録音にもサイドマンとして参加している。
 これまでブルーノートとは縁は薄かったドルフィーを迎えるにあたって、ブルーノート側はドルフィーともブルーノートとも縁の深いハバードとハチャーソンをサイドマンに配し、そしてトニー・ウィリアムスを加えたことがブルーノート側の挑戦だったような気がする。
 結果は、マイルス・バンドにいる時よりもずっと自由に多彩に叩きまくるトニーのうれしそうなドラミングを聴いただけでも成功とわかる。けれども、ドルフィーの側からいうと、いつものような飛翔感がなく、むしろバンド・サウンドを重視しているようにも聴こえる。いい意味で気楽にヌケた感じがなく、いつもより真剣に肩に力が入っているような感じだ。いいメンバーが揃ったことにより、自分のソロよりもバンド全体のサウンドに気が行っていたのだろうか。
 そのバンド・サウンドのなかで、ハチャーソンは演奏全体の流れを決めるような、かなり重要な役割をしているように思える。
 トニーはこのセッションが大いに気にいったようで、ジョージ・コールマンがやめた後のマイルス・バンドのサックス奏者にドルフィーを推薦して、マイルスに却下されている。


04.12.17



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  ■Grant Green『Street Of Dreams』    (Blue Note)

    Grant Green (g) Bobby Hutcherson (vib)
    Larry Young (org) Elvin Jones (ds)    1964.11.16

 グラント・グリーンのアルバムへの二度目の参加作だ。
 今度はオルガンのコルトレーンといわれたラリー・ヤングと、そのコルトレーン・カルテットのエルヴィン・ジョーンズをリズム・セクションとしたカルテットである。エルヴィンにしてみれば、『至上の愛』の録音を約1ヶ月後にひかえた、まさにコルトレーン・カルテットの絶頂期だったといえるだろう。
 ハチャーソンとオルガンの共演はめずらしいが、ギターとヴァイヴだけという、おとなしめのソロ楽器だけをフューチャーしたシンプルなサウンドのなか、なかなかいい味を出している。哀愁味をおびた "I Wish You Love" や、ピート・ラ・ロカの『Basra』(65) の名演でも有名な "Lazy Afternoon" など、選曲も良い。疲れた時などにじっくりと聴きたい演奏だ。
 この後グリーンは『Matador』(65) において、エルヴィン〜マッコイ・ターナーのコルトレーン・カルテットのリズムセクションをバックに "My Favorite Things" を演奏するところまでいく。


04.12.17



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  ■Bobby Hutcherson『Dialogue』       (Blue Note)

    Freddie Hubbard (tp) Sam Rivers (ts,ss,bcl,fl)
    Bobby Hutcherson (vib,marimba) Andrew Hill (p)
    Richard Davis (b) Joe Chambers (ds)    1965.4.3

 『The Kicker』(63) がオクラ入りしたため、リリース順でいくと最初のソロ作となる。本作は人気の高い作品のようだが、この後のハチャーソンの作品と比べると異色作といえる。
 ハチャーソンはこの少し前に『Judgment』(64) 『Andrew』(64) とヒルのリーダー作に連続して参加しているが、本作はそのヒルがピアノを弾き、ボーナス・トラック含めて全6曲のうち、アンドリュー・ヒルのオリジナルが4曲、残りの2曲はジョー・チェンバースのオリジナルであり、ハチャーソンの自作の曲が1曲もない。ベースもヒルの良き共演者であるリチャード・デイヴィスが弾いていて、つまり本作はヒルの準リーダー作という側面がある。
 ヒルはあまり親しみやすいジャズマンとはいえないだろうし、ハチャーソンとしてはちょっと異色な本作が、しかし人気盤である理由は、冒頭の "Catta" によるところが大きいのではないか。テーマ部でハチャーソンとヒルによって演奏される哀愁をおびたリフの印象的なことといったら、スピーカーから新しい風が吹いてくるようだ。本作はヒルの入門盤としても最適だと思う。この時期のハチャーソンとヒルのコラボレーションは、どれもいい。
 つづくチェンバース作のバラード、"Idle While" も親しみやすい、哀愁をおびた演奏で、ここでのハチャーソンはソロもいいが、テーマ〜他人のソロでのバックに響かせる音が、寂しい夜道の街灯の明かりを思わせ、印象的。このような曲にはハチャーソンの音がほんとうに良くあう。
 後半はフリー寄りの演奏が多くなっていき、やや親しみにくいかもしれない。というか、全体的にハチャーソンのアルバムとしては、あまり親しみやすいほうとは言えないのだが、ハチャーソンのアルバムをいろいろ聴いた後で聴いていくと、なぜだか本作が懐かしくなり、本作をまた引っ張りだして聴きたくなるから不思議だ。
 みょうな魅力のあるアルバムだと思う。


04.11.9



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  ■Bobby Hutcherson『Components』     (Blue Note)

    Freddie Hubbard (tp) James Spaulding (as,fl)
    Bobby Hutcherson (vib,marimba) Herbie Hancock (p)
    Ron Carter (b) Joe Chambers (ds)   1965.6.10

 60年代後半のハチャーソンの一連の作品は、ハチャーソン=ジョー・チェンバースの双頭バンドというべき面があったが、その傾向がとくに強く出ているのがこのアルバムだ。
 前半(アナログ盤のA面)の4曲がすべてハチャーソンのオリジナル、後半(B面)の4曲がすべてチェンバースのオリジナルであり、実質的にはA面がハチャーソンのリーダー・セッション、B面がチェンバースのリーダー・セッションと、同一メンバーによる別バンドの作品が片面づつ収められたアルバムとでもいうべき作品だろう。
 じっさい聴いてみるとA面とB面ではだいぶ印象が違う。ハチャーソンのオリジナルが集められたA面は斬新さとポップさがバランス良く整った、親しみやすく、味わい深い演奏になっている。有名な "Little B's Poem" はじめ、珠玉のバラードや、快適なナンバーが揃っている。
 対してチェンバース主導によるB面はずっと前衛的で、繊細で幽玄なフリージャズとでもいうべき演奏になっている。『Dialogue』(65) に収められたチェンバースの曲もそうだったが、この時点での彼はかなりフリー色が強い音楽を目指していたようだ。
 当時ハチャーソンとチェンバースでは目指していた方向に違いがあったことがわかるが、それでいて妙に調和もとれている感もあるのは、互いに互いの方向性を尊重しあっていたからだろうか。
 メンバー的には異色だった前作に比べ、いかにも当時の新主流派を代表する顔ぶれが揃っている。


04.12.18



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  ■Bobby Hutcherson『Happennings』       (Blue Note)

    Bobby Hutcherson (vib,marimba) Herbie Hancock (p)
    Bob Cranshaw (b) Joe Chambers (ds)   1966.2.8

 世間的にはこの頃のハチャーソンの代表作のように扱われているアルバム。確かにハンコックをバックにしたカルテットで、ハチャーソンの演奏そのものがじっくり堪能できる仕掛けになっているし、ハンコックの人気曲 "Maiden Voyage" を取り上げ、オリジナル以上という評価も多い名演を繰り広げているのだから、そういう気持ちもわかる。
 しかし、あまりにもこのアルバムばかりが紹介されているのを見ると、ハチャーソンはこれだけじゃない……とも言いたくなってくる。
 決してつまらないアルバムではないが、この頃のハチャーソンの作品としては平均点の出来で、とくに優れたアルバムではないのではないか。本作だけを特筆するような理由はないのでは。
 また、ハチャーソンがブルーノートに残した二十数枚のリーダー作のうち、カルテットは2枚のみ。ハチャーソンはリズム・セクションだけをバックにひたすら演奏に没頭するタイプではなく、ハンコックと同じように、ホーン入りのバンドで自分の音楽を表現するタイプのミュージシャンだ。つまり、本作ではそのようなハチャーソンのサウンド・クリエイターとしての実力を聴くことはできない。
 と、ケナしているようにも見えるかもしれないが、本作は本作でやはり傑作であることには間違いない。
 やはりハチャーソンの演奏は他の作品に増してたっぷり聴けるわけだし、珠玉のバラード "When You are Here" など、聴きどころはたくさんある。
 しかし本作だけを聴いて満足してしまわず、ハチャーソンの他の作品も聴いてみてほしい。きっと本作では気づかないハチャーソンの魅力に気づかされるはずだ。


04.11.9



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  ■Bobby Hutcherson『Oblique』          (Blue Note)

    Bobby Hutcherson (vib) Herbie Hancock (p)
    Albert Stinson (b) Joe Chambers (ds)   1967.7.21

 ハンコックをバックにしたカルテットによるアルバムということで、『Happennings』(66) の続編のような感じだ。知名度の点では『Happennings』よりだいぶ落ちると思うが、オリジナル曲の良さ、演奏のレベルの高さ、どの点から見ても内容は落ちるものではない。
 最初の4曲はハチャーソン作が3曲、ハンコック作が1曲の構成で、ここはそのまま『Happennings』の続編のような親しみやすく、くつろいだかんじの格調高い名演。後半2曲はジョー・チェンバースのオリジナルであり、一転してアグレッシヴで迫力ある演奏にかわる。この前半・後半の対比が素晴らしく、その点からいって個人的には『Happennings』より高く評価したい。
 店先でメンバーだけ見て、なんだ、これなら『Happennings』だけ持ってればいいや……と手を出さなかった人はぜひ一聴を。


04.12.18



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  ■Bobby Hutcherson『Patterns』      68.3.14   (Blue Note)

   James Spaulding (as,fl) Bobby Hutcherson (vibes)
   Stanley Cowell (p) Reggie Workman (b) Joe Chambers (ds)

 この時期のハチャーソンのアルバムがハチャーソン=チェンバース双頭バンドの作品としても聴けることは先述した。中でも最もチェンバース度が最も高いのは本作であり、ここまでくればチェンバースのリーダー作といったほうがいいのでは……と思うほど。
 なにしろ収録曲全7曲のうち5曲までがチェンバースのオリジナルである(うち一曲はボーナス・トラックの別テイク)。残り2曲はスポールディングと、カウエル作の曲が1曲づつで、ハチャーソン作の曲はない。
 しかもそのチェンバース作の曲が名曲ぞろいだ。この頃になるとチェンバースの作風はフリー色が抑えられており、少しだけポップなかんじになってくる。ちょっと他にないような繊細で詩的で幽玄な不思議な魅力をたたえた曲ばかりで、ぼくは本作を聴いてチェンバースという人の本当の凄さがわかった気がした。
 ただ、残念なのはスポールディングと、カウエル作の曲が2、4曲めと間に入っていて、チェンバース作の曲を続けて味わえないこと。別に彼らの曲がわるいわけではないが、チェンバース作の曲が素晴らしすぎるので、曲順を考えてほしかった。(まあ、MDに録音して曲順入れ替えして聴けばいいわけなんだが)


    



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  ■Bobby Hutcherson『Medina』『Spiral』       (Blue Note)

     Harold Land (ts) Bobby Hutcherson (vib) Stanley Cowell (p) 
     Reggie Johnson (b) Joe Chambers (ds) 1968.11.11 / 69.8.11

 本作のCD版は『Medina』(69)と『Spiral』(68) の2枚のアルバムの2in1になっている。メンバーは両アルバムとも同じだ。1年近く離れて録音されたアルバムが同じメンバーであることからもわかる通り、これは当時のレギュラー・メンバーだったようだ。したがって参加メンバーの豪華さという点からいえば以前より地味な顔ぶれになる。しかし、普段から一緒に活動しているレギュラー・メンバーでの演奏というのは、豪華な顔ぶれのセッションより、そのミュージシャンの個性と実力が強くあらわれる面もあると思う。
 正直、名前を見たときは、ハロルド・ランドなんて、クリフォード・ブラウンと一緒に演っていた50年代の人というイメージしかないし(実際年齢もハチャーソンより10歳以上年上だ)、こういうテナーがハチャーソンに合うのかと思っていたが、これが意外といい。ランド自身もコルトレーンの影響を受けて奏法が変化させたようだが、うまく調和させたハチャーソンのサウンド・コーディネイト力というのも感じられる。過小評価されているピアニスト、スタンリー・カウエルも好演だ。
 60年代半ばあたりの演奏と比べると鋭い部分が減り、良くも悪くも丸くなって聴きやすく親しみやすい音楽になっているが、洗練の度合い、透明感はさらに高まっているように感じる。
 自然体のハチャーソン〜チェンバースの音楽というのは、このあたりにあるのかもしれない……と思わせるアルバムだ。
 しかし、長く続いたハチャーソン〜チェンバースのコンビネーションはこのアルバムで最後になる。


04.12.19



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  ■Bobby Hutcherson『Montara』   1975.8.12/14 (Blue Note)



 70年代に入るとジャズは激動の時代に入り、ロックやファンクとの融合等、フュージョン、電化への流れが始まり、従来のアコースティック・ジャズは急速に人気を失っていく。
 70年代の前半はハチャーソンにとっては困惑と試行錯誤の時期だったような気がする。  ハチャーソンはフュージョン、電化への流れには積極的ではなかったようだ。その中で、しかしジョー・サンプルを含むメンバーでファンキーなリズムをとりいれたり(『San Francisico』(70) )オーケストラをバックにしたスタンダード集を作ったり(『Natural Illusion』(72) )と様々な試みを行う一方、時代に逆らうようにアコースティック・ジャズのスタイルで押し通そうとしていたように思う。その傾向のものではベスト盤で聴くかぎり『The View from Inside』(76) や『Waiting』(76) あたりの曲が素晴らしく、『Live at Montreux』(73) も傑作と聞くが、総じて70年代前半のハチャーソンのアルバムは入手困難で、残念ながら聴いていない。
 この『Montara』はラテンをテーマに9人編成の小ビック・バンドで演奏したアルバムで、DJが使ったとかの理由で再発され、聴くことができた。
 ハチャーソンの本領だとは思わないが、さすがに編曲・演奏ともジャズのスピリットは失わずに仕上げた感じで、サンタナで有名な「オエ・コモ・ヴァ」など、選曲も楽しい。


04.12.19



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  ■Bobby Hutcherson『Highway One』     (Columbia)

    Bobby Hutcherson (vib,marimba) Freddie Hubbart (flh) 
    Hubert Laws (fl) George Cables (p,elp) 
    Cedar Walton (p) James Leary (b)
    Eddie Marshall (ds) /他      1978.5.30-6.23  

 ハチャーソンは積極的にエレクトリック楽器の使用・フュージョン化を取り入れていったとは思えないが、70年代の後半に入ると、おりからのフュージョン・ブームにのって、フュージョンのスタイルで作品をつくっていくようになる。時流に逆らえなかったということなのかもしれないし、結果的にも商業的な大成功を得たとはいえないが、現在の時点から見ると、ハチャーソンのフュージョン作品は総じてレベルが高く、このジャンルの第一人者の一人といってもいいくらいに聴こえる。
 それは、この時代に流行したフュージョンは、とかく陽気でファンキー、ソフトで甘口になりすぎて、一般には親しみやすい一方、ジャズ的なものを期待して聴くとガッカリさせられる例も多く、一時期人気は出てもすぐに古びていくものも多い一方、ハチャーソンはそのようなフュージョンの特徴、ファンキーなリズムや、ソフトなサウンドをある程度は取り入れながらも、ジャズのスピリットを失わない演奏を行ったために、現在の耳で聴いても新鮮に聴こえ、時代の流れにも古びない作品をつくり得たということなんだろうと思う。
 そもそもフュージョンのような編曲性・サウンド作りを重視するスタイルは、ハチャーソンのようなサウンド・クリエイターとしての才能・実力に恵まれたミュージシャンには、むしろ得意分野であるはずだ。
 さて、このアルバムは神秘的な緊迫感に溢れた "Secrets of Love" から始まる、エキゾチックな情緒にもあふれたなかなかの傑作だ。その "Secrets of Love" をはじめ、この時期のハチャーソンの右腕的存在だったジョージ・ケイブルスの作曲の才能も光っている。


04.12.21



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  ■Bobby Hutcherson『Un Poco Loco』      (Koch Jazz)

    Bobby Hutcherson (vib,marimba) John Abercrombie (g)
    George Cables (p,elp) Chuck Dominco (b)
    Perter Erskine (ds)      1979  

 これもハチャーソン流のフュージョン作品。かなり気持ちのいいサウンドだ。
 フュージョン特有のエレクトリック楽器を使用したソフトなサウンドで、軽快で涼風のように心地よいリズムにのせながら、ソロ(即興演奏)はジャズと同様に重視し、一聴するとなめらかで聴きやすいが、よく聴くとジャズの緊張感を失っていない演奏である。似たタイプの例を上げるなら、チック・コリアの『Return to Forever』(72) の後半(B面)などと一脈通じる感覚の音楽といえるだろうか。
 ジョン・アバークロンビーのギターの控えめでいて効果的な使い方など、ハチャーソンのサウンド構成能力の高さも味わえるアルバムだ。冒頭の哀愁味をおびた "The Sailor's Song" 以下、曲もいい。当時のフュージョン作品の多くが現在聴くと古びて聴こえるのと対照的に、現在聴いてもまったく色あせてないアルバムである。
 ハチャーソンとしてはおそらく当時も本音ではアコースティック・ジャズをやりたかったのではないかと思うが、こういうアルバムを聴いていると、ハチャーソンのフュージョン時代ももう少し長く続いても良かったのではないかという気になってくる。


  04.12.20



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  ■George Cables『Cables' Vision』     (Comtemporary)

    Freddie Hubbard (tp,flh) Ernie Watts (ts,ss,fl)
    Bobby Hutcherson (vib) George Cables (p,elp)
    Tony Dumas (b) Perter Erskine (ds)
    Vince Charles (per)      1979.12.17-19

 当時ハチャーソンのバンドでサイドマンとして活躍、多くの曲も提供していたジョージ・ケイブルスのリーダー作にハチャーソンがサイドマンとして参加したアルバム。
 当時のハチャーソンのバンドと同じ、ジャズ的な即興演奏性を重視したフュージョン・サウンドといえる。二管をフロントにすえたメンバー編成だが、出てくる音はむしろほのぼのとした温かなムードの、ゆったりとしたファンクといったかんじのものが中心である。一曲ではハチャーソンとケイブルスのデュオも聴ける。
 ケイブルスがこの後どうしているかはよく知らないのだが、この時代のハチャーソンのグループにおける演奏・作曲両面での活躍はなかなかのものだし、そしてこのアルバムもかなりの佳作といっていいのではないか。のんびりと楽しみたいアルバムだ。


04.12.21



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  ■Bobby Hutcherson『In the Vanguard』   (32 Jazz)

     Bobby Hutcherson (vib,marimba)  Kenny Barron (p)
     Buster Williams (b) Al Foster (ds)    1986

 ハチャーソンの演奏の特徴は、これは彼が影響を受けたミルト・ジャクソンと共通するところだが、音を出しすぎないところにある。速弾き(速叩き?)せずに、わりと少ない数の音を選び抜いて叩いていく。ビブラホーンという楽器は木琴のような部分の下にパイプ状の反響板が付いていて、叩くと「ポォーーン」という音がするが、速く叩けば反響の「ォーーン」という音は聴こえず、ただ「ポポポポポポ……」という音の連続に聴こえる。そのようにせずに、この「ォーーン」という響きの余韻を美しく響かせるところにハチャーソン、そしてミルト・ジャクソンの奏法の特徴がある。
 けれども、このアルバムでは、ライヴという気楽さもあってなのか、ハチャーソンがめずらしく速弾きで叩きまくってるめずらしいアルバムだ。
 80年代のハチャーソンはアコースティック路線に戻るが、スタイルは丸くなっていて、60年代の鋭さは消えている。曲も50年代的なスタンダードが多く選ばれている。そのぶん、一般的なアコースティック・ジャズ・ファンには誰にでも親しみやすい演奏になっているといえるが、個人的には寂しい気もする。
 とはいえ、老舗であるヴィレッジ・バンガードでのライヴということもあってか、熱気のこもったライヴ盤だ。


04.12.18



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  ■Bobby Hutcherson『Skyline』        (Verve)

     Bobby Hutcherson (vib,marimba)
     Kenny Garrett (as) Geri Allen (p)
     Christian McBride (b) Al Foster (ds)    1999

 前作からおよそ6年ぶりのリーダー作だという。ケニー・ギャレット入りのクインテットと、カルテット、ドラム抜きトリオ、ピアノとのデュオによる演奏が収められている。
 まずはカルテットなど、サックス抜きの演奏の部分が見事だ。ジェリ・アレンとクリスチャン・マクブライトとの相性がことのほか良く、深く沈みながら内面に食い入ってくるような独特の重さのある演奏である。いままで聴いたどのハチャーソンの演奏とも違った雰囲気で、いつも通りのアコースティック・バンドの演奏とは片づけられない魅力がある。
 それに比べるとケニー・ギャレットはあきらかに浮いている。透明水彩による冷ややかな風景画の中に、クレヨンの描線が混じっているようなかんじ。一人だけ不透明で妙に元気で明るく軽い。まあ、曲によってはその違和感が比較的目立たない演奏もあるのだが。
 となると、本作でのギャレットの起用は失敗だったのかとも疑いたくなるが、ギャレット不参加の部分のデキがあまりに完璧で、うまくいきすぎて単調になるんで、わざとギャレット入りの曲を途中にはさんで、完璧さを壊して気分転換をはかっているのだろうか……。
 個人的にはギャレット不参加の部分の奥深く透明な世界にただただひたっていたい気分。


04.12.20


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『ウェイン・ショーターの部屋』


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