フェンス





 とおい夜きみは鼓動を抱きながらアスファルトのうえ寝転がってた


 学校の屋上 フェンスのうえに立ち そのとききみは空が見えるという


 肩口に陽があふれてる女の子ふり向かないで時が流れるから


 真夜中に長距離電話でうたってた彼女は海からきた子だった


 「あたしだってガキだよ」と笑うきみといて迷子になった指をみつけた


 きみといると粉雪くらいまっ白な気分になれる きみは洗剤


 「きみの地図やぶいてみせて」鉄橋を疲れ知らずの夏が駆けてく


 きみの手はきみのさびしさ口笛の吹けないきみと土手で眠ろう


 あのころのきみはいつでもいってたね「大人になったら風になりたい」


 きみはぼくがなくしたものをみんなもってる 青い空も 遠い場所も


 いつだって空回りしてるきみだからきみをつつめる空になりたい




 濡れた髪 傘に誘ったきみの肩あまりほそくておどろいていた


 雨の日はまるで花束この町にリボンをかけてきみに贈ろう


 ふたりなら雨がふってもだいじょうぶ雨粒よけて歩いていける


 雨の日はきみを抱えて晴れた日はきみを引きずり野原を走ろう


 木のうえにふたりでいると永遠はこわれやすくてみじかい時間


 ぼくたちの夜はあんまり遠いから止まった時計が語りはじめる


 夜明けの海を抱きしめるには何キロの腕が必要なんだろう


 波だけが世界を統べるそんな日にきみと未来を静かにはなした


 砂浜はきみが駆けるためにあるんだよ きらめくきみの風になりたい


 走るきみの薔薇色の傷口 背のびして青空みたいな帽子をかぶろう


 やわらかなきみの吐息は孤独な街にぼくたちだけの夜をつくった


 もう二度と帰ってこない夏のためロケット花火闇にとばそう


 屋上で毛布にくるまり泣いている今夜は黙ってとなりにいよう


 きみとふたり明かりの消えた街角を言葉もなくてあるきつづけた 




 眠れずにきみがひとりでうたううた雨のホールできみを待ってる


 きみの膝においた掌そのままに灰色に痩せた雨をみていた


 「ねえ頸をしめてみて」とぼくを誘いきみは年老いた海をみていた


 この世には青春なんてないんだよ そういいきみは海を忘れた


 雨のなか裸足で踊ろうきみとふたり 風は止んださあ青い鳥を撃て!


 砕かれた夜も裸足で駆けまわれ季節も雨もきみのために死ぬ


 いつまでも世界が雨でこの夜が明けなければいい きみに肩よせ


 キスをしよう だってぼくらは永遠からあまりに遠くへきてしまった


 かなしみと歩いた距離をはからずに雨があがったらふたりわらおう




 きみとぼくかなしい距離はそのままに眠るピエロは眠りつづける


 夜明けまで知らない街を歩いてた きみと出会った夜に帰ろう


 いつかみた青空だから点線でかかれたきみと街にすわった


 崩れ散る世界をみつめてなぜきみはあの日岸辺で眠っていたの


 寝ころんでコンクリートの川沿いにきみに恋した夏が過ぎてく


 ぼくたちを忘れるためにぼくたちはひとりぼっちで土手を歩いた


 意味もなくひとりぼっちで歩いてた闇に浮かんで夜のブランコ


 そだってもわすれないでいてぼくらには風しか残されてなかったこと




 あの頃の写真はいまもわらってる きみの街にはもう鳥はいない


 きみの声になりたかったあの夏をみおくった空をまたかんじるよ


 このまちに子供みたいな約束をまもりつづけるきみがすんでる


 夕暮れまで土手を駆けようあのころのぼくは夏中そうしてたんだ


 坂道にむかしのままのきみがいて声をかけるとそっときえてく


 言葉と夢ふたつならべてきみがどんなに陽だまりだったか考えている


 あの夏にしずんだきみは終わらない約束にどともどらない波


 とけていく氷のなかできみといた白い世界が遠くなってく





                         by aruka 2005.7.26

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