アンドリュー・ヒル
Andrew Hill









  目次

  ■ショーターとアンドリュー・ヒル
  ■アンドリュー・ヒル
  ■ヒルのブルーノート録音
  ■アルバム紹介






■ショーターとアンドリュー・ヒル

 ウェイン・ショーターにとってハービー・ハンコックは非常に相性のいいミュージシャンではあるが、似たタイプのミュージシャンではない。相性がいいということと似ているということは別だろう。
 では、1960年代にいわゆる新主流派と呼ばれたミュージシャンのうちで、ショーターと似たタイプのミュージシャンを探すとすると、それはたぶんアンドリュー・ヒルだと思う。
 ともに作編曲を得意とするミュージシャンであり、オーケストラ、ビッグバンドの編曲も手がけている。また強い個性を持つ演奏者であり、他人に合わせるのがあまり得意ではない。そのため、ヒルのどのアルバムをとっても、そこには独自の『ヒルの世界』が繰り広げられており、ショーターのアルバムがすべて『ショーターの世界』であるのと同じだ。これは例えばハンコックの、自分以外の場所にテーマを求め、そのテーマに自分なりにアプローチすることによって作品づくりをするような方法とはかなり違う。
 もっとも、ヒルを新主流派には含めない評論家もいる。これは新主流派をどう定義するかにかかってくるわけだが、このへんのジャンル分けに関しては個人的にはどうでもいいと思っている。ここでは一応新主流派に含めてみることにする。

 さて、アンドリュー・ヒルというとジャズファンなら誰でも連想するのがブルーノートとの関係だろう。アンドリュー・ヒルはアルフレッド・ライオンがブルーノートで最後に強力に売り出そうとしたジャズマンとして知られ、半年のあいだに5枚のリーダー作をたて続けにリリースするという強力はプッシュを受けて送りだされた。
 このようなブルーノートによる商業性を無視した強力なプッシュのしかたは、かつてのセロニアス・モンクの売り出し方を思わせ、新時代のセロニアス・モンクとして知られるようになったようだ。
 しかし、その後数年でライオンがブルーノートを去ってしまったこともあって、結局売り出しきれずに終わってしまったようだ。80年代にブルーノートが復活した時にも、ライオンがまず始めたことはアンドリュー・ヒルを再び売り出すことだったという。しかしそれも結局成功だったといえるのかどうか……。
 とにかく、このエピソードからおもに2つの事がわかる。

1、アンドリュー・ヒルはジャズファンから絶大な支持を受けるブルーノートの社長が夢中になるほどの、強烈な個性と魅力の持ち主である。

2、しかし、ジャズファンから絶大な支持を受けるブルーノートの強力なプッシュをもってしても、ジャズファンのあいだに浸透しなかったほどの、親しみにくく難解な個性の持ち主である。

 アンドリュー・ヒルとはそういう人だ。
 ただ、あまり難解だと言い過ぎると誤解を受けてしまうかもしれない。正直ぼくも最初の頃はなんだか良くわからず、優れているのかもしれないが、聴いていて気持ちのいい音楽とは思えなかった。しかし、あるきっかけで彼の音楽の魅力がわかってしまうと、こんどは難解でもなんでもなくなって、その味にハマってしまう人でもある。(思えば、ショーターだってそのようなタイプだ)
 そのため、今となっては個人的にはヒルの音楽を「難解」というのには抵抗がある。しかし、いまから聴き始める人にはやはり最初のうちは親しみにくいものに感じるのではないかと思うので、あえてそう書くことにする。
 ちなみにぼく個人がヒルの魅力がわかるようになったきっかけはボビー・ハチャーソンとのからみ、つまりハチャーソンの『Dialogue』(65) やヒルの『Judgment』(64) を聴くことによってだった。この入門のしかたはかなり有効ではないかとは思うが、誰にでもそうかどうかはわからない。



■アンドリュー・ヒル

 さて、アンドリュー・ヒルは1937年生まれで、ショーターより4歳年下、ジョー・ヘンダーソンと同い年にあたる。
 ヒルというと、なんだか高踏的で親しみにくい音楽を作る人という印象があるので、けっこういい家に生まれて子供の頃から音楽の英才教育を受けたような人なのかと思いきや、子供の頃は道ばたでアコーディオンを弾きながら歌をうたって、通行人にチップをもらって食いぶちを稼ぐような生き方をしていたという。
 ヒルの音楽の難解さは決して頭デッカチなものではなく、彼の身体から浸みだしたもののようだ。
 ぼくが聴いている限りでは最初の録音はローランド・カークの『Domino』などへの参加で、62年のこと。これ以前にも録音はあるらしいが、残念ながら未聴である。
 ブルーノートとの最初の出会いはジョー・ヘンダーソンの『Our Thing』への参加で、63年の9月のこと。この後10月にはハンク・モブレーの『No Room for Squares』へ参加、11月には初リーダー作『Black Fire』を録音している。この後サイドマンとしての参加作は少なく、ヒルがあまり新主流派の人という印象がないのは、一つには他の新主流派のミュージシャンとのサイドマンとしての共演が少ないからではないだろうか。これはハンコックが自己のリーダー作では新主流派的なアルバムはかなり少ないのに、サイドマンとしての活躍により、新主流派のイメージが強いのと対照的だ。

 ヒルはどのようなタイプのミュージシャンだろうか。
 まず、いうまでもなく、ヒルのアルバムのほとんど全ての曲がヒル自身のオリジナルであることからわかるとおり、作編曲者タイプのミュージシャンだ。
 いっぽう、ピアノ・トリオでヒルのピアノ演奏を聴かせるタイプのアルバムは、60年代のブルーノート時代には一枚もない。かならず4人以上の編成であり、それも後になるにしたがってメンバー編成が拡大していく傾向がある。
 ヒルは70年代以後はトリオやソロによるアルバムもいくつも作っているが、これは心境の変化なのか、あるいは思ったような編成のバンドで活動できてないためなのか、あるいは60年代のブルーノート時代のほうが会社の方針でホーン入りの編成を要求されていた時代だったのか、わからない。
 けれど、70年代のトリオやソロでの演奏を聴くと、ヒルはやはりピアニスト〜インプロヴァイザーとして聴いても充分に魅力的なミュージシャンだと思う。



■ヒルのブルーノート録音

 さて、ブルーノートの強力なプッシュを受けて、半年のあいだに5枚のリーダー作をたて続けにリリースするという快挙でシーンに登場してきたヒルだが、しかし、ブルーノートとヒルの蜜月時代はさほど長くは続かなかったようだ。その後、ライオンがブルーノートを去ったあたりからヒルのアルバムは録音してもリリースされずにオクラ入りにされるケースが増える。
 ヒルはその後も70年頃までブルーノートに録音するが、リアルタイムでリリースされたアルバムは少なく、当時を知る人によるとかなり存在感が薄かったらしい。  さて、しかしブルーノートの60年代にリアルタイムでは未リリースに終わっていた音源は、例によってマイクル・カスクーナらの手によって続々発掘・リリースされることになる。
 しかし、ヒルの場合、発掘・リリースのされ方が他のミュージシャンと比べて少しヘンだ。録音がアルバム単位でリリースされず、他のアルバムのCD化に際してまるごとボーナス・トラックとして収録されていたり(お徳で、うれしくはあるが)、サイドマンとして参加していたミュージシャンの未発表録音集に収録されていたり、わかりにくくなっている。
 2003年にリリースされた『Passing Ships』のライナーノーツによると、マイケル・カスクーナがブルーノートの「発掘」作業をすすめていた74年、カスクーナがアンドリュー・ヒルに会って、ブルーノートに録音した未発表のセッションはどれくらいあるのかと聞くと、ヒルはおぼえているだけで11のセッションがあると答えたそうだ。もっとも、いろいろやりにくかった67〜70年のセッションなんで、すべてが成功しているわけじゃないと付け加えたそうだが。(しかし、『Kind of Blue』だってマイルス本人にいわせれば失敗作。やはり、すべて聴いてみたいところだ)
 さて、しかし1974年以後、発掘・リリースされたヒルのブルーノート録音は合計しても11セッションには満たない。ということはまだブルーノートの倉庫には未発表のヒルの録音が眠っているようだ。
 そんな経緯からも推察されるが、結果的にヒルはそれほど商業的な成功には恵まれなかったようだ。先述したが、80年代にブルーノートが復活し、ライオンに返り咲いた時、しきりにヒルを売り込んでいたという話もある。ヒルをきちんと売り出せなかったことが、ライオンの一番の心残りだったようだ。


 さて、そんなわけでヒルの60年代のブルーノート録音はかなり変則的なリリースのされかたをしていて、わかりにくい。そこでここでは、60年代のブルーノートへの録音は、未入手・未聴のものを含めて、とりあえずこちらでわかっているデータは全て記してみた。







   ■アルバム紹介

(ヒルのブルーノートにおける録音については、かなり変則的なリリースのされかたをしているものがある。アルバムまるごと一枚ぶんが別アルバムのCD版のボーナス・トラックとしてリリースされたり、別人の名義でリリースされたり……。そのため、未入手のものを含めて、情報がわかっている限りは記しておいた)


                                             
Dave Shipp "Romping/Let's Live" 1954 (Vee Jay)
Andrew Hill "So in Love" 1955 (Warwick)
Johnny Hartman / Andrew Hill 1961 
Roland Kirk "Domino"  1962 (Mercury)
Walt Dickerson "To My Queen" 1962 (New Jazz)
Jimmy Woods "Conflict" 1963 (Contemporary)
Joe Henderson "Our Thing" 1963 (Blue Note)
Hank Mobley "No Room For Squares" 1963 (Blue Note)
Andrew Hill "Black Fire"  1963.11 (Blue Note)
Andrew Hill "Smoke Stack"  1963.12 (Blue Note)
Andrew Hill "Judgment!"  1964.1 (Blue Note)
Andrew Hill "Point of Departure"  1964.3 (Blue Note)
Andrew Hill "Andrew!" 1964.6 (Blue Note)
Andrew Hill "One for One" 1965/ 69/ 70 (Blue Note)
Andrew Hill "Pax" 1965.2.10 (Blue Note)
Andrew Hill "Compulsion" 1965.10 (Blue Note)
Sam Rivers "Involution" 1966.3 (Blue Note)
Andrew Hill "Grass Roots"  1968.4/ 8 (Blue Note)
Andrew Hill "Dance with Death" 1968.10 (Blue Note)
Andrew Hill "Lift Every Voice"  1969.5/ 70.3 (Blue Note)
Andrew Hill "Passing Ships"  1969.10 (Blue Note)
Andrew Hill "Invitation"  1974.10 (Steeple Chase)
Andrew Hill "Spiral" 1974,75 (Freedom)
Andrew Hill "Blue Black" 1975.2.26 (East Wind)
Andrew Hill "Hommage"  1975.5/ 7 (East Wind)
Andrew Hill "Divine Revelation" 1975 (Steeple Chase)
Andrew Hill "Live at Montreux" 1975 (Freedom)
Andrew Hill "Nefertiti"  1976.1 (Inner City)
Andrew Hill "From California with Love" 1978 (Artists House)
Andrew Hill "Faces of Hope" 1980.6 (Soul Note)
Andrew Hill "Strange Serenade"  1980.6 (Soul Note)
Andrew Hill "Shades" 1986 (Soul Note)
Andrew Hill "Verona Rag"  1986.7 (Soul Note)
Andrew Hill "Eternal Spirit" 1989.1 (Blue Note)
Andrew Hill "But Not Farewell"  1990.7/ 9 (Blue Note)
Russell Baba "Earth Prayer" 1992 (Ruba Music)
Reggie Workman "Summit Conference" 1994 (Postcards)
Andrew Hill "Les Trinitaires" 1998.2   (Jazz Friends)
Greg Osby "Invisible Hand"  1999.9 (Blue Note)
Andrew Hill "Dusk"  1999.9-10 (Palmetto)
Andrew Hill "A Beautiful Day"  2002.1 (Palmetto)
Andrew Hill "The Day the World Stood Still"  2003 (JAZZPAR)
Andrew Hill "Time Lines"  2005.6-7 (Blue Note)

















  ■Hank Mobley『No Room For Squares』       (Blue Note)

   Lee Morgan (tp) Hank Mobley (ts) Andrew Hill (p)
   John Ore (b) Philly Joe Jones (ds)      1963.10.2

 アンドリュー・ヒルがリーダー作のリリース前にブルーノートでサイドマンとして録音した数少ないアルバムのうちの一枚。
 このアルバムのCD版には二種類の編集のものがある。オリジナルLPの編集に従って同じ63年の3月7日と10月2日の二つのセッションから編集されているものと、10月2日のセッションのみを全て収録したものとだ(後者の場合、3月7日のセッションは『Straight No Filter』(これも二種類の編集がある)にまとめられている)。どちらにしろ、ヒルが参加しているのは10月2日のセッションのみだ。このセッションは薬物中毒の治療のため一時期故郷へ帰っていたリー・モーガンの復活第一作の録音ともなっている。
 モブレーは同じテナー奏者とはいってもショーターとは別ジャンルの人のように感じていたのだが、考えてみれば同じレスター・ヤング派であり、同郷の3歳先輩ということで、プライベートでも親しかったらしい。考えてみればメッセンジャーズとマイルス・バンド両方の先任者でもある。
 そのモブレーがマイルス・バンドを離れた後の最初期の録音がこの63年の二つのセッションである。意識して聴き比べてみると3月7日のセッションはマイルス・バンド加入前の『Soul Station』(60) 『Roll Call』(60) 『Work Out』(61) 『Another Workout』(61) といった代表作の雰囲気そのままの雰囲気の演奏なのだが、10月2日のセッションのほうはあきらかに違う響きがある。一言でいえば、モブレーが新主流派に挑戦し、ショーターを意識した演奏をしているように聴こえる。
 一体、モブレーにそういう気があったのかというと、おそらく他のメンバーに影響されやすいモブレーのことだから、ヒルの演奏に影響されて無意識のうちにこうなったというのが真相のような気がする。そういった意味でヒルの存在感が大きいアルバムだと思う。
 それにしても、このアルバムの表題曲はCDにボーナス・トラックで入っている別テイクのほうがずっと緊張感があっていい演奏だと思うのだが、なぜLPにはこっちが採用されなかったのだろう。



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  ■Andrew Hill『Black Fire』       (Blue Note)

   Joe Henderson (ts) Andrew Hill (p)
   Richard Davis (b) Roy Haynes (ds)  1963.11.8

 いわずと知れたアンドリュー・ヒルのブルーノートでの初のリーダー作。ジョー・ヘンダーソンを入れたカルテット編成と、トリオによる演奏が収録されている。
 ブルーノートからの第一作でもあり、内容も良いところから代表作としてあげられることも多いアルバムで、入手もしやすいのだが、個人的にはヒルを最初に聴く人にはこのアルバムは勧めない。理由は親しみにくいからだ。
 ヒルとジョーヘンの二人が揃うと黒く攻撃的な部分が増強される気がする。そういう意味では最高の共演者といえるのだが、ジョーヘンでも彼の攻撃的な面がよく出たアルバムより案外本来の味が出ていない『Page One』(63) のほうが人気作になってたりするくらいで、初心者には内容が濃すぎてかえって拒絶反応をおこしてしまうかもしれない。
 いっぽうのトリオ演奏のほうも、ヒルのピアノは個性が強すぎて、普通のピアノ・トリオのようには聴けない。慣れてくるとその独自の味がたまらなくなってくるのだが、最初のうちはなんだかギクシャクしてうまいピアノじゃないと思っていた。
 そんなわけで、内容は素晴らしいのだが、いきなりこれから聴かず、ハチャーソンとの共演盤など別のアルバムを聴いてヒルの魅力を理解してから聴いたほうがいいアルバムだと思う。




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  ■Andrew Hill『Smoke Stack』       (Blue Note)

   Andrew Hill (p) Eddie kahn, Richard Davis (b)
   Roy Haynes (ds)            1963.12.13

 ピアノ・トリオにベースをプラスしたカルテット。この時期のヒルの作品としては、いちばんピアノ・トリオに近いというか、ヒルのピアニストとしての演奏にスポットをあてた作品だろう。
 ぼくはブルーノートの諸作からヒルを聴きはじめたので(手に入りやすかったからだ)、このアルバムもわりと最初のほうに聴いて、あまり良い印象がなくて放っておいた。その後、70年代のピアノ・トリオ作品などを聴いて、ヒルのピアノ演奏の魅力に気づいてから、そういえば……という感じで引っぱりだしてきて聴いて、あまり良いので驚いたアルバムである。
 思うにヒルのピアノ演奏というのは、ふつうにジャズを聴いてきた人間が一聴して「うまい」とか「いい」とか思う演奏ではないと思う。流麗で美しい演奏ではなく、どこかギクシャクした妙なクセがある。その魅力を理解すると今度はその味が忘れられなくなってハマるのだが、そこまでにはワン・クッションある気がする。
 このアルバムはツイン・ベースでリズムが複雑になり、ベースとピアノの対話的な演奏が聴けるところがミソなのだが、そのために普通のピアノ・トリオよりハードルが高くなっている気がする。そのハードルを越えてしまうと今度はこのツイン・ベースという仕掛けがおもしろくて仕方なく、もっとこの編成でアルバムを作ってほしいと思うのだけど。
 ハードボイルドな愁いのある "30 Pier Avenue" など、曲もいい。




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  ■Andrew Hill『Judgment !』    (Blue Note)

   Bobby Hutcherson (vib) Andrew Hill (p)
   Richard Davis (b) Elvin Jones (ds)  1964.1.8

 録音順からいうと3作め、リリース順からいうと2作めにあたるヒルのソロ作。ボビー・ハチャーソンを入れたカルテットだ。
 ヒルとハチャーソンとの組み合わせがは最高だと思う。この二人がカルテットで演奏した本作は個人的にヒルのアルバム中もっとも好きなのはものの一つだ。
 ヒルとジョーヘンの組み合わせが、ヒルの攻撃的でゴツゴツした面をより強く引き出すとすれば、ヒルとハチャーソンとの組み合わせは、ヒルの叙情的でシュールな面をより強く引き出しているように思う。とくにピアノ・トリオにハチャーソンを入れただけの編成の本作は、聴いているとまるで見知らぬ奇妙な街に迷い込んでしまったような気分にさせられる。ハチャーソンの透明なヴァイヴがつくりだす奥行きのなかに、すうっと吸い込まれてしまいそうだ。
 ヴィブラホーンという楽器はピアノのバッキングにもまわれるので、この二人が互いに前に出たり後ろに回ったりしながら、濃密な会話を交わしているのも聴きどころだ。
 ドラムは前2作のロイ・ヘインズからエルヴィン・ジョーンズに変わり、リチャード・デイヴィス〜エルヴィンのリズム・セクションはもちろんコルトレーン・カルテットの顔ぶれ。本作が録音された64年はコルトレーンの『至上の愛』やショーターの『Night Dreamer』などが録音された年で、エルヴィン・ジョーンズはじめコルトレーン・バンドのメンバーはまさに時代の最先端を行っていた年だった。




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  ■Andrew Hill『Point of Departure』      (Blue Note)

   Kenny Dorham (tp) Eric Dolphy (as,fl,bcl) Joe Henderson (ts)
   Andrew Hill (p) Richard Davis (b) Tony Williams (ds)  1964.3.31

 ヒルとしては初めての大編成、3管の6人編成による作品だ。
 おそらく一般的にもっとも有名なヒルのアルバムといえば、このアルバムではないか。メンバーの顔ぶれを見ただけで、ほとんどオールスター・セッションかと思う。単純にいってこれほどのメンバーが揃ったアルバムというのは、ブルーノートでもそうないだろう。特にエリック・ドルフィー、ジョー・ヘンダーソン、トニー・ウィリアムスの三人が共演しているアルバムなんて……。
 そんなわけで、実はぼくも最初に聴いたヒルのアルバムはこれだった。エリック・ドルフィーめあてで聴いたのである。ご存知のようにドルフィーはサイドマンとしての参加でも主役と思うくらいの活躍をする人で、そのようなドルフィーの演奏を期待して聴いたのだが、その期待はハズレだと思った。ドルフィーらしくないと感じたのである。つまりヒルの色が濃すぎ、その頃のぼくはヒルの魅力がわからなかったので、なんだか親しみにくい異様な音楽に聴こえ、そのまま聴かなくなってしまった。
 その後、ヒルの魅力がわかってからまた聴いたのだが、不思議なもので今度はドルフィーの色が濃くてヒルらしさがもう一つない演奏のように聴こえてしまった。
 考えてみると、どうもそれはトニー・ウィリアムスの存在が原因である気がする。ヒルとトニー・ウィリアムスの相性って、そんなに良くないんじゃないかと思うのだ。ヒルのリズムへの嗜好はトニーのように滑らかにスピーディーに疾走していく感じではないと思う。もっとギクシャクと動いていく感じで、前作のエルヴィン・ジョーンズやその前のロイ・ヘインズのほうが合っている。いっぽうドルフィーとトニーは『Out to Lunch』のわかるとおり息の合った演奏をみせる。
 このドルフィー〜トニーの顔ぶれと、ヒル〜リチャード・デイヴィス〜ジョー・ヘンダーソンというこれまでのヒルの顔ぶれとが微妙なバランスで共存しているのが本作の演奏のような気がする。
 そんなわけで、個人的にはどことなくミスマッチ感もかんじる本作なのだが、ほんらいヒルとドルフィーの相性は良いような気がする。これでドラムがロイ・ヘインズあたりだったら、もっと一体感のある演奏になっていたかもしれない。




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  □Andrew Hill『Andrew!!!』      (Blue Note)

   John Gilmore (ts) Bobby Hutcherson (vib) Andrew Hill (p)
   Richard Davis (b) Joe Chambers (ds)  1964.6.25

 これはリアルタイムでリリースされたアルバム。
 残念ながら未入手・未聴。




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  □Andrew Hill『One for One』(Cosmos)    (Blue Note)

   Freddie Hubbart (tp) Joe Henderson (ts) Andrew Hill (p)
   Richard Davis (b) Joe Chambers (ds)  1965.2.10

   Bennie Maupin (ts,fl,bcl) Andrew Hill (p)
   Ron Carter (b) Ben Riley (ds) with String Quartet   1969.8.1

   Charles Tolliver (tp) Pat Patrick (as,fl,brs) Bennie Maupin (ts,fl,bcl)
   Andrew Hill (p) Ron Carter (b) Ben Riley (ds)  1970.1.16/ 23

 これは2枚組LPの未発表録音集として世に出た音源。
 3つのセッションが収められているが、うち65年のセッションはLP一枚ぶんがまるごと収録されている。これはフレディ・ハバードとジョー・ヘンダーソンの2管にジョー・チェンバースのドラムが加わったクインテットで、この豪華なメンバーを見ただけでも聴きたくなる。
 69年と70年の2つのセッションはLPの片面づつの収録されている。これはもともとその分量しか録音されなかったんだろうか。それとも、ともにアルバム1枚分の録音がある中から抜粋されたものなんだろうか。わからない。
 編成は、69年のセッションがベニー・モーピンを含むカルテットにストリングス・カルテットをプラスした編成。70年が3管のセクステットだ。

 残念ながら未入手・未聴。


★この二枚組みのうち、1965年2月10日のセッションが『Pax』というタイトルでCD化された。残る二つのセッションもCD化してほしいものだ。(06.9.1)



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  ■Andrew Hill『Pax』(Cosmos)    (Blue Note)

   Freddie Hubbart (tp) Joe Henderson (ts) Andrew Hill (p)
   Richard Davis (b) Joe Chambers (ds)    1965.2.10

 以前『One for One』というタイトルで2枚組LPの一枚として出ていたものが、同一セッションの録音2曲を加えて(一曲は別テイク)全7曲としてCD化されたもの。加えられた2曲もモザイクのボックスには入っていたようで、未発表というわけではないのだが、やはりこのように一枚のCDとして入手しやすいかたちで出てくれたことをよろこびたい。(なお、2曲はピアノ・トリオのみによる演奏)
 さて、このセッションはメンバーが豪華だ。ハバード、ジョーヘンの2管をフロントに、ドラムはジョー・チェンバース、ベースはいつものリチャード・デイヴィスという編成で、『Black Fire』にハバートを加えてドラムを変えた編成ともいえるし、ハチャーソンの『Dialogue』のメンバーをサックスを変えて、ハチャーソンを抜いた編成ともいえる。
 だいたいヒルとジョーヘンが揃うとヒルの攻撃的な面が突出するのだが、本作でもそのとおりで、ヒルの硬派で攻撃的な部分が出た演奏といっていいだろう。そのぶん取っつきにくいところはあるのだが、そこに緩衝剤として入ってくるのがハバートの存在で、彼のなめらかで華やかなトランペットが演奏を親しみやすい方向へかどうじて引っ張ってきてくれる。
 個人的にはハバートは60年代前半が最高とおもっているので、このあたり、ハバートのいちばんいい時期の真摯な演奏をとらえたものとしても聴くことができる。
 もちろん、ヒル〜ジョー・チェンバースのコンビネーションも素晴らしい。

06.9.1



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  □Andrew Hill『Compulsion』      (Blue Note)

   Freddie Hubbard (tp) John Gilmore (ts,bcl) Andrew Hill (p)
   Richard Davis, Cecil McBee (b) Joe Chambers (ds)  1965.10.3

 これはリアルタイムでリリースされたアルバムのようだ。
 残念ながら未入手・未聴。




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  □Sam Rivers『Involution』      (Blue Note)

   Sam Rivers (ts) Andrew Hill (p)
   Walter Booker (b) C.J.Moses (ds)   1966.3.7

 もともとヒルのリーダー・セッションとして録音され、レコード・ナンバーまでふられながら未リリースに終わっていたものが、後にサム・リバースのリーダー名義のLP2枚組未発表録音集『Involution』のうちの1枚として発掘、リリースされたもの。
 したがって、この『Involution』にはもう一枚、サム・リバースのリーダーセッションも入っているが、こちらの66年3月のセッションのほうは、実際はヒルのリーダー・セッションであり、リバースはサイドマンとして参加したものある。

 残念ながら未入手・未聴。




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  ■Andrew Hill『Grass Roots』     (Blue Note)

  Lee Morgan (tp) Booker Ervin (ts) Andrew Hill (p)
  Ron Carter (b) Freddie Waits (ds)      1968.8.5

  Woody Shaw (tp) Frank Mitchell (ts) Andrew Hill (p) Jimmy Ponder (g)
  Reggie Workman (b) Idris Muhammad (ds)   1968.4.19

 この『Grass Roots』(68年8月のセッション)はリアルタイムでリリースされた。ヒルのアルバムでは『Compulsion』(65) 以来のリアルタイム・リリースとなる。
 この『Grass Roots』のCD版には、アナログ盤に収録されていた5曲のほか、68年4月19日のセッションの5曲(まるまるアルバム1枚分)がボーナス・トラックとして収録されている。この68年4月のセッションはこれ以前にリリースされていないのでアルバム・タイトルはないが、実質的にこのCD版は 2LP in 1CD のかたちとなる。
 また、4月19日のセッションのうち3曲は4ヶ月後の『Grass Roots』のセッションで再び取り上げられている。多分早い段階でオクラ入りが決まり、ヒルは同一曲を再び取り上げたのではないかと思う。しかし、同じ曲といってもメンバー編成は全員異なるので、単なる別テイク以上の興味を持って聴ける。
 さて、この2つのセッションを聴き比べてまずわかることは、オクラ入りされた4月19日のセッションのほうがよりヒルの個性が強く出ていて、味わいが濃いことだ。
 8月5日の『Grass Roots』のほうは、むしろファンキー・ジャズに近い内容で、60年代はじめにショーターがモーガンとともにいた頃のメッセンジャーズなどと近い雰囲気がある。良くいえばヒルの新境地ともいえるのだが、正直にいえばヒル独特の個性は薄い。冒頭の "Grass Roots" はスムーズでノリのいい4ビートで、従来のヒル作品のようなリズムの工夫がない。4月19日のセッションとダブる3曲も、聴き比べてみると、よりヒルのバッキングが抑えられて、普通のリズムになっている。
 とはいえ、モーガン〜ブッカー・アーヴィンのフロントは迫力あるソロをとっていて、ファンキー・ジャズの一種だと思ってしまえば名演とはいえる。けれども、いかにもヒルらしくない。
 これはヒル自身の意志によって路線変更が図られたんだろうか? それとも、これまでのヒルのアルバムの売り上げがおもわしくないことから、ブルーノート側からの指示でこっちの方向性からの突破を図ろうとしたんだろうか? 8月5日の『Grass Roots』が先にリリースされた事から考えればブルーノート側の指示だったような気もするが、4月19日のセッションでもジミー・ポンダーを加えて、とくに "Soul Special" ではポンダーのR&B的なギターが活躍するところなど、ヒル自身がより黒っぽい方向を目指してたような気もする。
 どうであれ、個人的にはやはり、よりヒルの個性が強く出た4月19日のセッションのほうが好きだ。とくにヒル的な異様なリズムに満ちた" MC" あたり本作の白眉ではないか。フロント陣ではウディ・ショウがヒルとの相性も良く、見事なソロをとっている。




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  ■Andrew Hill『Dance with Death』        (Blue Note)

    Charles Tolliver (tp) Joe Farrell (ts,ss) Andrew Hill (p)
    Victor Sproles (b) Billy Higgins (ds)     1968.10.11

 これはオクラ入りの後、発掘、リリースされたアルバム。
 これはヒルのアルバムのなかでもとくに親しみやすい、優れた内容の演奏だ。トリバー〜ファレルの力強くない、むしろ柔らかなフロント陣が、ヒルの硬質の音楽を舌ざわりのいい滑らかなものにしている。曲もメロディアスで親しみやすいものがそろっている。フロント陣の演奏のせいでそう感じられるのだろうか。とくに、冒頭の哀愁のある "Yellow Violet" はヒルのオリジナルのなかでも印象的でヒル入門者にも親しみやすいものではないだろうか。
 最初にメンバーを見て気になったのはビリー・ヒギンズの存在だった。ぼくはこの人の対話性のない単調なドラムが嫌いなのだが、意外なことにここでは対話性のある、ヒギンズらしくないドラムを叩いていて、けっこう良い。個人的にはオーネット・コールマンのバンドでの演奏と並べて、評価のできる数少ないヒギンズの演奏だった。この人、オーネットやヒルのようなタイプの人だと燃えるのだろうか。それともヒルに何か言われてこのような演奏をしたのだろうか。
 難をいえばスケールの大きさが感じられないことや、ヒルの攻撃的な部分が出ていないところだろうが、このような親しみやすい小傑作というべきアルバムもあってもいいとおもう。これはこれで充分魅力的だ。




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  ■Andrew Hill『Lift Every Voice』     (Blue Note)

    Woody Shaw (tp) Carlos Garnett (ts) Andrew Hill (p)
    Richard Davis (b) Freddie Waits (ds) Lawrence Marshall (voice dir.)  1969.5.16

    Lee Morgan (tp) Bennie Maupin (ts,fl,bc) Andrew Hill (p)
    Ron Carter (b) Ben Riley (ds) Lawrence Marshall (voice dir.)   1970.3.6 / 13

 この『Lift Every Voice』(69年5月のセッション)は『Grass Roots』(68) 以後のブルーノート録音の中では唯一リアルタイムでリリースされたヒルのリーダー作。
 この『Lift Every Voice』のCD版にも、『Grass Roots』と同じく、まるまるアルバム1枚分のボーナス・トラックが収録されている。70年3月のセッションだ。このセッションはこれ以前にリリースされていないのでアルバム・タイトルはないが、このCD版も実質的に 2LP in 1CD のかたちとなる。
 収録曲は全部異なるので、別のアルバムとしてリリースする予定で録音したままオクラ入りになっていたのだろう。メンバー編成は両セッションとも同じく、2管クインテットにコーラスをプラスした編成である。
 さて、両セッションに共通するコーラス付きのジャズというのが、当時のヒルの試みだったようだ。多人数で声を揃えるコーラスはとうぜん編曲によって行うものであり、ジャズに編曲性をとりいれようとする試みだったのかもしれない。2管クインテットで演奏しているテーマ部やソロの途中で時々コーラスが装飾のように入ってくるというかたちになるのだが、個人的にいわせてもらえばコーラスがうるさい。コーラス抜きでも演奏が成立しているのに余計な音がかぶさってくる印象を感じてしまう。もちろんコーラス付きのジャズというのをうまく生かす方法もあるのだろうが、ここではそれは成功しているようには思えない。
 さらに編曲性を感じるのはリズム・セクションだ。ジャズっぽい対話性のあるリズムではなく、むしろロックやファンクに近いような、一定のリズムをくり返していくノリを重視したリズムになっている。マイルスの『Biches Brew』あたりの影響と言ってしまいたくなるが、録音はこのアルバムの5月16日のセッションのほうが先である。たぶんジャズ界全体が方向性を見失い、ロックやファンクなどの要素をとりいれるための試行錯誤をくり返していた時代なんだろうと思う。
 なお、結果的に 2 in 1になり、一方のセッションにウディ・ショウが、一方にリー・モーガンが参加しているというのは『Grass Roots』と同じになった。両セッションの傾向の違いも『Grass Roots』と同じで、モーガン参加のセッションのほうがより黒っぽくファンキーだ。時々かぶさるコーラスが気にならなければ演奏の質は高い。
 なお、70年の3月のセッションは現在リリースされているかりぎでいえば、ヒルのブルーノートにおけるラスト・セッションとなる。




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  ■Andrew Hill『Passing Ships』     (Blue Note)

    Woody Shaw, Dizzy Reece (tp) Julian Priester (tb)
    Bob Northern (French Horn) Howard Johnson (tuba,bcl)
    Joe Farrell (ss,ts,afl,bcl,English Horn)
    Andrew Hill (p) Ron Carter (b) Lenny White (ds)  1969.10.7/ 14

 じつに30年以上の時を経て2003年にようやくリリースされたセッション。6管の9人編成というのは小規模なビッグ・バンドというべきだろう。
 こういう比べ方は良くないと思うのだが、どうしたってリリース時期からして直前にリリースされたヒルの30数年後のビッグバンドによるアルバム『A Beautiful Day』(2002) と比べてしまうだろう。そうなると編曲で縛らずに集団即興風の自由さをとりいれた『A Beautiful Day』に比べて、本作はガッチリ編曲された普通のビッグ・バンドかなという印象を受けてしまう。
 もっとも人数が少ないので、普通のビッグバンドに比べればソロの比重がおもく、アンサンブルの比重が少ない、スモール・コンボ的な感覚で聴けるビッグバンドだとはいえる。
 けれど、どうなんだろう。個人的にはビッグバンドがそれほど好きでないせいもあって、特に勧めようという気はしないアルバムだ。とくに欠点があるわけでもないのだけど。




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  ■Andrew Hill『Invitation』          (Steeple Chase)

      Andrew Hill (p) Chris White (b) Art Lewis (ds)   1974.10

 復帰作である。
 ヒルはブルーノートに70年まで録音していたので、4年ぶりの復帰ということになるが、リアルタイムで聴いていた人の話によると、ブルーノート後期のヒルはオクラ入りも多く、ほとんど話題も聞かれない状態だったので、ほんとうに久しぶりの復帰という印象だったらしい。しかし、この年から80年までに10枚のアルバムを次々に録音していくので、トータルで見るとそんなに寡作ともいえない時代なんだが。
 60年代のヒルはピアニストというよりも、作編曲を含めてホーン入りのグループ全体のサウンドで音楽を表現するタイプだったといえるが、70年代のヒルは一転してトリオやソロなど、ヒルのピアノ演奏を聴かせるタイプの作品が多くなる。それはヒルの心境の変化が理由なのか、もしくはこの時代のヒルは共演者に恵まれず、自己のピアノだけで何とかするしかなかったのか、わからない。
 どちらにしろ、この時代のヒルのピアノ演奏は魅力的だと思う。ぼくはこの頃のヒルのアルバムを聴いて、ヒルのピアニストとしての魅力に目覚めた。どうも、そのジャズマンのピアニスト=インプロヴァイザーとしての個性・魅力をみるには、トリオなど、誰もがやっている普通の編成でどれだけ魅力的な演奏ができるのかを聴くのがわかりやすい気がする。
 このアルバムはトリオによる演奏で、それもピアノが主となって伴奏にベースとドラムが付くという、伝統的なスタイルの、いわば普通のピアノ・トリオだ。そのためヒルらしい工夫や野心が感じられないともいえるが、やはりこのような演奏がジャズ・ピアニストの演奏の魅力を聴く入口としては最適のような気もする。




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  □Andrew Hill『Spiral』          (Freedom)

   (2),(3),(6)
   Ted Curson (tp,flh) Lee Konitz (ss,as)  Andrew Hill (p)
   Cecil McBee (b) Art Lewis (ds)

   (4)
   Lee Konitz (ss,as)  Andrew Hill (p)

   (1),(5),(7)
   Robin Kenyatta (as)  Andrew Hill (p)
   Stafford James (b) Barry Altschcul (ds)
                  1974.12.20 / 1975.1.20

 sanromio/井上さんからメールで情報提供していただいたので、クレジットだけ記しておく。
 上記のとおり、2つのセッションから成り、一つはリー・コニッツ、テッド・カーソンを含むクインテットで、一曲のみコニッツとのデュオ。もう一つはワン・ホーンによるカルテットのようだ。
 コニッツとの共演は意外性があって聴いてみたいところ。チャールズ・ミンガスの『Mungus Present MIngus』でのエリック・ドルフィーとの共演が印象にのこっているテッド・カーソンとの共演も興味をひかれる。もう一つのカルテットのほうの共演者は申し訳ないが知らない人ばかりだ。
 未入手、未聴。

06.6.17



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  ■Andrew Hill『Blue Black』          (East Wind)

      Jimmy Vass (ss,as,fl)  Andrew Hill (p)
      Chris White (b) Leroy Williams (ds)    1975.2.26

 サックス入りのカルテットによる作品。メンバーはあまり聞かない名前ばかりだが、どうもこれは当時のヒルのレギュラー・バンドらしい。そのため聴いてみるとバンドとしてまとまりがあり、思いのほか質の高い演奏を繰り広げている。この時期のヒルはトリオやソロの録音も多いのだが、レギュラー・バンドとなるとトリオよりサックスなどが入った編成を好んでいたこともわかる。
 収録曲のなかでまず目につくのは4曲めの "Blue Black" で、一種のファンクというのか、不思議なリズムをもった曲である。あるいはフュージョン全盛の時代の流れにヒルなりに合わせた曲なのかもしれないが、これまでになかったタイプの曲でおもしろい。
 そのほか哀愁味を帯びた静かなミディアム・テンポの1、2曲めなどヒルの叙情的な面もよく出ていて、急速曲の3、5曲めがシメている印象。全体的にヒルにしては親しみやすい内容で、ブルーノート時代のような名手どうしが出会ったことによる高い緊張感はないが、普段着のヒルの音楽がカルテット編成で聴けるアルバムといっていいだろう。ブルーノート時代のヒルがとっつきにくいと感じる人は、このへんから入っていくのもいいかもしれない。


07.1.24



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  ■Andrew Hill『Hommage』          (East Wind)

      Andrew Hill (p)    1975.5.19-20/ 7.31

 ヒルの最初のソロ・ピアノによる作品。そのためか本作はヒルの作品のなかではわりと有名らしく、ときどき紹介されているのを見かけることがある。が、個人的にはヒルのソロ・ピアノ作のなかでは愛聴しているものではなく、特に優れたものでもないような気がする。ソロ・ピアノに慣れてないせいなのか、わざと狙ったのかはわからないが、間があきすぎで音楽のグルーヴ感がなく、言葉が切れ切れな印象だ。
 ただ、凄いのは時どきみせる強烈なタッチで、ピアノが親の敵! かと思うほどに腕力で鍵盤を叩きつけてくる。そこを含めて、なんとなくヒルがもっともセロニアス・モンクに近づいたアルバムのような気もする。




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  ■Andrew Hill『Nefertiti』           (Inner City)

      Andrew Hill (p) Richard Davis (b) Roger Blank (ds)   1976.1.25

 個人的にとくに愛聴しているアルバムの一つだ。単純にヒルのピアノ・トリオを聴きたいと思ったとき、本作を取り出すことが多い。
 本作録音時、ヒルはリチャード・デイビス〜エルヴィン・ジョーンズという共演者を希望したらしい。『Judgment』(64) のときのリズム・セクションだ。しかしエルヴィン・ジョーンズの都合がつかず、上記のロジャー・ブランクという人が叩くことになったのだそうだ。けれど、このブランクというドラマーは良く知らないのだが、なかなかエルヴィン・ライクなドラミングを見せ、ヒルの希望どおりのデイビス〜エルヴィンとのトリオっぽい演奏を聴かせてくれる。
 冒頭、ソロ・ピアノによる演奏が続き、満を持したようにベース〜ドラムが入ってくるところが快感で、ソロ・ピアノによる録音も経験したヒルが、ソロだけでも充分に音楽を表現する自信をつけつつ、トリオによっても対話的演奏を繰り広げる自信もつけてきた感じを受ける。60年代には作編曲者型の印象もあったヒルが、ここにきて演奏のみでも充分に自分の世界を創れる自信をつけてきたかんじだ。




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  ■Andrew Hill『Faces of Hope』      (Soul Note)

      Andrew Hill (p)     1980.6

 前衛的な雰囲気のソロ・ピアノ作品だ。良くいえば思索的で実験的。悪くいえば、音楽になる以前の練習風景の録音をただ聴かされているかんじ。少なくともヒルの初心者は手を出すべきではないだろう。
 では、ヒルの音楽を理解した人間なら楽しめる作品なのかというと……、どうなんだろう。少なくともぼくはこれを楽しめる段階まで至ってないようだ。




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  ■Andrew Hill『Strange Serenade』        (Soul Note)

    Andrew Hill (p) Alan Silva (b) Freddie Waits (per)   1980.6

 ピアノ・トリオだが、録音的にベースが前に出ている。そのためかベースが演奏全体に強い影響力をもっているのだが、このベーシストがよくわからない。15分におよぶ1曲めと2曲めでは不定形なベースラインや弓弾きを多用して演奏自体がフリーっぽくなるのだが、3曲め以後はうってかわって伝統的なウォーキング・ベースになる。ヒルの作風からすれば、1〜2曲めはフリーすぎ、3曲め以後は伝統的すぎる気がする。
 録音も音がこもってるかんじで良くなく、なんとなく安っぽい作りに思える。個人的にはピンとこない一枚だ。




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  ■Andrew Hill『Verona Rag』        (Soul Note)

      Andrew Hill (p)      1986.7

 80年代も前半はヒルはアルバムの録音はせず、後半に入って次々にアルバムを録音していく。これ以後、現在に至るまでヒルのアルバムはどれも充実しており、ハズレは一枚もない。
 このアルバムはヒルのソロ・ピアノ作品のなかでもとくに愛聴しているものの一つで、ポップで親しみやすいのがその理由だ。全5曲中2曲は有名スタンダードであり、オリジナルも透明でロマンティックな "Retrospect"、楽しげな "Verona Rag"、哀愁味のある "Tinkering" と親しみやすい曲が揃っている。ピアノの響きも詩的で美しく、一瞬これがヒルかと思うほど親しみやすい。とはいっても、ヒルのこと、ポップといっても甘ったるい通俗性には陥らず、適度の硬度があるのがいい。
 ヒルの作品のうち、とりあえず親しみやすいヒルの演奏が聴けるものを、という人にはこのアルバムをすすめたい。




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  ■Andrew Hill『Eternal Spirit』            (Blue Note)

     Greg Osby (as) Bobby Hutcherson (vib)
     Andrew Hill (p) Rufus Reid (b) Ben Riley (ds)     1989.1.30-31

 80年代に伝説のレーベル、ブルーノートは復活する。アルフレッド・ライオンはヒルを売り出そうとして、売り出しきれないまま60年代のブルーノートを離れたことが一番の心残りだったそうで、復活したブルーノートでヒルのアルバムが作られることになる。本作はその一作めだ。
 メンバーは当時 M-Base で名を上げていた新鋭のグレッグ・オズビーと、60年代に数多く共演をした相性の良いボビー・ハチャーソンをフロントにしたクインテットで、充実した顔ぶれだ。当然のように期待がかかるところなのだが、どうなのだろう。個人的には最初に一聴した感想は、小さくまとまってしまったかんじで、もう一つスケールの大きさが感じられなかった。期待が大きすぎたのだろうか。リズム・セクションの演奏が何となくハード・バップ的であるせいだろうか。
 とはいえ、何度か聴き返してみるとやはり味わいのあるいいアルバムだとは思えてきた。ハチャーソンとの相性はあいかわらず抜群だし、オズビーもいい部分を引き出されている感じだ。けれど、ヒルのアルバムのなかでは、60年代の諸作と比べても、わりに伝統的なジャズの雰囲気のアルバムだろう。これはこれでいいとは思うし、むしろ一般のジャズ・ファンには親しみやすいかもしれないとも思うのだけど。




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  ■Andrew Hill『But Not Farewell』         (Blue Note)

     Greg Osby (as,ss) Robin Eubanks (tb) Andrew Hill (p)
     Lonnie Plaxico (b) Cecil Brooks (ds)     1990.7.12-13/ 9.16

 ブルーノートからの二作めで、グレッグ・オズビー以外は全員違う顔ぶれの、やはりクインテットによる作品。ハチャーソンに変わってフロントに入ったトロンボーンのロビン・ユーバンクスはこの後デイヴ・ホランドのバンドで大活躍する人だ。
 さて、前作は期待が大きいだけに、ちょっと大人しすぎる気もないではなかったのだが(あれはあれで良作だとは思うけど)、これはそんな気持ちも吹っ飛ばす充実した傑作だ。  独特の透明で開放感のあるサウンドで、リズムセクションも自由に動きまわり、若いフロント二人も自由に対話しながら素晴らしい演奏を繰り広げ、バンドサウンド全体から新鮮な生命感をかんじる。
 さて、二作続けてフロントを勤めているオズビーだが、M-Base ではスティーヴ・コールマンの右腕的存在だそうだ。ぼくは M-Base はあまり聴いてないので何ともいえないのだが、同時期のデイヴ・ホランドのアコースティック・バンドでのスティーヴ・コールマンの演奏と本作のオズビーの演奏を聴き比べてみると、どうもぼくはサックス・プレイヤー=インプロヴァイザーとしてみた場合、むしろオズビーのほうがだいぶ優れているような気がする。それとも、これらの作品での名演はヒルに良い部分を引き出された結果なんだろうか。
 さて、しかし本作を最後にヒルはブルーノートから離れてしまう。なぜだ!




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  ■Andrew Hill『Les Trinitaires』  1998.2.10-11      (Jazz Friends)

     Andrew Hill (p) 

 ソロ・ピアノによるライヴ録音だが、録音はすごく良く、客席の雑音も聞こえないので、スタジオ録音の気分で聴ける。
 ヒルのソロ・ピアノのなかでも特に好きな作品だ。内省的で静かな、しかし重みと深みのある演奏で、円熟という言葉が似合いそうだが、少しも円くなってなく、あいかわらず尖っているところが良い。オリジナルのほかに "What's New" などスタンダードもとりあげているのだが、親しみやすいメロディを弾いても、あいかわらず言葉使いに硬質な癖があり、しかし底に深いロマンをかんじさせる。
 ヒルのソロ・ピアノをとりあえず一枚聴いてみたいという方には、いまのところ本作をすすめる。




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  ■Greg Osby『Invisible Hand』         (Blue Note)

     Greg Osby (as,cl) Gary Thomas (fl,afl,ts) Jim Hall (g)
     Andrew Hill (p) Scott Colley (b) Terri Lyne Carrington (ds)  1999.9.9-10

 89〜90年のヒルのブルーノート盤でフロントをつとめたグレッグ・オズビーとの再会セッションで、オズビーのブルーノートからのリーダー作にヒルが参加したもの。ヒルのサイドマンとしての参加はめずらしい。
 メンバーをみるとオズビー、ゲイリー・トーマス、テリ・リン・キャリントンという80年代に登場してきた顔ぶれと、ヒルとジム・ホールというベテランを組みあわせた編成である。
 内容はムードのあるバラード集で、コルトレーンの『バラード』やマイルスの『Kind of Blue』などと同じく、コーヒーかワインでも飲みながらじっくりと聴くのに適した内容だ。けれども、それらコルトレーンやマイルスのアルバムと比べると、ジャズというのは進化したんだなというのがわかる。本作のほうがずっと進んでいる。
 まずキャリントンの叩きだすリズムが素晴らしい。さざ波のような……というのか、複雑で自由な、それでいて少しも騒さくないドラミングで、80年代のショーター・バンドにいた頃よりずっと成長したのが感じられる。ぼくは普段あまり聴かないジム・ホールだが、このようなメンバーとのセッションにも妙にフィットしていてギターの青い音色は魅力的だ。それに、やはり何といってもヒルの存在が、演奏にムードだけに流れない硬質の深みをもたらしているとおもう。ヒルがいなかったら、もっと軟派なムード音楽的な雰囲気になってしまったのではないか。
 対するとオズビー〜トーマスのフロント陣は演奏にもう少し厳しさがあってもいいと思う。『バラード』でのコルトレーンのようにムードに流しすぎの気もする。




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  ■Andrew Hill『Dusk』           (Palmetto)

     Ron Horton (tp) Greg Tardy (ts,,cl,fl) Marty Ehrich (as)
     Andrew Hill (p) Scott Colley (b) Billy Drummond (ds)   1999.9.15/ 10.27

 本当に久々の、三管編成のラージ・コンボによる作品(2曲はソロ)。これも傑作だ。
 多管による演奏というと89〜90年にブルーノートで録音した2枚に続く作品だが、伝統的で穏やかな『Eternal Spirit』(89)、透明で開放感のある『But Not Farewell』(90) に対して本作はぐっと深みを増して重厚で底光りのする演奏となっている。
 特に冒頭の12分におよぶ表題曲は、ダークで静かでありながらゾクゾクするほどのスリルを感じる。ホーン奏者は申し訳ないが誰もよく知らないのだが、ヒルの個性に引っ張られてなのか、みんな深みのあるいいソロをとっている。
 ふつうのアコースティック・ジャズの編成ながらマンネリ化とは無縁な、年とともにぐんぐん内容を深めていくヒルの充実ぶりを伝えるアルバムだ。
 よく知らないのだが、この後、2002年の『A Beautiful Day』に本作のメンバーが顔を出しているところをみると、このメンバーでレギュラー・バンドとして活動していたのではないだろうか。ライヴ録音なども出てくれたらうれしいのだけれど。




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  ■Andrew Hill『A Beautiful Day』        (Palmetto)

    Andrew Hill Big Band   2002.1.24-26

 16人編成のビッグバンドによる作品。ライヴ・レコーディングだが、スタジオ盤のような気分で聴ける内容だ。
 ヒルのような作編曲者型のミュージシャン、とくにピアニストとなると、オーケストラやビッグバンドをやってみたいと思うのは自然なことのように思う。じっさい60年代末のブルーノートでは大編成による演奏も録音しているヒルだが、その後は少人数による録音ばかりとなり、このビッグバンドは念願だったんじゃないかと想像する。
 しかしここで聴かれるビッグバンド演奏は、ガッチリと編曲するのではなく、後期のギル・エヴァンスのように各奏者に自由に演奏させながら編曲していく、集団即興性をとりいれた編曲だ。
 メンバーは前作『Dusk』(99) のメンバーがドラムス以外全員参加している他は申し訳ないが知らない人ばかりだが、演奏の質は高い。何よりビッグバンドが編曲に縛られることなく自由に演奏している感じが魅力的だ。
 ぼくは普段ビッグバンドは好んで聴くほうではないので、買うときにはどうかな? と思ってたのだけど、一聴してそんな気持ちも吹っ飛び、この頃のヒルのアルバムはどれも良くてハズレがないのを実感した一枚だ。


06.4.7




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  ■Andrew Hill『Time Lines』        (Blue Note)

    Charles Tolliver (tp)  Greg Tardy (ts,cl,b-cl)  Andrew Hill (p)
    John Herbert (b) Eric McPherson (ds)   2005.6.23: 6.30: 7.18

 1990年の『But Not Farewell』以来、久々にブルーノートに戻って録音されたアルバム。クインテットによる演奏だが、ここでは『Dusk』(99) 以来のつきありになる Greg Tardy が良い。『A Beautiful Day』(02) のときも感じていたのだが、この人の演奏はだんだんエリック・ドルフィーに似てきたかんじがする。もちろんいい意味で。
 ヒルとドルフィーという組み合わせでは名盤『Point of Departure』が思い出されるが、トニー・ウィリアムズのスピーディーなドラムのもと緊密でクールな演奏が繰り広げられていた『Point of Departure』に対して、このアルバムは明るくのびやかで開放的な雰囲気で、そういうとヒルには似合ってないような気がするのだが、これが実に合っている。壊れかけた機械がガクンガクンいいながら動いているような、ちょっとホンキートンクなポリリズムの曲が多いのも特徴で、そこにからんでくる明るくのびやかな Tardy の音色との相性がいい。
 ヒルにはめずらしく聴いていて単純に楽しくなるような、自由でのびやかな傑作だ。(といっても、やっていることはかなり複雑なのだが)


07.1.24


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『ウェイン・ショーターの部屋』


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