題詠100首 2006 (aruka)





 参加させていただいていた「題詠100首」という企画を終わりまして、ここに提出したものとボツにしたものも含めてまとめて載せておきます。
 「とんぼ」「くちびる」などのひらがなのお題は、言葉遊び的な技巧を使ったら? という出題者のメッセージだったのではないかと後から思いあたり(くわしくは『外灯都市』の「技巧的な短歌」〜「再戦」を)それならば、ということで平仮名のお題の部分に、今度は「技巧」に主眼をおいて、少しだけ再戦してみました。その再戦歌も同時に載せておきます。

 読みかえしてみて思うことは、まったくの統一感の無さです。このままの順序で読むものではないですね。おもわず再編集したい衝動に駆られましたが、こういう企画なんで、このままアップしときます。
 もともと統一感なんてまったく考えず、むしろいろいろなタイプのものがあったほうがいいかな、ぐらいの気持ちでやっていたせいなんですが、他の参加者の方の作品を見るとはじめから全体の統一感を意識しながらやっている方もけっこうおられるようで、自分の考えの甘さにも気づきました。
 そのうち、この企画で書いた短歌と他の短歌をあわせながら再編集することもやっていきたいと思います。



001:風
雪の夜に街は浮上する 少年は両手を広げ風を感じる

 ボツ) 青白くほほえむきみの瞳からみえるすべての風景がみたい

 ボツ) 手拭いをおもわず腰からぶら下げて世界の果ての風呂屋へ行こう

 ボツ) サラリーマン風の男が逆立ちで満員電車に乗り込んでいた


002:指
うしなったことばを語る笛があり小さな指が付属している

 ボツ) 猫としか会話できないきみだから きみの指には翼が生えてる

 ボツ) 学校で夢を消されたきみのため青い色した指を贈ろう


003:手紙
砂浜にこわれてしまったきみがいて砂に手紙をずっと書いてる


004:キッチン
キッチンでチョコやポテチをたべてるね電話でじさつのはなししながら


005:並
果てしなく無人の駅が並んでるコンクリートの島をみつけた

 ボツ) 灯台が一列になって並んでる海から遠い海岸を見た

 ボツ) ハイエナがまっすぐ並んで吠えているみょうにきれいな荒野に住んでた


006:自転車
雨の中けれどこころは晴れだから自転車にのり花を買いにいく

 ボツ) マボロシの紙芝居屋の自転車の音がきこえる無人の公園

 ボツ) 怪物がめざめる朝に草色の自転車買って海に旅した


007:揺
夜明け前もえかすみたいな音楽でふたり揺れよう指をつないで


008:親
からだじゅういくつも穴があいている奇妙な親子が散歩している


009:椅子
人生の椅子取りゲームに勝ってきた彼は老後もすわりつづける


010:桜
桜散る日本の庭に風が吹く みんなサムライ みんなハラキリ


011:からっぽ
きみの胸そのからっぽの鳥カゴに鳴かない鳥をいれたのはだれ?

 ボツ) からっぽのぼくは空き缶 思いきりぼくを蹴ったら青春になる

 再戦) からっぽの原っぱをゆくアグリッパ 赤いらっぱをもったかっぱと


012:噛
三日間月面旅行をしてたから今夜はいっぱい噛んでもいいよ


013:クリーム
夕暮れの街で五人の助教授がアイスクリームを必死に食べてる


014:刻
この都市と二重に存在する都市でだれかが刻んだ文字をみつけた

 ボツ) 手のひらに刻みこまれた迷宮できみの知らない夜を過ごした

 ボツ) 石板に刻み込まれた人々が空飛ぶ島できみを待ってる


015:秘密
あちこちに秘密の本をかくしてた 世界によく似た小さな部屋で

 ボツ) 真夜中に秘密をそっと打ちあけて遠い広場にきみがかくれる


016:せせらぎ
せせらぎを仮面が流れてくる闇じぶんの顔の仮面をひろう


017:医
この先に眼医者ばかりの町がある住人たちはみんな眼がない

 ボツ) この先に歯医者ばかりの町がある住人たちはみんな歯がない


018:スカート
薄明を走る少女のスカートにひきずられてく外灯世界


019:雨
たぶんきみがぼくのやさしさだったんだ降りやまぬ雨バス停で待つ

 ボツ) 夢のないこんな架空の人生でコップ一杯の雨を待ってた


020:信号
道路のない荒野に立った信号機どこから来たのかタクシーが停まる


021:美
美しい方法がわからず きみの瞳に映る季節をみていた


022:レントゲン
レントゲン写真を撮れば脳のなか「7」と書いてある 何の数字だ?

 ボツ) レントゲン写真に映った故郷にきみと帰ろう 心の奥に


023:結
このまちは結界 時に捨てられて成長しないぼくたちがいる

 ボツ) 国道に理解できない結論を語りつづける人が立ってる


024:牛乳
きみはいう「力まかせに生きてきた」力まかせに牛乳を飲め


025:とんぼ
この路はこわれた夢の残骸さ とんぼの眼をしたきみと歩こう

 ボツ) 方形の泉の縁で蛹から宝石色のとんぼが孵る

 再戦) こんとんの地をとぶとんぼくらの眼を切りさくガラスのつばさをもって


026:垂
方形の中庭 空と垂直に立った卵が中央にある

 ボツ) 溶けかけた学者が泳ぎつづけてる垂直な海に浮かぶ満月


027:嘘
真実は鏡に書かれた嘘だねとささやくきみのなかで消えたい

 ボツ) 花よりもきれいな嘘がステキねと夢のきらいなきみがつぶやく

 ボツ) ぼくたちはもっとほんとのことをしよう ほんとうなんてみんな嘘だけど

 ボツ) 嘘ばかりで創られた都市の地下室でほんとうのことがきみを待ってる


028:おたく
昼のあいだ星座おたくの少年は動物園で息をしていた


029:草
草原にコドクを知らないきみがいて小さな部屋でそっと教えた

 ボツ) 草原で心をなくした子供らが大人らを狩る町で生まれた

 ボツ) 草原の中央にたつ時間塔 すべての時間を支配している


030:政治
舞台ではマリオネットの政治家が操る人を支配している

 ボツ) 国会で政治家たちが踊ってる 踊りをそんなにナメちゃいけない

 ボツ) 政治家の眼のなかにある迷宮に数百人の道化師が棲む


031:寂
バビロンの塔があき地に立っている あんまり大きくなくて寂しい


032:上海 
上海で世界のネジを巻いていた機械男の少年時代

 ボツ) 上海に中海、下海、黄泉の海 きみが生まれた海はどこだい


033:鍵
高速道路(ハイウェイ)を歩きつづけるきみのため鍵のかかったドアを贈ろう

 ボツ) 傷口に溶かした鉛を流し込み傷口型の鍵をつくった

 ボツ) 果てしない動物園の檻のなか鍵を持ってる人に出会った


034:シャンプー
天国で天使がシャンプーしたときの泡があの雲なのさ しんじて

 ボツ) そっと指つきたててみるシャンプーの香りに包まれ眠るきみへと


035:株
人類の全滅を業務としている株式会社に就職した日


036:組
夢をみないきみをだれがつくったの? 音をださない水の仕組みで

 ボツ) 教室でなかみをなくした子供らがきみの機械に組み込まれてる


037:花びら
花びらのようなあなたの背を抱いて加害者みたく汗ばんだんだ


038:灯
ぼくたちはみんな恋する消耗品 電球みたいにひとり灯って


039:乙女
乙女座のあまい匂いが夜空から流れる きみの肩抱く丘に


040:道
海ぞいの町にしたんださよならをいうのは遠く蒼い蒼い道

 ボツ) ソーダ水ときみの季節がやってくる舗道におちた藤いろの影

 ボツ) 道端で迷子が眠るあの丘をいっしょに走ったきみは青空


041:こだま
きみはまだ夢のこだまのなかにいる手に一本のマッチをもって


042:豆
真夜中に廃墟になった灯台で豆電球をひとり灯した


043:曲線
走りすぎた道ですべての曲線が下がってく もう夏も終わるね


044:飛
ヘッドギアつけた少年十字軍 飛行機でビルへ突っ込んでいく

 ボツ) 飛ぶ鳥も止まり世界のゼンマイがきれかけている 誰か巻かなきゃ


045:コピー
レオナルド・ダ・ビンチに似たコピー機があらゆるものをコピーしている


046:凍
きょう雪は太郎も次郎も眠らせてそしてふたりはそのまま凍死

 ボツ) 被害者がみんな凍えて死んだころ新聞記者がかるくあやまる

 ボツ) 眠るきみはちいさな ぼくのための光 ミミズクさえも凍る闇夜に

 ボツ) 凍りつく夜霧の都会に佇んでカップラーメンふたりですすろう


047:辞書
もうなにも知りたくもない人が読む小さな辞書をきみはつくった

 ボツ) 星さえも消えた暗夜に水のない海底できみと辞書を読んでる


048:アイドル
夜のない石とガラスでできた都市 声を失くしたアイドルに会う


049:戦争
待ちに待った戦争が到来し平和運動家の舌ひるがえる


050:萌
灰色の草原が萌え ガスマスクをしたピエロの群れが旅立つ


051:しずく
真夜中の森を旅するきみの髪に月のしずくが一滴おちた

 ボツ) 真夜中に家を出ていくきみの髪に月のしずくが一滴おちた


052:舞
花眠る少女のふしぎなくちびるに小鳥が夢のように舞う四月

 ボツ) 舞台には巨大な都市が建ちならび人形たちが生活してる

 ボツ) 記憶をなくしたピエロが劇場で一晩の舞台を任される


053:ブログ
ひとりきりだれかのブログに書いてみた 永遠(とわ)に未遂のぼくらの計画


054:虫
百人のワトソンくんが虫眼鏡でホームズをさがしつづけてる夜

 ボツ) 蠢いて昆虫たちの夜の森 王と王妃が夢を見ていた


055:頬
階段で少女ふたりが頬よせて逃走計画ささやく真昼


056:とおせんぼ
天国への長い階段とおせんぼしている彼は自称エリート

 ボツ) あのころのぼくらによくにた少年が優しい街でとおせんぼする

 再戦) どうすんの? はりせんぼんのとおせんぼ せんぼんの煙突たつまちで


057:鏡
あの部屋の鏡の中に海がある あの子はそこで溺れたらしい

 ボツ) この街の石でできた砂漠のなか鏡でできた群衆がいる


058:抵抗
楽園に抵抗してるぼくたちは小雨みたいなシャツを着ている


059:くちびる
透きとおる目をしたきみのくちびるは無数の扉 何もない部屋

 再戦) 工場でかさねるくちびる るびーの色の蝶が舞う びるのいりくち


060:韓
空き缶のなかや他人の寝室で韓国人が自慢している


061:注射
両眼とも星型になっている俺に百本ぐらい注射してくれ


062:竹
背をむけたぼくらは竹を割ったように曖昧 この教室のなか


063:オペラ
名歌手が世界を模したオペラ座で見えない舟の梶をにぎった


064:百合
船乗りの屍体が沈む海底にけして枯れない巨大な百合が咲く


065:鳴
いつだって翼は傷口 屋上できみの孤独がカタカタ鳴った


066:ふたり
真夜中にコンビニまでのオデッセイ けむりのようなぼくらふたりで

 ボツ) その時はきっとあの空でこなごなになろうね ふたり手と手つないで

 再戦) 不確かなものを負担してるふたり たりないものを ふたりなりに


067:事務
事務員がみんなで歌をうたってる不思議な森で道に迷った

 ボツ) 陽の光コップの縁から溢れてる 天下無敵の事務員になれ

 ボツ) シャングルを目隠しをした事務員が全速力で走りつづける


068:報
ぼくはこの世界に大事な報告を伝えに来たが さっきわすれた


069:カフェ
午後、カフェでミイラとミライ語らずにつれていってね古代エジプト

 ボツ) 十年後シーラカンスと午後2時に近所のカフェで待ちあわせたんだ


070:章
夢なんてかなってしまえばただのゴミ 勲章は心にもいらない


071:老人
校庭に巨大な地図をかいている 老人たちが夜も眠らず

 ボツ) 新宿にナイフみたいに尖ってる前歯の抜けた老人がいた


072:箱
この椅子は椅子ではないし この箱も箱ではないしわたしでもない


073:トランプ
宿命は卓にならべたトランプにすべて刻まれ逃げ路はない

 ボツ) 未来がみえる透明な塔の上 トランプ遊びをひとりつづけた

 ボツ) トランプで遊んでる部屋の外には ほんとは何も存在しない


074:水晶
つぎつぎに姿を変えていく過去が多面に映る水晶の森

 ボツ) 暗闇の水晶球のなかにある小さな世界に水をまいてた

 ボツ) ハルセミが鳴かない午後にきみが知る水晶の野に霧雨が降る

 ボツ) 透明な水でうすめたぼくたちが水晶の森で凍りついてく

 ボツ) 暗闇で水晶球を見つめてた巨大な人が文字を刻んだ


075:打
十字架の釘打つ雨が長い年月をとおして響く薄闇


076:あくび
あくびばかりしているきみにこの都市の見えない森をみせてあげたい


077:針
真夜中に絶滅危惧種の少年が舗道に針で文字を書いてる

 ボツ) 守衛らが小さな部屋を方舟にしようと運び込む羅針盤


078:予想
方形のはじめのように目ざめればたったひとつが消えた予想図

 ボツ) 予想ではもうすぐ星が墜ちてくるはずの砂漠で空をみている

 ボツ) 必敗の戦士と呼ばれるぼくたちは最後の勝利を予想している


079:芽
目を閉じたぬるい楽園でリアルな虚空が内側に発芽する


080:響
空洞の教会は死者の眼であふれ煙のような鐘の音響く

 ボツ) もう彼の記憶は痛みをその胸に響かせるだけの回路になった

 ボツ) この都市の底に広がる地下道にきみが砕ける音が響いた


081:硝子
透明な硝子でできた地球儀を星空みたいなきみが抱いてる

 ボツ) 冷ややかに澄む歌うたう少年の目は水色の硝子でできてる


082:整
塔のうえ整列すれば彼方から崩壊してく大地が見える

 ボツ) 屋上で交通整理をつづけてる空き缶に似た少年がいた


083:拝
終わりなく雨の降る礼拝堂でかすかなきみをずっと抱いてた


084:世紀
永遠に旅する人が牢獄で十五世紀の夜を語った

 ボツ) 顔のない考古学者が息ひそめ十五世紀の夢を掘り出す


085:富
北海の砂丘にできた豪邸に砂でできた富豪が住んでる


086:メイド
善人がひとを踏みつぶしている部屋でレディーメイドの愛を語った

 ボツ) うつくしいレディーメイドの人生をプラスティックのきみが生きてる


087:朗読
陰のない記号であふれたこの都市の明るい夜を朗読してる


088:銀
月光に銀メッキされた庭から無限の森へ迷いこむ道

 ボツ) 水銀の血液をもつ客人が今夜十時に集まってくる

 ボツ) 降る雪は銀河の破片 抱き合おう だってぼくらは魔法が使える

 ボツ) 夕暮れに巨大なネジが置いてある広場へ続く道は銀色


089:無理
ここ迄来たらもどるのは無理あの世との境界の原でわらう少年

 ボツ) 真夜中に電話がかかってくる空白ぼくらの未来はたぶん無理だね


090:匂
黄昏の昭和が匂う商店街 少年時代の父とすれちがう


091:砂糖
歴史家が砂糖でできた王国で存在しない吹雪に埋まる

 ボツ) この部屋でこころがたりないぼくたちはミルクに溶かした砂糖を飲んでた

 ボツ) 永遠に十四歳の少年が砂糖でできた檻に棲んでる


092:滑
果てしなくつづく滑走路 永遠に離陸できない飛行機のため

 ボツ) 滑らかな闇へと続くこの路で紙屑みたいな夢をみていた


093:落(aruka)
世界からまっさかさまに落ちるため背中のゼンマイもっと巻いてよ

 ボツ) 月面にゴルフボールが落ちている 地球の夜に傘はないから


094:流行(aruka)
永遠に十四歳でいることが流行してる 羊の国で

 ボツ) 考えずわかったふりをすることが流行だよとテレビはいって

 ボツ) 流行に左右されない彼だから雨の夜でも傘はささない


095:誤(aruka)
みわたせば正解も誤りもない もうここにない者らの息に

 ボツ) 犯人じゃないわけじゃないぼくは足跡がないんだ 誤解しないで

 ボツ) 永遠に誤認逮捕をつづけてる刑事によく似た考古学者

 ボツ) 誤った革命の夢捨てられぬ善人顔のテロリストたち


096:器(aruka)
戦いの意味も殺されてく国でやさしい武器を抱いて立ってた

 ボツ) この街に在る運命の総量を空の色でしめす計測器

 ボツ) 人はいう きみは瞬間湯沸かし器 ほんとにそうなら家にもほしい


097:告白(aruka)
懺悔しにくる人はみな口々にまったくおなじ告白をした


098:テレビ(aruka)
街角に無数のテレビが置かれてる巨大な街で陰をさがした

 ボツ) 数千のテレビカメラで監視された都市で殺人犯を演じた

 ボツ) テレビには遠くの国の戦争が映りぼくらは草原で待つ

 ボツ) 顔面がテレビになった人がいて受け売りのはなしばかり語る

 ボツ) ひどく降る雨をあるいてたどりつく何もない部屋うつろなテレビ


099:刺
なにも書いてない名刺と新聞を手にもったまま電車で旅した

 ボツ) 「絶交」と腕に彫られた刺青をカレに見せてる少女に会った


100:題(aruka)
街角で題名のない始まりも終わりもない劇みんなで演じてる

 ボツ) まかせたり分かったふりをすることで解決される問題はない

 ボツ) 命題は雨曝しにされ骨だけになってそれでも右を指してる


                           以上191首, by aruka

     戻る