ミルトン・ナシメント
Milton Nascimento













   ■序
   ■ミルトン・ナシメントと『Native Dancer』
   ■ミルトン・ナシメント
   ■アルバム紹介




■序

 ミルトン・ナシメントはブラジル本国では「ブラジルの心」とか「ブラジルの声」などと言われるほどの大ミュージシャン・国民的英雄であり、国境を越え、ジャンルを越えて多くのミュージシャンに影響を与えている存在だ。
 英米のロック・ミュージシャンでも、日本のミュージシャンでもミルトンを敬愛している者は多いと聞くが、そのミルトンが世界的に一気に知られるきっかけになったアルバムといえば、やはりショーターの『Native Dancer』(74) ということになるようだ。
 とはいえ、実は『Native Dancer』は初めてミルトンを世界に紹介した作品ではない。それ以前にミルトンはずでに68年の『Courage』でアメリカに進出し、ハンコックとも共演し、世界にも紹介されていた。しかし、それでも『Native Dancer』によってミルトンが一気に有名になったというのは、それだけ『Native Dancer』というアルバムのパワーがすさまじく、『Native Dancer』でのミルトンが印象的だったということなのだろう。



■ミルトン・ナシメントと『Native Dancer』

 ウェイン・ショーターの『Native Dancer』がリリースされた当時、冒頭いきなり登場するミルトン・ナシメントの不思議な歌声に多くの人が衝撃を受けたようだ。いま聴いても『Native Dancer』はミルトンというミュージシャンが印象づけられるように周到に計算されたアルバムのように感じる。そのために『Native Dancer』はショーターのリーダー作ではなく、むしろミルトンのリーダー作であるなどと言い出す大ボケがいまだにいるくらいで、それも含めてショーターの計算が見事に決まったというべきだろう。
 それにしても、それから30年以上たった現在でも『Native Dancer』という作品の唯一性は増すばかりである。というのも、『Native Dancer』で一気にジャズ界にも有名になって以後、いや、実はそれ以前からミルトンがジャズ・ミュージシャンと共演したアルバムはあった。数からすればショーターよりハンコックのほうが多く共演しているし、なかには『Miltons』(88) のようにかなり本格的に共演した例もある。その他、パット・メセニーや、あるいはロック系のミュージシャンとも、ミルトンは多くの共演をはたし、多くの作品を作ってきた。が、『Native Dancer』のような作品は二度と生まれていない。
 『Native Dancer』の世界はショーターとミルトンが、それも1974年という時点で出会うことによって、一回だけ生まれることを許された世界だというべきだろう。

 1974年というのはどのような時期だったのか。
 やはりチック・コリアの『Return to Forever』(72) の二年後だということが大きいと思う。
 チックの『Return to Forever』は当時のジャズ/フュージョン・シーンを大きく塗り替えていった。それまで夜が似合う音楽だったジャズ/フュージョンに昼の陽光をもちこみ、心地よいユートピア的なサウンドと、ブラジル音楽の色彩、フローラ・プリンのやわらかな歌声をもちこんだ。この作品に窓を開け放たれたため、当時のシーンがいっせいにそちらに向かって走り出す。そして以前からブラジル音楽に興味をもっていたショーターもまた、自分の世界を押し広げるかたちですんなりとこの流れに乗っていったのが『Native Dancer』である。
 そして、『Return to Forever』にブラジル音楽の色彩を持ち込んだアイアート、フローラ夫妻の役割をショーターが担わせたのがミルトンと彼のバンド・メンバーであり、フローラのやわらかな歌声の役割を担わせたのがミルトンのファルセット・ボイスだったと見ていいだろう。
 つまりは、当時ショーターが目指していた方向性と、当時ミルトンが立っていた位置とがうまく交わっていたことから、一回だけ生まれた作品が『Native Dancer』であり、したがって、それ以後のミルトンがその後ジャズの影響を受けようとも、ジャズマンと共演しようとも、二度と『Native Dancer』のような作品は生まれないのである。
 そしてショーターとしても、この74年当時のような方向性の音楽をそれ以後は目指していないので、おそらくその後ミルトンと共演したとしても、この『Native Dancer』のような作品は生まれなかっただろう。



■ミルトン・ナシメント

 さて、ミルトン・ナシメントは1942年、ブラジルのリオデジャネイロで生まれ、一歳のときに養子に出されてミナス・ジェライスで育っている。このミナスという町についてはミルトンの曲の歌詞にもよく登場する。
 ちなみに、MPB(ブラジルのポピュラー音楽)の世界では、出身地によってミナス派とバイーア派というのが大きなグループになっているそうだ(バイーア派のミュージシャンはカエターノ・ヴェローソやジルベルト・ジルほか)。そんなことをいうとミナスというのは大きな町のように思えるが、ミルトンの曲の歌詞を見たところによると、さびれた田舎町といった感じに描かれている。
 デビューは1967年で、1st アルバムは『Travessia』。翌68年の2nd『Courage』ではA&Mのクリード・テイラーのもと、早くも初のアメリカ録音を実現、ハービー・ハンコックもサイドマンとして参加している。ハンコックは新婚旅行に行ったブラジルでミルトンと知り合っていたとのこと。
 しかし、すぐに世界的に活躍を始めたわけでもないようで、その後はブラジルに戻って音楽活動を続け、なんでも70年代の始めには路上生活に近いことをしながら、同じような生活を共にしている音楽仲間と活動していたようで、彼らは「Clube Da Esquina(クルビ・ダ・エスキーナ:街角クラブ)」というグループというのか、音楽コミュニティを形成する。
 72年にはその『Clube Da Esquina』というタイトルのアルバムを仲間とともに作り、73年には『Milagre Dos Peixes』を発表。そして『Native Dancer』へ続いていく。
 『Native Dancer』の後は再びブラジルへ戻り、ショーターからの影響を受けつつ独自の音世界を作り上げた『Minas』(75) 『Geraes』(76) といったアルバムを作っていく。個人的にはこの辺のアルバムがとくに好きだ。
 76年には『Milton』をアメリカで録音し、再びショーター、ハンコックとも共演する。
 その後も順調に活動を続け、82年の『Anima』が一つのサイクルの終わりだったと思う。つまり、デビュー以来ここまでのアルバムはストレートにミルトンの個性を感じさせる、まさに独自の世界というべき作品になっており、これ以後はフュージョン、ロック、あるいはジャズなど別ジャンルからの影響を受けた内容になってくる。これ以後の作品はファンの評価も分かれるところがあるようだ。







        ■アルバム紹介 (今後とも紹介アルバムを追加していくつもりです)



                                     
Milton Nascimento   "Travessia" 1967 (Codil)
Milton Nascimento "Courage"  1968 (A&M)
Milton Nascimento "Milton Nascimento"  1969 (Odeon)
Milton Nascimento "Milton" 1970 (Odeon)
Clube Da Esquina "Clube Da Esquina" 1972 (Odeon)
Milton Nascimento "Milagre Dos Peixes" 1973 (Intuition)
Milton Nascimento "Milagre Dos Peixes Ao Vivo" 1974 (Odeon)
Wayne Shorter "Native Dancer" 1974 (Columbia) モ★
Milton Nascimento "Minas"  1975 (Odeon)
Milton Nascimento "Geraes" 1976 (Odeon)
Milton Nascimento "Milton" 1976 (A&M)
モ★
Milton Nascimento "Maria Maria" 1976 
Clube Da Esquina "Clube Da Esquina 2" 1978 (EMI-Odeon)
Milton Nascimento "Journey to Dawn" 1979 (A&M)
Milton Nascimento "Sentinela" 1980 (Verve)
Milton Nascimento "Ultimo Trem" 1980 
Milton Nascimento "Cacador de Mim" 1981 (Polydor)
Milton Nascimento "Missa dos Quilombos" 1982 (Verve)
Milton Nascimento "Anima"  1982 (Polydor)
Milton Nascimento "Ao Vivo" 1983 (Philips)
Milton Nascimento "Encontros E Despedidas"    1985 (Polydor)
Milton Nascimento "A Barca Dos Amantes" 1986 (Verve)
Milton Nascimento "Yauarete (Black Panther)" 1987 (Columbia)モ★
Milton Nascimento "Miltons"  1988 (Columbia)
Milton Nascimento "Txai" 1990 (Columbia)
Milton Nascimento "O Planeta Blue Na Estrada Do Sol" 1991 (Columbia)
Milton Nascimento "angelus" 1993 (Warner Bros.)モ★
Milton Nascimento "Amigo"  1994 (Warner Bros.)
Milton Nascimento "Nascimento"  1997 (Warner Bros.)
Milton Nascimento "Tambores de Minas" 1998 (Warner Bros.)
Milton Nascimento "Crooner" 1999 (Warner Bros.)
Gilberto Gil &
Milton Nascimento 
"Gilberto Gil & Milton Nascimento" 2000 (Warner Bros.)
Milton Nascimento "Pieta " 2003 (Warner Bros.)









  ■Milton Nascimento『Courage』    (A&M)

     Milton Nascimento (vo) Herbie Hancock (p) Eumir Deodato (org)
     Jose Marino (b) Joao Palma (ds) Airto Moreira (per) /他  1968.12.19/ 69.2.26-27

 ミルトン・ナシメントの2枚めのアルバムであり、A&Mのクリード・テイラーのもと、初めてアメリカで録音した作品ある。クリード・テイラーはウェス・モンゴメリーの『A Day in My Life』(67) などを制作してフュージョンの創始者というべき人であり、後に CTI レーベルをおこした人だが、この頃も様々なタイプの音楽に興味を持っていたんだろうということがうかがえる。ちなみにミルトンはこの後 A&M には『Milton』(76)、『Journey to Dawn』(79) と3枚のアルバムを録音することになる。
 さて、この頃のミルトンのアルバムを本国ブラジルで録音したものと、上の3枚のアメリカ録音とを比べてみた場合、アメリカ録音のもののほうが参加メンバーが豪華で万人向けの親しみやすさでも上だと思うが、ミルトン独自の個性の強さではブラジル録音のほうが上であると思う。どちらをより好むかは人それぞれだろうが、個人的にはブラジル録音のほうをより愛聴している。
 本作はミルトンをアメリカに紹介するためのアルバムということだろうが、収録曲の過半数は1st とダブる。メンバーにはハービー・ハンコックや、ミルトンをクリード・テイラーに紹介したというデオダート、この後フュージョン・シーンで大活躍することになるアイアート・モレイアも参加し、ストリングス・オーケストラ(編曲はデオダート)も加えられた、かなり豪華な作りになっている。
 ということでドラマチックな編曲がなされ、ハンコックも曲のなかを自由に駆けめぐる好演を見せているが、そうはいっても基本的には当時のポピュラー・ソングのアルバムであり、各曲とも短く、曲構成も単純であり、演奏者に長いソロ・スペースが与えられているわけでもないので、そう大胆な音楽性は期待しないほうがいい。
 あくまでもミルトンの歌と曲を聴くアルバムだが、その意味でいえばやはりミルトンの出発点を見るには好盤ではあると思う。
 ショーターが『Moto Grosso Feio』(68) でとりあげた "Vera Cruz" はこのアルバムに収録されている。




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  ■Milton Nascimento『Milton Nascimento』1969  (Odeon)



 ミルトンの3作めのアルバムであり、70年代に多くの傑作を録音する Odeon に移籍しての最初のアルバムとなる。ブラジル録音ということで、後に『Native Dancer』にミルトンとともに参加することになるチゾ、シルヴァといった名前も既に参加メンバーに見られる。
 基本的にはオーケストラをバックにした演奏で、『Native Dancer』でもとりあげられた「タルヂ」のほか、「センチネラ」トニーニョ・オルタの「アキ・オー」……といった代表的なナンバーが収められている。ボーナス・トラック一曲を含めた10曲でも31分ほどと、各曲とも短くシンプルな構成だが、ミルトンの書く曲にはリズムにメロディをのせる感覚など独特の複雑さがあり、奥深い。
 また、なにより本作の魅力は、ブラジルの風を感じさせる、澄み切ったオーケストラのサウンドだろう。まさに涼しいサウンドというかんじ。CD版はリマスターされているらしく、素晴らしく音がいい。




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  ■Milton Nascimento『Milagre Dos Peixes Ao Vivo』   (Odeon)


    Milton Nascimento (vo,g) Toninho Horta (g) Nivaldo Ornelas (ts,ss,fl)
    Wagner Tiso (p,org) Luiz Alves (b) Robertinho Silva (ds) /他  1974.5.7-8 

 『Native Dancer』の直前のミルトンのライヴである。CDは2in1なのか78分近く収録されていておトクだ。
 タイトルどおり『Milagre Dos Peixes』(73) 後のツアー時のものらしく、選曲はこのアルバムのものが中心で、『Native Dancer』でとりあげられた "Miracle of the Fishes" は "Milagre Dos Peixes" として、スタジオ盤にもこのライヴ盤にも収録されている表題曲だ。バンドにはチゾ、オルタ、シルヴァ、オルネラス……といったクルビ・ダ・エスキーナの面々がならんでいる。この頃のミルトンをもっともミルトンらしいと感じる人も多いだろう。
 ライヴではミュージシャンの演奏能力がストレートに出るものだと思うが、その点でいえば彼らの演奏がそんなに上手いかというと、正直それほど上手くはないように思う。完成度からいうとスタジオ盤のほうが作り込まれていて瑕のない演奏になっていると思う。しかし、個人的にはこの頃のミルトンの音楽を聴きたいときには、このライヴ盤を手にすることが多い。演奏の完成度を超えたところで、生の息づかい、音が生み出されてくる感触、ブラジルの土と風の匂いが感じられるからだ。
 "Milagre Dos Peixes" にしても、それは『Native Dancer』収録のバージョンのほうがずっと磨き上げられていて完成度が高い。しかし、本作収録のバージョンの独特の味わいは、やはり『Native Dancer』版にはない。ミルトンを聴くなら、やはり演奏の完成度よりも、その独特の味をあじわいたいわけで、その点からいって個人的には愛聴盤になっているのが本作だ。




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  ■Milton Nascimento『Minas』         (Odeon) 

    Milton Nascimento (vo,g) Toninho Horta (g) Nivaldo Ornelas (ts,ss,fl)
    Wagner Tiso (p,elp,org) Novelli (b)  /他   1975

 ショーター、ハンコックらと『Native Dancer』(74) を録音した後、ミルトン・ナシメントがブラジルへ帰って最初に作ったアルバム。それだけに『Native Dancer』でのショーターとの出会い、ともにアルバム作りをした経験・受けた影響への、ミルトンの側からの返答とも感じられるアルバムである。
 ショーターからの影響といっても、けしてミルトン色が薄まってるわけではなく、ショーターらから受けた刺激・経験をもとに、それに応えるかたちでもう一度自己のルーツに立ち戻り、自らの音楽・世界をより深く追求した作品で、むしろこれまで以上にミルトン独自の世界の広がっている作品といえるだろう。
 タイトルの「Minas」とはミルトンが生まれた故郷の町の名であり、また参加メンバーもクルビ・ダ・エスキーナの面々で固められていることも、ミルトンなりにこれまでの自分の世界を再追求したことを表してる。

 さて、ではショーターからの影響と思われる部分がどこかというと、曲の作り・構成だ。
 つまり70年代のミルトンは、いくら独特の作風はもってはいても、曲の構成はポップ・ソングの定型パターン通りのもので、3〜5分の、きちんとできた曲が並んでいるといった、いわば普通のロック、フォークの曲作りに近い。
 しかし本作では曲の展開がずっと自由で、変化に富んだものになっている。ぼーっと聴いていると、短い曲が並んでいるというよりも、アルバム全体が変化に富んだ一つの曲になっているような雰囲気がある。一曲一曲が、一つの大きな曲の様々な部分になっている気がするのだ。
 このような自由さと、自分の世界の作りかたが、ショーターからの影響のような気がするのだが、どうだろうか。
 それに、ごく単純に『Native Dancer』と合わせて本作を聴いてもらいたい理由は、『Native Dancer』の冒頭で印象的な "Ponta De Areia" を本作でも演奏していて、本作の日本盤には "Ponta De Areia" の訳詞が付いていることだ。いやあ、こんな泣ける曲だったとは、この訳詞を読んで、『Native Dancer』のほうも、ずっと深い味わいをかんじられるようになった。同じく『Native Dancer』でとりあげられた "Lilia" も本作に収録されている。

 さて、本作のようなアルバム作りはミルトンにとっては一時的なものだったようで、この後の『Milton』になるとまた、ポップ・ソングの定型パターンの短い曲が並んでいるような作りになる。




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  ■Milton Nascimento『Anima』1982  (Polydor)



 これまでのミルトンの集大成というべきアルバムである。70年代からのブラジルの土と風の匂いのするミルトンの音楽は、本作でひとまず終わる。それだけに、一種コンセプチュアルというようなアルバム作りがされていて、ボーカルの入らない、風景描写のような1曲めから始まって、独特の色彩にいろどられたミルトンの世界が描き出されている。
 あまり多く語るより、作品を聴いたほうがいいだろう。これはミルトンの傑作であり、ミルトンが最もミルトンらしかったとも言えるかもしれない70年代のミルトンの世界の完成作である。
 カエターノ・ヴェローソもゲスト参加している。




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  ■Milton Nascimento『Encontros E Despedida』1985  (Polydor)
 ミルトン・ナシメント『出会いと別れ』



 前作『Anima』(82) が70年代から続いてきた一連のミルトンの音楽の集大成・終わりを感じさせるアルバムであったのに対し、ライヴ盤を挟んで続いて発表された本作は新しいミルトンの始まりを表すアルバムといっていい。
 あたらしいミルトンの方向性とは何か。それはより洗練された都会的・フュージョン的なサウンド。エレクトリック楽器の使用や、ロック的なサウンドも取り入れている方向性といえる。
 したがって、70年代のアコースティック中心で土の匂いを感じさせるミルトンの音楽が好きな人には、これ以後のミルトンのアルバムを低く評価する人も多い。実をいうとぼくもそのような部分がある。ミュージシャンが新しい方向性に進もうとするのを否定するのは嫌なのだが、この時期のミルトンのサウンドにはミルトン独自の個性があまり感じられず、どこかで聴いたような音楽になってしまっている部分が多いことは否定できないからだ。
 とはいえ、この新しいミルトンの第一作はこの時期のミルトン作品のなかでは特に完成度の高い、魅力的な作品になっているとは思う。
 それは何より、ミルトンの盟友ヴァギネル・チゾが中心になって作り上げた独特の哀愁味のある都会的な完成度の高いサウンドでの魅力によるところが大きいだろう。しかし、その都会的な完成度の高いサウンドというものそのものがミルトンらしくないんじゃないか……という感想に対しては何もいえないかもしれないし、ずっとミルトンの右腕としてともに活動してきたチゾともこのアルバムを最後に袂を分かってしまい、これ以後のミルトンのアルバムからは、この独特の哀愁味は失われてしまう。
 なお、一曲にパット・メセニーが参加している。




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  ■Milton Nascimento『Miltons』      1988   Columbia

    Milton Nascimento (vo,g) Herbie Hancock (p) Nana Vasconselos (per)

 ミルトンとジャズマンの共演作としては『Native Dancer』と並んで最も本格的なものだといえるだろう。内容は実はショーター以上にミルトンとの関係は長く深いハービー・ハンコックを加えたトリオによる演奏で、最小限のメンバーで自由に演奏を繰り広げた作品になっている。
 さて、内容はどうだろう。たしかに見事な演奏だと思う。この頃のハンコックのオフィシャル盤では、少人数の編成でハンコックのピアノ演奏そのものにスポットをあてたアルバムはむしろ貴重なので、ハンコックの自由な演奏を聴くだけでも価値はあるし、もちろんミルトンとハンコックの音楽的な相性も良い。
 しかし、正直な感想をいえば、やはり『Native Dancer』のようなミラクルな出会いにはならなかったな……という印象も強い。優れたアルバムではあると思うが、それ以上のものでもない。やはり『Native Dancer』というのは特別なアルバムだったという感が深くなった。




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  ■Milton Nascimento『Nascimento』1997  (Warner)



 前作『Amigo』(94) の後ミルトンは大病を患い、しばらくの闘病生活を続けた後、これが復帰作となる。ジャケットには痛々しく痩せたミルトンの姿がある。
 大病後の再出発となると、人間いろいろ思うところがある所だろう。本作は有名ゲストは呼ばず、地元のミナスのミュージシャンを中心にした、ミルトンのホームグランドで作ったアルバムとなった。しかし、それにしては70年代の作品と比べると、やはり独特のミナス色は薄くなっていると感じるのはぼくだけなんだろうか。ミルトンはまだ完全には復調していないらしく、声にもいつもの力が感じられず、それぞれの曲の完成度もイマイチのかんじがして、冷静に見ればミルトンの作品のなかでは誉められる内容ではないといわざるをえない出来ではある。
 注目されるのは『Native Dancer』に入っていた "Ana Maria" を取り上げているところだ。これは、この直前に飛行機事故で亡くなったショーターの妻のアナ・マリアへの追悼の意味があるようだ。この "Ana Maria" から続くスタンダードの "Ol' Man River" へ続くあたりがすごく深い気がして、個人的には大好きだ。


05.5.2




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『ウェイン・ショーターの部屋』


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