タンパク質の生合成を後成的に制御する方法を応用した果実と野菜の栽培:野菜畑での実験報告

マルティーヌ・ユルメール、ブリュノ・ジル、ペドロ・フェランディーズ、
ジョエル・ステルンナイメール

要約:タンパク質のアミノ酸配列から得られた複数のメロディーを利用した実験を、ラカーヴ(フランス、アリエージュ県)にある専用の野菜畑で1993年5月〜8月に実施した。実験は、これらのメロディーがタンパク質に対して後成的制御効果を持つことをはっきりと示している。そうした効果が存在することに関しては標準偏差が8倍を越える有意性があり、それぞれのメロディーが特定の効果を持つことに関しても、標準偏差が5倍を越える有意性がある。またこの実験から、経済的にもメリットがあることが明らかになった。特にトマトの場合には、与える水の量が同じだとすると、わずか6種類のタンパク質のメロディーを(1日当たり合計で3分間)聞かせただけで、収穫量が総合的に見て20倍となる結果が得られた。



対照畑のトマト(上)と音楽畑のトマト(下)。1993年7月撮影。


 1.1993年5月から8月にかけて、ラカーヴ(アリエージュ県)にある専用の野菜畑で以下の実験を行なった。出所が同じさまざまな野菜(トマト、ピーマン、ニンジン、サヤインゲン、タマネギ、ネギ、ズッキーニ、テンサイ、ナス、コエンドロなど)を“音楽畑”と対照畑に同時に植えた。両方の畑には同じ下準備をし、日当りの条件も同じになるようにした。音楽畑のほうには、普通のラジカセのスピーカを通じて、野菜の成長と味に関係するタンパク質のメロディーを毎日流した。そのメロディーは、フランス特許出願第92-06765号(1)に従って得られたものである。5月末から7月半ばまでは(2)、それぞれの野菜に対して、合計で約1分30秒になる3種類のタンパク質のメロディーを1日に1回または2回流した(この時間は、植物の組織内でこれらタンパク質が生合成されるのに要する実際の時間に対応している)。7月半ばからは、トマトだけに6種類のタンパク質のメロディーを、ほぼ毎日、1日1回だけ約3分間聞かせた。どのようなタンパク質を選択したかに関しては§2で、実験結果に関しては§3で説明する。

 2.5月19日に植えたトマト(対照畑に最初の10本の苗を植え、雨で中断)と5月21日に植えたトマト(対照畑の残り10本の苗と、音楽畑の20本の苗)には、タウマチンI(風味用)、シトクロムc(エネルギー代謝用)、トマトのエクステンシン(成長用)を聞かせた。次いで7月18日からは、これらのメロディーに加えて、LAT 52(トマト開花のタンパク質)(3)、TAS 14(やはりトマト用で、耐乾燥用)(4)も聞かせた。さらに、何日間はトマトのモザイクウイルスを抑制する音楽も聞かせた。というのは、苗が何本かこのウイルスに侵され始めたからである。(5月24日に2つの畑に種を蒔いた)ハツカダイコン、(5月26日に植えた)テンサイ、(5月31日の)ニンジン、(6月2日の)カブには、ニンジンのエクステンシン、(根のための)パタチン、シトクロムcを聞かせた。(5月17日の)タマネギとネギ、(5月24日の)パセリなどの香草、(5月30日の)サヤインゲンには、ホウレンソウのフェレドキシン、トマトのエクステンシン、シトクロムcを聞かせた。

 3.得られた結果は以下の通りである。

トマト - 1993年7月14 日 - ペドロ・フェランディーズが記録
(5月21日より、タウマチン I + シトクロム c
+ トマトのエクステンシンを固定した音源から聞かせた)

対照畑

音楽畑

株番号

高さ

トマトの数

節間

高さ

トマトの数

節間

cm

<2cm

>2cm

cm

<2cm

>2cm

1

88

5

3

12

12

103

5

6

9

11■

2

112

14

3

17

14

148

12

9

22

14*

3

88

5

2

17

12

125

13

14

20

16*

4

97

7

2

17

13

122

8

9

15

11*

5

106

6

4

12

15

122

8

11

17

13*

6

110

5

6

15

13

127

9

8

26

15*

7

102

10

2

23

13

141

11

10

17

17*

8

106

9

3

17

13

135

8

9

32

18*

9

105

7

6

13

12

120

4

5

14

15■

10

108

9

6

18

14

127

9

8

21

17■

11

114

8

2

10

14

136

12

7

20

17■

12

110

5

3

13

13

120

7

5

17

15■

13

105

4

5

20

12

115

9

6

18

14■

14

108

9

3

16

13

110

7

7

20

12■

15

108

10

3

23

12

96

13

1

17

11■

16

104

8

2

14

13

110

12

6

19

12■

17

98

6

2

15

12

113

5

4

11

14■

18

100

8

4

16

12

132

9

4

13

14*

19

88

13

4

20

9

125

8

11

12

13*

20

98

9

2

24

12

137

10

10

25

16*

合計

 

157

67

332

 

 

179

150

365

 

平均

103

7.9

3.35

16.6

12.7

123

9.0

7.50

18.3

14.3

標準偏差

±8

±2.6

±1.39

±3.8

±1.2

±13

±2.6

±2.94

±5.3

±2.2

星印 () は音楽畑で音源に近いほうの10 株を表わす(■はそれ以外の10株)。対照畑の1〜10は、他の株の2日前に植えられた(雨により中断)。

2 cm以上の大きさのトマト
対照畑1〜 10: 37個
   11〜 20:30個
音楽畑:# 55個、 * 95個

#:

115

8.3

5.50

16.6

13.8

±11

±3.1

±1.86

±3.8

±2.1

*:

131

9.6

9.50

19.9

14.7

±8

±1.7

±2.42

±6.0

±2.0

トマト 1993年8月4日 マルティーヌ・ユルメールが記録
(7月18日からLAT 52を追加し、TAS 14を猛暑の日に聞かせ、トマトモザイクウイルスを抑制する音楽を数日間聞かせた。
音源は、いろいろと位置を変えた。)

対照畑

音楽畑

株番号

トマトの数

採取した
トマト

トマトの数

採取した
トマト

1

8

3

1

20

7

1

2

10

5

 

29

30

 

3

10

15

 

22

6

2

4

9

7

 

22

20

 

5

7

5

1

24

25

 

6

11

6

 

24

13

 

7

11

13

 

21

30

 

8

11

0

 

34

33

 

9

11

4

 

17

25

1

10

14

6

 

28

35

 

11

15

9

 

13

15

 

12

13

12

 

12

15

1

13

15

14

 

17

20

 

14

13

12

 

18

10

 

15

16

7

 

12

20

 

16

9

16

 

17

20

 

17

9

9

 

8

20

2

18

8

8

1

17

25

 

19

10

2

 

19

10

 

20

9

4

 

25

20

 

合計

219

157

3

399

399

7

平均

11.0±2.5

7.9±4.5

 

20.0±6.2

20.0±8.2

 

トマトの数:23.9±4.6(*)
16.7±4.9(■)

総合(平均±標準偏差)379(18.9±5.5)         805(40.2±11.9)

 音楽畑と対照畑には十分な有意差がある。例えば、8月4日にトマトで観察された差は、総合的に見て標準偏差で7.26倍に達しており(つまり、偶然にこの差が出る確率は10のマイナス12乗未満である)、音源に近いほうの10株については標準偏差で8倍を越えてさえいる(7月14日の時点ですでに標準偏差の6倍である)(5)。花の数の差のほうは、7月14日の時点では有意ではないが、(トマト開花に効果のあるLAT 52を18日間聞かせた後の)8月4日には標準偏差の6倍近くなっている(偶然にこの差が出る確率は10のマイナス8乗未満である)。この結果は、タンパク質のメロディーには効果があること、しかもそのメロディーが特定の効果を持っていることを明らかに示している。

 利点はこれだけではない。経済的なメリットも顕著である。“音楽”トマト(上の表を参照のこと)は、対照トマトと比べて果実の数が約2倍であり、音源に近いほうの10株に限ってみれば3倍にもなる。それに加えて、音楽トマトは平均で2.5倍重い。しかも、猛暑のときに畑全体にTAS 14の音楽を毎日流したところ、それまでは周囲のどの畑でも水撒きが連日欠かせなかったのに、週に2回の水撒きでよくなった。総合すると、与える水の量が同じだとすると、収穫量がこれまでの20倍に増加したことになる。しかも、化学肥料を使っていないにもかかわらず、トマトの味が対照畑のものと比べてはるかに向上している(より甘くなっている)。

 他の野菜でも、得られた結果は同様であった。タマネギとネギは、音楽畑のほうが3〜4倍の重さになった。ニンジンは、音楽畑のほうが大きくて甘くなっただけでなく、予期しなかったピリッとした風味まで持っていた。サヤインゲンも、音楽畑のほうが収量が多かった。

 8月4日を過ぎてすぐにトマトの茎が壊死状態になったので、音楽を聞かせるのを何日間か止めてみた。するとこの現象は消えた。おそらく、音楽の聞かせすぎだったのだろう。音楽を聞かせるのを再開したところ、“二重トマト”になるという奇妙な現象が見られた(多少なりとも似たような現象が、ハツカダイコンで、ナメクジに襲われたときに音楽を聞かせるのを中断した後に発生した。そこで、ナメクジ退治の薬剤を使用した)。また、モザイクウイルスの攻撃は、そのウイルスの2種類のタンパク質(エンベロープタンパク質とAL2)の合成を抑制するメロディーを聞かせたところ、すぐに消えた。


トマトの壊死


“二重トマト”

 この実験には、1956年にジョルジュ・ユルメール氏が作詞し、エルヴィス・プレスリー氏が作曲した『冷たくしないで(Don't be cruel)』の印税の一部が使われました。私たちはまた、この実験を資金面で援助してくださったミシェル・レノマ氏と、畑の所有者で、その使用を許可してくださったアンリエット・ボルド夫人に感謝します。さらに、ヴァンサン・バルグワン氏には、原稿を読んでコメントしていただいたことに感謝します。

 「うまくすれば、研究のその後が非常に短期間でどうなっていくかを予測することができる時があるものです。例えば5年の間にどうなるか、とか。でも、それは科学研究の最も面白くない部分です。何が重要であるかは、定義からして誰も予見することができません。それは、無名の人が地下室や屋根裏部屋の一角で思いついて私たちの世界描写を変えるような突飛なアイディアである可能性があります。」
フランスワ・ジャコブ、パスツール研究所100周年記念パンフレット、パリ、1987年。

参考文献

(1)ジョエル ステルンナイメール、『スケール共鳴によりタンパク質の生合成を後成的に制御する方法』、1992年6月4日に出願されたフランス特許出願第92-06765号。

(2)希望者には、7月14日にJ.-M. ユベールが畑の状態を撮影したビデオを貸出可能。

(3)D. Twell, J. Yamaguchi, and S. McCormick, Mol. Gen. Genetics 217, p.240 (1989);このタンパク質を選択したのは、黄体刺激ホルモンβと音楽的に似ているからで、そのことがこのタンパク質の作用の不思議さを示している。

(4)J.A. Godoy, J.M. Pardo and J.A. Pintor-Toro, Plant Mol. Biol. 15, p.695 (1990);このタンパク質を選択したのは、熱ショックタンパク質HSP27とHSP70が重ね合わさったメロディーと音楽的に相同だからである。

(5)標準偏差は、正規分布則と二次曲線則のうちで厳密にあてはまる方を一回ごとに選んで計算した。