ぼくの音をきくために




 街はそんなに近くない
 でも街の音がする

 おなかがすいたなあ
 タバコの火を肌につけてガマン

 ぼくは音がしない
 ぼくの中には何もないから

 きみの胸に耳をあてると
 どこか遠い街をさまよっている
 迷子の少年の足音がする

 とおい海辺で 
 なくしたイノチを探してるきみに出会った
 あの夏を
 ぼくはまだ記憶しているよ

 きみの手のひらには
 いつも雨が降っていた

       夏は白い
       古いアルバムは白い
       いつか泳いだ海は白い
       大空は白い
       ぼくは白い
       ぼくらの傷口は白い
       きみの瞳は白い


 あの日 ぼくらは二人で
 たぶん 誰かを殺したんだ
 おそらく真夜中に あの部屋で

 でも ぼくは罪には問われない
 ぼくは捕まらない

 だって ぼくには顔がないから
 ぼくはいつでも消えることができる



 ぼくの中にはなにもない
 コトバもない

 自分の気持ちをコトバにしたら
 ぼくは消えてしまう

 ぼくはきみを傷つけることでしか
 自分のコトバをあらわせなかった

 きみの足跡は
 どこへ行けばみつかるの?

 きみの胸には
 いつも雨が降っていた

       宇宙は白い
       花火は白い
       ぼくの手のひらは白い
       ぼくらの時間は白い
       角にいる猫は白い
       ぼくらの血は白い
       ぼくらの罪は白い


 この世界にはなにもない
 音もしない

 いつか見たことがあると思っていた
 夜の庭できみに会いたかった

 どこかの世界に走っていくバスの
 バス停の場所を教えてください

 もし この音のない世界のどこかで
 きみにもういちど会うことがあったら

 ぼくに
 意味のない約束をください

 ぼくは今 街の真ん中にいる
 でも 街の音はしない

 きみは近くにいない
 でも きみの音がする







                         by aruka 2006.2.11 up

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