タンパク質の生合成の後成的制御方法を応用したトマトの栽培:
温室における実験報告

ジャン−マルセル・ユベール、ジャン−フランスワ・トレイヴォー、ベランジェール・デュブロ、カストール・エグロフ、ラシェル・エグロフ、アンドレ・ラペール、ジョエル・ステルンナイメール

要約:特別の猛暑に襲われた1994年の夏、スイスで2つの実験を同時に行なった結果、トマトの耐乾燥性タンパク質TAS14に基づくメロディーが、そのタンパク質の生合成を後成的に制御する効果を持つことが確認された。その効果の有意性は、標準偏差の7倍を超える。また、この実験において、温度が後成的共因子として作用し、こうした効果に影響を及ぼすことも明らかになった。

 タンパク質の生合成の後成的制御方法をトマト栽培に応用した実験の結果が、参考文献(1)に報告されている。この実験は、フランスのアリエージュ県ラカーヴに作られた専用の畑で1993年の5月から8月にかけて行なわれたもので、参考文献(2)に報告されている他のさまざまな結果を受けて実施された。このラカーヴでの実験において注目すべき結果が得られたため、いくつかパラメータを変えていろいろな方法でこの実験を追試し、われわれが提案しているモデルの有効性をテストすることにした。そのモデル(2)によると、転移RNAによって運ばれる各アミノ酸がリボソーム上に短時間滞在するとき、熱擾乱に対して安定化することで、スケール共鳴現象が起こる条件が整う。このスケール共鳴により、どのようなことが観測されるかを予言できる。つまり、温度が上がると一般に効果が小さくなることが、少なくとも定性的に説明される。植物に対する音の効果についてこれまでに発表されているいろいろな実験結果(3)によると、温度次第で観察される効果が大きく違ってくることがわかる。つまり、音が効果をもたらすには低温が好都合であり、30℃を超えると効果がほとんどなくなってしまう。したがって、ラカーヴでは1993年の実験時期に特に低温だったことが(平均気温が春は15℃、夏は18℃で、例年よりも5℃ほど低かった)、実験において音楽畑と対照畑の間に見られた大きな差を生み出すのに都合がよかったと考えられる。逆に、異常に暑かった1994年の夏は、比較用のケースとして、高温が、観察される効果に対してどう影響するかを研究できる機会となった。

 そのようなわけで、以下の実験を行なった。スイスのヴヴェーに近いペルラン山の上に設けた2つのトンネル式温室(一方は音楽温室、他方は対照温室)で、アリエージュで行なった実験をさまざまな種類のトマトに対して追試した。音楽としては、特にエクステンシン、シトクロムC、タウマチン、LAT52のメロディーをカセットに録音し、この場所に合わせて製作した“オートマティック・ディスクジョッキー”を使って毎日一定の時刻に流した。他方、ヴァレのセロンに設けた従来と同じタイプの2つの温室では、最初の2つのタンパク質のメロディーに加え、耐乾燥性タンパク質TAS14のメロディー(特に暑かった何日間かは、hsp27のメロディーも加えた)を同様に毎日(市販されている普通のラジカセを使って)流した。これら温室内の温度は35〜39℃であった。ペルラン山のトマトには普通と同じ量の水を与え、ヴァレのトマトのほうには7月26日から8月11日まで、与える水の量をそれよりも少し少なくした。

 8月の半ば、ペルラン山のトマトを調べてみたところ、果実の数は音楽温室のほうが多く、有意な差(+25%、すなわち標準偏差の2倍(p<0.05))があった。しかしこの差は、前年アリエージュで行なわれた実験のとき(2〜3倍、すなわち標準偏差で8倍)よりはるかに小さかった。しかしヴァレでは、同じように調べてみたところ、トマトの実の数は音楽畑のほうがさらに多くなっていた(+32%で、最も新しい房、つまり茎の第3節から先では+250%にもなった)。特に、音楽温室のトマトのほうがはるかに乾燥に強いことに驚かされる。対照温室では、トマトが見るからに水不足に苦しんでおり、各株のほとんどの葉が黄色くなっていた。それに対して音楽温室では、葉はすべて緑色であった(図1参照)。対照温室内の25株と音楽温室内の25株のそれぞれに見られる歴然かつ一貫性のあるこの結果は、驚くべきものである。そのため、差の有意性が大きくなって、標準偏差の7倍を超える。

 

 以上より、温度が35℃になると、使用したタンパク質のメロディーの効果は相対的に小さくなるように思われる。ただしTAS14は別で、ヴァレのトマトで観察された差は、ほとんどこのタンパク質のメロディーに起因するものであろう。この解釈が正しいかどうかを確認するため、8月11日からTAS14のメロディーだけを止めてみたところ、明らかに、差は急速になくなっていき、10日ほどすると差がほぼ完全になくなった(8月18日に撮影した写真(参考文献(4)に発表)では、まだ差が見られるものの、すでに差はかなり小さくなっており、音楽を聞かせてきたほうのトマトの葉は、11日の時点よりも明らかに緑色がうすくなっている)。

 TAS14は、トマトに聞かせるメロディーのもとになった他のタンパク質とは異なり、合成温度が特に高いタンパク質である。高温のときさまざまなメロディーを利用して行なった実験がこれまでのところ否定的な結果に終わっているだけに、得られた効果がこのタンパク質だけによるものであることが、改めて確認された。それと同時に、実験を行なっている期間中の温度によって、得られる効果がどのようになるかの一般的な傾向が、提案しているモデルと確かに定性的に一致することが再確認された。しかし定量面で重要なことは、温度も含め、所定のタンパク質の合成に関与する共因子のそれぞれに対して最適な後成的領域にスケール共鳴の“複数のピーク”が存在することである。ここで得られた結果は、理論面で意味があるだけでなく、経済的にも非常に興味深いものである。特に、温和な気候に恵まれていない地域、あるいはより一般的に、気候の変動が大きい地域でトマト栽培を行なう上で、経済的に興味深い。

参考文献

(1)M.ユルメール他、『タンパク質の生合成を後成的に制御する方法を応用した果実および野菜の栽培:野菜畑における実験報告』、1993年。

(2)J.ステルンナイメール、『スケール共鳴によりタンパク質の生合成を後成的に制御する方法』フランス特許出願第92 06765号、1992年;

神奈川科学技術アカデミーにおける講演、1993年5月24日;

P.フェランディーズ、『アンデュストリー・デ・セレアル』、第85号、40ページ、1993年。

(3)G.T. Hageseth and R.D. Joyner, J. Theor. Biol. 53, p.51 (1975); P. Weinberger and M. Measures, Canadian J. Botany 46, p.1151 (1968).

(4)ヴァレリー・ランドン、『シアンス・エ・ヴィ・ジュニオール』, 1994年10月号、102ページ。