チック・コリア
Chick Corea




     目次

   ■序
   ■チック・コリア
   ■チック・コリアとウェイン・ショーター
   ■マイルスの弟子としてのチック
   ■アルバム紹介






■序

 ショーターがマイルス・バンド時代にレギュラー・メンバーとして共演したピアニスト/キーボード奏者は、ハービー・ハンコックとチック・コリアの二人である。
 この二人のうち、後々まで良き共演者としての関係を続けていくのはハンコックのほうだが、作風としてはむしろチックのほうがショーターとさまざまな共通点が見られると思う。つまり、作品を聴き比べるおもしろさというのは、むしろショーターとチックのほうに感じる。
 つまりこういうことだ。一口にフュージョン(クロスオーバー)といっても内容にはそれぞれかなりの差があるのだが、もし70年代のフュージョンをもっと細かくジャンル分けをするとすれば、ウェザーリポートと第一期リターン・トゥ・フォーエヴァーは同一ジャンルの音楽であって、ハンコックのヘッドハンターズやトニー・ウィリアムスのライフタイムは別ジャンルの音楽ということになるだろう。(ハンコックのヘッドハンターズは例えばクルセイダーズやスタッフと同一ジャンルの音楽であり、ライフタイムは第一期マハヴィシヌ・オーケストラや第二期リターン・トゥ・フォーエヴァーと同一ジャンルの音楽だろう)
 また、80年代のフュージョンをもっと細かくジャンル分けをするとすれば、ショーターの『Atlantis』(85) とチックの『Elektric Band』(86) はやはり同一ジャンルの音楽であり、ハンコックの『Future Shock』(83) やザヴィヌル・シンジケートは別ジャンルの音楽ということになるだろう。
 つまり、それぞれの個々の仕事でよりショーターと近い種類の音楽を作り出してきたのはむしろチックのほうであり、ハンコックはちょっと遠い……という印象があるのだ。


 さて、チックはファンも多く、ビッグ・ネームであると同時に、どうも好きになれない、ついていけないという者も多いミュージシャンである。
 その理由は第一にチックの音楽の一貫性の無さにあるだろう。エポック・メイキングな大傑作を出したかと思うと、すぐに大きく方向転換してまったく違った作風になってしまったり、思いつきで次々に新しいものに手を出していっているようにも見えるチックの一貫性の無さには、たしかに個人的にもついていけない部分もある。
 それに全体的な傾向として、チックは力を入れて作品を作ると空回りすことが多く、力を抜いて作ったような作品のほうが傑作であることが多い。これは可哀想だが仕方がない。
 それにチックは多作・乱作ぎみにアルバムを作る人である。一貫性のない作品を次々にリリースされると、どう見ても気まぐれに作品を作っている気もしてくる。結果、チックのファンを自称する人まで、チックの一貫性のなさをからかったりケナしたりしている感もある。
 とはいえ、チックの気まぐれについていけないからといって、それだけを理由にチックをケナすのも、それはそれで間違いだろう。どう見たってチックは一流の才能と実力の持ち主である。
 とはいえ、チックのアルバムは作風が多様すぎて全てを理解するのは容易ではないし、それ以前にチックのアルバムは数が多すぎて、リーダー作だけでもアルバム数は膨大な数にのぼるので、一通り聴きとおすことも容易ではない。そんな理由で全体像が語りにくく、それ以前に全体像を見渡すことさえ容易ではないミュージシャンだともいえる。



■チック・コリア

 さて、チック・コリアは1941年生まれで、ハービー・ハンコックより一歳年下となる。デビューは正確にはいつごろなのかよくわからないが、64年にブルー・ミッチェルのクインテットに参加したあたりが最初期の仕事のようで、この頃のデビューだとするとハンコックより少し遅く、23歳頃のデビューということになる。デビュー前、ドラムを叩いていたこともあると聞くが、詳しいことは知らない。
 最初のリーダー作は66年の『Tones for Johan's Bones』だが、この初リーダー作はそほど評判を呼ばなかったようで、チックの名が広く知られるようになるのはスタン・ゲッツの『Sweet Rain』(67) での好演、そして『Now He Sings, Now He Sobs』(68) によってだそうだ。
 そして68〜70年までマイルス・バンドで活躍、エレクトリック・ピアノもこのとき使い始める。そしてマイルス・バンドを離れた頃からチックの一貫性がないと批判もされる活躍が始まるのだが、その全ては説明しきれないのでかいつまんで書かせてもらう。
 まず、マイルス・バンドを離れてすぐにチックはフリージャズに走り、アンソニー・ブラクストンと組んで「サークル」というグループを作る。が、一年ほどですぐ解散。その後、71年から72年にかけてがチックの当たり年となる。
 まず71年にソロ・ピアノでの『Piano Improvisations, vol.1/2』、72年にはあの『Return to Forever』、そしてゲイリー・バートンとのデュオによる『Crystal Silence』と、それぞれ違ったスタイルの作品を録音し、いずれもチックの代表作というべき高評価を受ける。この時のチックはまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。
 翌73年には大受けした『Return to Forever』の後を受けて、「リターン・トゥ・フォーエヴァー」というレギュラー・グループによってアルバムを発表しはじめるが、そのグループのサウンドは『Return to Forever』とはガラリと変わってプログレッシヴ・ロックのようになってしまう。さらにこのグループは77年からは10人編成のビッグ・バンドになり、解散する。
 75年からはソロ名義でもフュージョン系のアルバムを発表しはじめ、リターン・トゥ・フォーエヴァー解散以後はアコースティック路線も復活させ、しかし一定のレギュラー・グループはもたずに、さまざまな編成でさまざまなタイプの作品を作っていく。このへんの活動はとても要約しきれない。
 81年からは『Now He Sings, Now He Sobs』のトリオを再結成し、しばらく活動する。
 チックが次に本格的なレギュラー・グループを組んだのは86年の「エレクトリック・バンド」においてである。このグループがチックのレギュラー・グループとしては最も長く続いたグループになり、とりあえず92年頃まで続き、93年にはメンバーを変えて「エレクトリック・バンド2」を結成するがアルバム1枚を残して解散している。
 その後はレギュラー・グループをもたずに、やはり多様な作品を作っていたが、98年に久々にレギュラー・グループの「オリジン」を結成。今度は3管編成のアコースティック・バンドであった。しかし、これもアルバム数枚を残したのみで話を聞かないので、どうやら解散したようだ。2003年には「エレクトリック・バンド」を再結成している。



■チック・コリアとウェイン・ショーター

 先述したとおりチック・コリアの作風は多様にわたるので一望するだけでも大変だし、このページのテーマでもないので、ここではショーターとの関連する面からかんたんに見ていってみよう。
 個人的にはショーターとチックのある部分には相互影響関係があると思う。その影響の関係を、まず『Return to Forever』(72) を中心にして見ていきたい。

 『Return to Forever』はいうまでもなく70年代のジャズ/フュージョンにおいて最もエポック・メイキングだった作品の一つであり、まさに時代を変えた作品だった。もっと正確にいえば、変わりつつあった時代の空気を真っ先にとらえ、新しい時代の口火を切った作品だった。具体的にいえば前衛的で過激なものがもてはやされた60年代後半の風潮を終わらせ、心地よくて美しいものがもてはやされる時代へと音楽の流れを変えたアルバムである。
 しかし、このフュージョン時代の幕開けを告げたアルバムは、この以後の典型的なフュージョン作品とは微妙にズレた、浮いたような位置にいるように見える。
 例えば、フュージョン作品の多くがファンクのリズムを取り入れているのに対し、『Return to Forever』はアイアート・モレイアのブラジル的なリズムを取り入れている。楽しくソフトで心地よいフュージョン作品は多いが、この『Return to Forever』のようにユートピア的と評されるような美しさをもったフュージョン作品というのは、実は数少ない。
 いったいこの『Return to Forever』の特殊性はどこに由来してるのだろうか。
 『Return to Forever』はいきなり登場したわけではない。まずは『Return to Forever』へ至る道を見ていってみよう。

 先述したように、『Return to Forever』を成立させているものの一つとして、ブラジル音楽の香りがある。直接的にはメンバーであるアイアート・モレイアとフローラ・プリンの夫妻によってもたらされたものだが、アイアートがそれ以前に在籍していたマイルス・バンドの作品にはブラジル音楽の香りなどないわけで、これはこの二人の起用も含めてチックのねらいだったのだと思う。先述したようにファンクではなくブラジル音楽的なリズムは他のフュージョンと比べて特徴的であるし、アメリカの黒人音楽のボーカル・スタイルとは違ったフローラのやわらかで美しい歌声もまた『Return to Forever』を特徴づけているものだ。
 では、チックとブラジル音楽との接点とはどこから始まったのだろうか。それはやはり、ショーターの『Super Nova』(69) と『Moto Grosso Feio』(70) への参加にあると思う。
 とくに『Super Nova』にはアイアートも参加しているが、ここでのマリア・ブッカーによる "Dindi" のボーカルはアメリカの黒人音楽のボーカル・スタイルとは違ったブラジル的なもので、フローラ・プリンのボーカル・スタイルに近く、事実フローラはソロ作『Butterfly Dreams』(73) でこの "Dindi" を歌っている。
 しかし『Super Nova』『Moto Grosso Feio』におけるブラジル音楽の取り入れかたを聴けば、『Return to Forever』のユートピア的世界とはかなり隔たりを感じるのが普通だろう。ショーターの2枚のアルバムは先鋭的・前衛的な色彩が強く、『Return to Forever』のような快楽的な心地よさは感じられない。
 ここでさらにウェザーリポートの1st アルバム (71年2月録音) に入っていたショーター作の曲、"Tears" を見てみたいと思う。この曲では軽快なリズムにのって、やはりブラジル音楽的なやわらかい女性ボーカルの声が入る。個人的にはこの部分の印象は、かなり『Return to Forever』に通じるものを感じる。そしてこの1st 録音時には、アイアートはウェザーリポートのメンバーである。
 たぶんショーターの『Super Nova』『Moto Grosso Feio』、そして直接的にはこの "Tears" がチックに『Return to Forever』へのインスピレーションを与えた源泉ではなかったろうか。
 一方、そのウェザーリポートの1st が出た年の暮れにはジョー・ファレルの『Outback』 (71年11月録音) が録音される。ファレルはもちろん『Return to Forever』のリード奏者だが、このアルバムにサイドマンとしてチックとアイアートが参加し、『Return to Forever』のうちの3人がそろう。ここで聴かれる音楽は、かなり『Return to Forever』の前段階といっていいものだと思う。
 こうしてチック、アイアート、ブラジル音楽的な女性ボーカル、などの点を中心に見ていくと、『Super Nova』(69) 〜『Moto Grosso Feio』(70) 〜"Tears" (71) 〜『Outback』 (71) 〜『Return to Forever』(72) という道すじも見えてくる気がするのである。


 さて、ではそのブラジル音楽的な要素以外では、『Return to Forever』を後のフュージョン作品と分ける、どんな特殊性があるだろうか。
 まず、即興演奏性の高さという点があると思う。多くのフュージョンは編曲性を前面にだしてソフトで受け入れられやすいサウンドを目指し、結果即興演奏性が抑制されるパターンが多いのだが、『Return to Forever』は一見ソフトな内容に見えて、よく聴くとかなり凄い即興演奏を繰り広げているアルバムである。
 そしてなにより、あの理想郷(ユートピア)的な光輝があると思う。これは決して通俗的な、心地よいサウンドを目指したリラクゼイション音楽のものではなく、硬派な即興演奏中心の演奏をしながらも、その純度のなかから溢れてくる透明に澄み切った光輝だ。
 実はこのようなユートピア的な美しさをもったフュージョン作品というのは意外と数少ない。実際、チックの作品自体を見ても、『Hymn Of The Seventh Galaxy』(73) 以後はロック路線に転向してしまうので、そのような美しさは消滅してしまい、違ったタイプの音楽へ変質してしまう。(そしてこのあまりに大きなスタイルの変化が、多くの人が指摘するように、チックのグループがフュージョン時代の支柱にはなれなかった理由だと思う)
 さて、このようなユートピア的な美しさを含め、『Return to Forever』の特殊な部分を最良のかたちで受け継いでいるのはショーターの『Native Dancer』(74) だと思う。先述したとおり、『Return to Forever』を構成するいくつもの部品はショーターの内にもともとあったものである。それをチックが『Return to Forever』という一つの世界として構成し、見事な作品に完成させた。
 それまで、夜、闇、陰翳の中に別世界=庭園を創りだしてきたショーターは、この『Return to Forever』からヒントを得て、こんどは光輝の中に別世界=庭園を創りだすことをおぼえたようだ。その過程でショーターは再びミルトン・ナシメントの世界と出会ったのだろう。つまり『Return to Forever』におけるアイアートとフローラの役割を、ゲスト参加したミルトンと彼のバンド・メンバーに求めたのだ。
 さらにいえば即興演奏性の高いフュージョンというのも、もともとショーター=ウェザーリポートの特殊性でもある。
 そしてショーターが『Native Dancer』で作り出した世界はウェザーリポートに持ち込まれ、『Tales Spinnin'』(75) でザヴィヌルのファンキーなリズムと融合し、さらに『Black Marcket』(76) 以後のアルバムへと続いていく。そうしてウェザーリポートは商業的にもさらに成功し、まさにフュージョン時代の支柱というべきグループとして続いていったのはご存知の通りだ。

 さて一方、急激にロック路線へ進んでしまったチックはその後どうしたのかというと、ロック路線をひとまず終えたチックは、今度は75年頃からコンセプト性をもったアルバム作りを始める。『The Leprechaun(妖精)』(75)、『Musicmagic』(77)、『The Mad Hatter』(78) 等といったファンタジックなコンセプトの作品だ。
 これらはテーマの選びかたからいっても、コンセプチュアルなアルバム作りの面からしても、ショーターからの影響を感じさせるものだ。
 そして80年代に入って、ついにウェザーリポートが崩壊し、ショーターが『Atlantis』(85) 以後、自分のソロ名義で活動しはじめると、それと時を同じくしてチックは「エレクトリック・バンド」を作って本格的にフュージョン路線を再開させる。
 「伝説の都市」をテーマにした『Atlantis』に対し、「エレクトリック・シティ」という「架空の都市」をテーマにした『Elektric Band』(86) と、これもテーマ的にも、またサウンド的にも影響関係・共通性を感じさせるものだった。





■マイルスの弟子としてのチック

 マイルス・バンド出身のミュージシャンのうち、もっともマイルスに近いことをしてきたのは、チックではないかと思うことがある。
 例えばマイルスが得意としていた、新人をバンドに引き入れて育てる……ということもチックは積極的に行っているし、チックがよく批判される、新しいことにすぐ手を突っ込んでは、すぐに引っ込めるという特徴は、実はマイルスにもある。『On The Corner』(72) の頃、エレクトリック・シタールとかタブラとかいった楽器の演奏者をバンドに引き入れて、すぐに辞めさせてるところなんかはいい例だろう。
 しかし、マイルスはチックのように一貫性が無いと批判される例はあまり聞いたことがない。いったいチックとマイルスでは、どこが違うのだろうか。

 個人的には単純に、使用している楽器の違いというのが大きいのではないかと思う。
 普通、ホーン奏者が音楽活動をするためにはバンドが必要だし、とくにトランペット奏者の場合ワン・ホーンで長期活動した例はむしろ少なく、たいがいサックスなどを入れて二管以上、つまり5人以上の編成で活動する場合がほとんどであり、マイルスもこの例に洩れない。その結果、マイルスの音楽活動は彼のバンドを基本としたものになり、バンドの編成と維持に気を使わなければならないし、ある程度バンドに縛られながら活動していくことになる。
 つまり、マイルスが気まぐれに新路線を進もうと思ったとしても、そのためにはその路線に合ったメンバーを引き入れたり交代させるなどしてバンドを作り変えていかなければならず、時間と手間がかかることになる。つまりマイルスはバンドに縛られているために小回りがきかず、逆にいえばある程度の一貫性が保たれることになる。
 そこへいくとピアノ、キーボードという楽器はバンドなしのソロでも活動できる楽器であり、チックはソロを得意としている。さらに気の合ったメンバーが一人か二人いればデュオ、トリオなど小規模のグループで活動できるし、活動が軌道にのったらメンバーを加えていけば良い。
 つまり、チックはバンドにまったく縛られずに活動でき、レギュラー・バンドをすぐ解散するし、それでも困らない。そうして小回りがきくぶんだけ、チックのほうが、気まぐれに新路線を進もうと思うと、すぐに新路線を始めてしまうことになり、そのためにかえって一貫性がないと批判されることになるのではないだろうか。



05.1.12






   ■アルバム紹介 (今後とも紹介アルバムを追加していくつもりです)

 チック・コリアのアルバムの数はオフィシャルでリリースされているものだけでも膨大な数にのぼるし、参加しているアルバムを加えるとさらに膨大な数になるので、ここではごくさわりだけ紹介させていただく。


                                                                                                                   
Chick Corea "Tones for Johan's Bones" 1966.11-12 (Vortex)
Stan Getz "Sweet Rain" 1967 (Verve)
Chick Corea "Now He Sings, Now He Sobs" 1968.3 (Solid State)
Miles Davis"Filles de Kilimanjaro"1968.6/9(Columbia)モ★
Miles Davis"In a Silent Way"1969.2 (Columbia)モ★
Miles Davis"1969 Miles"1969.2 (Sony)モ★
Miles Davis"Bitches Brew"1969.8 (Columbia)モ★
Wayne Shorter "Super Nova" 1969.8-9 (Blue Note)モ★
Miles Davis"Double Image"1969.10 (Ninety-One)モ★
Miles Davis"Gemini"1969.10 (Ninety-One)モ★
Miles Davis"Paraphernalia"1969.11 (JMY)モ★
Chick Corea "Sundance" 1969 (Groove Marchant)
Miles Davis"Live at The Fillmore East,70"1970.3 (Columbia)モ★
Wayne Shorter "Moto Grosso Feio" 1970 (Blue Note)モ★
Chick Corea "The Song of Singing" 1970.4 (Blue Note)
Miles Davis"Live at The Fillmore"1970.6 (Columbia)モ★
Chick Corea "Circle I" 1970.12 (CBS Sony)
Chick Corea "A.R.C" 1971.1 (ECM)
Chick Corea "Circle Paris Concert" 1970.12 (ECM)
Chick Corea "Circle II" 1971.2 (CBS Sony)
Chick Corea "Piano Improvisations, vol.1 / 2" 1971.4 (ECM)
Joe Farrell "Outback" 1971.11 (CTI)
Chick Corea "Return to Forever" 1972.2 (ECM)
Chick Corea "Light as a Fether" 1972.9 (Polydor)
Chick Corea with
Gary Burton 
"Crystal Silence" 1972.11 (ECM)
Return to Forever "Hymn Of The Seventh Galaxy
(第7銀河の賛歌)" 
1973.8 (Polydor)
Return to Forever "Where Have I Known You Before
(銀河の輝映)" 
1974.7-8 (Polydor)
Return to Forever "No Mystery" 1975.1 (Polydor)
Chick Corea "Captain Marvel" 1975 (Verve)
Chick Corea "The Leprechaun(妖精)" 1975 (Polydor)
Return to Forever "Romantic Warrior(浪漫の騎士)" 1976.2 (CBS)
Chick Corea "My Spanish Heart" 1976.10 (Polydor)
Return to Forever "Musicmagic" 1977.1-2 (CBS)
Chick Corea "Mad Hatter" 1977.11 (Polydor)
Return to Forever "R.T.F. Live" 1977.5 (Columbia)
Chick Corea "Friends" 1978.1 (Polydor)
Chick Corea "An Evenng With Herbie Hancock " 1978.2 (Polydor)
Chick Corea "Secret Agent" 1978 (Polydor)
Chick Corea with
Gary Burton 
"Duet" 1978.10 (ECM)
Chick Corea with
Gary Burton 
"In Concert" 1979.10 (ECM)
Chick Corea "Tap Step" 1979-80 (Warner)
Chick Corea "Three Qurtets" 1981.1-2 (Stretch)
Trio Music "Trio Music" 1981.11 (ECM)
   "Live in Montreux" 1981 (Stretch)
Chick Corea "Lyric Suite for Sextet" 1982 (ECM)
Chick Corea "Touchstone" 1982 (Stretch)
Chick Corea "Children's Songs" 1983 (ECM)
Chick Corea "Septet" 1984 (ECM)
Chick Corea "Voyage" 1984 (ECM)
Trio Music "Trio Music: Live in Europe" 1984 (ECM)
The Chick Corea
Elektric Band 
"The Chick Corea Elektric Band" 1986.1 (GRP)
Wayne Shorter "Phantom Navigater" 1986 (Columbia)モ★
The Chick Corea
Elektric Band 
"Light Years" 1987 (GRP)
The Chick Corea
Elektric Band 
"Eye Of The Beholder" 1988 (GRP)
Chick Corea
Akoustic Band 
"Chick Corea Akoustic Band" 1989.1 (GRP)
Chick Corea
Akoustic Band 
"Alive" 1989.12 (GRP)
The Chick Corea
Elektric Band 
"Inside Out" 1990 (GRP)
The Chick Corea
Elektric Band 
"Beneath The Mask" 1991 (GRP)
The Chick Corea
Elektric Band 2 
"Paint The World" 1993.5 (GRP)
Chick Corea "Expressions" 1993 (GRP)
Chick Corea "Time Warp" 1995 (GRP)
Chick Corea "Remembering Bud Powell" 1997 (Stretch)
Chick Corea with
Gary Burton 
"Native Sense" 1997 (Stretch)
Chick Corea & Origin "Chick Corea & Origin" 1997-98 (Stretch)
Chick Corea & Origin "Change" 1999.1 (Stretch)
Chick Corea "Past, Present & Futures" 2001 (Stretch)
The Chick Corea
Elektric Band 
"To the Stars" 2004 (Universal)













  ■Chick Corea『Tones For Joan's Bones』      (Atlantic)

    Woody Shaw (tp) Joe Farrell (ts, fl) Chick Corea (p)
    Steve Swallow (b) Joe Chambers (ds)    1966.11.30-12.1

 これがチックの最初のリーダー作のようだ。
 早くも縁のあったようなジョー・ファレル他、超豪華なメンバーだ。これだけのメンバーが揃っていれば、どうヘタに転んでも最低限でもある程度のレベルの演奏にはなる……と確信できるが、実はその最低限のレベルに近い気がする。つまり、これだけのメンバーを揃えただけある、それなりの演奏にはなっているが、決してそれ以上にはなっていない。スタイル的にも一般的なハード・バップを抜けだしきれてないようだし、印象も散漫なかんじ。むしろチックのソロによる曲のほうが聴きどころになっている。
 リリース当時本作はさほど評判にはならず、チックの名がファンに知られるようになったのは翌年のスタン・ゲッツの『Sweet Rain』への参加によってだと聞くが、まあ、しかたなかったかなと思う。




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  ■Stan Getz『Sweet Rain』      (Verve)

   Stan Getz (ts) Chick Corea (p)
   Ron Carter (b) Grady Tate (ds)     1967.3.30

 チック・コリアの名前が知られはじめたのはこのアルバムでの好演がきっかけらしい。本作でチックは冒頭の "Litha" をはじめ、全5曲中2曲を書いている。
 スタン・ゲッツは作風からいってチックとは相性のいいミュージシャンだと思う。ジョー・ファレルもそうだが、チックはこういう軽みのあるスタイルのホーン奏者と相性がいい気がする。これは単にぼくの嗜好なのかもしれないが、マイルスと組んだときのチックがあまりチックらしさが感じられないのに対して、このゲッツやファレルと組んだときのチックは、いかにもチックらしいいい部分が出ている。
 ゲッツにしても、この頃はマンネリ化してきたボサノヴァをやめて、もう一つ何かがほしい時期だったようで、ここでのゲッツとチックの出会いは、両者にとって絶妙な出会いだったような気がする。




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  ■Chick Corea『Now He Sings, Now He Sobs』     (Blue Note)

   Chick Corea (p) Miroslav Vitous (b)
   Roy Haynes (ds)       1968.3.14/19/27

 いわずと知れたチックの出世作であり、ヴィトウスの出世作でもある。
 リアルタイムで本作を聴いた人はかなり驚いたのではないだろうか。伝統的なピアノ・トリオのスタイルだが、これまでのピアノ・トリオとは別の種類の演奏という感さえある、斬新な演奏だ。
 逆に後の作品でチックを知って遡って聴いた人には、かなり異色作という印象もあるのではないか。『Piano Improvisations』(71) やそれ以後のアルバムでのチックは、透明感のある軽やかに戯れるようなピアノを特徴としているが、本作でのチックのピアノはもっと硬派でシリアスで重々しい。そのぶん親しみやすさは薄いかも知れないが、チックの尖った部分を示した代表作だ。
 『Return to Forever』(72) 以後ポップに流れていった感もあるチックを、しかしジャズ評論家やファンがその実力を否定できなかったのは、これがあったからだろう。
 ぼくが所持しているのはもともとのソリッドステート原盤の5曲(1、3、5、6、12曲目)に、ブルーノート盤で後から出た8曲を追加した13曲入りのCDだが、最初の5曲のみのCDも出ているらしい。
 80年代に入ると、このトリオを「トリオ・ミュージック」というグループ名で復活させ、活動したりしている。




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  ■Chick Corea『A.R.C.』        (ECM)

  Chick Corea (p) Dave Holland (b)
  Barry Altshul (per)     1971.1.11-13

 マイルス・バンドを離れた後、チックはアンソニー・ブラクストンらとフリージャズのグループ、「サークル」を作るが、その「サークル」のリズムセクションの3人で演奏したピアノトリオがこれだ。
 これも『Now He Sings, Now He Sobs』(71) と同じくチックの硬派の部分を代表する名演で、というより『Now He Sings, Now He Sobs』より硬派かもしれない。一年あまりで解散したサークルは賛否両論の激しいグループ、というより否定意見が多いグループだが、少なくとも派生物として本作ができただけでもやった意味があったといえるだろう。
 チックの前衛指向みたいなものが、ギリギリのところでストライクゾーンに入った感のある演奏だ。




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  ■Chick Corea『Piano Improvisations,Vol.1/2』    (ECM)

     Chick Corea (p)    1971.4.21-22

 無伴奏ソロ・ピアノによる完全インプロヴィゼイションによる演奏だ。
 実をいうとソロ・ピアノはそれほど好きではない。単純に個人的な好みとして、ジャズはリズム・セクションが入っているほうが好きだからだ。
 しかし、チックのこのアルバムはリズム・セクションの不在を感じさせない。ピアノ一台だけでもリズムがきこえてくる。軽やかに戯れるようなリズムだ。
 チックの魅力の一つはメロディの他にこの絶妙なリズム感があると思う。ショーターが『Super Nova』(69) 等で、チックをピアニストではなく打楽器奏者として起用しているのも、もちろん理由がないわけではない。チックはピアノ一台だけでも充分打楽器奏者としての演奏もできるのである。
 それからこのアルバムではチックのキラキラとした透明感のあるピアノの音色と ECM の録音がよく合っている。ほんとうに清々しい音だ。

 このアルバムの成功は大きな影響を与え、とくにキース・ジャレットはその後何十年もこのソロ・ピアノによる完全インプロヴィゼイションを続けていくことになるわけだが、チック自身はこの2枚のみでとりあえずやめ、その後ソロ・ピアノのアルバムは、折りにふれて時々出す……というかんじになる。
 個人的にはこの点においてはチックを支持する。キースのソロ・ピアノがつまらないという気はないが、そんなに何十年も続けることなのかどうか……。キースはピアノ・トリオでのスタンダード演奏ももう二十年以上続けているが、チックの気まぐれな一貫性の無さにもついていけないところがあるが、キースのあまりのしつこさにもついていけないところがある。




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  ■Joe Farrell『Outback』       (CTI)

    Joe Farrell (ts,ss,fl,piccolo)
    Chick Corea (elp) Buster Williams (b)
    Elvin Jones (ds) Airto Moreira (per)  1971.11

 リターン・トゥ・フォーエヴァーというグループはチック・コリアとスタンリー・クラークの二人を中心にしたグループである。それは『Return To Forever』(72) から解散までずっと在籍したのがこの二人であるし、どう見ても間違いはない。
 しかし、個人的には『Return To Forever』はチック・コリアとジョー・ファレルのグループだったと思っている。正直いって、ファレルが抜けた後の『Hymn Of The Seventh Galaxy』(73) は『Return To Forever』と同じグループの作品という気がしないのだ。否定する気はないが、別のものだと思う。
 対してこのファレルの『Outback』というアルバム。『Return To Forever』が録音される3ヶ月前の71年11月に録音されたアルバムで、チック・コリアがサイドマンとしてエレピを弾き、アイアートも参加している。しかしスタンリー・クラークは参加していないアルバムである。しかし、ぼくはむしろ『Hymn Of The Seventh Galaxy』よりもこの『Outback』のほうが『Return To Forever』と同じグループの作品に聴こえる。
 チックのエレピの音もマイルス・バンド時代のエフェクターをかけまくった音ではなく、『Return To Forever』での音になっている。ただ、チックの演奏そのものは、当然ながら『Return To Forever』のほうがすごいが。




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  ■Chick Corea『Return To Forever』     (ECM)

     Joe Farrel (fl, ss) Chick Corea (elp) Stanley Clarke (elb)
     Airto Moreira (ds,per) Flora Purim (vo,per)   1972.2

 フュージョンの、ひいては広義のポピュラー音楽の時代を変えたといわれるアルバムである。しかし正直いえば、最初の頃はぼくはこのアルバムの価値がわからなかった。
 だいたい、このアルバムが時代を変えたといっても、こっちは変わった後の時代から音楽を聴き始めているのだから、むしろこのアルバムのほうがどっかで聴いた音楽に聴こえ、変化する前の60年代末の音楽のほうが新鮮に聴こえたのである。
 そのため、本作の魅力はぼくの場合、この前後の時代の音楽を聴いていくなかで、だんだんと理解できていったというのが実状だ。リアルタイムに聴いてない人にはけっこうそういう人も多いのではないか。
 現在では本作の魅力も、本作が時代を変えたといわれる意味も、かなりわかってるつもりだ。
 時代を変えたというのも良くわかる。60年代末は過激で前衛的な音楽が流行り、難解であることがカッコイイ時代だった。ジャズは混沌や過激なサウンドで咆吼していた。それがこのアルバムの登場によって、薄暗い地下室の天窓が一気に開け放たれて、朝の陽光とともに涼しい風が世界を吹き抜けたような爽やかな衝撃を与えたのだろう。
 それに音楽的にいうと、フェンダー・ローズというエレクトリック・ピアノを初めてソロ楽器として主役に持ち上げたという点も大きいと思う。
 エレクトリック・ピアノがジャズに取り入れられたのはキャノンボール・アダレイのバンドでジョー・ザヴィヌルが使ったのが最初だが、これを真似たマイルス・バンドでのチック自身の使用を含めて、これまでのエレピの使用方法はあくまで主役のホーン楽器をひきたてる脇役としてのものだった。
 それを初めて主役として、フェンダー・ローズという楽器そのものの音の美しさを生かしたかたちでソロ楽器として使用したことはチックの功績である。
 楽器というのはそれを自在に使用した演奏者の登場によって完成することろがある。そういった意味でいって、エレキベースにおけるジャコ・パストリアスのような役割をエレピにおいて果たしたのがチックだったといえる。
 アルバム中最大の山場は当然ラストの "La Fiesta" での盛り上がりにあるわけだが、前半部のもの憂くただよう空気を映しだしたようなフェンダー・ローズの音色とフローラの声の融合もまた独自のものだろう。このあたりのサウンドは ECM の録音の勝利でもあったようで、レコード会社を移籍した次作からには聴けなくなる。




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  ■Chick Corea『Light as a Feather』    (Polydor)

     Joe Farrel (fl, ss) Chick Corea (elp) Stanley Clarke (elb)
     Airto Moreira (ds,per) Flora Purim (vo,per)  1972.10

 グループとしての「リターン・トゥ・フォーエヴァー」とはクレジットされていないが、『Return to Forever』のグループの第二作である。内容的には『Return to Forever』の直接的な続編であり、2枚組のアルバムとして出してもいいほど、スタイル的にはまったく同じである。
 個人的にはこのへんにもチックのやり方の下手さがあるように思う。まったく変わってしまうのも考えものだが、まったく同じというのも新鮮味がない。ウェザーリポートのように少しづつ変化を持たせていけば、新鮮味をもって新作を聴けるし、一貫性も感じられるだろうに……。
 内容的には『Return to Forever』よりそう遜色はないと思うし、代表曲の "Spain" も入っている。しかし知名度・人気からいえば『Return to Forever』より本作のほうがずっと落ちるのは、スタイル的にまったく変化がない2作目であるため、新鮮味がなかったからではないか。
 ただし、レコード会社が変わったためか、録音的には『Return to Forever』より落ちていると思う。




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  ■Return to Forever『Hymn Of The Seventh Galaxy(第7銀河の賛歌)』(Polydor)

     Bill Connors (g) Chick Corea (key)
     Stanley Clarke (b) Lenny White (ds)    1973.8

 ちょっとややこしいが、72年にリリースされたのはチック・コリアの『Return to Forever』、その続編はチック・コリアの『Light as a Fether』であり、本作はグループとしてのリターン・トゥ・フォーエヴァー名義の第一作となる。しかし、メンバーはクラークを除いて全員変わり、サウンドも『Return to Forever』とは似ても似つかない別のバンドのように変化してしまう。
 さて、72年から77年までつづくリターン・トゥ・フォーエヴァーの活動は大きく三つの時期に分かれる。グループが第〇期と分かれるのは別にめずらしくもないが、リターン・トゥ・フォーエヴァーの場合、ほとんど同一グループとは思えないほどに大きく変化するところに特徴がある。
 本作は、そのうち第二期の最初のアルバムとなる。第一期が72年の1年間だけ、第三期が77年の1年間だけなので、73年から76年まで4年続く第二期が一番長いわけだが、特にジャズ系のファンからはこの第二期はほとんどマトモに扱われていないような感もないではない。ジャズとかフュージョンというよりは、あまりにロックに近いからだろう。
 さて、72年の2枚から本作へのあまりに急激な変化に対する批判はもう書きつくされているので、ここではそれはおいておき、チック=スタンリー・クラークがここで何をしようとしたのか見ていってみよう。
 新路線については、ロック的と従来いわれているが、もっと詳しくどのようなロックを目指したのかといえば、あきらかにプログレッシヴ・ロックと共通するものが多いように感じる。考えてみれば第二期のアルバム・タイトルはどれも、あきらかにプログレっぽい。
 さて第二期のアルバム中、本作のメリットを探すとすれば、何といってもギターが技巧派のアル・ディメオラではなく、この一作きり参加のビル・コナーズである点だろう。
 私観でいわせてもらえば、このグループ、トリオでも充分であり、ギターはせいぜい添え物程度でいいのである。その点ではディメオラが出しゃばってくる次作以後よりも本作のほうが核であるトリオの演奏が前面に出て迫力のある演奏になっていると思う。
 チックはプログレなんかに手を出して急激にサウンドを変化させるのではなく、『Return to Forever』と『Light as a Fether』で築き上げたスタイルを着実に進化させていく道を選んだほうがよほど大きな尊敬と成功を得られただろうという意見には、ぼくも賛成だ。しかしそうであっても、ミュージシャンがあえてプログレ方向に大きく梶をとり、あたらしいサウンドに乗り出していった時に、自分がロックについていけないからという理由で酷評するジャズ評論家の意見にも一片の理もないと思う。
 この時期のリターン・トゥ・フォーエヴァーはプログレッシヴ・ロックというジャンルで評価するなら、かなりの高いレベルに達したグループだったと思う。問題はそれが本来のプログレを愛聴しているようなリスナーの耳に届いていたかだが、もし届いていなかったとしたら、やはりそれは当時の音楽評論家のほうにも、梶とりに失敗した問題点があったのだと思う。




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  ■Return to Forever『No Mystery』   (Polydor)

     Al DiMeola (g) Chick Corea (key)
     Stanley Clarke (b) Lenny White (ds)    1975.1

 リターン・トゥ・フォーエヴァーには2作目の『Where Have I Known You Before(銀河の輝映)』(74) でギターにビル・コナーズに変わってアル・ディメオラが参加し、本作、そして『Romantic Warrior(浪漫の騎士)』(76) とこの4人で活動を続ける。
 アル・ディメオラはたいへんなテクニックをもつ速弾きギターリストであり、その手のものが好きな人のあいだでは人気が高い。しかし個人的には、たしかに速いことは速いが、少しもおもしろくないと思う。ソロ作等、ちゃんと聴いたことがないので否定もできないが、ディメオラがハイテクで出しゃばってくることにやってバンドのサウンドは水で薄められてしまったように感じる。
 さて、ディメオラが参加して2作めにあたるこのアルバムでは、特に前半でかなり強力なファンク・ビートが導入されている。個人的にはこのプログレ的サウンド+ファンク・ビートという組み合わせはけっこう気持ちよく、楽しく聴ける。ただしそれがジャズ・即興演奏の魅力なのかと問われると、かなり疑問もかんじるのだが。




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  ■Chick Corea『The Leprechaun(妖精)』    (Verve)

   Chick Corea (key) Joe Farrell (reeds) Eddie Gomez, Anthony Jackson (b)
   Steve Gadd (ds) Gayle Moran (vo) /他    1975  

 これもチックの転機になった作品の一つ。
 第一に本作からチックはリターン・トゥ・フォーエヴァーとは別に個人名義でもアルバムを作りはじめる、第二にソロ名義・バンド名義にかかわらず、ここから70年代後半のチックはコンセプト性を強く押し出したアルバム作りが特徴になっていく。とくに本作から、『浪漫の騎士』(76) 『Misicmasic』(77) 『The Mad Hatter』(78) など、ファンタジックな内容のコンセプト・アルバムがこの頃のチックの特徴となる。
 チックがこのようなファンタジックなコンセプト・アルバムを作るようになった理由は、おそらくシンセなど電子楽器の機能が向上し、キーボードだけで様々なサウンドを作り出すことが可能になったからではないかと思う。この頃ははヴァンゲリスが『Heaven And Hell(天国と地獄)』(75) や『Albedo 0.39(反射率0.39)』(76)、ジャン・ミシェル・ジャールの『Oxygene(幻想惑星)』(76) などシンセサイザー一台だけでシンフォニックなサウンドを作り出すシンセ音楽が台頭してきた頃である。このアルバムはそういった技術革新を背景に生まれてきたものではないだろうか。
 さて、本作は『妖精』という邦題もつけられたファンタジックな内容のトータルアルバムで、シンセの多彩な音がいま聴くとちょっと懐かしいアナログ感もあって楽しく、その他弦楽四重奏団やブラスでアレンジを入れてみたり、趣味的感覚でいろいろ遊んでいる様子がうかがえる。多分、ライヴでの再現を前提としない、純粋にアルバムだけの音楽と思って作っていたのではないだろうか。だからソロ名義なのでは……。
 ともかく、このアルバムはこの時期のチックのコンセプト・アルバム路線のなかでは、完成度においては一、二を競うものだと思う。
 また本作から始まってこの時期のチックはジャケットでさまざまなコスプレをしている。本作のジャケットのチックのイラストは耽美系少女漫画風でちょっと○○○という感がないでもない。
 いろいろ総合して見ると、つまりはチックは80年代に入って以後の日本のオタク文化を先取りしていたのではないだろうか。




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  ■Return To Forever『Live』      (Sony)

   Joe Farrell (reeds, fl) Chick Corea (p,key) Stanley Clarke (b) Gayle Moran (vo,key)
   Gerry Brown (ds) John Thomas, James Tinsley (tp, flh)J im Pugh (tp, Baritone Horn)
   Harold Garrett (tb, Baritone Horn, Tuba) Ron Moss (tb)    1977.2.20-21

 リターン・トゥ・フォーエヴァーの第三期はビッグバンドとなる。
 『Misicmasic』(77) がその第三期の一作めであり、続いてこのLPでは3枚、CDでは2枚組のライヴ盤。計150分を超える長時間録音だ。この後リターン・トゥ・フォーエヴァーは自然解散し、これがグループ名義のラスト・アルバムになったようだ。メンバー数このライヴ盤では『Musicmagic』より一人減り、6管10人編成となっている。
 ユートピア的なフュージョン・サウンドで始まったバンドが、いきなりプログレッシブ・ロックに変わり、今度はビッグバンドというと、もはやついていけない……といいたくなる気にもなるのだが、偏見を捨てて素直に聴けばそれほどわるい内容ではないと思う。
 レパートリーはリターン・トゥ・フォーエヴァーの曲のほか、当時のチックのソロ作品の曲、そして意外にスタンダード・ナンバーをいくつも取り上げていて、普通のジャズっぽい側面も強い。チックはこの後アコースティック・ジャズ中心の活動に向かっていくわけで、その指向がこの時点でも出ているのかもしれない。  メンバーではジョー・ファレルが戻ってきているのがうれしい。個人的にはスタンリー・クラークよりファレルのほうがチックの良い共演者だと思う。ファレルの爽やかなサックスの音が聴こえるとそれだけでリターン・トゥ・フォーエヴァーという気がするし、チックの演奏も爽やかな軽みを帯びてくる気がする。ライヴということもあって一曲20分前後の長い演奏が何曲もあり、チックやファレル、クラークらがたっぷり長時間のソロをとっている。
 ビッグバンドによるフュージョンという点ではギル・エヴァンスの先例があるわけだが、個人的には野心的な試みという点ではやはりギルの『時の歩廊』等の作品に軍配を上げたい気がする。というか、このビッグバンドはどこか懐古的な雰囲気さえする場面もある。
 このアルバムの聴きどころはやはりチックやファレルらのソロにあり、アンサンブルはそれにアクセントをつけ、派手に盛り上げる役目……という気がする。




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  ■Chick Corea『The Mad Hatter』     (Polydor)

   Chick Corea, Herbie Hancock (key) Joe Farrell (fl, ts) Eddie Gomez, Jamie Faunt (b)
   Steve Gadd, Harvey Mason (ds) Gayle Moran (vo)  /他  1978

 タイトルどおり、『不思議の国のアリス』をコンセプトとしたソロ名義によるコンセプト・アルバムである。ジャケットのチックのコスプレは『The Leprechaun』の耽美系、『My Spanish Heart』のスペインの提督に続いて、本作ではタイトルどおりの帽子屋に扮している。しかも前二作がイラストだったのに対し、本作ではチック本人がコスプレをしての写真である。
 さて、本作は『The Leprechaun』や『浪漫の騎士』、『Misicmasic』に続くファンタジック路線だが、本作がこれらの中で特に有名な理由は、ハンコックとの共演が聴ける点にあるだろう。アコースティック・ピアノによるデュオはこの後この二人はたっぷりとやっているが、エレクトリック・バンドでの共演は本作のみであり、そこが最大の聴きどころとなっている。

 さて、ジャズ/フュージョンの分野でチック以前からコンセプト・アルバム、とくにファンタジックな内容のコンセプト・アルバムを作ってきたのは当然ショーターなわけだが、これらチックのコンセプト・アルバムとショーターのものとを比較してみた場合、どのような違いがあるあろうか。
 個人的にはチックはコンセプト・アルバムの作り方がショーターほど上手くはなく、コンセプト・アルバムが陥りやすい欠点が多く見られると思う。それはコンセプト性が音楽の自由度を邪魔してしまい、音楽が内容の説明のようになってしまっている部分が見られる点だ。
 本作にもそれが見られ、ショーターのコンセプト・アルバムほど、音楽を音楽そのものとして純粋に楽しめるようにはなってない気がする。趣向そのものは嫌いではないのだが。




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  ■Chick Corea『Friends』       (Polydor)

     Joe Farrell (reeds, fl) Chick Corea (p,elp)
     Eddie Gomez (b) Steve Gadd (ds)   1978 

 リターン・トゥ・フォーエヴァー解散後のチックはアコースティック・ジャズを中心に、しかしレギュラー・バンドは組まずにその都度メンバーを集めてアルバムを作り、活動していく。
 この時期、サックスを1本入れたクインテットの編成で、数人のサックス奏者と何枚かアルバムを作っている。ジョー・ヘンダーソン、マイケル・ブレッカー、ジョー・ファレル……といった人たちだが、当然……というべきか、意外に……というべきか、それぞれのサックス奏者の個性がかなり強く出ており、色調に大きな違いがある感じがする。
 なかでは盟友のジョー・ファレルと共演した本作が、やはり最もチックらしい良さが出ている気がして好きだ。
 全体的に爽やかな軽快感のある仕上がりで、スティーヴ・ガッドのドラムも重すぎず、軽快にリズムを刻み、チックとファレルがキラキラ輝く風のように駆けめぐる。個人的にはこのような演奏にもっともチックらしさを感じる。
 ファレルはこの後86年に亡くなってしまうが、チックにとっては痛手だったのではないかと思う。




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  ■Chick Corea and Gary Burton『In Concert, Zurich, October 28, 1979』 (ECM)

    Chick Corea (p) Gary Burton (vib)

 もはや説明するまでもないだろうが、ゲイリー・バートンもまたチックの最良の共演者の一人で、長期間にわたり、デュオによって何枚ものアルバムを出している。
 あの『Return To Forever』と同年の『Crystal Silence』(72) にはじまり、『Duet』(78)、本作、そして『Native Sense』(97) と折にふれデュオによるアルバムを作っている。その中でまず一枚どれか……というのなら、本作あたりから聴き始めるのがよいのではないか。
 ぼくはベースとドラムが入っていると、とりあえず満足するタイプのリスナーなんで、このようにリズム・セクション抜きのデュオという編成は点が辛くなり、かなりいいものでないと聴く気がしないのだが、チックの場合ソロと同じくデュオにおいても、リズム・セクションの不在を感じさせない。チックのピアノが戯れるような軽快なリズムで弾み、それにバートンのヴァイヴがまた戯れるようにメロディをつむぐ。キラキラ輝く光の粒のような二人の音に聴きほれる演奏だ。
 とくにライヴでの本作での演奏は熱く、緊張感に溢れている。




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  ■『The Chick Corea Elektric Band』    (GRP)

    Chick Corea (key) John Patitutti (b) Dave Weckl (ds)
    Scott Henderson, Carlos Rios (g)   1986.1

 チック・コリアの新バンド、エレクトリック・バンドの第一作である。チックが久々にフュージョン路線でレギュラー・バンドを組んだということで当時は話題にもなり、かなり売れたようだ。
 基本はトリオであり、曲によってスコット・ヘンダーソンかカルロス・リオスのギターが加わるという編成。チックは(技術の革新を背景に)様々な音色のキーボードを弾くが、基本的にはガラスのような透明感のある切れ味の鋭い音で弾いていて、フワフワしていた『Return to Forever』(72) の印象とはだいぶ異なる。また、このグループで登場したパティトゥッチ (b) とウェックル (ds) という二人の新人の凄さ(とくにパティトゥッチ)も衝撃的だった。
 さて「エレクトリック・バンド」というバンド名だが、黒地にロゴだけを配したジャケットとあいまってずいぶん即物的な印象もあるのだが、実はそうでもない。ジャケットには「エレクトリック・シティ」という架空の都市を描いた詩が書いてあり(キング・コックローチ作となっている)、その詩に登場する場所や場面が各曲で描かれるという趣向……と、物語的な世界観をもったコンセプト・アルバムとなっている。
 リターン・トゥ・フォーエヴァーがそうだったように、エレクトリック・バンドもこの第一作が一番良い……という意見は多いようで、ぼくも同意見である。コンセプト性の高い各曲の完成度もそうだが、何より演奏そのものが理由だ。メンバー的に、この第一作でのトリオに曲によってギターが加わる程度の編成が一番良かった気がする。架空の都市を描きだすスケールの大きい演奏は、一種幻想的な雰囲気さえ漂っていて、すばらしい。とくに7曲めの "No Zone" 以後の部分をよく聴く。

 また、ショーターの『Atlantis』(85) のところでも書いたが、『Atlantis』とこの『Elektric Band』の間には共通するものがあるように感じる。
 具体的にいえば、透明感のあるなめらかで浮遊感のあるサウンドと、「伝説の都市、架空の都市」といったテーマ・コンセプトなどで、これが80年代のフュージョンのある方向性を示していると思う。




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  ■Chick Corea Elektric Band『Light Years』  (GRP)

    Chick Corea (key) John Patitutti (b) Dave Weckl (ds)
    Frank Gambale (g) Eric Marienthal (sax) /他  1987 

 早くも路線変更したエレクトリック・バンドの2作め。
 変更のポイントは2点あり、まずレギュラー・メンバーとして新たにフランク・ギャンバレ (g) とエリック・マリエンサル (sax) が加わり、これでメンバーが固まった。
 第二にラジオでかかりやすいような曲……というのを意識したようで、ポップでまとまりのいい演奏になっている。聴いてみるとファンキーな色あいが強まっている感じで、歌のないファンキーなポップソングといった感じ。
 この路線変更はファンにはおおむね不評だったようで、個人的にもそれに同感だ。
 まず、ポップなまとまりの良い曲を目指したことによって、演奏からダイナミックさが失われてしまった。しかしこれはこのスタジオ盤だけの話であり、同時期のライヴ録音を聴いてみると充分にダイナミックな演奏をしているので、この点はこれでいいのかもしれない。
 しかし第二点だが、パティトゥッチとウェックルは瞠目すべき新人だったが、新参加のギャンバレとマリエンサルはそうとは思えない点にある。確かにテクニックは凄いのだが、味わいというか、コクのようなものがない。偏差値ばかり高い優等生みたいなもので、聴いてておもしろくない。ペーパーテストなんて枠では計りきれないようなスケールとか個性といったものが感じられないのだ。
 結果、この二人が新参加したためにエレクトリック・バンドには何かが加わったというよりも、むしろ水で薄められてしまったような印象になった気がする。正直なところ、偏差値ばかり高い優等生なんて、いらないのだ。




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  ■Chick Corea Elektric Band『Eye Of The Beholder』   (GRP)

    Chick Corea (key,p) John Patitutti (b) Dave Weckl (ds)
    Frank Gambale (g) Eric Marienthal (sax)   1988

 エレクトリック・バンドの3作め。
 エレクトリック・バンドの作品のなかでこれを最高傑作とする意見も聞かれるアルバムである。理由は1作めとは違った方向を目指した頂点というべき作品だからだろう。
 つまり本作ではドラマティックな編曲性が大幅に導入され、劇的な展開を見せる音楽世界が構築されている。また、本作からチックはエレクトリック・バンドでもアコースティック・ピアノを使用しはじめ、エレクトリック・サウンドのなかに登場する生ピアノの音は、チックの内面の独白を表しているかのような独特の効果をもっている。ジェケットのイメージもあるのかもしれないが、どこかヨーロッパの室内劇の映画音楽を聴いているような雰囲気もある。クラシカルな雰囲気を感じるのも、生ピアノを使用しているからだけではないだろう。
 個人的にはこういった方向性は好きである。けれども正直、無条件に賞賛はできないのは、やはりギャンバレとマリエンサルの演奏に味わいが感じられないからだ。何というか、重みがなく、妙にカルくて明るい演奏になってしまうのだ。それはそれでいいじゃないかという意見もあるだろうが、この作品で狙っているコンセプトに対してこのカルい明るさはあきらかにマイナス要素だ。
 好感はもつが、傑作というには何か風格のようなものが足りない……というのが、個人的な感想だ。




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  ■『Chick Corea Akoustic Band(スタンダーズ・アンド・モア)』  (GRP)

    Chick Corea (p) John Patitutti (b) Dave Weckl (ds) 1989.1

 チック・コリアの「アコースティック・バンド」の第一作だ。とはいえ、「アコースティック・バンド」とは「エレクトリック・バンド」のリズム・セクションの3人でアコースティク・ピアノ・トリオで演奏してみようという企画であり、演奏曲目も自作の旧曲やスタンダード・ナンバーをとりあげているだけ。つまりは音楽的野心はまったくない、企画モノである。
 実のところ、エレクトリック・バンドでは機材などが運び込めない場所でライヴをするときに、ピアノ・トリオなら演奏できる……と始めたものらしい。
 とはいえ、正直このバンドはこのトリオだけで聴きたいという気持ちは強くある。3人とも優れたジャズマンだし、とくにチックはあまり音楽的野心を前に出すより、肩の力を抜いた時の方がいい演奏をする人でもある。
 じっさいこのアコースティック・バンドは、下手をするとエレクトリック・バンド以上に、かなり評判が良かったらしい。本気でやったエレクトリック・バンドよりこちらが評価されてしまうというのは、チックにしてみれば可哀想な気もするのだが。




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  ■Chick Corea Elektric Band 2『Paint The World』  (GRP)

    Chick Corea (key) Jimmy Earl (b) Gary Novak (ds)
    Mike Miller (g) Eric Marienthal (sax)      1993.5

 『Eye Of The Beholder』(88) の後、エレクトリック・バンドは『Inside Out』(90) 『Beneath The Mask』(91) とリリースするうちにだんだんマンネリ化していき、ついに解散。サックスのマリエンサル以外全員メンバーを交代して、エレクトリック・バンド2を名乗って再出発をする。本作はその1作め……とはいっても結局この1枚きりで解散したので、エレクトリック・バンド2の唯一のアルバムとなる。
 そういうエピソードを聞いてから聴いてしまうと、どうせ上手くいかなかったんだろうと思って聴いてしまうが、このアルバムを聴いたときにはかなり新鮮な印象があった。
 従来のエレクトリック・バンドに比べて、ジャズ性・演奏性が強くなっているのだ。そのぶん編曲性は抑えられている。
 エレクトリック楽器を使ったジャズといった感じの演奏で、言うならばショーターがハンコックやスタンリー・クラークらと91年にやったスーパー・カルテットの演奏に近い。一人だけ残ったマリエンサルも、最初エレクトリック・バンドに入ってきた頃と比べればずいぶん良くなってきたと思う。




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  ■Chick Corea & Origin『Chick Corea & Origin』     (Stretch)


    Chick Corea (p) Avishai Cohen (b) Adam Cruz (ds) Steve Davis (tb)
    Bob Sheppard (fl,ss,ts,bcl) Steve Wilson (fl,ss,as,cl)   1997.12.29 - 98.1.4

 エレクトリック・バンドを解散して以来、チックが久しぶりに組んだレギュラー・バンドである。
 今回は三管編成のアコースティック・ジャズ・バンドであり、考えてみればチックのこれまでのレギュラー・バンドではなかったタイプのグループだ。メンバーは全員新人であり、とくにダニーロ・ペレスのグループで演奏していたベースのアヴィシャイ・コーエンの演奏をチックが聴いて気に入り、それがこの新バンド結成へと話が進んでいったとのこと。(余談だが、ダニーロ・ペレスはこの後、ウェイン・ショーター・カルテットに参加することになる)
 これはこの新グループによる一枚めで、ブルーノートでのライヴ盤。
 内容は盟友のデイヴ・ホランドのグループを彷佛とさせる進んだ演奏もあれば、伝統的なフォー・ビートのよる軽快な演奏もあり、この時点ではまだ方向性が定まってない様子も感じられる。しかし全体としてはチックにしては硬派な緊張感のある演奏であり、ポピュラーな人気は出にくいかもしれないが、これはこれとしてなかなか良い感じ。
 けれどもこのグループ、よくは知らないのだが、それほど長続きはせずに自然解散してしまったようだ。




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  ■Chick Corea『Past, Present & Futures』    (Stretch)

    Chick Corea (p) Avishai Cohen (b) Jeff Ballard (ds)  2001

 チックの新レギュラー・バンド、オリジンのリズム・セクションによるピアノ・トリオのアルバムである。チックがレギュラー・バンドのリズム・セクションでピアノ・トリオのアルバムを作るのは、前のエレクトリック・バンドにおけるアコースティック・バンドもあったが、スタンダードや昔のレパートリーを演奏しているだけのアコースティック・バンドと違って、今回はオリジナルの新曲を揃えた、チックの本気が感じられるアルバムである。
 内容もチックのピアノ・トリオのなかでもレベルが高いものといっていもので、何の変哲もないピアノ・トリオ編成でただ真剣に弾いただけ……という意味では地味な印象もないではないが、チックのジャズ・ピアニストとしての実力をたっぷり聴かせたものとして、中傑作といっていいものではないか。




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  ■Chick Corea Elektric Band『To The Stars』      (Universal)

    Chick Corea (key) John Patitutti (b) Dave Weckl (ds)
    Frank Gambale (g) Eric Marienthal (sax)   2003

 全盛期というのか、最も長く続いていた編成でエレクトリック・バンドが再結成された。
 タイトルは例の宗教がらみでSF的なイメージになっているが、聴いてみると確かにSF的なサウンドもあるが、スペイン風のエスニック・サウンドもあり、ファンタジックな面もあり、ファンキーな面もあり……という感じで、かなり自由でバラエティ豊かな内容である。エレクトリック・バンドのその後というより、リターン・トゥ・フォーエヴァーなど70年代含め、チックがこれまでエレクトリック系のグループでやってきたことの集大成みたいなアルバムだと感じた。そのぶん新鮮味は薄めで、統一感に欠け、散漫な印象になってしまった面もあると思う。
 10分を超える "The Long Passage" が曲、演奏ともに素晴らしいんで、個人的にはこの曲あたりを核にして同じ方向性でキチッとまとめたアルバム作りをしていてくれたら、もっと好きになれたような気がする。
 ギャンバレとマリエンサルは、いまにして思えば、結局大物にはなれなかったな……という印象がある。本作での演奏も、年をとって以前に比べれば少しは味も出てきているとは思うが、まだまだ薄味な印象で、残らない。
 どうせなら、一作目の編成で再結成してもらいたいと思うのは、ぼくだけではないのではないのではないか。
 とはいえ、先述したとおりチックがこれまでエレクトリック系のグループでやってきたことの集大成的な内容なんで、あまり期待しすぎなければ、これまでのチックのアルバムを好きな人なら楽しめるアルバムだろう。


05.2.25



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『ウェイン・ショーターの部屋』


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