アース・ウィンド & ファイア
Earth, Wind & Fire







  目次

  ■70年代、大所帯のファンク・バンドの時代
  ■E,W & F とは
  ■1978年のE,W & F とウェザーリポート
  ■アルバム紹介









■70年代、大所帯のファンク・バンドの時代

 ウェザーリポートの『Mr.Gone』(78) にはアース・ウィンド&ファイア(以下「E,W & F」と省略)のリーダー、モーリス・ホワイトと当時彼のバックアップで売り出していたデニース・ウィリアムズが参加している。
 最初のうちぼくは何でこの二人が参加しているのか、意味がよくわからなかった。ぼくのように後から聴いた世代からすると、E,W & F といえば70年代のディスコ・ミュージックの分野で次々にポップ・ヒットを放ったグループという印象が強くて、ウェザーリポートとはだいぶ違うジャンルの音楽という印象があったからだ。
 でも、調べてみるとどうも、70年代においてはこの二つのグループの立ち位置は、そんなに遠いわけでもなかったようだ。
 「フュージョン」という言葉が使い始められる70年代後半以前は、ウェザーリポートのようなタイプの音楽は「クロスオーバー」と呼ばれていたそうだが、この「クロスオーバー」という言葉は E,W & F の『Gratitude(灼熱の狂宴)』(75) に付けられたコピーだったという。70年代半ばにはウェザーリポートも E,W & F も同じ括りとして、ジャズ、ソウル、ロック、ファンク、ラテンなどの要素を組み合わせた、従来のジャンルに収まりきらない音楽という意味で「クロスオーバー」と呼ばれていたようだ。
 最初ぼくが E,W & F と聞いて真っ先にイメージしたのは70年代後半のヒット・ナンバーだった。そのへんはとくに意識して E,W & F を聴こうと思わなくても耳に入ってきていたからだ。でも、ちゃんと聴いてみると、E,W & F はサウンドが洗練されてディスコ・ミュージックのヒットメイカーになる以前の70年代半ばまでは、ジャズ的な要素を多く持ったファンク・バンドだったようだ。
 そしてさらに調べてみると、E,W & F のルーツも同時代のフュージョン・バンドとは遠くない所にあることがわかった。少しそのことについて書いてみる。

 E,W & F はホーンセクション入りの大所帯のファンク・バンドだが、E,W & F が登場した70年代前半はこのような大所帯ファンク・バンドの全盛期であり、他にも P-Funk (Parlament, Funkadelik), War, Ohio Players, Cool & The Gang, Cameo, Tower of Power, Commodores ……などなど多数のグループがこの時期に誕生した。これは偶然ではない。
 60年代後半から70年代前半にかけてはアメリカでアコースティック・ジャズが人気を失っていた時代であり、ジャズを目指しながらも、それでは食えなくなったミュージシャンたちは、新たな活路を見出そうといろいろな試みをしていた。ヨーロッパに移住するのも一つの道だったろうし、フュージョン(当時はまだこの言葉はなかった)へ進むのも当然一つの道であったろう。しかし、70年代前半にはまだフュージョンはそれほど人気を得ていたわけでもなかったようだ。
 その他にも、例えばスタジオ・ミュージシャンとして70年代前半のニュー・ソウルのバックを支え、70年代後半になるとフュージョン・ブームに乗って、フュージョンの世界へと戻っていったミュージシャンも多い。Stuff や L.A.Express、ラリー・カールトンなどが代表格だろうか。さらにボーカルを大きくフューチャーしてロック・バンドとしてデビューした Toto も、こういったスタジオ・ミュージシャンたちが作ったバンドである。
 その中で、当時人気を集めつつあったファンクのジャンルへ流れていった者もいて、70年代前半に次々に登場してきたホーン・セクション入りの大所帯ファンク・バンドは、たいていこういったジャズの世界からファンクに流れてきたミュージシャンたちが自分たちのグループを作り、自分たちの音楽を作りだそうとする流れから生まれてきたものであったようだ。
 E,W & F のリーダー、モーリス・ホワイトは元はソウル・ジャズ系のラムゼイ・ルイスのバンドでドラムを叩いていたことはファンのあいだでは有名な話のようだ。



■E,W & F とは

 E,W & F の歴史をかるく見ておこう。
 E,W & F のリーダー、モーリス・ホワイトは1941年生まれであり、先述した通り60年代にはセッション・ドラマーになり、67年からラムゼイ・ルイスのバンドでドラムを叩いていた元ジャズマンであった。
 自己のバンド、「Earth,Wind & Fire」を作って Warner Bros. と契約し、デビュー・アルバムを1970年にリリースしている。 Warner Bros. からは二枚のアルバムと、一枚のサントラをリリースしているらしいが、未聴。聞いた話では E,W & F がもっともジャズの片鱗を残しているのはこの頃らしいが、演奏技術はあまり高くなかったという。
 Warner Bros. 時代はあまり売れなかったようで、Columbia へ移籍と同時に大幅なメンバー・チェンジを行い、ここで初めて後の E,W & F が出来上がったという感じらしい。この移籍後の最初の3枚のアルバムはそこそこ売れたようで、いずれも現在でも簡単に入手できる。
 E,W & F が大ブレイクを果たすのは移籍後4枚めの『That's The Way Of The World』(75) によってであり、ここから一気に全盛期に突入する。そしてライヴ盤(一部スタジオ)の『Gratitude』(75) 、『Spirit』(76) と代表作を次々にリリースしていく。E,W & F のファンク・バンドとしての頂点はこのへんだろう。
 また、この時期にはモーリス・ホワイトは自己のプロダクションを設立し、他のミュージシャンのプロデュースも行っていくようになる。『Mr.Gone』にモーリスと共に参加したデニース・ウィリアムズもその一人だ。
 E,W & F が第二のブレイクを果たすのは77年の『All 'n All(太陽神)』(77) によってであり、洗練されてよりポップになったサウンドが白人層にも広く受け入れられ、記録的な大ヒットとなる。以後、『I Am(黙示録)』(79) 『Faces』(80) とポップさに磨きをかけたアルバムをリリースしていく。この頃の E,W & F のヒット曲はもはやファンクというより、ずばりダンス・ミュージックといった感じ。
 この『Faces』か、次の『Raise !』(81) あたりまでが E,W & F の全盛期というべきだろう。 80年代に入ると E,W & F は『Powerlight』(83), 『Electric Universe』(83) と急速に失速し、ついに活動休止。87年にはフィリップ・ベイリーが中心になって活動再開して『Touch the World』をリリース。その後も活動は続けているが、もはや70年代のようなパワーは失っている……といってしまったらファンに怒られるのだろうか? 少なくともかつてのような影響力は発揮していないように思う。



■1978年のE,W & F とウェザーリポート

 E,W & F とウェザーリポートが共演した78年という時代を見てみよう。
 この時期は E,W & F もウェザーリポートもともに最も売れたアルバムをリリースした直後で、商業的成功の頂点にたっしていた時期である。つまり、E,W & F では『All'n All(太陽神)』(77) 、ウェザーリポートでは『Heavy Weather』(76) がこの少し前にリリースされている。
 この『All'n All』と『Heavy Weather』の作風には共通点があると思う。つまり、それまでのアルバムよりポップに洗練されたサウンドになっていて、そのため多くの人に受け入れられやすい音楽となり、これまで以上の商業的成功につながった作品だ。
 しかし、その後にこの両グループが辿った方向の差を見てみるとおもしろい。
 E,W & F の場合、このあとさらにポップで洗練されたサウンドに磨きをかけ、この78年にはこの年リリースされたベスト盤に新収録された "September" が大ヒット、続く『I Am(黙示録)』(79) でもさらにポップになり、売れるバンドとしての道をひた走っていく。しかし、それと同時に洗練されすぎて当初持っていた根源的なファンクやジャズのパワー・個性を失っていき、だんだんポップなディスコ・ミュージックのようになっていってしまう。そして『Raise !(天空の女神)』(81) あたりを境に急速に失速していく。
 実はこのような、洗練されてポップになり、商業的に大成功するが、同時に根源的なパワーを失っていき、少しすると急速に失速していく……というパターンは E,W & F だけではなく、多くのフュージョン・バンド、ファンク・バンド、ロック・バンドが辿った道でもある。
 一方、ウェザーリポートはといえば、『Heavy Weather』以後、むしろ意識的に売れセンから外れていっていったように見える。つまり続く『Mr.Gone』(78) はダークで難解なアルバムであり、一般には受け入れがたく、当時の評価も低かったようだ。そして次には集団即興路線を復活させ、『Heavy Weather』の編曲性を重視したポップで親しみやすいサウンドからは外れ、しかし本来のパワー、個性は決して見失わない道を選んでいる。
 ぼくはたぶんこのあたりに、ウェザーリポートがその後もパワーを失わなかった理由があるように思う。例えばショーターと共演の多いジョニ・ミッチェルの場合も、最も売れた『Court and Spark』(74) の後は一気に路線を切り替えて、より商業的でない方向へすすんでいる。多分それが内容的には高いレベルを維持する結果を得ている理由なのではないか。
 商業的成功を得た後でどうしたか、というところでいろいろなミュージシャンを見てみるのもおもしろい気がする。

 E,W & F のような一時の黄金時代を築いたバンドがその後どういう道を辿るのかというと、いちばんありがちな道は、黄金時代と同じような音楽を十年一日のごとく再生産しつづけ、それを求めるファンの期待にこたえるだけのバンドになることだろう。
 しかし E,W & F はあきらかに時代の流れとともに変わり、新しいサウンドを作り出そうとしてきたようだ。
 売り物だったホーンセクションを捨ててシンセサイザーを大きく取り入れたり、ヒップホップの時代にはヒップホップを取り入れたり、時代の音を取り入れようとしている。なんだか80年代以後のマイルスを連想させもする。
 といっても、申し訳ないが、80年代に入って以後の E,W & F はあまりちゃんと聴いてない。






      ■アルバム紹介


                       
Earth, Wind and Fire "Earth, Wind and Fire" 1970 (Warner)
Earth, Wind and Fire "The Need of Love" 1971 (Warner)
Earth, Wind and Fire "Last Days and Time(地球最後の日)"  1972 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "Head to the Sky(ブラックロック革命)" 1973 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "Open Our Eyes(太陽の化身)" 1974 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "That's the Way of the World(暗黒への挑戦)"  1975 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "Gratitude(灼熱の狂宴)"  1975 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "That's the Way of the World : Alive in '75"  1975 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "Spirit(魂)"  1976 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "All 'N All(太陽神)"  1977 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "The Best Of Earth, Wind & Fire" 1978 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "I Am(黙示録)"  1979 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "Faces"  1980 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "Raise!(天空の女神)" 1981 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "Powerlight(創世紀)" 1983 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "Electric Universe" 1983 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "Touch the World" 1987 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "Heritage" 1990 (Columbia)
Earth, Wind and Fire "Millennium(千年伝説)" 1993 (Reprise)
Earth, Wind and Fire "In the Name of Love" 1997 (Rhino)
Earth, Wind and Fire "The Promise" 2003 (Kalimba)
Earth, Wind and Fire "Avatar" 2003 (Kalimba)
















  ■Earth, Wind & Fire『Last Days and Time(地球最後の日)』1972     (Columbia)


 ワーナーからコロンビアに移籍しての一作めで、サントラ盤を除けば E,W & F の三枚めのアルバムにあたる。前作までとは2人を除いて全員がメンバー・チェンジした8人編成での演奏である。モーリス・ホワイトとともにリード・ボーカルをとることになる中心メンバーのフィリップ・ベイリーも本作から加わっている。
 ジャケットはマイルスの『Bitches Brew』のアルバム・ジャケットを描いたイラストレーターを起用して、かなり強烈な印象のものになっている。『Last Days and Time(邦題:地球最後の日)』というタイトルともあいまって、どんな凄い演奏なのかと思わせるが、内容はかなりポップで親しみやすいもので、外見とはミスマッチだ。
 全体的にボーカルが前面に押し出されていて、ファンクのリズムもどこかほのぼのとゆったりした感じだ。ジャズ的な即興演奏性も随所に見られるのだが、全体的に即興演奏の質は高くはない感じで、さほどジャズ的魅力は感じられない。混沌としたサウンドはこれも『Bitches Brew』あたりを意識しているのかもしれないが、全体に曲調がおだやかなのでああいった過激な印象には遠い。
 ただし、この後の『Gratitude』(75) を聴くと、この時期の E,W & F がライヴでこそ真価を発揮するグループであることはあきらかで、ひょっとするとこの時期もライヴでは緊張感の高い即興演奏が炸裂していたのかもしれない。ライヴでは凄いバンドが、スタジオだと実力を発揮しきれないということも、けっこうよくあることではある。この時期のライヴ音源が残っていればいいのだが……。




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  ■Earth, Wind & Fire『That's the Way of the World(暗黒への挑戦)』1975    (Columbia)


 コロンビアからの4枚めで、一曲めに収録されたシングル、"Shining Star" とともに E,W & F がブレイクしたアルバムだ。ぼくはCDで聴く前にも E,W & F のヒット曲は何曲もラジオ等で流れるのを聴いていたが、この "Shining Star" もそんなふうにして知っていた曲の一つで、ぼくとしてはより有名な "September" とか "Boogie Wonderland" などよりも、知っていた曲のなかではこの "Shining Star" が E,W & F のなかでは一番好きだった。
 ブレイクの理由は一聴すればあきらかで、『Last Days and Time(地球最後の日)』(72) あたりと比べるとサウンドはよりダイナミックで輪郭がハッキリしたメリハリのきいたものになり、格段に迫力が増している。ホーン・セクションが輝かしく空間を飛翔していくあの代名詞のようなサウンドも完成に近づいてきた。それがバンドとして成長したためなのか、あるいはもともと持っていたパワーをスタジオ録音でも発揮することに成功したせいなのかは知らないが。
 それにしても本作が75年に出てくるというのはおもしろいものだなと思う。
 ご存知のように70年前後にファンクの最前線を走っていたスライ&ファミリー・ストーンは73年の『Fresh』を最後にクスリでおかしくなってしまい、まともな活動が出来なくなってしまう。一方、70年代前半にはあれほどの活躍を見せたスティーヴィー・ワンダー、マービン・ゲイ、カーティス・メイフィールド、ダニー・ハサウェイなどニュー・ソウル派の面々も、それぞれにトラブルを抱え込んだり、やる気をなくしたようになって、75年あたりを境ににしてみんなおとなしくなってしまう。そんな時に E,W & F は次代のスターとしてブレイクしたわけだ。
 しかし、その "Shining Star" などに聴かれるファンクは、確かに以前の E,W & F に比べて格段にダイナミックなものではあるが、先行するスライ&ファミリー・ストーンなどと比べると音楽的には必ずしも先鋭的ではない。むしろファンクにロックやラテンなどのフィーリングを導入しながら大きなスケールで展開していく総合力に E,W & F の真骨頂があるような気がする。




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  ■Earth, Wind & Fire『Gratitude(灼熱の狂宴)』1975    (Columbia)
  ■(Earth, Wind & Fire『That's the Way of the World : Alive in '75』)


 『Gratitude(灼熱の狂宴)』はもともとLPでは2枚組でリリースされたもので、1〜3面がライヴ、4面がスタジオ録音という構成のアルバムで、CDでは1枚に収まっている。この四分の三がライヴで四分の一がスタジオ録音という構成はこの後にウェザーリポートが『8:30』(78-9) で踏襲している。ライヴ部分はこの時期のライヴを複数録音したなかからベストテイクを集めたようだ。
 もし E,W & F のアルバム中、どのアルバムが一番好きかと聞かれたら、ぼくはこのアルバムを選ぶ。なにより48分におよぶライヴ部分が圧巻だ。
 この75年の E,W & F にはまだファンクの舞台に移された彼らのジャズ魂が渦巻いており、ライヴということもあってか、迫真のプレイが聴ける。ホーンによるインプロヴィゼイションなど、ボーカルが入らなければそのままフュージョンとして通用するような演奏だ。
 たぶん E,W & F のファンク・バンドとしての頂点はこの75年あたりにあったのではないかと思うのだが、けれどこの前後の時期のライヴ盤がリリースされてないので、聴いてみないとわからない部分は残っている。
 2002年になって、同時期のライヴを集めた『That's the Way of the World : Alive in '75"』がリリースされた。『Gratitude』のライヴ部分のために録音されて、収録されなかった残りテイクから編集されたものらしく、音質はすごくいい。2枚組のライヴ盤のつもりで両方聴きたいものだ。




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  ■Earth, Wind & Fire『Spirit(魂)』1976   (Columbia)


 これも E,W & F の黄金時代を形成するアルバムの一つ。
 前作と比べると洗練されてカチッとしたまとまりが優先されてきている。わりとポップでメロディアスな曲も多く、小さな音でBGMでかけるという、ファンクらしくない聴きかたにも合うアルバムだと思う。ちょっとニュー・ソウルっぽいかんじというべきだろうか。洗練されたサウンドでファルセット・ボイスでメロディアスなバラードなどを歌われるとフィリー・ソウルなどとも共通性も感じられてくる。
 もちろん一方では "Getaway" などファンク・ナンバーも健在だが、全体をみるとやはり洗練されたぶんだけ前作までの野性的なパワーは抑えめになっている気がする。といっても、次の『All'n All(太陽神)』(77) と比べると洗練の度合いはそれほどでもなく、パワーを失ったわけではない。
 完成度の高いアルバムだ。案外、E,W & F の入門盤としてはこのへんが最適なのかもしれない。いや、入門者はベスト盤から聴くだろうか……。




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  ■Earth, Wind & Fire『All'n All(太陽神)』1977   (Columbia)


 E,W & F の第二のブレイクになった大ヒット・アルバムだ。何でもトリプル・プラチナ・アルバムになったそうで、当時バカ売れしたことがうかがえる。
 この後の78年にモーリス・ホワイトとデニース・ウィリアムズがウェザーリポートの『Mr.Gone』にゲスト参加するけだが、その理由は、実はこの『All'n All』を一聴しただけでもかなり想像がついてしまう。
 実はこのアルバムではミルトン・ナシメントの曲をカヴァーしていて、ごく短くだが "Ponta de Areia" のメロディも聴かれる。未聴だが、E,W & F がもっと完全なかたちで "Ponta de Areia" をカヴァーした録音もあるという。モーリス・ホワイトも『Native Dancer』が好きなんだね。
 もともと E,W & F はアフリカ的イメージで売っているものの、音楽的にはかなりブラジル指向があるようだ。このアルバムで大ヒットした "Fantasy"(「宇宙のファンタジー」)はアルゼンチンのミュージシャンとの共作である。

 さて、このアルバムはなんでそんなに大ヒットしたんだろう。その理由はまずサウンドがより編曲的に洗練されてポップになり、白人層にも親しみやすくなった……ということと、この時代のディスコ・ブームに乗って、これまでのパワフルなファンク・バンドというより、踊りやすいディスコ・ミュージックを提供するバンドとして売れだした……という点が考えられる。
 そしてもう一つは E,W & F がこのアルバムからトータル・コンセプト性をはっきりと打ち出してきたという点もあるのではないか。
 まず本作から E,W & F の「顔」となる長岡秀星のジャケット・アートは素晴らしい。表ジャケットだけでなく、裏ジャケ、内ジャケも全部いい。これだけ見事なパッケージだと、中身がさほど好みでなくてもディスクを持っていたくなる。
 そのジャケット・アートが打ち出しているのはエジプト的な神秘的な要素とともに、未来的で宇宙的な要素である(裏ジャケではロケットが飛んでいる)。じっさい本作にはスペース・ミュージック的なイメージも打ち出している。大ヒットした "Fantasy"(宇宙のファンタジー)や "Jupiter"(銀河の覇者)など、一貫して宇宙のイメージだ。(考えてみると『スターウォーズ』の第一作が大ヒットしてた頃ではないか)
 こういったトータル・コンセプト性を重視いたアルバムの作りかたというのも、当時の E,W & F とウェザーリポートの共通点かもしれない。「宇宙」と「ブラジル音楽」の要素を融合させたコンセプト・アルバムといえば、当然ショーターの『Super Nova』(69) だ。この『All'n All(太陽神)』は実は E,W & F が『Super Nova』と同じコンセプトで作られたアルバムなのである。
 しかし、非黒人のファンにすんなりと受け入れられたということは、実はサウンド自体がかなり白っぽく、ポップで口あたりのいいものに変化してきたということでもある。実は個人的な好みでは本作より、もう少し前の時代の、もっと黒っぽさを残していた E,W & F のほうが好きだ。




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  ■Earth, Wind & Fire『I Am(黙示録)』1979   (Columbia)


 1977年に『All 'N All(太陽神)』が大ヒット、そして78年にはオリジナル・アルバムのリリースはなく、ベスト盤(『The Best Of Earth, Wind & Fire』)をリリースし、これが大ヒットする。この時代、ベスト盤がそんなにヒットするものではないのだが、それでもヒットしたのは、このアルバムに新曲として収録された "September" が大ヒットしたことと、それからやっぱり E,W & F のアルバムなら何でも売れるような時代だったんだろうな……という感を抱かせる。
 そして二年ぶりのアルバムとして世に出たのが本作である。前作に続く長岡秀星のジャケット・アート(エジプト+UFO)や、『黙示録』という邦題に反して、これは E,W & F のアルバムのなかでも最もポップでカルくてただ楽しい内容である。モロに売れセン狙いとも思えるし、ここまでポップになってしまっていいのかとも思うが、E,W & F をダンス・ミュージックのヒットメイカーと思っている向きからすれば、このあたりが一番親しみやすい部分なのかもしれない。
 まあ、これはこれで否定する気もないが、E,W & F がもともと持っていた野性的なパワーを失ってしまっていることは否定できない。個人的趣味ではこの変化にそう賛同はできないのだが、冷静に聴いてみるとやはり完成度の高いアルバムであり、似た方向を目指すバンドがそうそう近寄れないほどの高い到達点にたっしているアルバムだとはわかる。




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  ■Earth, Wind & Fire『Faces』1980   (Columbia)


 E,W & F というと70年代のグループという印象があるが、1980年は70年代の最後の年である。そしてその70年代の最後の年にリリースされた本作が、E,W & F の全盛期の末尾を飾る作品と評されることが多いのも、なんだか象徴的な感じがする。
 本作はLPでは2枚組でリリースされ、CDでは1枚に収まっている。けれども大作のわりに、地味な印象のあるアルバムだ。ヒット曲が出なかったということもあるが、あえて長岡秀星のジャケットをやめ、トータル・コンセプト性を打ちださなかったためではないか。一つの塊としてのアルバムではなく、小さな曲の集まりという感じのため、一聴すると散漫な印象もあるのだ。けれどもファンのあいだでは評価の高いアルバムのようで、それは、じっくり聴くと個々の曲は良いじゃないか……ということだろう。
 ラストの標題曲は8分におよぶ長さで楽器によるインプロヴィゼイションもたっぷり聴けるのだが、『Gratitude(灼熱の狂宴)』(75) あたりのパワフルなジャズ的な演奏ではなく、フュージョン的なものになっている。そのへんは時代の変化にたいする対応というべきかもしれない。
 けれど、いかにも E,W & F というような派手な個性というのは後退していると思う。バラードの "You" などいい曲だと思うのだが、知らない時に聴いたら E,W & F の曲だとは気づかないような気がする。
 前作の『I Am(黙示録)』は勢いに乗ってる印象があった。それが本作ではあきらかにその勢いが消えてる。それでも2枚組になった理由は、おそらく当時売れまくっていた E,W & F に期待されていたものの大きさに、なんとしてでも応えなければならないプレッシャーだったのではないかと想像する。
 本作の後 E,W & F は黄金時代を支えていた主要なバック・メンバーが辞めていき、さらに個性をうしなって失速し、いったん活動休止にまで至る。



06.3.12



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『ウェイン・ショーターの部屋』


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