都市と塔




 影のない巨大な都市で生きてきた小さな人が匣で眠る夜


 空のない巨大な時計の歯車でできた市街できみは育った


 この都市は機械でできた過去だから心臓のない人が生きてる


 歯車でできた時間を歯車で創りだしてる薄暗い街で


 コピー機で複製されたニンゲンがさまよい歩く真夜中の都市


 あのころのきみによく似た石像がフシギな都市に建ち並んでる


 奪われた記憶を探す人形が見知らぬ街をさまよっている


 トランクに森を詰め込んだ男が深夜ホテルで部屋を探してる


 両腕に新聞抱え外灯の下に立ってる旅人がいる


 夜中でもへんに明るい街頭で新聞を読む顔のない人


 この都市に巨大な灯台つくってる 深夜に人が眠ってる間に


 過去のない人々がうつろな灯台を造りつづける灰色の夜


 密室に頭のとれた人がいる胸には古代の文字が書いてある


 心臓を落とした人が音のない胸を抱えて通りを歩く


 店先に人がたくさん集まって中古の夢を買い求めてる


 眠らない人形たちが棲む街をわき目もふらず走りつづけた


 透明なひとが仮面をかぶる都市しらない顔がきみにつぶやく


 透明な人々の棲む街頭を素顔の仮面をつけて歩いた


 人々は透明だからこの街は仮面ばかりが歩き回る街


 素顔のない仮面の男が失った仮面を探す 巨大な都市で


 ガラス製バベルの塔が建ち並ぶ仮面の都市で顔をなくした


 この都市は巨大な機械の中にある ぼくらの名前はすでに消された


 素顔のない仮面ばかりの群衆が巨大な街で「自分」を買ってる


 単純な仮面をつけて脳のなか劇場を入れ動くニンゲン


 胸のなか迷宮にして囚人が記憶の街で地図をかいてる


 ドアごとにちがう言葉が書いてある巨大な都市をみんな読んでる


 迷宮に断片的なきみがいる きみの言葉は小さな劇場


 国道に巨大な塔がたっていて きみのひたいに穴があいてる


 この都市はミノタウロスが棲む砂漠 機械じかけの夜が来るまで


 砂漠とはなにもない場所きみたちの記憶も夢もそこで消えてく


 この都市はかつて巨大な塔だった その頃をおぼえてる人もいるらしい


 影のない巨大な都市で生きてきた小さな鳥が闇へ飛び立つ


 子供らが巨大な死体を運んでる 都会が森にかわる月夜に


 孤児だけに伝えておくれ人形の魂は服の数だけあると


 古ぼけた人形ばかり動いてるこわれた町にまた船がつく


 この世界のすべてが書かれた新聞を手にもったまま船で旅した


 人間の記憶をもたない人間が機械でできた海を見ていた


 ぼくたちの過去が演じられている劇を見ながら夜を過ごした


 数千の顔が映った鏡だけ立ちならんでる無人の街路


 人形が地球みたいな劇場で永遠につづく夢をみていた







                         by aruka 2005.10.10

     戻る