デイヴ・ホランド
Dave Holland




     目次

   ■デイヴ・ホランド
   ■アルバム紹介








■デイヴ・ホランド

 正直いってデイヴ・ホランドで興味をもったのはショーターの『High Life』(95) がリリースされたときのエピソードからだ。当時批評家筋で『High Life』の評判が悪かったのでホランドが義憤を感じ、これはジャズ史上に残る5枚の傑作の内の一枚だと雑誌に抗議の投書をしたというエピソードで、それでどういう人なんだろうと思いはじめたわけだ。彼のリーダー作を聴きだしたのは、もっと後のことになる。
 といってももちろんその以前からホランドの演奏そのものは聴いていたのだが、ホランドはとくに目立つスタンド・プレーをやるタイプではないので、リズム・セクションに徹した演奏を行ったときに、とくにベースに興味をもつことがなかった。それに、ベーシストのリーダー作というのは、ホーン奏者などに好きなミュージシャンが入ってないとなかなか手を出しにくい。それでリーダー作を聴きはじめてから、彼のなみなみならぬ実力に初めて気づいたのだが。
 そして2004年の東京JAZZ ではショーター〜ハンコック〜ホランド〜ブレイドのカルテットで来日し、有名ミュージシャンを集めただけのたんなるスーパー・バンドのレベルをはるかに超えた見事な演奏で魅了してくれた。
 音楽シーンのことには疎いのだけど、この数年はジャズ・シーンにおけるホランドの存在感はぐんぐん増している気がする。2004年にはダウンビート誌の国際批評家投票で4冠に輝いたというし、グラミー賞でも常連になりつつあるようだ。まあ、評価されたからどうということでもないが、とくに1990年代後半からのホランドのグループの充実ぶりは凄いと個人的には思っているので、それに誰もが気づいてきたということだろう。

 さて、デイヴ・ホランドは1946年生まれのイギリス人だ。イギリスで1946年生まれというと、17歳でビートルズの登場を目の当たりにした世代であり、ホランドも最初はロック・バンドでベースを弾いていたと聞いたが、そのへんのところはよくわからない。その後ジャズに転向してイギリスでジョン・マクラフリンなどと演奏していたところがツアーにきていたマイルスの目にとまってバンドに誘われ、渡米してマイルス・バンドに加わることになったらしい。
 1968年にマイルス・バンドに加わったホランドは、それまでのハンコック+ロン+トニーに代わって、チック・コリア、ジャック・デジョネットとリズム・セクションを組み、ショーターとも共演する。
 多分ぼくが最初に聴いたホランドの演奏はこのグループでのものだと思うが、正直マイルス・バンド時代のホランドの演奏を聴いて特に彼に興味を持った人がいたとしたら、それはかなり耳のいい人か、もしくはもともとベースという楽器に興味がある人ではないかと思う。といっても優れた演奏はしているのだが、スタンドプレー的に前面に出てきて弾きまくるタイプではないため目立たないのだ。ふつうに聴いていればエレピを弾くチック・コリアやドカドカ叩きまくるデジョネットのほうにずっと強い印象を受けるのが普通ではないかと思う。
 といってもホランドはソロを弾きまくるようなテクニックがないわけではなく、むしろ相当のテクニックの持ち主なのだが、バンド・サウンドの中ではベースという楽器の本来の役割に徹した、いい意味で職人的な演奏をするのが好みなんだとおもう。後の自己のバンドでも、見事なソロはとるが、ソロ自体は短い。
 ホランドはマイルス・バンドには70年までいて、チック・コリアと同時期にバンドを離れることになる。(デジョネットはあと1年マイルス・バンドにとどまる)
 その後ホランドはチックらと一緒にフリージャズのバンド、Circle を組むが、ご存知のとおり Circle は短期で解散する。
 その後は様々なセッションを行っていくが、有名どころではジョン・アバークロンビー、ジャック・デジョネットと組んだ『Gateway』(75) だろう。このギター・トリオは好評で、「Gateway」というバンド名義になって続編を出し、90年代に入って再結成されるなど、計4枚のアルバムを出ている。
 なお、マイルス・バンド時代のチック〜ホランド〜デジョネットというリズム・セクションは前任のハンコック+ロン+トニーのようにマイルス・バンドを離れた後も密接な関係をもつには至ならなかったが、ホランド〜デジョネットの二人はおりにふれ共演している。
 さて、ホランドは70年代から ECM へリーダー作を録音し始めるが、残念ながら70年代のリーダー作はまだ聴いていない。けれどホランドがある面の本領を発揮しはじめたのは80年代に入ってからではないかと思う。それは優れたバンド・リーダーとしての才能だ。
 ホランドは83年に初めて自己のバンドによるアルバムをリリースし、それからずっと、メンバーを交代しながらバンドを維持している。
 ホランドのグループはアコースティック・ジャズのバンドである。どうもアコースティックというと、伝統的なジャズと決めつけたがる批評家が一方にいるように思うが、とうぜんこれは間違いであり、意欲的なアコースティック・ジャズもあれば、保守的で伝統的なエレクトリック・ジャズもある。
 ホランドのバンドはアコースティック楽器を使いながらも、意欲的に新しいジャズを追求しているグループだろう。方法的には編曲性と即興演奏性の融合をはかる、フュージョン的な方法論をもちい、リズム的にも従来のジャズの枠を破るような様々な試みを行っている。
 80年代には伝統的なスタイルの再現を指向するウィントン・マルサリスらの新伝承派のミュージシャンの他に、新しいジャズのかたちを追求した M-Base 系の新人も登場してきたが、その M-Base の中心人物のスティーヴ・コールマンをホランドは80年代を通してグループのメンバーに起用している。そうして彼をアコースティック・ジャズの枠内でも活躍させ、育てていくと同時に、ホランド自らも M-Base 系のアルバムに参加したり、彼らから受けた刺激を自己のグループの音楽のなかに生かしていく姿勢が感じられる。
 Circle への参加やこの M-Base との交流も含めて、ホランドの演奏にはフリーが隠し味のように効いている気がする。とくに彼のレギュラーバンドは伝統的な楽器編成のアコースティック・ジャズであり、ホランドのベースの重さのために非常に安定感を感じさせる演奏をするのだが、そのわりにかなりフリーなアプローチも行い、しかしそれもまた安定感をもって聴かせてしまうところに魅力があるとおもう。
 ホランドは数えればデビューしてからもう40年になろうとするキャリアとなるが、しかしホランドの絶頂期はいまではないか、いや、これからではないか、と思わせてくれる。まさに貴重なミュージシャンだろう。





   ■アルバム紹介


                                           
Miles Davis "Filles de Kilimanjaro" 1968.9 (Columbia)モ★
Miles Davis "In a Silent Way" 1969.2.18/20  (Columbia)モ★
Miles Davis "1969 Miles" 1969.7.25 (Sony)モ★
Miles Davis "Bitches Brew" 1969.8.19-21 (Columbia)モ★
Miles Davis "Live at The Fillmore East,70" 1970.3.7 (Columbia)モ★
Wayne Shorter "Moto Grosso Feio" 1970.4.3 (Blue Note)モ★
Miles Davis "At Fillmore" 1970.6.17-20 (Columbia)モ★
Chick Corea "A.R.C." 1971.1.11-13 (ECM)モ★
Dave Holland "Music for Two Basses" 1971.2.15 (ECM)
Dave Holland "Conference Of The Birds" 1972.11.30 (ECM)
J.Abercrombie, D.Holland, 
J.DeJohnette 
"Gateway"  1975.3 (ECM)
J.Abercrombie, D.Holland, 
J.DeJohnette  
"Gateway 2"  1977.7 (ECM)
Dave Holland "Emerald Tears" 1977.8 (ECM)
Dave Holland "Life Cycle" 1982.11 (ECM)
Dave Holland "Jumpin' In"  1983.10 (ECM)
Dave Holland "Seeds of Time"  1984.11 (ECM)
Dave Holland "The Razor's Edge"  1987.2 (ECM)
Dave Holland "Triplicate"  1988.3 (ECM)
Dave Holland "Extentions"  1989.9 (ECM)
J.Abercrombie, D.Holland,
J.DeJohnette  
"Homecoming"  1994.12 (ECM)
J.Abercrombie, D.Holland,
J.DeJohnette  
"In The Moment" 1994.12 (ECM)
Herbie Hancock "New Standard" 1995 (Verve)モ★
Dave Holland "Dream Of The Elders" 1995.3 (ECM)
Dave Holland "Points Of View"  1997.9.25-26 (ECM)
Dave Holland "Prime Directive"  1998.12.10-12 (ECM)
Dave Holland "Not For Nothin'"   2000.9.21-23 (ECM)
Dave Holland "What Goes Around" 2001.1 (ECM)
Dave Holland "Extended Play - Live At Birdland"  2001.11.21-24 (ECM)
Dave Holland "Overtime"  2002.11 (Dare2 Records)
Hancock, Shorter,
Holland, Blade 
"The Quartet" 2004.7.3 モ★
Hancock, Shorter,
Holland, Blade 
"Live in Germany" 2004.7.4 モ★
Dave Holland "Critical Mass" 2005.12 (Dare2 Records)
















  ■J.Abercrombie, D.Holland, J.DeJohnette『Gateway』         (ECM)

    John Abercrombie (g) Dave Holland (b) Jack DeJohnette (ds)   1975.3

 これはいま聴いても新鮮でスリリングなアルバムだ。
 いわゆるギター・トリオの編成で、こういったピアノレス・トリオの編成はこれ以前ではケニー・バレルが得意としていたのだが、これはバレルなどの演奏スタイルとはまったく違うスタイルの演奏といえるだろう。それはギターが主で、ベース、ドラムがリズム・セクションとしてバッキングをつけるという従来のスタイルではなく、ギター、ベース、ドラムの三者がそれぞれ自由に動き回り、入り乱れながら音楽を生成させていくという、きわめてインタープレイ性の高い演奏スタイルだ。リズムも従来のジャズの安定したフォービートからぐいぐい逸脱していく。
 全6曲中4曲がホランド作曲で、作曲面からもホランドの貢献が大きいことがわかる。とくに前半(A面)3曲はすべてホランドの曲だ。
 一般的にはアバークロンビーのリーダー作として扱われていたりもするが、CDのクレジットを見る限りは上記のように演奏者3人の共同リーダー作としてクレジットされている。演奏内容からいっても、また、このアルバムの好評により、この後このグループがバンド名義でアルバムを発表していくことからみても、3人が対等な立場でつくった共同リーダー作とみたほうが実質に近いのではないだろうか。




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  ■Dave Holland『Jumpin' In』         (ECM)

     Kenny Wheeler (tp,pocket-tp,cor,flh) Julian Priester (tb)
     Steve Coleman (as,fl) D.Holland (b, cello) Steve Ellington (ds)     1983.10

 デイヴ・ホランドが自己のバンドを組んでの第一作。ECM にはこれ以前にもホランドのリーダー作があるが、ベースやチェロのソロかデュオによる演奏のようだ。
 編成は3管ピアノレスのアコースティック・クインテットで、「チャールズ・ミンガスに捧げる」と書いてあるが、個人的にはミンガスの『Mingus Presence Mingus』あたりのピアノレスでの演奏を思い出した。多くの曲でテーマ部がふつうのアンサンブルではなく、掛け合いのように入り乱れて演奏されるあたり、『Mingus Presence Mingus』の一曲目でのエリック・ドルフィーとテッド・カーソンによるテーマ演奏を思い出させる。このあたり、どこまで編曲されているのか、あるいは集団即興的に演奏しているのか、わからない。
 全体的に、リズムに躍動感をもたせようとしているようにかんじる。これもミンガス〜ダニー・リッチモンドへのオマージュゆえなのかもしれない。が、そこがいまいちホランドらしさが感じられない気がして、個人的には愛聴盤にはなっていない。後から遡って聴くからそんなふうに感じるのだろうか。少なくともこの後のアルバムのほうが優れているので、このバンドの第一作ではあるものの、ホランドで最初に選ぶべきアルバムではないと思う。




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  ■Dave Holland『Seeds of Time』           (ECM)

     Kenny Wheeler (tp,pocket-tp,cor,flh) Julian Priester (tb) Steve Coleman (as,ss,fl)
     D.Holland (b, cello) Marvin "Smitty" Smith (ds,per)     1984.11

 これは同バンドの2枚めで、ドラム以外はメンバーは同じだ。
 この時期のホランドのバンドの売りの一つは、当時 M-Base の中心人物として売り出していたスティーヴ・コールマンが加わっていることだろう。新参加のドラムのマーヴィン・スミッティ・スミスも M-Base 系の人らしい。
 80年代に書かれたジャズ系の本などみると、当時人気のあったウィントン・マルサリスなど「新伝承派」と呼ばれた60年代のジャズを再現して演奏していた一派を、懐古的で創造性が無いと否定している人たちが、それに対して新しいジャズを生み出している一派としてこの M-Base を評価しているのを見かける。
 ホランドはこの時期この M-Base を評価し、その若手ジャズマンを自己のバンドに起用したり、自身も M-Base のアルバムに参加したりしている。
 ぼく自身はたまたま最初に聴いたアルバムが好きになれなかったので、この M-Base 派のものはあまり聴いてないのだが(たまたまそのアルバムが良くなかっただけかもしれないが)、これらのホランドのアルバムでスティーヴ・コールマンなどの演奏を聴くと、どうもインプロヴァイザーとしてあまり印象に残らないというのが正直な印象だ。でも、一曲めの大胆な変拍子など、ホランドが M-Base からとりいれていった点らしく、そういった要素は昔ながらのアコースティック・ジャズのスタイルから抜け出す方法としてうまく機能していると思う。
 個人的には前作の『Jumpin' In』より好きだが、それでも後の作品に比べると印象は薄い。




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  ■Dave Holland『The Razor's Edge』           (ECM)

     Kenny Wheeler (tp,flh,cor) Robin Eubanks (tb) Steve Coleman (as)
     D.Holland (b) Marvin "Smitty" Smith (ds,per)    1987.2

 あいだにレーザー・ディスクのライヴ盤(未聴)をはさんで、CDとしてはホランド・バンドの3作目。個人的には80年代のホランドのバンドの最高傑作はこれだと思う。
 メンバー的にはトロンボーンにジュリアン・プリースターに代わって、90年代以後のホランド・バンドで大活躍するロビン・ユーバンクスが初めて加わっている。
 トロンボーンが一人代わっただけでこんなに全体のサウンドが変化するのかと不思議なほどで、アンサンブルが低音域で安定して、90年代のホランドのバンドと共通するような雰囲気も出てきている。ホランドとロビン・ユーバンクスの相性の良さというのをかんじる。




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  ■Dave Holland『Triplicate』          (ECM)

     Steve Coleman (as) Dave Holland (b) Jack DeJohnette (ds)    1988.3

 前作で80年代ホランド・バンドのベスト・メンバーが揃って、そのまま走っていくかと思いきや、今回はスティーヴ・コールマンのワン・ホーンのみのトリオによる演奏。それもドラムには盟友のデジョネットが参加して、これまでのホランド・バンドとは別物といえそうだ。これは Gateway のアバークロンビーがコールマンに交代した編成ともいえる。
 さて、ピアノレスのトリオというとサックス奏者の実力が試される編成だ。古くはソニー・ロリンズが得意とし、同じ80年代ではジョー・ヘンダーソンが力を示した。同じアルトのコールマンというと、オーネット・コールマンもタウン・ホールやゴールデン・サークルでのトリオでの快演がある。が、スティーヴ・コールマンはどうなのだろう。
 まあこれは好みの問題なのかもしれないが、個人的にはこの人が80年代に行っていたことの姿勢そのものは買うのだが、演奏そのものはあまりおもしろいとおもわない。本作での演奏も音色に弱々しさを感じ、フレーズもわかりやすすぎて、いま一つという印象を抱いてしまうのだけど、どうなんだろう。たんにぼくの好みに合わないというだけだろうか。




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  ■Dave Holland『Extentions』          (ECM)

     Steve Coleman (as) Kevin Eubanks (g)
     Dave Holland (b) Marvin "Smitty" Smith (ds)     1989.9

 前年の『Triplicate』のトリオにギターが加わったカルテット。ドラムはスミスに戻っている。
 このギターのケヴィン・ユーバンクスという人は名前からみると、ロビン・ユーバンクスの兄弟かなにかなんだろうか。よくは知らないが、この人のギターは派手ではないが不思議な味があって個人的に好きだ。
 これまでのホランドのバンドはコード楽器不在だったわけだが、ここで初めてコード楽器が加わったことになる。しかし、この人はバックにまわると普通のリズム・カッティングはせず、フワァーン……といった感じに、音をのせる。ちょっとシンセっぽい味わいでだ。ソロも個人的にはスティーヴ・コールマンより好きだ。このケヴィン・ユーバンクスが加わったことで、前作よりずっと奥行きがでて、いい演奏になっているとおもう。
 しかしこの後、ホランド・バンドは約6年間の沈黙期に入る。




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  ■Dave Holland『Points of View』            (ECM)

     Robin Eubanks (tb) Steve Wilson (ss,as)
     Steve Nelson (vib) Dave Holland (b)  Billy Kilson (ds)     1997.9.25-26

 ホランドは90年代前半はリーダー作をつくっていない。この時期はショーターもハンコックもリーダー作を発表していなく、おもしろい符号だとおもう。なにか、そういう時期だったんだろうか。
 そして ECM に6年ぶりに録音したのが前作『Dream of the Elders』(95:未聴) だが、本作はそのメンバーをスティーヴ・ニルソンだけ残して一新し、新バンドがほぼ固まった作品だ。これから2000年の『Not For Nothin'』に至る3作は三部作と呼びたくなるほど粒が揃っていて完成度が高い。
 さて、80年代を通してスティーヴ・コールマンなど話題性のある新人をメンバーにしていたホランド・バンドだが、この90年代からのグループはメンバーの知名度からいくと、おそらく80年代のバンドに劣るとおもう。が、バンドとしては80年代のバンドよりずっと上だと思う。演奏がぐっと深くなっているのをかんじる。このバンドを組んだことによってホランドの名は永遠に残るのではないかと、個人的には思う。
 トロンボーン〜サックスという編成は80年代半ばのバンドと変わらないのだが、サウンドは低音の充実したくすんだ輝きをみせるようになった。あいかわらずピアノレスだが、ヴィブラホーンの参加がいい味を出している。
 さて、落ち着いたサウンドと書いたが、演奏自体はけっこうフリーで過激なことをやったりしてる。しかし、それがいい感じにツヤ消しがかかったように安定感があり、鈍いいい色あいになるのがこのグループの特徴だろう。
 現在に至るホランドの黄金時代はここで始まった。
 ということで、これに続いてリリースされるスタジオ盤二作と比べたとき、本作の特徴はというと、スティーヴ・ニルソンのヴァイブの活躍の場面が多く、クールに澄んだ、ジャケットの写真どおりの裏町の夜が似合うイメージがあるようにおもう。




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  ■Dave Holland『Prime Directive』            (ECM)

     Robin Eubanks (tb,per) Chirs Potter (ss,as,ts)
     Steve Nelson (vib,marimba) D.Holland (b)  Billy Kilson (ds)    1998.12.10-12

 サックスがクリス・ポッターに交代し、メンバーがかたまった。
 本作も充実した内容であるが、中盤以後リズムのおもしろさで遊んでいるかんじの曲が多く、この前後の二作に比べてしまうと少し薄く軽い気がする。
 といっても充実していることには変わりはないが、個人的には前後二作と比べると聴く機会の少ないアルバムである。




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  ■Dave Holland『Not For Nothin'』            (ECM)

     Robin Eubanks (tb,per) Chirs Potter (ss,as,ts)
     Steve Nelson (vib,marimba) D.Holland (b)  Billy Kilson (ds)     2000.9.21-23

 1997年の『Points of View』から本作まで新バンドによるスタジオ盤が3枚続けてスムーズにリリースされていて、どれも充実した素晴らしい内容だが、その3枚のうちであえてどれか一枚だけを選べと言われると、ぼくはいまのところ本作を推したい。音楽的深み、メロディーの美しさなど、本作が一番印象深い。
 といっても、また時間がたつと気分が変わるかもしれないが……。
 ここで少しホランドのバンドの魅力の所在をかんがえてよう。というのも、ぼくはホランドのバンドに他のアコースティック・ジャズのグループにはない独特の魅力をかんじるのだが、白状すればこの独特の雰囲気がどうしてでてくるのか、その理由がよくわかってない。
 ホランドのグループの演奏の特徴をみていくと、たとえば変拍子を多用して4ビートなどを使わないという点がまず目立つが、はたしてそれが理由なんだろうか。けれどぼくにはこれが例えばポール・デズモンドの「テイク5」のような変拍子ジャズの延長線上にある音楽だとはおもえない。
 となると、どこに理由があるんだろうか。
 どうもぼくは、ソロ奏者とリズム・セクションとの関係が、他のジャズと違うような気がする。
 一般的なジャズの場合、フロントのソロ演奏に対してリズム・セクションがバックをかためながらドラムなどがソロをプッシュしていいソロ演奏を引き出そうとする。けれど、どうもホランドのバンドはそういう役割分担がされてない気がする。
 ベーシストがリーダーなのだから当たり前だといわれるかもしれないが、ベースが演奏のすべてを支配しているような感覚……、まずベースの演奏があって、他のすべてのメンバーの演奏がそのベースラインから生まれているような感覚……、ソロ奏者がひとりで突っ走ることはなく、すべてのソロがベースに支えられていて、個々のソロ演奏にベースが陰翳を与えているような演奏……というのがこの独特の感じの理由ではないかと考えたりしてみたのだが、どうなんだろうか。




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  ■Dave Holland『Extended Play - Live At Birdland』          (ECM)

     Chirs Potter (ss,ts) Robin Eubanks (tb,per)
     Steve Nelson (vib,marimba) D.Holland (b)  Billy Kilson (ds)     2001.11.21-24

 バンドが良ければライヴがいいのは当然のこと。というわけで、ビッグバンドによる『What Goes Around』(01) を経て、クインテットによる二枚組ライヴ盤がリリースされた。
 アコースティック・ジャズのバンドの場合、スタジオ録音であってもつまりはスタジオでライヴと同じように演奏しているのをワンテイクで録音している場合がほとんどなわけで、ライヴであっても演奏にそう大きな差はないだろうと思いきや、聴いてみるとやはり相当の差があるのがわかる。
 一曲ごとの演奏時間が大幅に長くなっているが、それだけではない。スタジオ盤では抑えられていた暴力的なまでのパワーが、ときどき演奏の底から突き上げてくるのがかんじられ、バンドの底にこんな破壊的な力が渦巻いていたのかと圧倒される。
 もしホランドのアルバムをどれから聴きはじめたらいいかと訊かれたら、個人的にはこれを勧めたい。




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  ■Dave Holland Big Band『Overtime』          (Dare2 Records)

    Antonio Hart (as,ss,fl) Mark Gross (ss) Chris Potter (ts)
    Gary Smulyan (bs) Robin Eubanks, Josh Roseman (tb)
    Taylor Haskins, Alex Sipiagin, Duane Eubanks (tp,fh)
    Steve Nelson (vib,marimba) D.Holland (b)  Billy Kilson (ds)    2002.11

 12人編成のビッグバンドによるアルバム。ホランドが21世紀に入った頃から始めたのがこのビッグバンドで、2001年の『What Goes Around』に続いて本作が2作目になる。メンバーがほとんど変化していないところをみると、レギュラー・バンドなのかもしれない。
 誤解をおそれずにいえば、ホランドのビッグバンドはいい意味でビッグバンドを聴いている気がしない。というのは、ソロが重視されていて、バンドが騒さくならないからだ。
 個人的にはビッグバンドはかならずしも好んで聴いてはいないのだが、その理由はソロが少なくて編曲されたバンドサウンド部分が多いとジャズを聴いている楽しみに欠ける気がするのと、ボリューム設定の難しさだ。つまり、ソロをいい音量で聴けるようにボリュームを合わせると、ビッグバンドが絶叫する部分で驚き、ボリュームを下げなければならなくなる。
 そんなことを気にせずに聴けるのがホランドのビッグバンドの良いところで、ソロもたっぷり聴けるし、ソロの音に合わせてボリュームを合わせておけば、ビッグバンド部分でもそれを越えて絶叫したりしない。落ち着いた気分でビッグバンドの編曲が楽しめる作品となっている。



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『ウェイン・ショーターの部屋』





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